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余白モデルにより解決すべき課題

ドキュメント内 JAIST Repository https://dspace.jaist.ac.jp/ (ページ 82-85)

ここでは余白モデルを用いて解決すべき課題について、アクションリサーチの対象と した A 社のマルチ・ファンクショナル・プリンタ(MFP)開発事例を基に説明する。

(1)顧客との関係性

図 5-1 に示す通り、MFP によるビジネスは、その発展の経緯から二つのタイプが存 在する。一つ目はコピー機から発展を遂げたものである。このタイプの特長は顧客との 直接的で継続的な接点を持つことである。コピー機はその作りの複雑さから、市場に登 場した初期のころから機器調整などのメンテナンスが必要であり、ビジネス全体にメン テナンス担当者が非常に大きな役割を果たしていた。メンテナンス担当者は機械の保守 はもちろん個々のエンドユーザーと直接的な接触ができるため、実際の使用現場の状況 を知ることができ、提供企業にとっては顧客との媒介となる存在であった。また、この タイプの MFP には大型なものが多く 1 台当たりの価格の高いこともあり、顧客が製品 を買い取るのではなく、製品とメンテナンスを含めたリースなどの契約を結び、消耗品 を販売するようなサービス提供型へと早い段階でシフトしていった。

二つ目はその起源をタイプライターやプリンタとするものである。A社はこちらのタ イプである。このタイプの特長は1 つ目とは逆に顧客との継続的で直接的な接点をほと んど持たないことである。このタイプはもともとの製品の構造が比較的単純であり、メ ンテナンスは製品を購入した顧客自身が行うことがほとんどであった。また、同様に構 造が単純であるという理由のため、開発にかかる費用も大きくないため、比較的小規模 な事業者も参入が可能であった。一方で、小規模な事業者は多数のメンテナンス担当者 を抱えることが難しいという面もあり、メンテナンス担当者の充実よりも顧客自身が容 易にメンテナンスできる機器開発が重要となっていた。このため、ビジネスについても 売り切り型のビジネスが主流となり、結果的に 顧客との接点が乏しくなっていった。

現在のMFPは、機械としては上記2つのタイプで大きな違いはなく、通常時のメン テナンスはほとんど必要ない状況となっているが、成り立ちの違いによりビジネスや顧 客との関係性は、かなり異なるものとなっている。A 社の重要な課題の一つはこのよう

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な顧客との接点の乏しさと関係性に希薄さにあった。

一方で、メンテナンスが必要ないという状態は壊れないことを意味し、製品の品質と しては耐久性の面からは高品質と評価されるため、技術部門の視点では顧客との接点の 乏しさが課題と認識されにくい。このため、顧客との接点の乏しさと関係性に希薄さと いう課題がA社全体で共有できていたわけではなかった。

(2)開発への顧客の関与

A社プリンタ部門では、新商品開発は通常、企画部門とマーケティング部門主導で開 始される。ここで最も重要視されるのは市場動向であるが、販売先のほとんどがBtoB市 場向けであるうえ、販売会社経由の販売が多い。このためA社では、市場動向とは現実 的には従来製品の機能とその不具合、クレームへの対応、同業他社の最新製品の情報を さすものであり、直接製品を使うエンドユーザーからの意見を聞く機会はほとんどない 状況であった。

図 5-1 事業発展の経緯と顧客との関係性

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開発部門はこの企画途中から参加するが、製品に埋め込む機能はそのほとんどがすで に決められた状態からの参加となる。基本的に開発部門がエンドユーザーと会うことは なく、その使用現場の様子を見たこともない現実もあり、機能の実現性を議論すること が開発部門の役割となっていた。このようにA社の二つ目の課題はサービス・製品の開 発に顧客の関与がない点であり、顧客の声を取り込むこともできていことであった。

(3)顧客との価値共創

このようにA社では、新たなサービス・製品を開発する際、自社の従来製品や他社製 品の機能・性能を考慮に入れ、できる限り多様な機能と高度な性能を盛り込むことを中 心に設計開発が行われてきた。しかしながら、多くの場合この方法ではサービス・製品 の提供企業は顧客企業が本当に求めるものを作れなくなっていた。つまり、顧客との価 値共創を行っていなかったのだ。すなわち、この方法では顧客の本質的な期待を拾い上 げることができず、提供企業からの一方的な提案を顧客企業に押し付けるものとなって いたのである。

これは、図5-2に示すとおりサービス・製品の提供者であるA社が、機能こそが価値 であると考え、製品の中に機能を作り込むという開発方法であり、顧客のもとで製品が 使用される状況を踏まえたサービス価値を意識したものではない。また、従来の方法で は、サービス・製品の開発はA社が行い、顧客が直接的に関与することはなかった。こ の結果、顧客の意見はサービス・製品リリース後のクレームや市場調査の形でしか反映 されず、製品の開発段階においては提供企業と顧客企業が価値共創を行うことはなかっ た。

つまり、従来の開発手法はVargo らのいうグッズ・ドミナント・ロジックのそのもの である。これは、顧客とのサービス価値価値共創が実施できなかった事実はグッズ・ド ミナント・ロジック型の開発の限界を示すものと考えられる。余白モデルはこれらの課 題の具体的な解決手段である。本章ではアクションリサーチにより余白モデルの有効性 を評価する。

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