6-1 空間内を伝わる波の表現
はじめに
本章では光(電磁波)について,
波動一般に共通した光の性質 → 電磁波としての特殊性(偏光) の順に説明する.
波数ベクトルと同位相線,平面波・球面波
単位ベクトルnの方向に伝播する波長λの波に対して,波数ベクトル k=2π
λ n を定義する.
平面波は波の進行方向に垂直な平面を同位相面(波面)に持ち,波は波面に垂直に進む.そのような波の変 位は
ψ(r, t) =asin(k·r−ωt+δ)
と表される.実際,同位相面の式k·r−ωt+δ= const.は波の進行方向kに垂直な平面の方程式になってお り,進行方向に沿う座標x′ =r·nを導入すると,1次元の正しい正弦進行波の式
ψ(r, t) =asin(kx′−ωt+δ) =asin {2π
λ (x′−ct) }
, c= ω k が再現される[4-1節参照].
他方,点波源から出た波は,波源を中心とする球面を同位相面に持つ球面波として広がり,その変位は ψ(r, t) =asin(kr−ωt+δ)
と表される.[位相を一定と置くと,波面として球面r=ct+ const, c≡ω/kを得る.球面波の振幅の減衰に ついては付録B.11参照.]
注解
読者の便宜のために,4-1節の関係を改めて書いておく:
c=ω
k, k=ω
c, ω=ck.
例──x軸,y軸に沿う波長
図149のようにxy平面上をn= (cosθ,sinθ)の方向に伝わる波長λの平面波のx軸,y軸に沿う波長は それぞれ
λx= λ
cosθ, λy = λ sinθ
図149 xy面上を伝播する平面波
である.
この結果についての教科書の説明は,考察を加えつつ次のようにまとめられる.波数ベクトルk = (2π/λ)(cosθ,sinθ)を用いて波の変位を
ψ(r, t) =asin(k·r−ωt+δ)
と表すと,例えばx軸上の位置r=xex(ただしexはx方向単位ベクトル)での変位は ψ(r=xex, t) =asin(kxx−ωt+δ), kx=k·ex
と表されるから,波数ベクトルのx成分kx=kcosθがx軸に沿って見た波長 λx= 2π
kx
= λ cosθ
を与えることになる.[もっとも,波長は図149から幾何学的に求めるのが容易である.]
6-2 波の回折
ホイヘンスの原理
音波について我々は経験的に良く知っているように,一般に波は衝立のような障害物の裏側に回り込む.こ れを回折という.本節ではHuygens(ホイヘンス)の原理に基づいて回折を調べる.Huygensの原理によれ ば波が伝播する際,[ある時刻の]波面の各点を点波源とする球面波の重ね合わせによって新しい波面が作ら れる(図150参照).
注解
Huygensの原理は波動論から導くことができる(付録C.23,付録C.26) [16, pp.166–167].
単スリットの回折:問題の設定
図151のように1本の幅Dの無限に長い単スリットに対して単色平面波(角振動数ω,波数k=ω/c)が 垂直に入射したとき,スリットから垂直距離Lだけ隔たるスクリーン上に作られる光の強度分布を調べよう.
以下,教科書の内容を多少アレンジしつつまとめる.
図150 Huygensの原理(平面波の場合)
図151 単スリットの回折
まず我々が求めたいのは電磁場のエネルギー密度であり,また電磁波に対してはエネルギー密度を W =ε0E2 =B2/µ0として良いから(5-0節),E,Bのいずれかのある成分をΨと書くと,エネルギー密度 はΨ2に比例すると考えられる.そこで以降では光の波として場Ψを考えれば十分である.
次に開口部分をN 個の点光源の集まりと見なし,Huygensの原理に従いスクリーン上の合成波を求め る.(最後にN → ∞とする.)図151のようにスリットの中心を原点とするX 軸を開口に沿って,スリッ トの正面を原点とするx軸をスクリーンに沿って導入し,場の観測位置の座標をxとする.光源の間隔 d=D/(N−1)を用いるとn番目の点光源の位置は
X =Xn ≡ −D
2 +nd (n= 0,1,· · · , N−1)
と表される.またn番目の点光源から観測点までの距離をRnとすると,ここから発せられる球面波の観測位 置における値は
Ψn= a Rn
sin(kRn−ωt+δ)
と表される.ただし本稿ではひとまず1/Rnに従う振幅の減衰を考慮した(付録??参照).また平面波の垂直
な入射を考えているため,スリット上の各点で場が共通の値を持つことを考量した.あるいは物理量の複素表 示(付録??参照)を利用すれば,aを複素振幅として
Ψn= a Rn
ei(kRn−ωt)
と表すこともできる.ここでスリットの中央X = 0から観測点までの距離を R ≡ √
L2+x2 と書き,
sinθ=x/Rによってスリットの中央から観測位置を見る角度θを導入する.このときL≫D ≥ |Xn|の意 味でスリットの幅が狭い場合を考えると,
Rn=√
L2+ (x−Xn)2=R+1 2
Xn2−2xXn
R +· · · ≃R−xXn R と近似される.分母のRnはRに置き換えて近似してしまうと,求める合成波は
Ψ =a R
N∑−1 n=0
sin {
k (
R−xXn
R )
−ωt+δ }
=a R
N∑−1 n=0
sin(nα+ϕ) (
ϕ≡k (
R−xD 2R
)
−ωt+δ, α≡ −x
Rd=−dsinθ )
または Ψ =a R
N∑−1 n=0
exp {
ik (
R−xXn R
)
−ωt }
=a
Rei(kR−ωt)exp (i
2kDsinθ )N∑−1
n=0
e−inkdsinθ と表される.
• 分母ではRn≃Rと近似することについて.
指数関数内のRnの近似において捨てた項Xn2/2Rが1/Rに比例しているのに対し,
分母のRnの近似
1 Rn = 1
R (
1−1 2
Xn2−2xXn
R2 +· · · )
≃ 1 R
において捨てた項は1/R3に比例していると考えれば,Rの冪が異なることに注意する.
• 位相差について.
合成波Ψ =∑
nΨnの式における位相差dsinθは,スクリーンが(幅Dに比べて)遠方にあるため,
各光源から観測点へ向かう直線(波の伝播方向に一致)を
近似的にθ方向の平行線と見なしたときの径路差となっている(図152参照).
★ いずれもTaylor展開に関する付録B.5を参照.
もっとも以降ではx≪Rの観測位置だけを考えることにすれば,分母のRを観測位置に依らない一定値L で近似できるから,場Ψの1/R依存性を無視して良い*39.そこでa/R→aと改める(これに伴いaの次元 は変わる):
Ψ =a
N∑−1 n=0
sin(nα+ϕ), または Ψ =aei(kR−ωt)exp (i
2kDsinθ )N∑−1
n=0
e−inkdsinθ. (47)
*39以下の結果から理解されるようにx= 0の近くの強度分布が重要であり,また振幅の減衰の因子1/Rを考慮しても強度分布の定 性的な特徴は変わらない.