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傷害予測式に用いる事故条件パラメータの選定

ドキュメント内 人体モデルを用いた前面衝突事故における (ページ 49-59)

第 4 章 乗員傷害予測式の構築

4.2 交通事故シミュレーションによる傷害データベースの構築

4.2.2 傷害予測式に用いる事故条件パラメータの選定

(2) シートベルト有無

シートベルトの装着は,乗員全体の傷害発生に大きな影響を及ぼすと考え,パラメータに採用し た.変更水準は,Fig.4.9に示すような装着する場合および装着しない場合の2水準である.シート ベルトは車の衝突時,車内の乗員の動きを拘束し傷害を軽減するためのもので,ベルト非着用の場 合には乗員が車外へ放出される,またフロントガラスやステアリング,ダッシュボードなどへ二次 衝突する可能性が高い.このような二次衝突による傷害発生を防止するのがシートベルトの为な役 割であり,シートベルト着用は法的に義務化された1986年より,交通事故による死傷者数は減尐し ている.

Fig.4.9 Seatbelt parameter

(3) 乗員体形

乗員の身長や体重は,車室構造物との接触や拘束,また各体節における慣性特性にも影響を及ぼ し,衝突時の乗員挙動に大きな影響を与えることが考えられる.そこで,2 章にて述べた乗員モデ ルであるShort_model (1.578 m, 45.3 kg),Average_model (1.714 m, 63 kg),Tall_model (1.85 m, 81.3 kg) を使用することとした.Fig.4.10に乗員モデルを示す.

Fig.4.10 Occupant parameter

(a) with seatbelt (b) without seatbelt

(a) Short_model (b) Average_model (c) Tall_model

(4) 車種

前項で述べたように,衝突時の乗員への衝撃は車種により異なるため,車種の違いは乗員傷害に 大きな影響をおよぼす.そこで,フルラップ前面衝突試験について,6 車種の車両重心の加速度を 比較してみたところ,車種の大きさやカテゴリに関わらず加速度波形の大まかな定性的特徴は

Fig.4.11のように説明できることが確認できた.自動車が衝突を開始するとまずボンネットが変形し

加速度が増加するが,エンジンルーム内に設けられたクリアランスにより一度減尐に転ずる.その クリアランスを経て変形がエンジンまで達した後再び増加し,加速度の最大値を示して0に収束す る.また,衝突時の高速度映像にて車両の変形進行状況を確認すると,Fig4.12に示すように,フロ ントタイヤに達した後はあまり変形が進行せず,車両前面からフロントタイヤまでの距離が車両の 変形および加速度へ大きな影響をおよぼしていると考えられる.

Fig.4.11 Schematic acceleration-time curve in Full wrap frontal impact test in JNCAP

Fig.4.12 The moment that front tire stops deformation

そこで,車両特性に応じた加速度波形を作製するため,衝突加速度波形の構成要素であるa1a2, およびt1 ~ t3と車両特性を示す物理量との相関を調査したところ,Table 4.5に示すような結果となっ た.今回はデータのある車種が6種類と尐なかったため統計的な処理は行わず,傾向の一致性をも とに決定した.ここでいうノーズ長は車両前面からフロントタイヤ中心までの距離,k は前項にて 算出した車両剛性,mは車両重量である.

Table 4.5 Elements of acceleration curve

Elements of acceleration Dominant factor

a1

a2

t1

t2

t3

1/ Bonnet length Bonnet length Bonnet length

k/m 1/ Bonnet length

この結果をふまえ,各車両に対応した加速度波形を作製した.Fig.4.12 に示した定性的特徴と最 も近いトヨタヴェルファイヤの加速度を基準とし,ヴェルファイヤのBonnet lengthおよびk/mとの 比率を参考に,各車両のa1a2,およびt1 ~ t3を算出した.Table 4.6に,各車両のa1a2,およびt1 ~ t3における試験データおよび計算結果より算出した値の比較を示す.軽自動車であるスズキワゴン Rのみ計算結果に大幅な誤差が生じたため,ノーズ長を2倍とすることとした.また,Fig.4.13に作 製した各車両の入力加速度を示す.

Table 4.6 Compare the element of acceleration between from experiment and calculation

Vehicle A1 a2

Experiment Calculation Experiment Calculation VELLFIRE

EXTRAIL SERANA

FIT MARK-X WAGON-R

19 28 21 12 23 12

19.0 19.9 20.0 16.7 18.5 12.6

21 14 9 19 23 10

21.0 13.3 5.2 13.8 25.6 14.2

t1 T2 t3

Experiment Experiment Experiment Calculation Experiment Calculation 67

60 64 68 64 53

67 64 63.5 76.0 68.0 50.5

265 290 257 400 295 410

265.0 253.3 251.3 300.7 272.1 399.5

527 742 530 480 591 610

527.0 551.3 555.8 464.4 513.2 534.9

Fig.4.13 Calculated acceleration curves of the test vehicles

変更水準は,車両重量を参考にヴェルファイヤ,フィット,ワゴンRの3水準とし,Fig.4.13に 示す加速度波形をシミュレーションに用いた.

