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片側臼歯部欠損患者と健常有歯顎者の 偏咀嚼の程度の比較(実験Ⅲ)

I. 背景・目的

実験Ⅱで得られた結果より、健常有歯顎者はその約6割が両側で均等に咀嚼する 傾向にあった。偏咀嚼は広範な齲蝕、歯痛、歯の欠損などの後天的な要因により生 じる可能性が報告されている[1,2]。では、実際に歯の欠損がある患者は偏咀嚼をし ているのであろうか。

これまでに、臼歯部の喪失が咀嚼機能に与える影響について様々な研究が行われ てきた。臼歯部欠損患者は健常有歯顎者と比較して咀嚼能率や咬合力の低下、咬合 接触面積の減少等が生じるため、咀嚼機能が低下するとされている[24-27]。しかし、

短縮歯列でも咀嚼機能に十分満足している者もいるという報告もある。Käyser らが提唱した、小臼歯での咬合支持を1、大臼歯での咬合支持を2とし、その合 計を occlusal unit(以下 OU とする)として臼歯部咬合接触状態を分類し咀嚼機 能を調査した報告[40]によれば、OU 数が8以上の場合には咀嚼能率や咬合力等の 客観的な咀嚼機能の指標は低下するものの、主観的には咀嚼機能に不満を感じな いとしている。しかし、これらの報告において偏咀嚼に関する評価は行われてい ない。

一方、臼歯部欠損により短縮歯列となっている者は後方歯が多い側に咀嚼側が 偏るとの報告がある[40]。しかしながら、臼歯部欠損のうち、偏咀嚼となる可能 性が高い片側臼歯部欠損患者を対象に偏咀嚼の程度を科学的に調査した報告はな い。

そこで、本章では片側臼歯部欠損患者を対象に偏咀嚼の程度を調査し、健常有 歯顎者の偏咀嚼の程度との違いを比較検討することを目的とする。

II. 方法

1. 被験者

被験者は、実験Ⅱと同一の健常有歯顎者50名(男性29名、女性21名、平均年 齢28.7歳;23〜42歳)および九州大学病院義歯補綴科外来を受診した片側臼歯部 欠損患者のうち、以下の基準を満たす30名(男性7名、女性23名、平均年齢62.8 歳;47〜75歳)とした。

選択基準

・ 欠損部位の対合歯は天然歯もしくは適切に調整された固定性補綴装置が 装着されていること。

除外基準

(1) 根面板やアタッチメント等を使用したオーバーデンチャーを装着してい る者。

(2) 咀嚼運動に影響を及ぼす全身的もしくは歯科的疾患を有する者。

(3) 認知症など、本研究の理解を得られない者。

2. 測定手順

(1) 被験食品自由咀嚼時の筋電図測定 実験Ⅱと同一の手法にて測定した。

(2) 偏咀嚼に関する質問およびVAS(Visual Analog Scale) 実験Ⅱと同一の手法にて測定した。

(3) 摂取可能食品の調査

片側臼歯部欠損患者を対象に平井の摂取可能食品アンケート(図4−1)に記入 させた。

43

² 35品目の食品を硬さにより5群に分類

a 群・・・プリン、 バナナ、 きゃべつ(ゆで)、 人参(ゆで)、 さといも(煮)、

まぐろ刺身、 たまねぎ(煮)

b群・・・イチゴ、 ハム、 鳥肉(煮)、 カマボコ、 こんにゃく、 煮こんぶ、 き ゅうり(生)

c群・・・鳥肉(揚)、 揚げせんべい、 鳥肉(焼)、 りんご、 なす(漬け)、 牛肉

(煮)、 きゃべつ(生)

d群・・・豚肉(焼)、 らっきょう、 だいこん(漬け)、 あられ、 ピーナッツ、イ カ刺身、 とんかつ

e群・・・にんじん(生)、 たくあん、 くらげ、 酢ダコ、 なまこ、 あわび(生)、

スルメ

² 咀嚼スコアの算出方法

a〜e群それぞれのスコアを下記の式に代入し、咀嚼スコアを算出する。

咀嚼スコア=( a + 1.14b + 1.30c + 1.52d + 3.00e )×100 / 111.4 (%)

4-1 平 井 の 摂 取 可 能 食 品 ア ン ケ ー ト

( )

3. データ解析

解析1 片側臼歯部欠損患者の偏咀嚼に関する解析

(1) 片側臼歯部欠損患者の欠損状態および摂取可能食品(P45)

片側臼歯部欠損患者における欠損部位および欠損側OU数、平井の摂取可能食 品アンケートによる咀嚼スコアを示した。

(2) 片側臼歯部欠損患者におけるピーナッツとビーフジャーキーの咀嚼時間(P48) 実験Ⅱと同一の方法でピーナッツとビーフジャーキーの平均咀嚼時間を算出 し、両者の差をMann-WhitneyのU検定で検討した。また、健常有歯顎者と片 側臼歯部欠損患者間の咀嚼時間について、Mann-Whitney の U 検定を用い、ピ ーナッツとビーフジャーキーのそれぞれを比較した。

