第 3 章 リサーチデザイン
2 代理変数の設定及びモデル構築
利益平準化に関する先行研究を読んでみると、利益平準化行動を取ることによって、価値 関連性が変わるかについての研究が多数ある。価値関連性とは、太田(2002)の定義によると、
株価や株式リターンなど、市場における何らかの価値の尺度と様々な会計数値との相関を 意味している。このような、株価・株式リターンと会計数値の相関を研究するために、今は 主に以下の二つの実証モデルが使われている。
1. Collins, Maydew and Weiss (1997)のフレームワークを用いて、式(2)で、簿価、純利益な どの会計数値の価値関連性を検証する。また、式(2)のオリジナルのモデルに基づき、そ の他の会計数値、コントロール変数あるいはダミー変数を入れる価値関連性モデルが使 われる場合も多い。
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𝑀𝑉𝑖𝑡 = 𝛽0+ 𝛽1𝑁𝐼𝑖𝑡+ 𝛽2𝐵𝑉𝑖𝑡+ 𝜀𝑖𝑡 (2)
2. Warfield et al.,(1995)で使われている式 3 は株式リターンと会計数値の相関を研究する
フレームワークである。モデルの中でR𝑖𝑡は企業i においてt期の株式リターンである。
R𝑖𝑡= 𝛾0+ 𝛾1𝐸𝑃𝑆𝑖𝑡+ 𝜀𝑖𝑡 (3)
本研究と同じようなテーマを扱っている先行研究は、范(2009)である。范(2009)では、上
述のCollins, Maydew and Weiss (1997)のフレームワークを用いて、伝統的な価値関連性モ
デルで、企業全体の利益平準化程度が、利益の各部分の価値関連性に対する影響について検 証した。范(2009)の研究は企業全体の利益平準化程度であるため、利益平準化度を測る指標 は本文と違い、Myers, Myers, & Skinner(2006)、Tucker and Zarowin(2006)で提示されたよう に、経営者が裁量的アクルアールズを用いて、利益平準化をする程度を図る利益平準化度の 計算方法としては、Jonesモデルで推定された裁量的アクルアールズと、企業の裁量的アク ルアールズ調整前の利益と、前年度利益の差の相関係数としている。この係数がマイナスで ある場合は、企業が利益平準化を行っていると判断することができる。この相関係数に順位 をつけて、企業の利益平準化度を決める。
相関係数のランキングによって、企業全体の利益平準化度を表している SB を作った上、
具体的には、株数でデフレートしている会計情報と企業の市場価値を収集して、利益情報を 裁量的アクルアールズ、非裁量的アクルアールズとキャッシュフローに分けて、それぞれに ISを掛けて交差項を作り、モデルに入れる。回帰モデルで裁量的アクルアールズとISの交 差項の係数が有意にゼロより大きいかを検証した。その係数が有意にプラスの結果が出た。
その上、頑健性テストとして、負債比率、規模などのコントロール変数を入れて見たが、結 果が変わらない。本研究のリサーチデザインは、基本的に范(2009)と変わらないが、課題は 少し違っているため、モデルにおいて、以下のような違いがある。
1. 本 研 究 の 対 象 は 、 特 定 の 会 計 方 針 の 変 更 を 使 う 利 益 平 準 化 行 動 で あ る た め 、
Moses(1987)の手法で利益平準化度を測る。
2. 本研究では、利益平準化程度ではなく、利益平準化しているか否かに焦点を当ててい るため、利益平準化程度ではなく、利益平準化度の符号によって、ダミー変数を作る。
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0より大きい場合は1を、それ以外の場合は0をつける。
3. 研究デザインによって、本研究では、価値関連性を検証する際に、税引前当期純利益 を減価償却方針変更の影響額とそれ以外の二つの部分に分けて、影響額にダミー変数 を掛けて、その係数の符号を見て、利益平準化行動が影響額の価値関連性に影響を及 ぼすかを検証する。
Moses(1987)のような先行研究で使われている、利益平準化度を算出する方法をもとに、
本研究では、以下の式(4)を使って利益平準化の度合いを測る。
SBit= |NIit-1/5* ∑t NIik
t-4 |-|NIit+ ∆Depit-1/5* ∑t NIik
t-4 | (4)
式(4)のように、減価償却方針変更をする場合の利益数値と基準値(直前5年間の平均利益 数値)の差と、しない場合の利益数値(本研究の中では期首においての予想利益を代用)と基 準値の差を比較して、さらに差を取ることによって、減価償却方針の変更の利益平準化効果 を表している。
差がマイナスの場合は、減価償却方針変更が実質的に、利益平準化の効果を持つと判断し、
プラスの場合は、平準化と反対側の効果を持つと判断する。この基礎的な考え方は、直前五 年間の利益平均値を、減価償却方針変更のベンチマークに設定している。
上述の変数は、符号以外にも、大きさという性質がある。先行研究(Moses(1987)等)を参 考にして、規模の代理変数である売上高で割ることによって、企業規模の影響を取り除くこ とができ、変数の大きさは、減価償却方針の変更による平準化の程度の大きさを反映するこ とができる。
仮説1を検証するには、上述の利益平準化度/売上高を利益平準化の程度を測る指標とし て、その利益平準化度がゼロを超えている企業の数が有意に50%を上回るか否かによって、
企業が減価償却方針の変更を用いて、利益平準化をしているか否かを検証する。見るべきは、
