テイラー近似多項式が
Rn+1(x) =o(x−a)n
11Rn+1(x)ではなくRn(x)と書く人も大勢います。講義や参考書とこのプリントを合わせて読むときには気を付けて 下さい。
12このことを先取りして「剰余項」と単項式のように呼んでしまっているのです。
という性質を持つことを証明したとき、ロピタルの定理を繰り返し使いました。だから、極限を 取る前のことを知るには、ロピタルの定理そのものではなくその証明を調べるのがよいでしょう。
そこで、この節では第1で保留にしたロピタルの定理の証明について必要な部分に限って説明し ます。
まず、平均値の定理を拡張した定理である「コーシーの平均値定理」を紹介します。(講義では、
多変数関数の微分に入る前に紹介されたと思います。)コーシーの平均値定理とは
定理3. [a, b]上の二つの連続関数f(x)とg(x)がどちらも(a, b)では微分可能で、f(a)̸=f(b) であり、f′(x)とg′(x)は(a, b)のどこにおいても同時には0にならないとする。このとき、
g(b)−g(a)
f(b)−f(a)= g′(c) f′(c) を満たすc が(a, b)に存在する。
というものです。これは普通の平均値の定理の拡張になっています。「拡張になっている」とは、平 均値の定理を特別の場合として含み、なおかつ平均値の定理をただ眺めただけでは分からない主張 も入っているということです。コーシーの平均値定理の結論の式でf(x) =xとおけば平均値の定 理になります。一方、f(x)とg(x)の両方に平均値の定理を当てはめた二式
f(b)−f(a) =f′(c)(b−a) ∃c∈(a, b) g(b)−g(a) =g′(c′)(b−a) ∃c′∈(a, b)
で cとc′ の間には何の関係もないのですから、上の式で下の式を割ってもコーシーの平均値定理 は得られません。そこが「拡張」と呼ばれる所以です。
証明. 分母を払って移項した式
f′(c)(g(b)−g(a))−g′(c)(f(b)−f(a)) = 0 を満たすcが存在することを示しましょう。
φ(x) =f(x)(g(b)−g(a))−g(x)(f(b)−f(a))
とおくと、φ(a) =φ(b) = 0ですので、平均値の定理(というかロルの定理)によりφ′(c) = 0 と なるc がaとb の間に存在します。
φ′(x) =f′(x)(g(b)−g(a))−g′(x)(f(b)−f(a)) ですので、このcが求めるcです。 □
コーシーの平均値定理でb→aの極限をとるとc→aともなるので、ロピタルの定理 f(t)とg(t)は[a, b)で連続(a, b)では微分可能で、(a, b)内の任意のtに対してf′(t)̸= 0 とする。このとき lim
t→a
g′(t)
f′(t) が存在するなら
tlim→a
g(t)−g(a) f(t)−f(a) = lim
t→a
g′(t) f′(t) が成り立つ。
が得られます。これがロピタルの定理の証明です。
注意. コーシーの平均値定理は、そのままだと「成り立つことは分かったけれど、何だかすっきりしない」と いう印象を持たれやすい定理だと思います。何がすっきりしないかというと、平均値の定理には、証明はと もかく、いかにも当たり前と思えるイメージ(図1の左側の図)があったのに、コーシーの平均値定理につ いてはそのようなイメージがついてこないからです。関数が二つ出てきてしまっているので、関数のグラフ を考えても関数の変化や変化率の比が図に現れてこないことが原因でしょう。(図1の右側の図)。
O y
t 平行
a c b
y=f(t)
O y
t y=f(t) y=g(t)
a b
c はどこ??
図 1: 平均値の定理はわかりやすい(左側)。コーシーの平均値定理は(右側)??
そこで、パラメタ曲線(x, y) =(
f(t), g(t))
を考えることにします13。tを決めるごとに平面上に点(f(t), g(t)) が決まるわけですから、tを時刻と思うことで、
時刻tに(f(t), g(t))という座標を持つ場所にいるような点の運動 と見なすわけです。講義で説明があったと思いますが、
パラメタ曲線(点の運動)のt=cにおける速度ベクトルは(
f′(c), g′(c))
で与えられ、このベ クトルは点(
f(c), g(c))
における接線の方向を向いている となっています。つまり、
点(
f(c), g(c))
を通り、ベクトル(
f′(c), g′(c))
と同じ方向を向いた直線 が、点(
f(c), g(c))
における接線だということです。f′(c)̸= 0ならこの直線を「y=xの1次式」の形で書 くことができて、その式は
y= g′(c) f′(c)
(x−f(c)) +g(c)
となります。この直線の傾きはコーシーの平均値定理の右辺の形です。そこで、左辺も同じセッティングで考 えてみると、これは(
f(a), g(a)) と(
f(b), g(b))
を通る直線の傾きです。ということは、コーシーの平均値 定理は
2点(
f(a), g(a)) ,(
f(b), g(b))
を通る直線と傾きの等しい接線を持つ点(
f(c), g(c)) が(
f(a), g(a)) と(
f(b), g(b))
の間に存在する(図2)。
という、いかにも平均値の定理らしいことを言っていることになります。これがコーシーの平均値定理の図形 的意味です。★
13変数xをパラメタらしく(あるいは時刻らしく)tに取り替えました。なお、「パラメタ曲線」のことを高校の教科書 では「点の運動」と呼んでいるようです。
O y
f(a) f(c) f(b) x g(a)
g(b)
g(c) l
l′
平行
図2: いかにも平均値の定理だ。