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附属再生実験動物施設では、平成 22 年度イヌ;106 頭、サル;4 頭、ウサギ;23 羽、ラット;93 匹、マウス;

11,985 匹が実験動物として飼養された(京都大学動物実験委員会「動物実験に関する自己点検・評価報告書」平成 23 年 7 月版による)。これらの実験動物の日常的な飼育・管理を専任准教授 1 名・技術職員 3 名・非常勤職員 16 名 で行っている。

当研究所で動物実験を行うにあたっては、生命倫理・動物福祉に十分の理解と配慮をして実施する事が大前提で ある。この原則を周知・徹底させるため、動物実験に従事する者は、動物実験に関する法規制・内規、動物実験実 施にあたっての原則、実験動物の取り扱い方等についての全学講習および所内講習を受講することが義務付けられ ている。南部総合研究実験棟・動物飼育室を利用する者は、これに加えて、SPF(Specific Pathogen Free)マウス の取り扱いについて実地講習を受けなければならない。また、動物実験を実施するには、動物実験計画書を当研究 所の動物実験委員会に提出し、厳格な審査を受け承認を得ることが必要である。

南部総合研究実験棟(2002 年 12 月設置、再生医科学研究所、ウイルス研究所、医学部の 3 部局による共同研究 実験棟)マウス飼育室は稼動を開始してから 7 年が経過した。現在、SPF マウス飼育室全 16 室中、再生研;11 室、

ウイルス研;4 室、医学部;1 室、を使用している。本マウス飼育棟では SPF マウスのみが飼育され、動物実験が 行われている。搬入できるマウスは、指定実験動物供給業者から購入可能な SPF マウス及び当施設等において体外 受精・受精卵移植によるクリーンアップを受け SPF 化されたマウスのみに限定されている。また、飼育室に持ち込 む生物試料(細胞・血清等)も、事前に当施設による検疫を受けることが義務付けられた。これらの厳重なる管理 の下、現在までのところ、感染事故等の深刻な問題はおきていない。ただ、共同実験棟マウス飼育室においては、

SPF マウスの微生物汚染を防止するためには、動物飼育員、利用者各人の十分な注意が必要であるが、多数の人間 が出入りする以上、いつ何時汚染事故が生じるかしれない。不幸にして、幾つかの他校動物実験施設で微生物汚染 事故が発生したことが報告されている。それらの苦い経験から、SPF マウスの微生物汚染の発生原因、汚染拡大様 式、汚染除去法などを十分に学び、万一汚染が生じた時のことも想定し、汚染を最小限度に封じ込める等の対策に ついて、本動物施設でも予め具体的な方策を立てておくことが必要であろう。一方、稼働し始めて明らかとなって きた設計、建築、設備上の種々の問題点、すなわち、室温・風量制御、凍結防止対策の不備等も徐々に把握されつ つあり、対応可能になってきた。また、施設運営に関しても、3 部局共同の建物であるため、当初、運営・予算の 執行における困難さが指摘されてきたが、試行錯誤ながらも克服されつつある。ただ、独立法人化後の運営交付金 の削減により、安定した施設運営が困難になりつつあり、この様な恒常的施設運営のための別枠の予算措置が講じ られることを期待するものである。

東館動物施設は、副施設長による管理のもと、時代の要請に適合した飼育施設に変貌しつつある。すなわち、指 紋認証制による利用者登録の導入、サル飼育室の改良、遺伝子改変動物飼育に適合したマウス・ラット室の改造等

である。また、イヌについても、飼育数と出入の厳密なる把握により、スムーズな登録と狂犬病予防注射が可能に なった。しかしながら、施設・備品の老朽化が進行しつつあり、問題発生時に、まさに自転車操業的に対応してい るのが現状である。また、毎年度予算的にも逼迫しており、このような対応がいつまで続けられるか予測不能であ る。今後は、大規模な改装を念頭においた施設運営が望まれる。

【研 究 概 要】

再生実験動物施設は、再生医科学研究所の附属施設として、研究実施に不可欠である動物実験に関する全般的な 管理業務(再生研の動物実験計画書の審査に関係する業務、動物実験に関する講習会の開催、再生研における実験 動物の維持、管理など)と共に、一研究分野として以下の研究活動を行っている。

研究テーマ 1.GPI アンカー型タンパク質の代謝メカニズムと受精

現在の当研究室のメインテーマは、膜結合タンパク質の一種であるグリコシルフォスファチジルイノシトール

(GPI)アンカー型タンパク質(GPI-AP)の代謝メカニズムの解明とその生殖細胞系列での生物学的意義の探究で ある。このため、まず、個体内での GPI-AP の局在を網羅的に解析するために、GPI アンカー型 GFP レポーター蛋 白質(EGFP-GPI)を構築した。これを導入したトランスジェニックマウスでは、予想以上に EGFP-GPI が、外分 泌腺や精巣において遊離していることを見い出した(Kondoh G. et al.   458, 299-303, 1999)。

