個々の持つネットワークを通じて授受される相互支援について、本研究では量と質か ら測定しており、このうち質は、経済的支援、情報的支援、情緒的支援から構成される ものとした。表 12-(1)で示したように、対象地域では、金融講に加盟している女性は、
非加盟の女性よりも相互支援量が豊富であり、なかでも、非加盟群と比較し経済的支援
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を有意にやり取りしているという特徴がみられた。つまり、金融講加盟により、女性た ちのネットワークは広がり、また経済的にエンパワーされていたと考えることができる。
一方、母子の健康アウトカムを目的変数とした単回帰およびロジスティック回帰分析 の結果では、母子の健康アウトカムと現金収入等経済状況との間には関連がみられなか った。つまり、対象地域では、女性が経済的にエンパワーメントされることや、他者か ら経済的支援を受けることが母子の健康アウトカムに対して大きな影響を持っていた とは考えにくい。
では対象地域にどのような社会的支援があれば母子の健康は向上するのか。本調査に 先立ち実施した質的調査では、金融講を通じた相互支援のなかでも、情報的支援が重要 な役割を果たしていた。なかでも、講メンバー同士では、保健医療サービスに関する知 識のみならず、利用した経験に基づく個人的な意見も交換されており、それが女性たち の保健医療サービス利用と関連することが示唆された(Horii et al.,2015b)。こうし たソーシャル・ネットワークを介したインフォーマルな情報交換が女性の行動変容、と りわけ家族計画の実施に与える効果に関してはエビデンスが豊富に存在する (Gayen &
Raeside, 2010; Kincaid, 2000; Valente, Watkins, Jato, van der Straten, & Tsitsol, 1997)。
一方、本調査における母子の健康との 2 変量解析の結果では、情報的支援の量、質と もに有意な関連は見られなかった。また、表 10-(1)で示した通り、全体的に情報的支 援の授受、とくに獲得型の支援は、ほかの社会的支援と比較しても少ないことが示され た。このような結果が生じた要因として、第 1 に、女性たちのヘルスリテラシーの低さ、
第 2 に、保健医療に関する情報がネットワークを介して授受されていない可能性があっ たと考えられる。
まずヘルスリテラシーについて、ヘルスリテラシーとは、機能的、伝達的、批判的リ テラシーにより説明されるものであり、このうち、機能的リテラシーはいわゆる読み書 き能力と直接関係し、伝達的リテラシーはコミュニケーションの中から健康に関する情 報を抽出する社会的スキルをも含む能力であり、批判的リテラシーはさらに高度な認知 を必要とする情報を批判的に分析し自身に適用させる能力である。そして、人々が健康 情報にアクセスし、それを効果的に使用できるようになるという点で、ヘルスリテラシ ーは、エンパワーメントにとっても重要な要素となる(Nutbeam, 2000)。
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ヘルスリテラシーの下位概念のうち、本研究結果から、対象地域の女性たちの機能的 リテラシーの低さや伝達的リテラシーの低さが示された。
機能的リテラシーに関し、表 7 に示したとおり、本調査の対象者の就学率は 13.1%
と極めて低く、成人教育である識字教育を受けた者を含めても約 25%であった。このこ とから、対象地域の女性のほとんどは紙媒体等から情報を得ることが困難な状況にある と考えられる。これは、2006 年に全国で実施された人口動態調査において、ブ国農村 部に暮らす女性の 48.4%がラジオや新聞等のメディア媒体からも家族計画等の情報を 得ることができていないと回答している点とも一致する(INDS&ICF、2010)。
また、本調査の対象者の中でも最も若い女性(20 歳)が小学校に入学した時点(2002 年)でのブ国全体の女性の就学率が 38.9%であったことを考慮すると、彼らの就学状況 は決して低すぎるわけではなく、ブ国農村部の一般的な状況であったと考えられる
(UNESCO,2015)。そして、世界的に就学率の低いサブサハラ地域の当時(2002 年)の就 学率でさえ 73.2%あったことを踏まえると、ブ国の女性、特に現在子どものケアを担 っている世代の女性のうち農村部に暮らしている女性たちの機能的リテラシーは世界 的にみても大幅に限られているといえるだろう。
