海洋石油の掘削や資源探査のためには、浮体式の構造物の使用が不可欠であり、
多くの浮体式海洋構造物が稼働中である。 これらの浮体式海洋構造物は、海底とラ イザー管によって結ぼれているため、ライザー管を破損しないためには、潮流・風・
波等の外乱下でも、水深の5%以下の精度で位置を保持することが要求される。 こ のような位置制御を行う場合、 係留ラインと、スラスター制御による位置保持を組 み合わせたシステムが経済的に有利であると考えられる。
本章では係留による位置保持と、スラスター制御による位置保持を組み合わせた システム〈スラスターアシステッドモアリングシステム〉のスラスターコントロー ラの設計・ 数値シミュレーション及び模型実験について述べる。 このシステムでは、
係留を 潮流 ・ 風等の準定常外乱成分に対する位置保持に使用し、スラスターは長周 期動揺を防止するために使用する。 これによりスラスターは、風・波等による変動 漂流 力などの変動成分に抗して、位置を保持するだけの推力を発生するだけで良い ことになり、 位置保持のためのエネルギーを大幅に減らし、かっ、 係留単独の場合 に比較して格段の位置保持性能を期待できる。 ただし、波周期の運動は起振力が大 きく、スラスター程度の制御力では制御できず、ライザー管等の支持装置や稼動条 件の設定などで対処するべきであり、 スラスターが波周期の運動に反応すると、 エ ネルギーの無駄遣いになると考えられる。 そこで、エネルギー効率のよい位置保持 制御を行うためには、波周波数領域の運動にスラスターが反応しないようコントロ ーラを設計する必要がある。本章ではこのような効率的なスラスターコントローラ を設計することを目的とする。
まず最初に、通常行われるように、数学モデルの簡単な線形ノくネによる2次元状 態係留システムについて、 位置制御用スラスターコントローラをPID、Iβ1I (Line訂 Quadratic with Integral)、見。制御理論を用いて設計し、数値シミュレーション計算及 び模型実験によりそれぞれのコントローラの性能を比較検討した。長周期動揺に関 しては浮体の減衰力が非常に小さいために、係留鎖に働く抗力が運動の減衰力の重 要な部分を占め長周期動揺に大きな影響を及ぼす均。 このため、 係留鎖の動的影響 を無視することは出来ない。 そこで次に、鎖による係留システムについて位置保持 実験を行い、 係留鎖の動的影響が制御性能に与える影響を検討した。
最後に3次元状態での数値シミュレーション及び模型実験を行い、横波以外の外 乱下でも本章で開発したコントローラが有効に働くことを検討した。
25
一一一一一一一」
3.1
2次元係留システム
まず、数学モデルが簡単な2次元係留状態〈構造物に対して、外力が900 の方向 から入射する場合で、スウェイ、ヒープ、 ロールのみのy-z平面での運動になる。〉
において、係留鎖の動的影響を考慮、に入れて構築した運動方程式の精度を確認し、
制御方法について検討を加えた。
3.1.1
運動方程式
第二章の運動方程式より、 y、 z軸およびx軸回りのモーメント成分を取りだす と、 浮体式海洋構造物の2次元状態における運動方程式は以下のようになる。
空間固定座標系と物体固定座標系との関係は、 オイラ一角併を用いて次のように 与えられる。
l; J =わlxl�J 叫:;立!
(3.1)
(3.2)
また、空間固定座標系から見た構造物の位置及びオイラ一角は次式のように表せ る。
「ESIlli---v w
FIllip-ーし × bt 一一 寸l111114 ・
・Z Y
「lIll1111」
(3.3)
中=p
(3.4)次に、 係留された浮体の運動方程式を示す。
m叫
。
一一' ー
。
(3.5)
m+A33
0
一一一一一一一一一一一一一圃一一一一・・圃幽・回・
一一ー�ー‘==・・旬圃圃司剛.圃白=志 一司ー I
ーーーーー』 ーー一一一一→一一一----一ー一一一一ーーーー一一一一一一一一一ーー ニE二--ニ--.・・圃 圃園田
Fy = (m + A33)PWa -(m +ゐ)qwc + F yu n + -F_ �匂vel__ _. + -F�惚νeL.司+-F.._ +F'L ym rn
FL= 一(m+A22)pνa + (mzG - A24)p 2 + (m + Aρpνc -pgAwZ + F ZD + F zwavel + F zwave2 + F zm
MX= 一(mzG - A24)pwa - (mzG - A42)PWc 一(A33 - A22)九円一mgGMsinゆ
+ M XD + M xwavel + M xwave2 + M xm -ZTFtlr 添字2は左右揺 3は上下揺4は横揺を表す。
3.1.2 スラスター配置及び制御力
(3.6)
(3.7)
(3.8)
実験には1/100模型を使用した。模型実験に使用した浮体式海洋構造物模型〈全 長: 1 m、 全幅: 0.64 m、排水量: 38.0 Kg)を Fig.3.1 に示す。 スラスター配置に 関しては、一般的には4機以上の複数のスラスターを用いることが多いと思われる が、 実験装置の都合上2機とし、 対角線上に推力がy軸と平行になるように配置し た。 1機のスラスターは、少なくとも2機分の推力を発生しえる大きさのものをこ こでは想定している。 そのため、 プロペラの直径が大きくなっている。 また、 スラ スターの1機あたりの最大推力は、実機に換算して100tonのものを想定している。