(3) 片側臼歯部欠損患者における偏咀嚼値および偏咀嚼指数の算出(P49) 実験Ⅱと同一の方法で偏咀嚼値および偏咀嚼指数を算出した。

(4) 偏咀嚼値および偏咀嚼指数の分布(P51)

各被験食品における偏咀嚼値および偏咀嚼指数の箱ひげ図を作成した。また、

偏咀嚼値および偏咀嚼指数を20%毎に集計し、その分布をヒストグラムにて描記 した。

(5) 片側臼歯部欠損患者における偏咀嚼値の正規性の評価(P55)

Shapiro-Wilk検定による統計解析を行った。

(6) 食品が偏咀嚼指数に与える影響(P55)

数別にそれぞれ分け、偏咀嚼指数を 20%毎に集計し、その分布をヒストグラム にて描記した。これらの分布の差異を検討するため、リジット分析を行った。

(8) 欠損側OU数と偏咀嚼指数の相関(P61)

欠損側OU数と偏咀嚼指数の箱ひげ図およびオーバーレイ散布図を描記した。

これらの相関を検討するためにSpearmanの相関分析を行った。

解析2 片側臼歯部欠損患者の偏咀嚼値と偏咀嚼の認識度(VAS)の関連(P65) 片側臼歯部欠損患者の偏咀嚼値と偏咀嚼の認識度(VAS)の散布図を片側臼歯 部欠損患者全体、欠損様式別、欠損側OU数別に分けて描記した。これらの相関 を検討するためにSpearmanの相関分析を行った。

解析3 健常有歯顎者と片側臼歯部欠損患者の偏咀嚼の程度の比較(P70)

健常有歯顎者および片側臼歯部欠損患者の偏咀嚼指数のヒストグラムを基に、そ の分布の差異を検討するため、リジット分析を行った。

III. 結果

解析1 片側臼歯部欠損患者の偏咀嚼に関する解析 (1) 片側臼歯部欠損患者の欠損状態および摂取可能食品

片側臼歯部欠損患者の平均喪失歯数、欠損様式別および欠損側OU数別の患者数、

平均咀嚼スコアを表4-1に示した。また、欠損様式ごとの欠損側OU数を表4-2に 示した。

表4-3に片側臼歯部欠損患者それぞれの欠損部位および欠損側OU数、平井の摂 取可能食品アンケートによる咀嚼スコアの結果を示した。

平均喪失歯数 2.1本 欠損様式 片側遊離端欠損 20名 片側中間欠損 10名

欠損側OU数

0 1名

1 5名

2 15名

3 1名

4 8名

平均咀嚼スコア 97.3%

欠損様式 欠損側OU数 患者数

片側遊離端欠損

0 1名

1 5名

2 14名

4 0名

片側中間欠損

2 1名

3 1名

4 8名

4-1 片側 臼歯部 欠損患 者の欠 損状態 の内訳 および 平均咀 嚼スコ ア

4-2 欠損 様式ご との欠 損側 OU 数別 の患者 数

被験者 番号

欠損部 位

欠損側 OU数

咀嚼 スコア 1 └4567 0 90

2 76┐ 2 85

3 ┌67 2 100

4 ┌567 1 100

5 └67 2 97

6 ┌67 2 90

7 ┌567 1 84

8 765┘ 1 100

9 76┐ 2 100

10 └67 2 90

11 76┐ 2 88

12 654┐ 2 93

13 └6 4 100

14 └6 4 77

15 765┘ 1 85

16 ┌67 2 95

17 76┐ 2 100

18 └67 2 100

19 ┌67 2 97

20 76┐ 2 76

21 76┘ 2 100

22 765┘ 1 55

23 ┌67 2 89

24 └45 4 90

25 6┘ 4 100

26 6┐ 4 92

27 ┌56 3 100

28 └45 4 100

29 └6 4 92

30 6┐ 4 100

4-3 片側 臼歯部 欠損患 者の欠 損状態 および 咀嚼ス コア

(2) 片側臼歯部欠損患者における咀嚼時間、偏咀嚼値および偏咀嚼指数

表4-4に片側臼歯部欠損患者におけるピーナッツとビーフジャーキーの平均咀嚼 時間を示した。ピーナッツとビーフジャーキーの咀嚼時間を Mann-Whitney の U 検定で比較したところ、統計学的な有意差が認められた(P<0.05; Mann-Whitney U

test)(表4-4)。また、健常有歯顎者と片側臼歯部欠損患者間でピーナッツおよびビ

ーフジャーキーの各被験食品における咀嚼時間をMann-Whitney のU検定にて比 較 し た と こ ろ 、 ピ ー ナ ッ ツ の 咀 嚼 時 間 に 有 意 差 が 認 め ら れ た (P<0.05;

