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力学モデルを用いた車両特性の算出

ドキュメント内 人体モデルを用いた前面衝突事故における (ページ 41-49)

第 4 章 乗員傷害予測式の構築

4.2 交通事故シミュレーションによる傷害データベースの構築

4.2.1 力学モデルを用いた車両特性の算出

本項では,力学モデルを用いた車両特性の算出について述べる.車両特性として,具体的には(1) 車両剛性,(2)車両慣性特性を算出した.以下に詳細を述べる.

(1) 車両剛性の算出

衝突事故において,乗員が傷害を受ける車両の変形状況は,1)生存空間の減尐,2)乗員移動の 2つに分けることができる.1)については,衝突エネルギーをFig.4.1に示すエンジンコンポーネ ントだけでは吸収出来ない場合,キャビン変形が生じ,ステアリングやインストルメンタルパネル の後退により乗員との二次衝突が発生し,受傷に至る可能性がある.このため,変形を抑制するよ うな剛性の高いキャビンが望まれる.一方 2)については,エンジンコンポーネントの変形が尐な いことにより減速度が高くなり,その結果拘束装置に高い荷重が発生して乗員移動量が大きくなり,

車室構造物との二次衝突により受傷に至る.また,二次衝突で発生した減速度により,乗員が内臓 や頚部に傷害を受ける事例もある.車体減速度による受傷の危険性は車体剛性が高いほど増加する 可能性が有り,変形により衝突エネルギーを吸収する性能が要求される.

このように,車体剛性は乗員の受傷に関して非常に重要な要素である.また,高すぎても低すぎ ても適当でなく,エンジンコンポーネントなど車体の寸法,構造などにも対応していると考えられ,

車両ごとの車体剛性と車体変形を考慮に入れる必要がある.そこで,JNCAPにおけるフルラップ前 面衝突試験の結果をもとに,各車両の車体剛性を算出することとした.

Fig.4.1 Engine compartment and cabin

JNCAPデータとして,自動車対策機構(NASVA)のホームページにて一般に公開されている車両 寸法や重量,車両安全性の評価,およびダミーより計測された各物理量の最大値などに加え,NASVA より衝突時の高速度映像,試験状況の写真,およびダミーと車両の計測データの提供を受けた.Table 4.1に,データを入手した6種類の車両を示す.入手したのはヴェルファイヤ,マークX(以上,ト ヨタ自動車株式会社),エクストレイル,セレナ(以上,日産自動車株式会社),フィット(本田技 研工業株式会社),およびワゴンR(スズキ株式会社)の6車種のデータであり,車両カテゴリごと の売上の多さを参考に決定した.

Table 4.1 The vehicles to calculate stiffness

Year Category Vehicle

2004 Auto-C

> 2000 cc displacement Toyota MARK-X

2005 One box & Minivan Nissan SERENA

2007

Auto-A

< 1500 cc displacement Honda FIT

Auto-B

1500 cc~2000 cc displacement Nissan EXTRAIL

2008 One box & Minivan Toyota VELLFIRE

Light vehicle Suzuki WAGON-R

フルラップ前面衝突試験は自動車が固定壁に衝突する試験であるので,その場合の力学理論につ いて述べる.自動車の車体変形特性はFig.4.2に示すような塑性変形するバネと仮定することができ,

車体剛性はバネ定数に相当する.

Fig.4.2

Dynamic model of off set frontal impact

ここで,力Fによって長さsだけ変形するバネを想定し,バネ定数をk,エネルギー吸収量をE とすると,次のような式が成立する.

ks

F

(4.1)

2

2 1 2

1 Fs ks

E  

(4.2)

そして,固定壁に衝突した場合の反発係数をe,自動車の質量をm1,衝突速度をv1とし,固定壁 についてはm2 = ∞,v2 = 0 と考えられるので,エネルギー吸収量は

) 1 2 (

1

2 2

1

1

v e

m

E  

(4.3)

(4.2),(4.3)式から,

) 1

(

2

1

1

e

k v m

s  

(4.5)

となる.また,固定壁に高速で衝突した場合の反発係数はゼロに近いので,e = 0 とし,kについて 整理すると,

s v k m

2 1

1 (4.6)

よって,車両剛性を算出するには,質量m1,衝突速度v1,変形量sが必要である.質量および衝突 速度はフルラップ前面衝突試験のデータから容易に入手することができるが,車両の変形量につい ては報告されていない.そこで,衝突試験後の写真より変形量を求めることとした.

変形後の車両全長は,Fig. 4.3のような試験後の写真を用い,車体横に貼り付けられた500mm間 隔のマーカーがを利用して計算した.車両全長の前端は,変形量が最も大きくなる地点とした.そ して,変形前の全長との差を車両変形量とした.Table 4.2に,各車両の質量,全長,変形量と,式

(4.6)より算出した車両剛性を示す.なお,衝突速度は全て15.3 m/s2である.

