(1)余白のとは
「余白」は絵画の世界では何も描かれていない部分、音楽、会話では音のない「間」
として認識されている(KIM, 2012)(川嶋, 2007)。絵画での「余白」は、作品に意図的 に非完結性を与えることで描かれているものをさらに引き立たせる役割や、鑑賞者が自
図 4-1 余白モデル提案の背景
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由に想像を働かせることを促し、それにより鑑賞者を作品の世界に引き込み作品の世界 観を完成させる効果があると考えられている(有田, 2007,2012)。
余白モデルはこれを、サービス・製品の開発に応用するものである。図4-2に示す通 り、本モデルにおける余白とは、絵画や音楽のような物質的なものではなく、いわば知 識の余白である。この余白は、新たに生み出された知識やアイデアが入ることのできる スペースのことである。つまり、余白モデルはサービス・製品に意図的に不完全性を与 えることで、サービス・製品の開発に顧客の積極的な参加を促すためのツールである。
(2)余白の定義
ここでは余白のある状態を定義する。先に述べた通りここでの余白は知識の余白であ る。知識が入るスペースがあるという状態であり、図 4-3 に示す通り、本研究では余白 を、ある一定の枠組みにおいて、具体的な事柄が全体を満たさない範囲で存在している 状態を余白がある状態とし、満たされていない部分を「余白」と定義する。枠組みとは サービス・製品の概要にあたるものである。例えば先ほどのATMの場合、「店舗設置型 還流行式現金自動預け払い機」というように、対象となるサービスや製品がどのような 存在であるかを明確に示すものであり、個々の機能を表すものではない。また、具体的 な事柄とは個々のサービスや機能をあらわすものであり、ATMでは「紙幣読み取り機能」
図 4-2 余白のとは何か
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「紙幣判別機能」である。この枠組みと具体的な事柄が新たな知識やアイデア創造のき っかけになりとなる。余白の設定方法については後述する。
また、枠組みや具体的な事柄が存在しない状態については、図4-4に示す通り「余白」
ではなく何も存在しない状態、つまり「無」の状態とし、「余白」のある状態とは区別 する。「無」の状態は、いわば白紙の状態でありここから新たな知識やアイデアを作り 出すことは、まったく新しいコンセプトのサービス・製品の創出に等しく、開発ではな く研究に近い考え方であり、サービス・製品開発の現場には向いていない
さらに、枠組みの中が事柄で満たされ、「余白」が存在しない状態については、図4-5 に示す通り「満」の状態と表すことにする。この状態でのサービス・製品開発が現状の 開発スタイルであり、予算と時間の許す限り、提供企業が考えた多くの機能を盛り込ん
図 4-3 余白のある状態
図 4-4 「無」の状態
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だサービス・製品を顧客に提供するかたちとなる。前述のMFPの開発事例の通り、この 状態では新たな知識やアイデアの入り込む余地がないため、受け取り手は自らの考えを 積極的に示すことはなく、埋め込まれた機能を客観的に評価するだけの立場となってし まっていた。
4.3.2 余白モデルの概念
ここで提案する余白モデルの概念は、先ほど述べたA社の課題を解決する提案である。
つまり製品の開発段階に顧客企業を組み入れることにより、提供企業と顧客企業の関係 性を構築したうえで価値共創を促すものである。
図 4-5 「満」の状態
図 4-6 余白モデルの概念
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図4-6に示す通り、このモデルでは従来行われていた許される限りの多様な機能と高 度な性能を盛り込むことをやめ、あえて多くの機能を作りこまず、意図的に新たな知識 やアイデアが入り込む余白を残すことで、顧客企業が主体的に製品の開発にかかわるこ とができるようにするものである。
これにより製品を含むサービス全体を意識した顧客の本質的な要求や期待を引き出す とともに、提供企業と顧客企業という重なる部分があるが異なるコンセプトを持つ双方 の考えが合成されることで、新たな知識や新規性のあるアイデアが生み出されることが 期待できる。いわば、サービス・ドミナント・ロジックを実践するフレームワークであ る。