ここでは余白モデル利用の際のプロセスモデルについて提案する。余白モデルにおい て重要なステップは、顧客との良い関係性を築いた後、価値共創を行い、さらにサービ ス・製品開発の作成とその改善の実行である。これを効果的に展開するために、先行文 献レビューで取り上げたIDEO の提案する創造的課題解決法であるデザイン思考のプロ
図 4-9 余白の設定-2
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セスモデルを参考にした。デザイン思考を用いる理由は、その考え方がサービス・ドミ ナント・ロジックの概念と非常に近く、ユーザーを中心とした思考であり、顧客の課題 を理解したうえで、アイデアを引き出すために最適と考えられるためである。しかし、
一方で顧客との共創やビジネス面での運用には工夫が必要である。
もう一つ、こちらも先行文献レビューで取り上げた共創的開発プロセスである KIKI モデルを参考にする。余白モデルは IT・エレクトロニクス関連の製造業企業に向けた、
製造業企業と顧客企業との知識創造とアイデアの創造を目的とするモデルである。この ため、サービスの開発段階での企業と顧客との間でのサービス価値創造プロセスであり、
知識創造の考え方をもとにしたビジネスでの実用的なモデルである、小坂らの提唱する KIKIモデルの考え方が有効と考えられる。ただし、KIKIモデルは、主に状況が刻々と 変化するサービス業を想定し、状況に応じたサービスの修正のような作業に適した構造 となっており、これをIT・エレクトロニクス関連の製造業に向けたプロセスモデルに修 正する必要がある。
そこで、本論文ではIT・エレクトロニクス関連の製造業に向けた余白モデルの運用プ ロセスとして、デザイン思考とKIKIモデルを融合したECIIプロセスを提案する。この プロセスモデルは、4 つのフェーズをスパイラルに回すことによって、価値創造を行う モデルであり、これについてはKIKIモデルと同様である。また、4つのフェーズについ てはデザイン思考とKIKI モデルのプロセス進行を参考に、図 4-10 に示す通り 1.共感:
Empathize 2.共創:Co-Create 3.実装:Implement 4.改善:Improveで構成するプロセスモ デルとした。
図 4-10 ECIIプロセス
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このプロセスに従って、余白モデルを用いた顧客との価値共創を実施する。すなわち、
余白の設定と、そこで意図的に作られた余白を新たなアイデアで埋めていくことで顧客 との価値共創を実施するのである。
4.5.2 ECII プロセスの実施方法
ここではECIIプロセスの各フェーズでは実施内容について説明する。
【1.共感: Empathize】
このフェーズでは、まずは余白のないモデル、つまり多数の機能が詰め込まれた従来 通りの提案を行う。これは提案されたサービス・製品の多くの機能について議論を行う ことで提供企業と顧客企業の方向性を一致させる。現状を共有し、互いにこれを受け入 れ共感することで、良い関係性を構築する。その関係性のもとで双方ともが主体となっ た共同のプロジェクトとすることで提供企業、顧客企業それぞれが自身だけでは気づく ことができなかった真の目的(解決すべき課題)を把握することがこのフェーズでの目 的となる(図4-11)。
図 4-11 共感: Empathize
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【2.共創: Co-Create】
ここでは、図4-12に示す通り、前のフェーズである【1.共感】で把握した顧客の真 の目的を実現するため、最重要機能を特定し余白モデルの設定を共創する。顧客との間 で余白モデルの構造、アプリケーション層、最重要機能とプラットフォーム層に関して 共通認識を持つことが重要である。そのうえで共創されたアイデアで余白を埋めていく。
ここでは、顧客の主体的な提案が重要になるが、これを促すために提供企業からの質問 や提案が必要な場合もある。実行の基盤となるのは【1.共感】を通してしっかりとした 関係性を築いていることであり、これができていない場合、企業側からの提案は従来の 開発方法と同じ、一方的な押し付けとなってしまうことに気を付ける必要がある。
【3.実装: Implement】
このフェーズは顧客のアイデアを実際に形にするフェーズである。製造業では従来、
製品全体がある程度のレベルにいたるまで製品を顧客に対して提供することはなかった。
しかし、余白モデルを活用する際は、最重要機能を含みできる限る簡易な機能を実装し 図 4-12 共創: Co-Create
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たプロトタイプを速やかに実装し、不完全な状態として顧客に提供する。余白モデルに おけるプロトタイプの概念は、顧客企業のノウハウやアイデアを引き出すためのツール である。つまり、顧客がそれぞれの製品とその機能を実際の現場で使用しているイメー ジを持てることが大切な点であり、製品の形で提供できない場合、絵や図の状態で、顧 客が使用感を直感的に感じられる方法での提供であれば十分に有効である。実際には、
後述する一つ目のアクションリサーチのようにソフトウェアが中心となる場合は、ある 程度の試作ができることが多いため試作品のかたちで提供することになる。一方で、二 つ目のアクションリサーチのようなハードウェアが中心となる場合は、未完成の製品自 体を顧客に提示することが難しいため、機能仕様のようなものと使用場面のイメージを 図示したものを合わせて使用することとなる。
このように、余白モデルのプロトタイプは、一般的な製品開発におけるプロトタイプ のように、機能の操作体験がある程度できるレベルの試作品ではなく、デザイン思考に おけるプロトタイプのように、動作しなくてもひとまずアイデアを形にしたものという 考え方に近いが、目的が顧客との共創であることと、必ずしも形になっている必要はな い点が異なる。注意すべきことは早期に詳細部分を作り込んでしまうことである。詳細 部分を作り込むと余白モデルを生かすことができず、従来手法と同じものとなってしま うからである。
【4.改善: Improve】
ここでは作成されたプロトタイプを実際に顧客が使用するか、書面から使用現場をイ メージするかして、そのフィードバックを受けて改善を実行する。このフェーズで重要 となるのは、顧客からのフィードバックの本質を追求することである。
改善のフェーズではサービス・機能のイメージが具体化しているため、改善要求だけ でなく、搭載したサービス・機能新の周辺のアイデアが得られることもある。しかし、
サービス・製品を使用して直観的に出される意見も多いため、意見をそのまま受け入れ ることが改善に結びつかないことが往々にしてある。これを防ぐため、なぜ意見が出さ れたかを深堀する必要があり、製品使用場面の観察などが必要になることもある。改善 フェーズは次回の実装を行うための準備のフェーズであり、実際には出された意見は、
次の周回の共感、共創フェーズでさらに話し合いを行った後に、実装されるかどうかの
66 判断がされる。