こうした状況では、母子の健康に寄与する情報が、金融講というネットワークを通じ て授受されていたとしても、母子の健康の改善につながっていかない可能性がある。
伝達的リテラシーの低さに関しては、表 11-(1)や表 11-(2)に示したとおり、情報的 支援が、他の社会的支援の傾向と異なり、獲得型と提供型の平均値に大きな相違があっ たことからも推測できる。つまり、保健医療に関する情報を獲得した経験があると認識 している者が、提供した経験を持つものより少ない状況が生じているのは、保健医療に 関する情報を提供されていたとしても、情報を得た当事者が健康に関する情報であると 認識できていない、あるいは、情報を提供する側が適切に他者に情報を提供できていな い可能性を示唆している。こうした状況には、女性たちの社会的スキルだけでなく、基 本的なリテラシー、つまり教育レベルの低さも影響していると考えられる。
本調査の多変量解析では、夫の社会経済状況と母子の健康アウトカムとの関連が相対 的に強かったために、女性本人の教育レベルと母子の健康アウトカムとの関連が示され なかった。しかし、表 18 で示した単回帰分析の結果では、30 歳以下の群で有意に、31 歳以上の群でも死亡と負の関連の傾向がみられている(それぞれ OR=0.311(p=0.032) 、 OR=0.456(p=0.069))。つまり、対象地域では、女性の教育レベルの向上を通じた機能的
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リテラシーの強化や、そして、それを超えたところで教育を通じた女性のエンパワーメ ントが、母子の健康に寄与する可能性が高いと考えられる。
次に、保健医療に関する情報がそもそも金融講を通じたネットワークを介して授受さ れていなかった可能性に関しては、上述のとおり、情報的支援の授受がほかの社会的支 援と比較し平均点が低かったことに加え、表 9-(5)に示したとおり、加盟者が金融講か ら獲得していると認識している恩恵のうち、情報交換を挙げているものが 1 割に満たな かったことからも推察される。これは、金融講はそもそも経済活動を目的に設置された 組織であって、健康が集団の関心の中心になかった可能性がある。あるいは、金融講に 加盟している女性の同質性が高いために、保健医療に関連する異質な情報がネットワー ク内に入りにくかったことが一因になっているとも考えられる。これを裏付けるように、
2006 年にブ国全国で実施された人口動態調査の結果では、保健医療に関する情報の中 でも、とりわけ家族計画に関する情報については、診療所やコミュニティにおいて看護 師等から説明を受けたことがない女性が 72.2%いることが明らかになっている
(INDS&ICF,2010)。
また、組織の目的が健康以外にある場合には、その組織のネットワークを健康向上に 活用する際には、保健医療に関する何らかの介入が必要であることは先行研究からも示 唆されており、金融講を介入とする先行研究においても、地域金融だけが介入になって いるものは少なく、保健指導や健康教育などがパッケージ化されている(Dunbar et al., 2014; Munoz et al., 2011; Rotheram-Borus et al., 2012; Swendeman et al., 2009)。
本研究の多変量解析の結果、実子の 5 歳未満での死亡経験や家族計画のアンメットニ ーズと産前健診の受診と施設分娩が有意に関連していることが示したが、これは普段、
保健医療専門職と接点がない女性たちが、これらの機会に専門職と接触することにより、
家族計画等、保健医療に関する情報を入手することにつながり、健康との関連が示され た可能性もあったと考えられる。
以上から、対象地域における金融講を通じた相互支援は、個人レベルの経済的なエン パワーやネットワークの広がりに寄与していた可能性はあるが、それらのネットワーク や経済力を、母子の健康増進に向けて活用するための女性たちの能力、とくにヘルスリ テラシーが十分でなかったこと、また、保健医療の専門家による情報提供、あるいは、
女性たちが情報の意味を理解し健康のために利用できるようにするためのサポートが 十分ではなかったために、保健医療に関する情報がネットワーク内で循環していなかっ
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た可能性がある。そして、それらが、本研究結果において、相互支援と 5 歳未満児死亡 や家族計画のアンメットニーズなどの母子の健康アウトカムとの間に関連が見られな かった要因の一つになっていたと考えられる。
2) 地域の特徴としてのソーシャルキャピタルの機能