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シミュレーション結果の検証および考察

ドキュメント内 人体モデルを用いた前面衝突事故における (ページ 34-39)

第 3 章 前面衝突試験を用いた交通事故シミュレ-ションモデルの妥当性検証

3.3 シミュレーション結果の検証および考察

シミュレーションモデルの妥当性を検証するため,前節3.2の条件にて作製したモデルを用いた シミュレーションと試験の結果を,乗員挙動,各部位の加速度および荷重について比較した.

3.3.1 乗員挙動

乗員挙動について,シミュレーションにおける乗員モデル挙動と,JNCAP試験の衝突時の高速度 映像から確認されるダミー挙動を比較した.試験映像では,ドアの存在によりダミーの腹部より上 の挙動しか確認できないため,頭部とエアバッグの関係に注目することとした.また,2 章にて改 良した乗員モデルおよびエアバッグの妥当性を検証するため,試験結果に加えて,改良前の乗員モ デルおよびエアバッグの設定を用いたシミュレーションの結果とも比較した.

Fig.3.7に示すように,衝突後0~150 msにおける乗員挙動について,試験とモデル改良前後のシ

ミュレーションを比較した.

エアバッグと頭部の衝突に注目すると,モデル改良前のシミュレーションでは,衝突後 100 ms 付近で頭部が大きく反発しているのに対し,モデル改良後は衝突後50 ms付近で頭部とエアバッグ が衝突を開始し,75~100 ms付近で沈み込みが最大になり,150 ms付近で離れ始め,試験での乗員 挙動とよく一致している.このことから,エアバッグのガス放出特性の改良により,緩衝性が正し く表現できるようになったことが確認できた.

また,乗員の体幹部の挙動に注目すると,モデル改良前に見られていた不連続な動きはなく時間 経過とともに滑らかに前傾しており,ラップベルトの上下への動きも抑制されていない.また下肢 の前方への移動はほとんど見られず,運動も滑らかである.試験のダミー挙動と直接比較すること は出来ないが,不自然さが無くなったという点で改善が確認できた.

一方,75~100 ms付近について,シミュレーションにおける乗員は試験ダミーより前傾姿勢を示

している.試験では,衝突の後ダミーとともにシートも前方に移動しており,それにともないダミ ーの移動量も多くなっている.しかし,本車室モデルはモデル全体に対するシートの動きを拘束し ているため,このような前方への移動を表現していない.その結果,特に乗員モデルの上半身の移 動量が尐なく,相対的に頭部の移動量が多くなったことによって傾きが大きくなったと考えられる.

これは車室モデルを簡略化したマルチボディモデルで作製していることの弊害であるが,上半身の 傾きを除けば乗員挙動はよく一致しており,大きな問題ではないだろう.

エアバッグのガス放出状況を見てみると,Fig.3.8 (a)に示したインフレータ修正前は供給されたガ スが全てエアバッグの中に収まっているのに対し,Fig.3.8 (b)に示したインフレータ修正後は衝突後

20 ms付近からガス放出が開始され,変更したガス放出特性が正しく反映されていることがわかる.

以上,乗員挙動の比較というマクロ的視点からは,試験とシミュレーションの結果がよく一致しモ デル改良の効果が見られた.

0 ms 150 ms (a) JNCAP

0 ms 150 ms

(b) Simulation with initial models

0 ms 150 ms

(c) Simulation with modified models

Fig.3.7 Comparison of occupant motions between JNCAP test and simulations

(b) simulation with modified models Fig.3.8 Behaviour of airbag gases

0 50 100 150

0 50

Time [ms]

M a ss [kg ]

Total In bag

0 50 100 150

0 50

Time [ms]

M a ss [kg ]

Total In bag Exhausted

(a) simulation with initial models

3.3.2 各部位の加速度および荷重

前項3.3.1にてマクロ的視点に対して,本項ではミクロ的視点として各部位の加速度および荷重に

ついて,シミュレーションと試験ダミーより計測されたデータを比較した.本研究において乗員の 傷害発生部位として着目した4つの部位は,頭部,胸部,大腿部,さらに,高速度映像から確認で きなかった上半身下腹部の動きを検証するための腰部である.試験ダミーより計測される各部位の 物理量は,頭部,胸部,および腰部が並進加速度,大腿部が軸方向荷重であったため,これにとも ないシミュレーションにおける出力を決定した.Fig.3.9に,各部位におけるシミュレーション結果

(モデル改良前,改良後)と試験結果を示す.大腿部荷重は,試験にて計測された最大荷重が大き かった右足の結果に注目し,改良まえの乗員モデルでは出力が出来なかったため試験結果およびモ デル改良後のシミュレーション結果のみを示した.

まず,モデル改良前と改良後のシミュレーション結果を比較すると,改良後は,頭部,胸部,腰 部の全ての部位において試験結果に近づいたことが確認できる.特に胸部および腰部に関しては最 大値が大幅に減尐し,波形の定性的特徴も実験結果と近いものとなった.胸部および腰部は乗員モ デルの修正による影響が大きいと考えられる.股関節剛性が正しく作用することで下肢の動きが抑 制され,それにともない腰部へ発生する加速度が減尐した.体幹部の一番上に当たる胸部は体幹部 のBody要素構成に最も影響される部位であり,体幹部Body要素の連結を修正した結果が加速度の 減尐につながっている.また頭部は,体幹部の影響を受けると同時に,エアバッグの改良による影 響が大きいものと考えられる.

次に,モデル改良後のシミュレーション結果と試験結果の比較を行うと,全ての部位について波 形の定性的特徴はよく一致している.シミュレーション間で比較できなかった大腿部荷重について もよく一致しており,車室モデルのジオメトリおよび接触剛性の設定が正しく表現できていること が確認できた.一方で,よく一致しているというものの,頭部を除く部位に若干の定量的なずれが 見られ,最大値を示す時間がシミュレーションの方が早いという点で試験結果との差異が見られた.

これは,変形を考慮しないマルチボディモデルにてシミュレーションを作製したことが原因であり,

特に,前項3.3.1でも挙げたシートの移動,および人体胸部の変形を無視していることによる影響が 大きく,試験結果において30 ms付近で見られる加速度の減尐を発生させていると考えられる.

これらモデルの変形をシミュレーションに組み込めば,結果の改善は望めるであろう.しかし,

今回挙げた問題点を改善したところで,試験結果を完全に再現できるシミュレーションモデルを作 製することは不可能であり,ある段階で打ち止めなければならない.本研究においては結果の処理 に統計的な手法を用いることを考慮すると,本シミュレーションモデルの精度は十分であると考え られる.

Fig.3.9 Comparison of body segments accelerations and axial force between JNCAP test and simulations

0 100 200

-5 0 5

Time [ms]

F orc e [kN ]

Exp.

Sim.

0 100 200

0 500 1000

Time [ms]

A c c . [m /s

2

]

Exp

Sim-before Sim-after

0 100 200

0 500 1000 1500 2000 2500 3000

Time [ms]

A c c . [m /s

2

]

Exp

Sim-before Sim-after

0 100 200

0 500 1000 1500 2000 2500 3000

Time [ms]

A c c . [m /s

2

]

Exp

Sim-before Sim-after

(a) Head acceleration (b) Thorax acceleration

(c) Pelvis acceleration (d) Right Femur force (axial)

ドキュメント内 人体モデルを用いた前面衝突事故における (ページ 34-39)

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