• 検索結果がありません。

第 3 章 ARCS+AT モデルの実践利用提案

3.2 ARCS+AT モデルの提案

3.2.4 先行研究

本研究では,ここまでに記述してきたように,高等教育機関とeラーニング,FDそ して ID に関わるさまざまな要因が関係しているため,これらに関連する先行研究や事 例をここで概観する.

(1) e ラーニング導入支援の事例と研究

eラーニング導入支援については,eラーニングが国内で普及して試行錯誤された10 年以上の期間にさまざまな実践や研究が行われている.例えば,e ラーニングというキ ーワードが高い関心を高めた2000年代半ばでは,東北大学ISTU(三石・岩崎,2004),

岐阜大学AIMS(加藤ほか,2005),広大 WebCT100プロジェクト(隅谷ほか,2006)

などの事例が挙げられる.また,国外では,カーラン(Curran,2004)が,あらゆる大 学に共通の3つの目的,つまり,教育機会の拡大,学習品質の向上,そして高等教育の コストを下げることへのeラーニングの適応に関して,欧米の各大学の事例を挙げて調 べている.また,大学が旧来から持つ文脈とは異なる文脈においても,e ラーニングが 適応する,としてその柔軟性について説明している.実践事例としては,さまざまな大 学において,オンラインコース設計,コンテンツ開発などの支援環境が整備されている

様子が伺える(Cleveland State Univ.;Western Michigan Univ.; Wilkes Univ.).例え ば,Wilkes Univ. の“the eLearning team”では,教員の要請に従い,教員向けにワー クショップを実施したり,オンライン・チュートリアルを公開することで教員支援して いる.グループ研修のほか,個別支援も行っている.フルオンライン,ブレンデッドな どの種別を問わず支援を受け入れる,としている.

ただし,e ラーニング隆盛だった2000 年代に比べれば,特に国内に目を向ければ,

近年は,全学的なeラーニング導入支援の事例や研究は拡大傾向にはない.システムの クラウド化隆盛の影響もあって,学内にシステム構築することによるコスト負担感が増 しており,e ラーニング実践の形態も過渡的に変化しているため,支援の形も変わって いくだろうと思われる.この点には,今後継続的に注目しておく必要がある.

(2) ID を活用した e ラーニング導入支援の事例と研究

eラーニング導入支援のうち,IDを活用している事例は,海外では,メリーランド大 学やインディアナ大学のように ID を活用した授業設計やツールの有効活用等が既に組 織的に行われている事例がある(Maryland Univ.;Indiana Univ.).例えば,University of Marylandの“Office of Information Technology (OIT)”では,Enterprise Learning

Management System (ELMS) と呼ばれるLMSの利活用をはじめ,IDを活用した授業

設計にテクノロジーの有効活用を行い,イノベーティブなアプローチで授業作りを支援 している.OITでは,設備,支援の両側面で教員の目標達成を支援している.

一方,日本国内では,青山学院大学(松田,2004)や熊本大学大学院教授システム学 専攻(北村ほか,2007)といった実践事例のほか,宮原ほか(2010;2011)によるモデ ル研究などがある.

ID を使った e ラーニング導入支援の実践や研究のうち,機関がチェックリストを用 いて実践を行うものは,海外では ID を用いた教員のためのチェックリストが僅かに存 在するが(Florida Gulf Coast Univ.),国内では,調査した範囲内では,ARCS+ATモ デルに基づいて設計されたeラーニング導入支援者のためのチェックリスト(中嶌,

2009)を除いて見当たらない.

なお,ARCS モデルをeラーニング導入支援者に適用した事例としては,サリー

(Surry & Land,2000)がある.サリーは,高等教育機関の運営者が,キャンパスに おけるテクノロジー活用を活発化させるためのフレームワークについて記述している.

このフレームワークは,機関における教員個々のテクノロジー活用動機づけを高めるこ とによって,高等教育におけるテクノロジー活用を活発化させるようデザインしたもの である.教育におけるテクノロジーの有効活用は,高等教育における様々な課題に対し て大きな効果を生むと考えられるが,それには教員の主体的参画が不可欠であり,機関 は全学的な施策としてこれを適切に支援するべきである.提示されているフレームワー クはここに有効である,としている.

(3) FD と e ラーニング実践支援に係る事例と研究

前項で記述したように,ID者と FD 者には共通した部分が多く,その役割を果たす 際にID手法が使える点でも同様である(鈴木,2009).eラーニング実践支援の文脈に おいては,活発で的確なe ラーニング実践を実現するためには,e ラーニング実践教員 の「主体的・意欲的な取り組み」が不可欠となるが,ここでも FDの目指す教育の質向 上取り組みに共通した目標と言える.苑・清水(2007)は,日本でも義務化されている FD をテーマとして,米国各大学の FD 関連取り組みと,それに付随したメディア活用 と学内支援組織の整備・運営の様子についてまとめている.日本においても「個々の大 学レベルでメディア利用と結びついた教育改善組織が必要」であり,全国レベルで集積・

配布していく組織を発展させることが課題だ,としており,これはARCS+ATモデル研 究が目指すところに通ずる.

FDとeラーニング実践推進を同時に実現しようとした成功事例として,授業紹介ビ デオを全学的に制作し,eラーニングの形態で展開した仲道ほか(2009)が挙げられる.

(4) 教員支援に使える ID ツール研究

ID を活用した教員支援の形は,活用の場面や,活用する理論やモデルなどの状況に 応じて多種多様に異なるが,多種多様な状況に対応できるように研究されたさまざまな ツールが提案されている.例えば,市川ほか(2008)は,e ラーニングにおけるドリル 型教材の作成支援を目的として,これまでに ID の分野で提案されてきた複数のドリル 制御構造を統合し,簡単にドリルを開発できるようにしている.また,高橋ほか(2011)

は, LMS 上で学習者が学習課題分析図から学習課題を選択できる仕組みを開発し,学 習者が能動的に学習を進められるような方略を提案した.また,教員が,LMS上で学習 課題分析図を作成できる支援機能も提案されている(高橋ほか,2012).このほか,学

習者が教材に没入できるようになっているかをチェックできるツール(加藤ほか,2013)

やストーリー教材のゴールベースシナリオ(GBS)理論適用度を確認できるツール(根 本・鈴木,2005)などがある.

これらの研究成果が広く活用されるようになるためには,利用者がアクセスしやすい よう,ツール類のアーカイブ化が得策となると考えられる.