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農地型の沿岸域における生息地管理:農業・漁業との共存型ワイズユース . 63

第 5 章 総合考察

第 2 節 地図と BPJ ( Best Professional Judgement )を活用した

2.2 農地型の沿岸域における生息地管理:農業・漁業との共存型ワイズユース . 63

第4章で農地型に類型化された九州沿岸域(図4‐2)・瀬戸内海・伊勢湾・三河湾・

東京湾のサイトは閉鎖性海域に位置し、第2章では干潟生息地としてのポテンシャルが 高いと推定されていた。これらの海域には比較的大面積の干潟が残されており、特に有 明海は日本で最も現存干潟が多い海域となっている(花輪 2006)。これらのサイトで は干潟の周辺に広大な干拓地が広がっており、第1章では干潟・淡水湿地中間型に類型 化されていた。また、東日本の砂浜型のサイトの多くも、後背地に干拓地が存在する場 合には砂浜・農地中間型に類型化されていた。シギ・チドリ類は休息地として農地も利 用することができる(表1‐2、表3‐7)。さらに、第 1章で沿岸・淡水湿地中間型お よび淡水湿地型に類型化された種は、農地を採食地としても利用できると考えられる

(表3‐4)。従って、農地型のサイトでは採食地と休息地が一体となった良好な生息環 境が維持されていると考えられる。

ただし第 3 章では、農地基盤整備等による湿田の減少等に伴い、農地では採食地が減 少してきていることが示唆された。シギ・チドリ類との共存を目指した農地管理として は、ガン・カモ類の生息地(呉地2007)で行われているような非耕作期の水田の湛水が 有効であると言われている(例えば、Fujioka et al. 2001; Elphick and Oring 2003; Taft

and Haig 2006)。従って、沿岸・淡水湿地中間型および淡水湿地型の種の採食地を増

やすという意味では、水田の湛水は有効であろう。これまでも、例えば関東内陸湿地で は、水張り休耕田がシギ・チドリ類の生息地として重要であったという記述見られた

(Appendix 53、55)。しかしながら、休耕田補償の打ち切りで水張り休耕田が激減し

ているようである。また、農家の自主的努力で水田の湛水を行っている例もあるが、長 期的な継続が困難な状況であることが指摘されている(明日香ほか 2003)。EU では、

農業環境政策として、生物の生息環境に配慮した農業を行う農家に対して直接支払いを 行う仕組みがあり(佐藤 2004)、日本でもこのような政策を導入すれば、水田湛水を

64 行う気運が高まるのではないだろうか。

干潟・干拓地を一体として保全する場合には、ラムサール条約への登録も有効であろ う。ラムサール条約への登録は、開発規制を担保する国設鳥獣保護区の特別保護地区等 への設定と抱き合わせで行われるため、実行力のある保護区設定であると言える。さら に、保護区設定によって地域の水産物や農産物に、ラムサール条約湿地の自然環境に支 えられた特産品として、ラムサール・ブランドという付加価値が付くことで、農業・漁 業を中心とした地域産業の活性化につながる可能性も高い。他の鳥類では、例えばラム サール条約湿地の潜在候補地である兵庫県豊岡市ではコウノトリとの共存(岸 2010)、

ラムサール条約湿地の宮城県の蕪栗沼ではマガンとの共存(呉地2007)を掲げることに よって農業の活性化に成功している。九州沿岸でも、干拓地の水田湛水を行うことで、

シギ・チドリ類との共存を掲げた農業の活性化が行えるかも知れない。環境省モニタリ ングサイト 1000 シギ・チドリ類調査サイトのうち、ラムサール条約登録湿地および潜 在候補地となっている地点(環境省資料:ラムサール条約湿地潜在候補地の選定につい てhttp://www.env.go.jp/press/press.php?serial=12982 別添資料2より作成)を図5‐ 3に示す。九州沿岸ではラムサール条約登録候補地が非常に多く(図5‐3D)、その多 くはズグロカモメ・クロツラヘラサギの個体数が基準となって抽出されている。これら の希少種はシギ・チドリ類ではないが、第1章で干潟型のシギ・チドリ類とともに干潟 型の種として類型化されている。従って、これらの種を基準とした保護区設定を行うこ とは、干潟型の生息地の保全を行う上で重要である。Amano et al. (2010)は、日本 における長期モニタリングの結果から、水田への依存度が高い種および黄海に依存する 種が過去30年間及び20年間で特に減少していることを明らかにしている。黄海に近い 有明海等の九州沿岸域で現存干潟を保全するとともに、後背地の干拓地で水田の湛水を 行うことは、中国や韓国で失われつつある生息地の量を補償する上でも重要かも知れな い。

