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1) 徳島大学病院 神経内科

2) 東京都健康長寿医療センター 神経病理

〇和泉唯信1、〇松原知康2、瓦井俊孝1、野寺裕之1、村 山繁雄2、梶龍兒1

【症例】死亡時 70 歳男性【既往歴】胃十二指腸潰瘍

【家族歴】同症者なし【現病歴】2014 年 7 月から右手 の筋力低下が出現し右上肢全体の筋力低下に波及し た。さらに左上肢の筋力低下が続いた。2015 年 5 月に 当科を受診した。【初診時神経学的所見】握力 5/7kg、

徒手筋力検査で両上肢に近位優位の筋力低下を認め る。下肢は正常。深部腱反射は上肢低下、下肢正常で 病的反射なし。その他に異常所見なし。ALSFRS-R 44/48。HDS-R 18/30、MMSE 23/30、FAB 12/18。BAD 型 の筋萎縮性側索硬化症(ALS)と考えリルテック、エダ ラボンを投与したが上肢の筋力低下が著しく進行し た。2017 年に構音障害、嚥下障害、呼吸苦も生じ頚部 および下肢の筋力低下が顕著になった。同年 5 月自宅 で死亡した。【神経病理学的所見】固定前脳重 1,330g。肉眼的に後索の選択的保存を認め、前頭葉、

側頭葉の萎縮を認める。組織学的には、脊髄前角、Ⅶ、

Ⅻ神経核の高度な神経細胞脱落を認める。Bunina 小体も 認める。Betz 巨細胞は比較的保たれているが、少数の neuronophagia を認める。非運動ニューロンでは、側坐核、

中隔、対角核、扁桃体、移行嗅内野に高度なグリオーシス を認める。抗リン酸化 TDP-43 抗体免疫染色では変性部位 に一致して多数の細胞質内陽性所見を認め、前頭葉、側頭 葉、海馬にも細胞質内陽性所見を認める。老年性変化はい ずれも軽微である。【考察】全経過 35 ヶ月の経過で進行し た ALS の症例。上位および下位運動ニューロンの脱落とリ ン酸化 TDP-43 の蓄積に加え、TDP-43 病理が側頭葉を中 心として大脳新皮質にも広範に拡がっており、臨床症状と合 致する。さらに、側坐核、対角核、中隔に特に高度なグリオ ーシスとリン酸化 TDP-43 の蓄積を認める点が特徴的な症 例であった。

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17 多巣性運動ニューロパチーと臨 床診断され、剖検で ALS と診断 した高齢女性

1) 名古屋第二赤十字病院 神経内科 2) 名古屋大学 神経内科

3) 愛知医科大学 加齢医科学研究所

○植松高史1、両角佐織1、安井敬三1、加藤隼康2、吉田 眞理3

【症例】症例は死亡時85歳女性。既往歴はうつ病、高血 圧症。家族歴なし。

【現病歴】2006年に転倒後両上肢の痺れがあり、A病院 整形外科を受診し頚椎症性脊髄症と診断され、左上肢の しびれ感のみが残存した。2011 年頃から首下がりが生 じ、2014年から下肢遠位筋力低下による歩行障害、右手 で包丁が握れないなど上肢遠位の筋力低下を来し A 病 院神経内科に入院した。神経伝導検査で脱髄型の障害と

抗GM1 IgM抗体の陽性を認め、多巣性運動ニューロパ

チーと診断された。4 回のγグロブリン大量静注療法

(IVIg)を行ったが臨床的な改善は見られなかった。

2015 年に独居困難となり施設入所した。2017 年に全身 の浮腫と血圧低下で当院に救急搬送され、輸液、経管栄 養、利尿薬投与にて治療するも胸水貯留による呼吸不全 と血管内脱水が進行し5日目に死亡した。

【神経病理所見】

脳重量は1150g、外表からは粗大な病変はなく中心前回

の萎縮はなかった。割面では海馬傍回、後方海馬の軽度 萎縮を認めた以外は、大脳皮質・白質は保たれ、基底核・

視床は著変がなかった。脊髄はC5/6、C6/7で扁平化を 認めた。前角細胞は頚髄で中等度、腰髄は軽度の脱落を 認めた。頚髄前角にpTDP-43陽性封入体を認め、腰髄前 角でcentral chromatolysisが目立った。黒質の神経細胞 の高度脱落と青斑核の中等度脱落を認めた。Braak PD

stage とは合わず、扁桃核、黒質優位の変性が特徴であ

った。

【考察】本例は82 歳で発症し、病理学的に上位運動ニ ューロンの変性が軽度で後索変性を伴う非典型的な ALSであり、貴重な1例であるため報告する。Lewy小 体病の合併はうつや首下がりと関係があると考えられ た。

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*18 在宅看取りから病理解剖を実施 した筋萎縮性側索硬化症の 1

1) 近江八幡市立総合医療センター 神経内科 2) 同 病理診断科

3) 近江八幡市蒲生郡医師会(久我内科医院) 4) 滋賀県立総合病院 神経内科

5) 京都府立医科大学大学院医学研究科 分子病態病 理学

○松尾宏俊1、細川洋平2、久我正文3、小林勇吾4、安藤 功一4、長谷川浩史4、高橋 央5、丹藤 創5、伊東恭子5

【症例】

症例は死亡時 76 歳, 男性.

【現病歴】

X-7 年 11 月頃から両上肢の脱力が出現し,X−6 年 2 月に 他院の神経内科を受診.神経学的には,体幹及び右下肢 での線維束収縮と腱反射の亢進を認め,針筋電図の所見 と合わせて,筋萎縮性側索硬化症(以下,ALS)と診断され た. X−4 年 4 月に気管切開術を行い,同年 6 月,人工呼 吸器を接続した状態で在宅療養に移行. 同年 9 月の当院 の臨時入院以降,当院を救急受診することはなかった が,他院にレスパイト入院した際に糞便イレウスを併発 した X 年 8 月末に自宅で死亡.全経過は約 6 年 9 か月.

遺体を当院まで搬送して全身病理解剖を実施した.

【神経病理学的所見】

新鮮時脳重(小脳脳幹を除いて)1,130g.肉眼的に脊髄前 根の萎縮を認めた.組織学的には, 大脳皮質運動野の Betz 巨細胞の脱落を認めるものの,脊髄側索の変性は軽 度だった.一方,脳幹運動核及び脊髄前角での下位運動 ニューロンの脱落は顕著であった.更に仙髄の Onuf 核 で神経細胞の脱落を認めた. TDP-43 に対する抗体を用 いた免疫組織化学染色にて,残存した神経細胞の細胞質 内に封入体を認め,神経病理学的にも ALS と診断した.

【考察】

本例は人工呼吸器の管理下で 7 年近い長期の経過をたど った ALS であるが,病理像では,脊髄側索が保たれてお り,上位運動ニューロンの変性の病態が特徴的だった.

仙髄 Onuf 核の神経細胞の脱落については,既報にもあ るように膀胱直腸障害を裏付ける所見と考えられ,本例 の晩年に認められた糞便イレウスの合併はこの所見に 対応するエピソードと考えられた.在宅での看取りから の剖検が実施できたことの意義を踏まえ,文献的考察を 加えて報告する.

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