第三章の計算条件は,実際の生成環境と比較すると遙かに炭素原子密度が高い状態となってい る.このため,衝突断面積が小さく,他のクラスターとの衝突確率の低いケージ状クラスターに 関しても十分なアニール時間を与えられるといえないことは,第三章の質量分析の結果からも問 題となった.そこでこの章では他の原子と衝突することなく十分なアニール時間を与えられた場 合のクラスターの構造について観察する.
第三章のクラスタリング過程で得られたケージ状のC60の外側にNiが付随した構造のNiC60と,
金属をLaに置き換えたLaC60,さらに金属を除いたC60の3つを一辺30Åの立方体セル内に配置 し,回転,振動の各温度を同一の目標温度TC = 2500Kに制御し,それぞれ200 nsまで計算した.
Fig. 4. 1 は初期配置の様子である.
Fig. 4. 1. Initial position at annealing process of NiC60.
Fig. 4. 2,4. 4,4. 6 にNiC60,LaC60,C60の時間履歴のスナップショットを,Fig. 4. 3,4. 5,4. 7 にそれぞれに関して,ダングリングボンドをもつ炭素原子の数,炭素原子1個あたりのポテンシ ャルエネルギー,クラスターの半径,クラスターの重心と金属の距離を時間毎に算出している.
ここで,クラスターの重心と金属の距離がクラスターの半径より小さい場合に金属がクラスター に内包されていると判断する.
4.2 NiC
60, ,LaC , ,
60, ,C , ,
60のアニーリング のアニーリング のアニーリング のアニーリング
Fig. 4. 2. Snapshots of annealing process for NiC60.
0 100 200
0 2 4 6
–6.9 –6.8 –6.7 –6.6 0
1 2 3 4 5
Time (ns)
Number of carbon atoms with dangling bond Potential energy (eV/atom)
Radius (Å)
Potential energy Number of C atoms Radius of Ni Radius of cluster
Fig. 4. 3. Time change of radius of cluster, dangling bongs and potential energy of NiC60.
NiC60に着目すると,Ni原子がほぼ等確率で炭素ケージを出入りし,200nsに至っても決まった 位置に定まることはなかった.その際ケージに穴をあけて移動し,そのたびにダングリングボン ドが生成されることが確認できる.またダングリングボンドを持つことにより不安定になること から,ポテンシャルエネルギーが時間の経過とともに減少する傾向はみられない.
Fig. 4. 4. Snapshots of annealing process for LaC60.
0 100 200
0 2 4 6
–6.9 –6.8 –6.7 –6.6 0
1 2 3 4 5
Time (ns)
Number of carbon atoms with dangling bond Potential energy (eV/atom)
Radius (Å)
Potential energy Number of C atoms Radius of La Radius of cluster
Fig. 4. 5. Time change of radius of cluster, dangling bongs and potential energy of LaC60.
LaC60に関しては,この計算では約50 nsでそれまで外側に付着していたLa原子が炭素の殻を 押し広げて内側に入り込み,以降200 nsまで一度も外側に出ることはなかった.また時間の経過 とともにダングリングボンドの生成する割合が少なくなり,それに伴いポテンシャルエネルギー が時間の経過とともに減少し,Laにとっては内包された状態が安定な構造であると考えられる.
Fig. 4. 6. Snapshots of annealing process for C60.
0 100 200
0 2 4 6
–6.9 –6.8 –6.7 –6.6
Time (ns)
Number of carbon atoms with dangling bond Potential energy (eV/atom)
Potential energy Number of C atoms
Fig. 4. 7. Time change of dangling bongs and potential energy of C60.
C60の場合は,50 ns – 70 ns のようにほとんどダングリングボンドをもたずエネルギーもほぼ一 定の状態もあるが,この段階ではダングリングボンドを生成し,安定な構造を模索している段階 だと考えられる.山口らはこの方法で切頭二十面体構造の完全なフラーレン構造のIhC60を実現し ているが本研究では実現できなかった.3つの計算を比較するとC60のケースが最もエネルギーが 高いが,これは金属と炭素間に結合を生じることでそれらの結合エネルギーの分だけ安定になる からである.200 ns の炭素原子1つあたりのポテンシャルエネルギーは低いほうから並べてLaC60, NiC60,C60で,それぞれ -6.85 eV,-6.71 eV,-6.70 eV であった.