平均値あるいは中央値ではなく、該当する企業の数である。変更している企業の数が有意に 全サンプルの 50%を上回る場合、利益平準化と判断し、それ以外は、利益平準化でないと 判断する。
仮説2を検証するには、他の研究(Ahsan(2004)、Vijitha and Nimalathasan(2014))でよく 使われている利益平準化モデルを元に、利益平準化行動を取っているか否かのダミー変数 を入れて、式2のように、減価償却方針の変更が利益に対する影響額∆Depと利益平準化度
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の符号のダミー変数D(∆Depがプラスになる場合は1、マイナスになる場合は0)、∆Dep×D、 帳簿価格 BV と利益調整しない場合の利益 NI-∆Dep および他のコントロール変数を回帰モ デルで検証する、見るべきは、∆Dep𝑖𝑡𝐷𝑖𝑡の係数𝛽5がゼロと有意な差が出るか否かである。す なわち、税引前当期純利益を利益調整する前の部分と利益調整の影響額に分けて、利益調整 の影響額の部分が、投資家にとって、どのように評価されているかを検証している。有意に プラスになった場合は、投資家にとって、利益平準化行動を行っている企業がそうでない企 業に比べて、減価償却に関する情報について、より有用な情報を与え、利益平準化行動は追 加的な価値関連性がある。
𝑀𝑉𝑖𝑡= 𝛽0+ 𝛽1(𝑁𝐼𝑖𝑡− ∆Dep𝑖𝑡) + 𝛽2𝐵𝑉𝑖𝑡+ 𝛽3∆Dep𝑖𝑡+ 𝛽4𝐷𝑖𝑡+ 𝛽5∆Dep𝑖𝑡𝐷𝑖𝑡+ 𝜀𝑖𝑡 (5)
3 サンプルの選出及びデータ収集
3.1サンプルの選出
上場しているすべての企業の中、減価償却方針の変更があった、かつ具体的な影響額が分 かる企業の2012-2019 の年次データをサンプルにする。具体的には、以下のプロセスでサ ンプルを選定する。
1. EOLデータベースで、3月決算の上場企業の中で、全文検索して、2012年 から2019年の財務諸表注記の「連結財務諸表作成の基本となる事項」、「会計方針の 変更」「会計上の見積りの変更」「会計上の見積りの変更と区別することが困難な会計 方針の変更」などの部分で、“減価償却”“変更”“定額法”“円”のキーワードを、順番に よって、すべて含める企業・年度を選出する(訂正報告書を除く、年度ごとに検索)
2. 機械で検索する上で、上記のキーワードが同じ段落ではなく、異なる段落 に現れて、誤認識される可能性が高いので、機械で検索した結果を一つ一つ手作業で チェックしたうえで、実は減価償却方針の変更に該当しない企業をサンプルから排除 する。
3. 特定の年度のデータを、「税法」という文字がある場合は、手作業で判断 したうえ、サンプルから除外する。これは、税法の変更により、減価償却方針が強制 的に変更されるサンプルを排除するためである。この段階まで残った合計の企業数は 247社、各年度の企業数は下の表6で表している。
4. 選出した企業・書類を企業ごとにまとめて、税引前当期純利益への影響額
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を記録する(連結と単体財務諸表注記共に検索されている場合は連結優先)
5. 特殊なディスクロージャー形態によって、税引前当期純利益への影響額 が正確に判別できない場合は、当該企業年度のデータをサンプルから除外する。例え ば、①影響額が軽微と報告している場合②他の会計上の変更の影響額と合わせて報告 する場合。③影響について言及していない場合。
6. 経営者予測のデータが取れない企業年度はサンプルから排除する。
表6 ステップ3まで残った企業数
2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 合計 合計 30 52 39 33 37 26 30 247
3.2業績予想データの集計
日本の場合においては、減価償却方針の変更を行うために、変更しようとする期間の前年 度末までに、税務機関に申請を出さなければならない。税務機関が妥当性を承認した場合に 限って、税務申告上、会計処理方法の変更は認められる。これに加えて、逆基準性の影響に よって、日本で上場している企業の大多数は企業財務報告の会計方針を、税務申告をするた めに使われている税務上の処理方法と一致させている。これによって、実質上、経営者は前 期の期末までに、減価償却方針を変更するかの意思決定をしなければならない。
上述のメカニズムによって、本研究では、経営者が利益平準化行動を取っているかを判断 する際に、変更する年の報告利益ではなく、企業の経営者が減価償却方針を変更する年度の 期首に公表する、当該年度の税引き前当期純利益の予想値を使っている。すなわち、経営者 は当期の予測利益を、ベンチマーク(直前五年間平均の税引き前当期純利益)に近づけている かを、利益平準化の判断基準としている。本研究の前提仮定の一つとして、この経営者によ る利益予測値は、当該減価償却方針の変更に関する情報を含めないことにする。また、もう 一つの前提仮定として、サンプルの中のすべての上場企業では、税務上使われている減価償 却方法と、企業財務報告で使われているものは同じである。
なお、日本の上場企業の実態から見ると、上述の減価償却方針の変更の影響額に関する財 務諸表注記での開示をする際には、減価償却費への影響額、営業利益・経常利益への影響額 及び税引き前当期純利益への影響額は開示されているが、当期純利益への影響額が開示さ れていない。故に、本研究では、税引前影響額と一致させるために、税引前予想利益を使っ ている。それに、仮説2の価値関連性の研究においても、利益数値については税引前当期純