CBD-COP10(2010年)では、海洋保護区の設定が主要な議題の一つとして議論され、

「愛知ターゲット」として、「2020年までに海洋・沿岸域の 10%を保護区にする」と いう数値目標が設定された。しかしながら、我が国の現状においては、水深 10m 以浅 の浅海域に占める海洋保護区の割合はわずか3.67%であると言われている(前川・山本 2009)。「愛知ターゲット」の目標値を達成するためにも、九州沿岸域で保護区を拡充 することは有効であろう。

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53.シギ・チドリ類のモニタリングサイトのうち、ラムサール条約登録地点および潜在候補地。 ()は個体数基準となるシギ・チドリ類または3希少種。

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例外的に、近年の農地開発によって干潟が消滅した例もある。諫早湾では、過去に最 大で約9000羽のシギ・チドリ類が記録されており(図 5‐4)、大授搦で4000~7000 羽のシギ・チドリ類が記録されていることを考慮に入れれば、国内 1~2 位の渡来地で あったと考えられる。しかしながら、1997年の水門閉め切り以降はシギ・チドリ類がほ とんど記録されていない。諫早干潟は現在モニタリングサイトには含まれていないが、

今後の開門調査により、生息地として回復する可能性もあるため、再度モニタリングサ イトに設定する必要がある。

0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 8000 9000 10000

1991 1992 1992 1996 1996 1997 1997 1998 1998 1999 2000 2001 2002 2002 2003

数(

羽)

5‐4.諫早湾におけるシギ・チドリ類の総個体数(季節別最大値)の変動。

データソース:1991年~1998年;定点調査報告書(例えば、日本鳥類保護連盟 1992)

1999年~2003年:シギ・チドリ類個体数変動モニタリング調査総合報告書(WWFジャパン 2007)

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2.3 都市・農地中間型の沿岸域における生息地管理:

開発規制・沿岸域の利用ルールづくり

第 4章で中間型に類型化されたサイトは関東太平洋岸(5 地点)・石川(3 地点)・

瀬戸内海(4 地点)に多く、他に東北東部・伊勢湾・三河湾・吉野川河口・有明海・宮 崎・鹿児島にも1~2地点分布していた。

中間型のサイトでは、例えば吉野川河口では、沖洲(マリンピア)の埋立と東環状大 橋の建設が行われ、四国横断自動車道の架橋計画があり、河口干潟の保全が重要な課題 になっている(花輪 2006)。また九十九里浜(Appendix3:コメント92、96、100)、

豊津浦~町屋浦(Appendix3:コメント97、101)、一ツ葉入江(Appendix3:コメン ト102、106)、荒尾海岸(Appendix3:コメント25)などでは、人の接近による生息 阻害が指摘されていた。中間型のサイトは都市型のサイトと比較すると生息地が比較的 良好な状態で残されているが、農地型のサイトと比較すると後背地に都市的環境が多い ため、道路建設による影響や、周辺住民等の干潟・砂浜への立ち入りによる影響を受け やすいサイトであると考えられる。ラムサール条約の登録候補地に挙げられているのは、

豊津浦~町屋浦・吉野川河口・曽根干潟・荒尾海岸であり(図5‐3)、開発規制を伴う 鳥獣保護区の特別保護地区への指定なども有効かも知れない。沿岸域の利用ルールづく りについては2.5で述べる。

中間型のサイトでは、宅地開発による後背農地の減少リスクも高いと考えられる。ま た盤洲干潟(環境省・WWFジャパン 2008)や今津干潟(環境省 2009)は農地型のサ イトであるが、大都市圏に近いため、後背農地の都市化(埋め立て)が問題になってい る。これら中間型のサイトや大都市周辺の農地型のサイトでは農地の保全も重要な課題 である。