模型スラスターについて性能試験を行い、Fig.3.2に示す結果を得た。横軸はスラ スターへの流体流入速度予ミである。推力が0.1kg 以下では流体流入速度影響は小さ く、 最小自乗法により次に示すスラスターへの入力電圧と推力の近似式を得た。
九=5.4377
Ji可
×んII
Ftlrl
(3.9)模型スラスターの場合、入力電圧に対する推力は入力とほぼ同時に発生する〈時 定数が非常に小さしリが、実機の場合は大きな時定数を持つ。そこで実機の儲�21)を 考慮、し、 時定数Tt}r =0.7秒の一次遅れで推力が発生するようにして実験を行った。
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d _ 1 � 1
�F,ι= 一�Fth +.: ftJt
dt In 乙 ." T',,, 山
一 一一一一一一一
(3.10)
ここで、んはスラスターダイナミクスの伝達関数への入力であり、Ft" は出力である。
Y軸方向の推力は次式のように表される。
Fyr = Fth (3.11)
3.1.3 実験方法
実験には前節に記述した1/100 模型を使用した(Fig.31)。
鎖を 用いた係留システムの状態図を Fig. 3.3、 3.4 に示す。 係留鎖の影響を議論す るためには、係留鎖に加わる流体力と構造物に加わる流体力の比を模型の場合と 実 機の場合でできるだけ等しくしなければならない。係留鎖に働く抗力の大きさは、
係留鎖の直径に比例するので 1/100 模型の場合、 鎖の直径を 1/100 にすればよい。
その場合、単位長さあたりの重量の比は1/10000 となる。 大型海洋構造物の係留鎖 としてよく用いられる76mm級chainの重量は115kg/m である。模型の スケールに 直すと、 単位長さあたりの重量は11. 5 g/m、 直径は1.3mm となる。 ここで、 通常行 われるように8点係留を考えると、模型 実験ではスペースの都合で 4点係留になる から、模型の係留鎖の一本は実機の係留鎖2本を代表することになるので、単位長 さあたりの重量は11. 5 g/m X 2=23.0g/m、直径は1.3mmX 2=2.6mm となる(Fig. 3.4)。
水平初期張力は左右揺の長周期動揺が20秒になるような等価線形バネ定数をカテ ナリ理論22)より求めた。 これは実機で約3.5分に相当する。
実験は九州大学応用力学研究所の深海機器実験水槽(長さ 60mX幅5mX深さ 7m)で・行った。模型の運動〈左右揺、上下揺、横揺)は摩擦などの影響を受けない 非接触式の光学式運動計測装置で計測し、 実時間で・ディスプレイ上に表示した。 波 は造波機により発生され、容量式波高計により計測される。 係留鎖の水平方向変動 張力は張力計により計測した。Fig.3.5に計測システムを 示す。運動計測装置からの アナログ出力はAD変換されパ、ノコンに入力される。
一一一一一
3.1.4 運動方程式の検証
運動方程式の精度を確認するために波浪中の応答試験を行い、数値シミュレーシ ョンによる結果と比較を行った。
まず、規則波中試験の結果を示す。
Fig.3.6に入/B=12の規則波中における、模型の運動の実験結果と計算結果の時系 列の比較を示す。 図は上からJI債 に入射波、左右揺、上下揺、横揺、波上側水平方向 変動張力、波下側水平方向変動張力を表している。また、実線が実験結果を、破線 が計算結果を表している。計算結果による横揺の振幅が、実験結果に比べて若干小
さいものの、実験と計算の振幅は良い精度で一致していることがわかる。
Fig. 3.7、3.8、3.9に左右揺、上下揺、横揺に関する周波数応答を示す。 0が実験 結果を、実線が数値シミュレーションによる結果を示している。数値シミュレーシ ョンは、実験で計測したそれぞれの周波数での規則波をもとに波力を生成し、この 波力データを用いて(3.3)、(3.4)、(3.5)の非線形運動方程式を使用して行った。左右 揺、上下揺の計算結果は実験結果と良い精度で一致している。Fig.3.9よりνBが11 以上で横揺の実験結果が、計算結果より大きくなっていることがわかる。これは波 の振幅が大きいために、係留鎖 の張力計測用のゲージ・スラスターへの信号伝達及 び電力供給用のケーブルが、運動に影響を及ぼしたものと考えられる。しかし、入/B が11以上の範囲は、不規則波実験で使用する波の周波数領域から外れているので、
実験結果に影響はないものと思われる。
Fig.3.10 、3.11に波上側と波下側の係留鎖変動張力の水平方向成分の実験結果と計 算結果を示す。 上下揺の固有周期(入/B=6.8)で計算結果が、若干大きくなるもの の、振幅、 位相ともに良く一致している。
次に、 不規則波中の応答試験の結果を示す。
Fig. 3.12は模型実験で使用した平均波周期1.0秒、有義波高0.04mの不規則波の JONSWAP型パワースペクトル、時系列である。実機ではそれぞれ10秒、4mに相
当する。
Fig. 3.13に鎖により係留した場合の運動の時系列と、そのパワースペクトルを示 す。 図は上からJI債に左右揺、横揺の(A)が実験結果、(B)がシミュレーション 結果を示している。なお、シミュレーションは(3.3)、(3の、(3勾式に示す非線形運 動方程式を使用して行った。左右揺に対して長周期動揺が顕著に現れていることが 確認することができる。また、不規則波中でも実験と計算は良く一致し、モデルの 精度が良いことが確認できた。
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