(5) 衝突速度

乗員の傷害発生について,衝突速度が大きな影響を与えるのは言うまでも無いことである.衝突 速度が大きくなるほど車両の変形量が大きくなり,また減速度が高くなることにより二次衝突によ る傷害発生の確率も高くなる.本シミュレーションモデルは入力として衝突時に発生する車両加速 度を用いるため,運動量保存則を用いて衝突速度と衝突加速度の関係を求めることとした.ここで,

衝突による力積が全て車両の変形に変換に保存されたと仮定すると,

madt Fdt mv

  

(4.10)

より,

adt

v

(4.11) VELLFIRE

0 20 40 60 80 100

0 500

Time [ms]

A c c . [m /s 2 ]

SERENA EXTRAIL

WAGON-R MARK-X

FIT

という関係が衝突速度と加速度の間に成り立つことがわかる.これをふまえ,衝突速度の変更水準

を30 km/h,55 km/h,80 km/hの3水準とし,Fig.4.13に示した加速度波形をスケーリングすること

により各車種の加速度を作製した.Fig.4.14に,ヴェルファイヤ,フィット,ワゴンRの加速度3 水準をそれぞれ示す.

Fig.4.14 Accelerations of Toyota VELLFIRE, Honda FIT, and Suzuki WAGON-R (a) VELLFIRE

(b) FIT

(c) WAGON R

0 20 40 60 80 100

0 500

Time [ms]

Acc. [m/s2 ]

0 20 40 60 80 100

0 500

Time [ms]

Acc. [m/s2 ]

0 20 40 60 80 100

0 500

Time [ms]

Acc. [m/s2 ]

80 km/h 55 km/h

30 km/h

(6) 衝突方向

衝突方向により乗員に発生する衝撃の向きも変化するため,衝突方向は乗員の傷害発生に影響を 与えると考えられる.また前項にて述べた通り,斜め前方衝突により発生する車体の回転運動が乗 員への衝撃を増加させることが考えられる.そこで,前項にて算出した慣性特性Iを用いて,斜め 前方衝突時に車室内の乗員に働く加速度を求めることとした.

Fig.4.15 Dynamic model of diagonal frontal impact

Fig.4.15に,斜め前方衝突の力学モデルを示す.車両剛性は進行方向および横方向で等しいとし,

衝突点は最前面の端点とする.ここで,衝突角度をθとすると,x,y方向加速度成分はそれぞれ,

 sin cos a a

a a

y x

(4.12)

となる.また,Fig.4.15より,車両の重心周りの運動方程式は,

I L F L

F

x y

y x

(4.13)

となり,Fx = max,Fy = mayより式(4.12)は,

I

L ma L

ma

x y

y x

 

(4.14)

と整理できる.ここで,車両重心を原点とした車室座標系における車両の加速度 ax’,ay’は,’絶対 座標における車両の加速度axayを用いて,

 

 

 

 

 

 

 

' ' cos

sin sin

cos '

'

y x y

x

a a t t t

t a

a

(4.15)

表すことができ,乗員に働く加速度としてこの車室加速度ax’,ay’の正負反対を入力することとした.

以上,式(4.11)~(4.14)を用い,斜め前面衝突において車室に発生する加速度を算出した.加速度の 算出に用いた各車両の物理量をTable 4.7に示す.Lyに関する各車種のデータを入手することができ なかったため,平成18年度のITARDAの再現実験(12)における寸法データをもとに,車両全長の35%

にあたる位置とした.Lxは全幅の中心とした.

Table 4.7 Each vehicle’s L

x

and L

y

Lx

[mm]

Ly

[mm]

VELLFIRE EXTRAIL SERENA

FIT MARK-X WAGON-R

1702.7 1606.5 1627.5 1365.0 1655.5 1188.2

920.0 894.25

847.5 847.5 887.5 737.5

衝突角度は-30°,0°,30°の3水準とし,前述した計算手法により算出したx,y方向の加速度を入 力した.加速度の一例として,Fig.4.16 にヴェルファイヤの-30°,0°,30°における車両加速度を示 す.また,比較のため先行研究の手法により算出した加速度も合わせて示す.

-30°および30°の加速度波形について,回転運動に影響するx方向加速度はどちらも増加している

ことが確認出来る.またy方向の入力加速度は-30°と30°で反対となるため,回転運動により-30°の y方向加速度は減尐し,30°は増加することが確認出来る.乗員モデルには,この加速度波形のx方 向y方向ともに反対方向を入力した.

Fig.4.16 Vehicle interior’s acceleration of VELLFIRE to input simulation (a) -30°

(b) 0°

(c) 30°

0 20 40 60 80 100

-200 -100 0 100 200 300 400 500

Time [ms]

Acc. [m/s2 ]

0 20 40 60 80 100

0 100 200 300 400 500

Time [ms]

Acc. [m/s2 ]

0 20 40 60 80 100

0 100 200 300 400 500

Time [ms]

Acc. [m/s2 ]

a

x

(previous) a

y

(previous) a

y

a

x

以上,6種類のパラメータおよび変更水準をまとめるとTable 4.8のようになり,合計324通りの 交通事故シミュレーションを行った.

Table 4.8 Parameters to construct injury database

Number Parameters Levels

1 Airbag 2

(On, Off)

2 Seatbelt 2

(On, Off)

3 Rider’s Body size 3

(Short, Average, Tall)

4 Vehicle 3

(VERFIRE, FIT, WAGON-R)

5 Impact speed 3

(30, 55, 80 km/h)

6 Direction of impact 3

(-30°, 0°, 30°)

Total 324

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