歴史が示すように、内部統制とは、本来の考え方では「不正な経理処理(粉飾)」を阻止し、摘 発するための企業内の仕組みのことを指していた。ところが、企業の行った粉飾があまりにも悪 質な犯罪行為(11)であるケースが非常に多いとともに、ステークホルダーにとっても利害に反する 重大な事項であることが判明してきた。
その結果、①外部監査人としての公認会計士による外部監査制度の強化と、②監査役も含めた 内部統制機能の強化が叫ばれるようになってきた。すなわち、企業外部からの監視の強化と、同 時に、内部からの統制と監視の強化の必要性が高まってきたといえる。しかしながら、内部から の統制・監視は、COSOレポートにもあるように、究極のところ、経営層も含めた全社員の「誠 実さと倫理ある行動」に負うところが大である。バブル崩壊後多発した日本企業の不祥事は、残 念ながら、企業人としての職業倫理意識の喪失によって生じたものといえよう。
商法の規定を持ち出すまでもなく、取締役は善管注意義務および忠実義務を負う。また、善管 注意義務は、監査役にも準用される。そのため、不祥事を起こした企業の取締役・監査役は、こ の二つの義務の意味をじっくりと噛みしめるべきである。
また、COSOレポートの考え方は、別の言い方をすれば、「不祥事が起きるのは、その企業の経 営層等の誠実性と倫理的価値観のレベルが低いからである」ということになる。
粉飾決算を行っていた企業の経営者に共通しているのは、「粉飾は必要悪」だとする考え方であ る。これは、己が過去行ってきた経営の結果が、今の経営状態であるとの深い反省もなく、外部 環境や他人の所為にするもので、己の立場を守ることに汲々とする自己保身以外の何ものでもな い。
粉飾決算も含めた企業の不祥事は、結局のところ、経営者(監査役も含む)が己の欲のために 企業をマネージしていることに根本的な原因があるといえる。不祥事を起こしたり、破綻した企 業を見てみると、経営の失敗を糊塗するために粉飾をし、また、失敗のツケを従業員に押しつけ てリストラと称して人員整理を行うような「人間としての誠実さと倫理」のない経営者があまり にも多すぎることに、愕然とする思いである。
いまこそわれわれは、己を深く反省し、人間としての原点に立ち返り、今置かれている己の立 場で、「やるべきことを行う」すなわち「現実から逃避をしないで、自分のこととして取り組んで いく」という「誠実さと倫理」をもった行動をすることが必要なのではないか。これこそが、多 発する企業不祥事を減らす唯一の道である。
注・引用文献
(1)日本公認会計士協会東京会編『粉飾決算』、第一法規、一九七四年三月、二〇ページ。また、
帝国データバンクの調べによると、昭和四〇年(一月〜一二月)の倒産件数は五、六九〇件、
負債総額は五、三七八億円である。山陽特殊製鋼の負債総額だけで九・三%を占めており、
当時における同社倒産のインパクトの大きさがわかる。ちなみに、平成一六年の倒産件数は 一万三、八三七件、負債総額は七兆九、二七四億円であり、昭和四〇年に比べ、件数で二・
四倍、負債総額で一四・七倍となっている。
(2)野々川幸雄稿「粉飾」、『会計ジャーナル』一九八〇年一月増刊号、二二ページ。
(3)細金正人稿「粉飾決算の社会的背景と責任」、『会計ジャーナル』一九七一年五月増刊号、一 四ページ。
(4)山田昭広稿「現金預金の粉飾・私消・横領とその監査」、『会計ジャーナル』一九七一年五月 増刊号、八六ページ。
(5)尾高澄稿「公認会計士監査制度の本質とその果たす役割」、『会計ジャーナル』一九七一年五 月増刊号、五五ページ。
(6)川村眞一著『内部監査の基本的役割』、日本内部監査協会、二〇〇五年八月、四二ページ。
(7)注3の文献。
(8)早房長治著『だれが粉飾決算をつくるのか』、廣済堂出版、二〇〇一年一〇月、一四八ペー ジ
(9)注8の文献、八一ページ、一三六ページ。
(10)トレッドウェイ委員会組織委員会著、鳥羽至英・八田進二・高田敏文共訳『内部統制の統 合的枠組み 理論篇』、白桃書房、一九九六年五月、三四〜三五ページ。
(11)板倉宏稿「経営者の責任と罰則の軽重」、『税経通信』一九九九年一一月号、八六ページを 参照。
企業活動をめぐるビジネス犯罪には、大別して①経営者の判断に基づいて企業の「組織体 犯罪」として行われるもの、②経営者や従業員が日常のビジネス活動の場で行う詐欺、業務 上横領、インサイダー取引など個人の「職務(職業)犯罪」とがある。粉飾決算は、組織体 犯罪として行われるのが一般的であるが、このような犯罪については「会社のために企業活 動として行ったものだ」ということで、経営者の個人刑事責任は不問にされがちであった。
しかし今日では、このような企業犯罪の罪悪性が問われ、企業犯罪を引き起こした経営者の 刑事責任が厳しく問われるようになってきている。粉飾決算については、違法配当罪(商法 489条3号)、特別背任罪(同486条)、有価証券報告書虚偽記載罪(証券取引法197条)な どの適用が考えられる。
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図1 企業不祥事の一覧
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図2 内部統制の変遷
急がれるトランスメディア論の確立
株式会社ウェザーニューズ 源 高志