Mann-Whitney U test)(表4-5)。

ピーナッツ ビーフジャーキー 咀嚼時間 (秒) 24.1±14.0 33.1±23.1

P値 0.025*

ピーナッツ ビーフジャーキー

P値 0.036* 0.124

Mann-Whitney U test; *P<0.05

4-4 片側 臼歯部 欠損患 者のピ ーナッ ツとビ ーフジ ャーキ ーの咀嚼 時間の 比較

Values given are mean ± s.d. ; Mann-Whitney U test; *P<0.05

4-5 健常 有歯顎 者と片 側臼歯 部欠損 患者間 の咀嚼 時間の 比較

(3) 片側臼歯部欠損患者における偏咀嚼値および偏咀嚼指数

表4-6、4-7に片側臼歯部欠損患者における偏咀嚼値および偏咀嚼指数を示した。

被験者 番号

ピーナ ッツ

ビーフジ ャーキー

チューイ ンガム

1 100 100 100

2 -65 -89 -61

3 29 -31 -7

4 97 100 100

5 100 100 -11

6 100 100 100

7 100 100 100

8 -100 -100 -100

9 -100 -100 -100

10 100 100 100

11 26 -87 1

12 -92 -100 -100

13 37 -18 35

14 100 100 100

15 -100 -100 -100

16 3 0 42

17 -89 -41 -89

18 100 100 47

19 90 100 100

20 -100 -100 -93

21 87 78 88

22 -97 -100 -89

23 94 100 100

24 74 100 100

25 -32 -71 -73

26 -93 -79 -17

27 88 94 -17

28 -100 -100 -9

29 58 89 24

30 -28 3 15

4-6 片側 臼歯部 欠損患 者の偏 咀嚼値(% )

被験者 番号

ピーナ ッツ

ビーフジ ャーキー

チューイ ンガム

1 100 100 100

2 65 89 61

3 29 31 7

4 97 100 100

5 100 100 11

6 100 100 100

7 100 100 100

8 100 100 100

9 100 100 100

10 100 100 100

11 26 87 1

12 92 100 100

13 37 18 35

14 100 100 100

15 100 100 100

16 3 0 42

17 89 41 89

18 100 100 47

19 90 100 100

20 100 100 93

21 87 78 88

22 97 100 89

23 94 100 100

24 74 100 100

25 32 71 73

26 93 79 17

27 88 94 17

28 100 100 9

29 58 89 24

30 28 3 15

4-7 片側 臼歯部 欠損患 者の偏 咀嚼指 数(% )

(4) 片側臼歯部欠損患者における偏咀嚼値および偏咀嚼指数の分布

図4-2、4-3に片側臼歯部欠損患者における偏咀嚼値の分布を示し、図4-4、4-5

に偏咀嚼指数の分布を示した。

片側臼歯部欠損患者の各被験食品における偏咀嚼値の中央値はピーナッツ

47.5%、ビーフジャーキー39.0%、チューインガム29.5%であった(図4-2)。

偏咀嚼指数の中央値はピーナッツ93.5%、ビーフジャーキー100%、チューイン ガム89.0%であった(図4-4)。

偏咀嚼指数のヒストグラムでは、すべての被験食品において80〜100%に占める 者が最も多かった(図4-5)。

ピーナッツ 中央値:47.5 最大値:100 最小値:-100 ビーフジャーキー 中央値:39.0 最大値:100 最小値:-100 チューインガム 中央値:29.5 最大値:100 最小値:-100

( 正の 値は右 側に偏 位、負 の値は 左側に 偏位を それぞ れ示す ) 4-2 片側 臼歯部 欠損患 者にお ける偏 咀嚼値 の箱ひ げ図

ピーナッツ ビーフジャーキー

被験食品 チューインガム

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18

4 6 8 10 12 14 16

18 チューインガム

(人)

4-3 片側 臼歯部 欠損患 者にお ける偏 咀嚼値 の分布 (ヒス トグラ ム)

()

-100 -80 -60 -40 -20 0 20 40 60 80 100 (%)

ピーナッツ

(人)

-100 -80 -60 -40 -20 0 20 40 60 80 100 (%)

ビーフジャーキー

ピーナッツ 中央値:93.5 最大値:100 最小値:37.0 ビーフジャーキー 中央値:100 最大値:100 最小値:71.0 チューインガム 中央値:89.0 最大値:100 最小値: 7.0

4-4 片側 臼歯部 欠損患 者にお ける偏 咀嚼指 数の箱 ひげ図

ピーナッツ ビーフジャーキー

被験食品

チューインガム

被験食品

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