Fig. 4.3 Measuring a deformed length of vehicle in a picture of JNCAP test

Table 4.2 Weights, lengths, deformations, and stiffnesses of JNCAP test vehicle

Vehicle Weight

[kg]

Length [mm]

Deformation [mm]

Stiffness [kg/s2] Toyota MARK-X

Nissan SERENA Honda FIT Nissan EXTRAIL Toyota VELLFIRE Suzuki WAGON-R

1510 1610 1010 1500 1890 810

4730 4650 3900 4590 4865 3395

136.8 302.1 186.3 190.0 151.0 183.7

18822187.4 4118446.1 6789715.1 9694924.8 19347397.9

5605136.1

Table 4.2より各車両の剛性に注目すると,サイズおよび重量が大きいトヨタヴェルファイヤとト

ヨタマークXの剛性が高く,逆にサイズおよび重量が小さいワゴンRの剛性が低いなど,車両の大 きさと重さに剛性が比例している傾向にあることがわかる,一方で,比較的大型な車両であるセレ ナは変形量が大きく,6 車種中最も小さな剛性となっており,車両ごとに剛性を求める必要がある ことが伺える.

(2) 車両慣性特性の算出

実際の前面衝突事故において,自動車は様々な角度を有して衝突すると考えられ,むしろ真正面 から衝突するケースの方が珍しい.斜め前面衝突においては,衝突後に車両は回転運動する.傷害 データベースに斜め前面衝突を組み込むためには,車両の回転運動に関わる慣性特性を算出する必 要がある.

先行研究(5)においては, Fig.4.4に示すように,衝突加速度を進行方向および横方向に分解すると いった単純な手法によりシミュレーション上で斜め前面衝突を表現している.このような加速度の 分解は「衝突後に車両が回転しない」という仮定の上で成り立っているが,実際には車両の回転運 動により車室内の乗員に慣性力が働いており,すなわち乗員への衝撃が過小評価されていると考え られ,衝突後の回転運動を考慮に入れた入力条件を作製する必要がある.そこで,JNCAPにおける オフセット前面衝突試験を用いて,各車両の慣性特性を算出することとした.

Fig.4.4 Diagonal frontal impact in previous study

Fig.4.5にオフセット衝突試験の概要を示す.オフセット前面衝突試験とは,自動車を時速64 km でアルミ製のデフォーマブルバリアに運転席側の一部(オーバーラップ率40%)を前面衝突させる 試験である.ダミーの乗車状況は,3 章にて述べたフルラップ前面衝突試験のものと同様であり,

計測項目はバリア荷重を加えている.

Fig.4.5 Off set frontal impact test

車両剛性をkV,バリア剛性をkBとすると,オフセット前面衝突はFig.4.6のように表現できる.

Fig.4.6 Dynamic model of off set frontal impact model

荷重Fは車両幅Lの中心から10%の位置とする.ここで,荷重Fは進行方向にしか働かないため,

重心周りの角速度をωとすると,重心周りの運動方程式は,

L I F  

10

(4.7)

となり,慣性モーメントIについて整理すると,

 10

IFL

(4.8)

と表すことができる.ここで,FおよびLはそれぞれJNCAPデータから取得できるので,車両の 重心加速度および左右サイドシル加速度に注目して重心周りの角速度 ω を算出することとした.

Fig.4.7に左右サイドシルの位置を,Table 4.3に,各車両の重心および左右サイドシル加速度の最大

値を示す.フィットおよびマークXは変形の影響により左右サイドシルで回転の向きが異なってい たが,支配的な方向の値のみを採用した.

Fig.4.7 Locations of C.O.G and Side sill acceleration meter

Table 4.3 Accelerations of C.O.G and Side sill (Left, Right)

Vehicle

Accelerations C.O.G.

[m/s2]

Left sill [m/s2]

Right sill [m/s2]

Left – C.O.G.

[m/s2]

Right – C.O.G.

[m/s2]

a [m/s2] VELLFIRE

EXTRAIL SERENA

FIT MARK-X WAGON-R

366.1 454 338.1 264.9 458.5 357.5

361.5 343.6 282.5 275.4 357.5 298.1

410.2 519.4 418.3 427.1 419.1 393.4

-4.6 -110.4

-55.6 10.5 -101 -59.4

44.1 65.4 80.2 162.2 -39.4 35.9

48.7 175.8 135.8 162.2 101 95.3

左右サイドシル加速度と重心加速度の差を求め,重心を原点とした左右サイドシルの相対加速度 を算出した.また,重心加速度計から左右サイドシル加速度計までの距離rについては各車両の寸 法データを入手することが出来なかったため,平成 18 年度の(財)交通事故総合分析センター

(ITARDA)の再現実験における寸法データ(12)をもとに,車両の横幅中心より左右各40%の位置と した.以上,左右サイドシルの相対加速度をaとすると,r = 0.4×Lより,

L a r

a

2 5

2

(4.9)

となり,ωを算出することができる.

以上,式(4.8),(4.9)を用いて各車両におけるωおよびIを算出し,Table 4.4に示す.

Table 4.4 Each vehicle’s ω and I

L [mm]

r [mm]

ω [s-1]

I [kN・m・s]

VELLFIRE EXTRAIL

SERENA FIT MARK-X WAGON-R

1840 1785 1695 1695 1775 1475

368 357 339 339 355 295

10.9 22.2 20.0 69.2 16.9 18.0

9764.2 3832.9 3773.42

822.42 5530.0 2220.0

ドキュメント内 人体モデルを用いた前面衝突事故における (ページ 41-49)

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