元々、Rn(x)はx→aのときの振る舞いを問題にするために考えたものですが、その具体的な 表示は xが aに近い必要はなく、任意の xで成り立ちます。もちろんxがaから離れれば離れ るほどラグランジュ表示のcの居場所が曖昧になったり、積分表示の積分範囲が広がったりして表 示自体の精度は落ちます。けれども成り立つことは成り立つのです。だから、剰余項の表示をうま く使うことでxがaから遠いときの f(x)の情報、例えばx→ ∞ のときの振る舞いが分かる場 合があります。そのような例として問題9
任意の正実数xとaに対して
x→lim+∞
xa ex = 0 が成り立つ。
を出題しました。この事実は
指数関数はどのような多項式よりも速く無限大に発散する という言い方でよく使われるものです。
解答
aより大きな自然数nを一つ決め、exを x= 0 においてn次までテイラー近似します。
ex= 1 +x+x2 2 +x3
3! +· · ·+xn
n! + ecxn+1 (n+ 1)!
となります。(ラグランジュ表示を使いました。)x >0 のとき右辺のすべての項が正ですので、
ex> xn n!
が成り立ちます。よって、
0<xa ex < xa
xn/n! = n!
xn−a
となります。nはaより大きく選んであるので、x→ ∞のときxn−a → ∞です。よって lim
x→+∞
n!
xn−a = 0 です。よって、はさみうちの原理により示せました。 □
剰余項の符号が分かってしまえば、近似多項式がx→ ∞で発散することを利用して元の関数の 発散を示せる場合があることの例です。同じことは「ロピタルの定理の変種」を使っても証明でき ますが、上の証明の方がex がどんな多項式よりも「速く」発散する理由がよく分かるような気が します。
8 テイラー展開
以上でn を止めて剰余項 Rn+1(x) を考察することは終わりにして、n→ ∞ としたらどうな るか考えてみましょう。(第2節の(3)の話に入るということです。)これはテイラー近似多項式 pn(x)の次数をどんどん上げて行く無限級数を考えることと同じです。
なお、テイラー展開関連の用語は使う人によってさまざまですので、ここでは講義にあわせるこ とはせずに私が普段使っている言葉遣いをします。講義や参考書とあわせて読む場合には用語のズ レに気を付けてください。
8.1 テイラー級数とテイラー展開の定義
関数f(x)が何回でも微分できる関数、すなわちC∞ 級関数だった場合、好きなだけ次数の高 いテイラー近似多項式を考えることができます。「何次まででも考えられる」という状況に対して は「n次近似を考えておいてn→ ∞を考える」というのが、「極限」を扱う手段を手に入れてい る我々にとってもっとも自然でしょう。m < nならm次近似多項式はn次近似多項式のm次以 下の部分です。だから、C∞級関数に対しては次のようなものを考えたくなります。
定義8(テイラー級数の定義). aを含む区間で定義されたC∞ 級関数f(x)に対し、無限級数
∑∞ n=0
f(n)(a)
n! (x−a)n=f(a) +f′(a)(x−a) +f′′(a)
2 (x−a) +· · ·+f(n)(a)
n! (x−a)n+· · · のことを、aを中心とした f(x)のテイラー級数と言う。
このような、(x−a)n に数をかけたものを足して行く無限級数のことを冪級数(べききゅうす う)と言います。
これは、各項が関数でできているなにやら恐ろしげなものに見えるかも知れません。実際、「関 数の無限和」として扱わないと微分や積分を考えることができないので後々(冬学期)にはそのよ うに考えますが、とりあえずここでは、
実数bを一つ決めるごとに無限級数
∑∞ n=0
f(n)(a)
n! (b−a)n が一つ決まる と考えておきます。
このようなセッティングは、無理数を任意の長さの有限小数で近似することといかにも似ているよ うに見えます。そのことから、任意の無理数αが0以上9以下の項からなる自然数列a0, a1, a2,· · · によって
α=
∑∞ k=0
ak×0.1k
と極限表示できるように、任意の C∞ 級関数 f(x)もf(a), f′(a),f′′2(a),f′′′3!(a),· · · という実数列 によって
f(x) =
∑∞ k=0
f(k)(a)
k! (x−a)k
と極限表示できるのではないかという期待を抱いてしまうかも知れません。実際、後で示すよう に、数学でも数学以外でも重要な関数である指数関数や三角関数でこの期待が成立しています。し
かし、これまた後で示すように、対数関数では「ある範囲の xについて」という制限付きでしか この期待は成り立っていません。
そもそもテイラー級数とは、数列
f(a), f(a) +f′(a)(b−a), f(a) +f′(a)(b−a) +f′′(a)
2 (b−a)2, · · · (7) のことです。つまり、テイラー級数(とか冪級数)というのは、
実数xを一つ決めるごとに数列が一つ決まる
というだけのものであって、その数列が収束するかどうかなどということにはとりあえず全く触れ ていないことに注意してください。つまり、
f(x)から作ったテイラー級数にx=bを代入してできる数列(7)はどの範囲のbに対 して収束するか。
ということ、および、
テイラー級数が収束するb に対して、その極限はf(b)に一致するか。
ということを別々に考えなければならないのです。テイラー近似のときにはx→aの極限を問題に したのですが、テイラー展開では各 xに対するn→ ∞の極限を考えなければならないわけです。
そこで、次の言葉を用意しましょう。
定義 9 (テイラー展開可能性の定義). f(x)の aを中心としたテイラー級数が aを含むある
開区間で収束して極限がf(x)に一致するとき、f(x)はx=a のまわりでテイラー展開可能 であるという。特に、定義域内の任意の点のまわりでテイラー展開可能なとき、f(x)はテイ ラー展開可能である、または実解析的関数であるという。
x=aを中心としたテイラー級数にx=aを代入すると、
f(a) +f′(a)(a−a) +f′′(a)
2 (a−a)2+· · ·=f(a) + 0 + 0 +· · ·=f(a)
となって必ずf(a)に収束します。だから、定義の中にある「aを含むある開区間で」というのは、
要するに
aに「近い」任意のbに対して
f(b) =f(a) +f′(a)(b−a) +f′′(a)
2 (b−a)2+· · · が成り立っていればよい。aから離れたところはどうなっていてもよい。
ということです。
そして、
定義 10 (テイラー展開). f(x)が x=aでテイラー展開可能なとき、f(x)の x=aにおけ るテイラー級数のことをテイラー展開と呼ぶ。
と定義します14。
14はっきり使い分けている人はあまりいないようです。収束しないテイラー級数のこともテイラー展開と呼んでしまって いる人が沢山います。それどころか、テイラー近似多項式のことまでテイラー展開と呼ぶ人もいます。本を読むときなど は、その本ではどう定義しているかキチンと確認して読むようにしてください。