以後、この現象に特に着目し、マウス精巣生殖細胞より GPI-AP 遊離因子の精製・構造解析を行った。その結果、

この因子のひとつとしてアンギオテンシン変換酵素(ACE)を単離した。すなわち、この酵素には、アンギオテン シン I やブラディキニンなどの昇圧ペプチドの活性を制御するのみならず、多くの GPI-AP を細胞膜より遊離する新 たな活性を持つことが明らかとなった。また、今回同定した活性は、ジペプチジルカルボキシペプチダーゼとして これらのペプチドを分解するための活性中心とは別の部位に位置し、また、GPI-AP のペプチド部分ではなく、GPI アンカーそのものを切断することも突き止めた。一方、ACE ノックアウトマウスでは、精子̶透明体結合不全によ る雄性不妊が知られている。そこで、このマウスの精子をジペプチダーゼ不活性型 ACE で処理したところ受精能 が回復した。このことから、ACE は in vivo で GPI-AP 遊離活性(GPIase)があり、この活性をもって受精に重要 な役割を担っていることが示唆された(Kondoh G. et al.  , 11, 160-166, 2005)。また、GPI アンカーの生合 成に関わる PGAP1 遺伝子ノックアウトマウスでも、ACE ノックアウトマウスと酷似の雄性不妊を示し、同じく精 子膜上の GPI-AP が貯留傾向にある。これらのことから精子膜からの GPI-AP 遊離が精子の受精能獲得の重要なス テップである可能性が示唆された。

そこで、この過程を追跡する GPI アンカー型 GFP(EGFP-GPI)Tg マウスを用い、精子における GPI-AP 遊離と 受精能獲得との相関を詳細に解析した。まず、精巣上体精子を採取し、精子成熟を誘導する methyl-β-cyclodextrin

(M-β-CD)を含む培養液で培養したところ、時間経過とともに蛍光の減衰が見られた。また、Hyal5,Prss21 などの 内在性 GPI-AP も顕著に遊離した。このとき同時にラフトマーカーである GM1 の局在を蛍光標識したコレラトキ シン(CTB)で染色したところ、精子頭部膜ラフトの特異的な局在変化が見られた。M-β-CD 単独処理ではこれら の変化は見られたが、もうひとつの精子成熟誘導試薬である BSA 単独では有意な変化が見られなかった。そこで BSA に加えカルシウムイオノフォア処理することで強制的に先体反応を促進したところ、上記精子膜変化が顕著に 見られた。これらのことから精子膜変化は先体反応に伴って起こることが示唆された。また、M-β-CD 処理群につ き Izumo1 の局在変化を指標に先体反応が起こっているかを調べたところ、有意な先体反応が観察された。すなわ

ち、M-β-CD は従来から言われている capacitation 誘導に加えて先体反応も促進することがわかった。我々は、上記 精子膜変化に先体反応を加えた一連の現象を精子膜反応(sperm  membrane  reaction,  SMR)と呼称し、射出精子 での解析を行った。その結果、SMR は子宮内精子ではほとんど見られなかったが、卵管内遊走精子の約 40%、卵丘 細胞層侵入精子の約 70%、また透明帯接着精子の全てで観察され、SMR は卵管内で階層的に起こることが示唆され た(Watanabe H. and G. Kondoh   , 124, 2573-2581, 2011)。次に、これらの変化を誘導する生体内因子を 同定するため、3 条件(1.発情未交配、2.精管結紮雄マウスと交配、3.正常雄マウスと交配)の雌から子宮卵管 移行部組織を採取し、マイクロアレイ比較解析を行った。条件 2 と条件 3 の違いは、条件 3 では精子および精巣上 体分泌物による刺激が加わることにある。そこでこれらの間の遺伝子発現プロファイルを比較すると、210 個の遺 伝子が 3 > 2 の発現上昇を示した。さらに構造的に分泌型もしくは膜結合型タンパク質をコードするものを選び出 した。現在、その中から仮称 Sperm Maturation Factor of Female(SMF-F)に着目して解析を進めている。

研究テーマ 2.遺伝子改変マウス作出技術の簡易化

遺伝子改変マウスの作出には、何段階ものプロセスが存在し、多くの時間・労力・経費を必要とする。なかでも 特に問題になるのが、ターゲティングベクターの作製、ES 細胞の培養そしてキメラマウス作出の諸段階であろう。

我々は、これらのステップにおける “ 時間と労力のかからない技術の採用や改良 ” を心掛けてきた。ターゲティング ベクターの作製においては、BAC クローンに基づく大腸菌内組み換えシステム(リコンビニーリング)を採用し、

従来に比べて四分の一の時間短縮に成功した。また、キメラマウスの作出においては、凝集法を改良し、高価なイ ンジェクション機器の購入や煩雑なメインテナンスのいらない方法を可能にした(Kondoh G. et al.  

 39, 137-142, 1999)。これらの技術集約のもとに、過去 7 年間で 20 件の遺伝子改変マウス作出に 参加した。

雌生殖器における精子膜反応と受精能獲得。これまでの研究で、我々は、精子成熟と相関して、1.精子膜のラフト局在変化、2.

先体反応、3.GPI アンカー型タンパク質遊離が連鎖的におこることを見出し、この一連の反応を精子膜反応(sperm membrane  reaction)と呼んでいる。この反応は、子宮内ではほとんどおこらないが、卵管内遊走精子の約 40%、卵丘細胞層侵入精子の約 70%、そして透明帯接着精子のすべてでおこっていることを観察した。すなわち精子膜反応は、雌生殖路の各所で階層的に起こ り、精子の受精能獲得に必須であることが示唆された。現在、我々は、この反応が飛躍的に誘導される卵管内環境に注目し、こ れを引き起こす卵管内因子(仮称 SMF-F)の同定を試みている。