• 検索結果がありません。

化学洗浄と生物膜剥離

ドキュメント内 入浴施設の実態調査から見る課題 (ページ 40-46)

4. 化学的洗浄による安全・衛生・快適性の向上

4.2 化学洗浄と生物膜剥離

することが大切である。

「レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針」(厚生労 働省告示第 246 号)には、「レジオネラ属菌は、生物膜に生息する微生物等の 中で繁殖し、消毒剤から保護されているため、浴槽の清掃や浴槽水の消毒では 十分ではないことから、ろ過器及び浴槽水が循環する配管内等に付着する生物 膜の生成を抑制し、その除去を行うことが必要である」と記載されている。具 体的な「維持管理上の措置」の記述として、「ろ過器及び浴槽水が循環している 配管内に付着する生物膜等を適切な消毒方法で除去すること」とある。

静岡県条例では、「配管その他の設備の管理」の項に、「水質検査によりレジ オネラ属菌が検出された場合には、過酸化水素又は二酸化塩素処理による消毒 を行うこと。」とある。

生物膜の剥離は、過酸化水素や高濃度塩素による方法がある。実際に循環系

で数10mg/Lの高濃度の次亜塩素酸ナトリウムによる洗浄を行っても、生物膜

を除去するのは困難で、汚れの酷い系統で泡が出たり、汚れが溶出したりする 程度である。泡や汚れの原因は、塩素が微生物の細胞膜を破壊し、多糖類やた んぱく質を溶出するためである。

「公衆浴場における衛生等管理要領」にある「循環ろ過装置を使用する場合は、

ろ材の種類を問わず、ろ過装置自体がレジオネラ属菌の供給源とならないよう、

消毒を1週間に1回以上実施すること。」の具体的方法は、5~10%の高濃度塩 素消毒である。

生物膜を除去する方法として効果が高いものは、過酸化水素による洗浄であ る。過酸化水素で洗浄した後は、写真-2.4.1や写真-2.4.2のようになることが あるが、写真は温泉分のスケールも同時に剥離させたものだ。作業は、30%程 度の過酸化水素溶液を浴槽内で2~3%に稀釈し、ろ過系に循環させ、生物膜を 剥離・除去させる。温泉成分や汚れの付着が強い場合、直管部でも剥離できな かったり、継手やバルブ類の段差部分の生物膜も除去できなかったりする。

温泉利用の浴槽系統で、鉄やマンガン分が配管内面に付着していると過酸化 水素が反応し、空気溜りが生じ、循環できなくなることがある。技術レベルの 低い施工業者が、ろ過器の中に過酸化水素を直接投入して、大量の空気が発生 して、ろ過器の蓋を塞いだために写真-2.4.3のように、ハンドレイアップ法で

製造したFRP製のろ過器に大きな損傷を与えた例もある。また錆が剥離して、

漏水トラブルが生じることもある。トラブル回避のためや過酸化水素のコスト を下げたいがために低濃度で洗浄することも多いが、効果は薄い。

配管の洗浄で剥離した生物膜が、砂ろ材の中に潜り込まないようにしなけれ ばならない。剥離した生物膜が、砂ろ材の中に入ると逆洗しても除去できにく い。小さなろ過器ではろ材を取り出した状態で洗浄し、大きいものはろ過器に

写真-2.4.2 循環系を過酸化水素で洗浄した後の浴槽の様子(2) 写真-2.4.1 循環系を過酸化水素で洗浄した後の浴槽の様子(1)

バイパスを設けて循環させる。国産の五方弁はバイパス機能を有しているが、

それ以外は仮設のバイパス管を取り付ける。バイパスを架けた場合、ろ過器内 は別途洗浄する。

写真-2.4.3 過酸化水素洗浄作業でろ過器を損傷させた様子

写真-2.4.4 過酸化水素後に分解酵素を投入した後の浴槽の様子(1)

循環ろ過系統以外の系統も洗浄しなければならない。浴槽間の連通管、レベ ル管、超音波浴や気泡浴の配管も洗浄の必要があるが、気泡浴配管の洗浄は困 難で、現実には洗浄できないことも多い。

気泡浴槽や超音波浴槽の危険性が叫ばれ、装置を停止している施設が増えて いる。停止状態は、生物膜を増殖させ、余計に危険な状況になる。装置停止に 併せて、気泡板や超音波ノズルの孔を塞ぐことが、レジオネラ症防止には、重 要である。

洗浄作業の際、目に過酸化水素が入らないように防護する。

写真-2.4.5 過酸化水素後に分解酵素を投入した後の浴槽の様子(2)

洗浄を終えた廃水は、過マンガン酸カリウム消費量が高いため、浴槽排水が 浄化槽系統の場合は、分解酵素 Catalase による中和も必要となる。二酸化塩 素ではチオ硫酸ナトリウムで中和してから廃水する。分解酵素 Catalase を投 入すると写真-2.4.6や写真-2.4.5のように爆発的に大量の気泡が発生し、ポン プが停止して。モータが焼き切れることもある。

4.3 まとめ

「第2章 2. 化学的洗浄後の循環系でのレジオネラ属菌等の推移」の表-2.3 と表-2.4に示したように、循環式浴槽ろ過系統の配管やろ材に生物膜が生成さ れると、塩素を消費する。低い塩素濃度と少ない塩素添加量で、消毒するため には不要な生物膜はない方が良い。高い塩素濃度は、入浴環境としての快適性 を損なうし、揮発量が増えるので、浴室内とその周辺の内装や照明等の設備機 器の腐食や劣化を促進させる。

これとは反対に「第2章 3. 化学的洗浄後のろ過器内でのレジオネラ属菌等 の推移」には、生物膜が全くない砂ろ過器では、濁度はろ過できても有機物が 除去できないと記載した。

このようにレジオネラ属菌、アメーバや藻類を消毒剤から保護してしまう役 目の生物膜と、水を浄化する役目の生物膜という、トレードオフの関係が生物 膜には存在している。

安全面からの視点では、消毒剤がレジオネラ属菌に対して有効に働くように、

生物膜はない方が良いと考え勝ちだ。しかしレジオネラ属菌の生育には有機物 濃度が関係することから、門切り型の思考は通用しない。衛生面と快適性では、

生物膜があることにより有機物濃度が下がることから、望ましい面もある。

つまり配管(とくに死に水)には生物膜をなくして、ろ材には適度な生物膜 を生成させることが、今後の課題である。

生物膜を利用したろ材での有機物の除去は、関東学院大学の野知啓子氏を中 心とした(社)空気調和・衛生工学会 給排水衛生設備委員会 浴槽水等の保全お よび計測小委員会で実験を重ねて、鋭利検討中である。医学分野では、九州大 学大学院医学研究院基礎医学部門(細菌学)の吉田眞一教授が研究中で、新し い知見が出される日も近い。

ドキュメント内 入浴施設の実態調査から見る課題 (ページ 40-46)