野瀬 敏行 [大日本土木 (株) カイロ営業所]/ カイロ支部
4. 今後の課題
現在の人口は
9,000
万人、2030
年には日本の人口 を超えると予測される。日本とは真逆の人口層、将 来のポテンシャルは非常に高いと長年言われ続けて いるが、圧政下で育った若者たちが行動を起こした エジプトの変動「アラブの春」。今や民主化は失速し、政治と経済の混乱、さらには治安の悪化。政治に翻 弄され経済改革がうまく機能しない国エジプト。途
シディ・クリル発電所 エルアトフ発電所 カイロ発電所
図2 電力セクター復旧改善計画
上国に共通する市民生活の窮迫、貧困と格差、高い 失業率などいろいろな課題を抱えているが、停滞せ ず足踏みせず、アジア、アフリカの国が改革を成し 遂げている。目覚めよ、アフリカの盟主エジプト。
2017
年はアメリカで新しい大統領が就任する。欧州各国で選挙が実施される。グローバル化した政 治、経済、平和。エジプトは政治改革、経済改革、治 安安定の正念場を迎えている。
5.
終わりに2016
年4
月にカイロに赴任したが、喧騒とゴミの 街カイロ、これだけは何十年も変わっていない。何 故ゴミを外に捨てるのだと問うと、ゴミ拾って生活 する人間のためだ、と言う発想。こういう身勝手な屁理屈も正論となる国エジプト。ビジネスにおける エジプト人との交渉では、時にそういう屁理屈もあ りかということを、われわれに教えてくれるエジプ トでもある。
写真1 古いカイロの街並み。屋上には不法衛星アンテナが 咲き乱れている。
特集
欧州
柳 武
[ヨーロッパ竹中管理部長]/デュッセルドルフ支部1.
欧州経済概況と見通しユーロ圏*1経済は一昨年に引き続き、緩やかな 成長を維持している(実質
GDP
+1.7
)。2016
年7
月 に行われた英国のEU
離脱投票により、同国向け輸 出や企業の設備投資も抑制されると見られるため、2017
年は実質GDP
が+1.5%
まで減速すると予想 されている。また、2017
年に実施される主要国にお ける重要選挙の結果次第で、さらに経済に悪影響を およぼすことも考えられるが、基本的には、雇用環 境の改善を背景に堅調な個人消費が景気を下支えす ると見られ、引き続き緩やかな回復基調が維持され るものと予想されている。まず、個人消費面では、足元底堅い推移が続いて いる。雇用者報酬は増加が続き、雇用者数の増加幅 も拡大している。失業率も
7
〜9
月期には欧州債務 危機前の水準(10%
)まで低下してきている。今後も 引き続き、雇用拡大は持続し、所得環境の改善を背 景に個人消費は底堅く推移し、景気の下支え要因と なると思われる。次に、設備投資についても、緩やかな増加傾向に あり、設備稼働率は
82.3%
と高い水準まで上昇して きた。世界金融危機および欧州債務危機時に抑制さ れていた更新投資などの潜在需要の顕在化は当面続 くと予想される。しかし、英国のEU
離脱やその他 の政治不安により、企業は投資に対し慎重な姿勢を 強めると見られ、2017
年にかけての投資の伸びは 低いものにとどまるであろう。そして、政治面に目を向けると、米国の大統領選 でのトランプ氏勝利の流れが、欧州にも波及する懸 念が持たれている。今年春・秋にフランス大統領選 およびドイツの総選挙が予定されており、
EU
およ びユーロ体制の大きな試金石となるだろう。直近で はイタリアでも改憲案に関する国民投票が否決され、首相が辞任に追い込まれた。こうした重要選挙 をめぐる不確実性は、イギリスの欧州離脱(
Brexit
) と共に企業や家計のマインドに悪影響を与え、実態 経済を下押しする要因となる可能性もある。なお、英国においては先行き不透明な状況が続い てはいるが、良好な雇用・所得環境を背景とする個 人消費の堅調が下支えとなり、急速な景気悪化は回 避している。ただ、今後は
EU
離脱によるポンド安 に伴い輸入インフレが影響し、消費者物価の上昇が 予想されるため、消費を抑制する動きが出てきそう だ。製造業においては一昨年末から低調が続いてお り、国民投票後はサービス業でも大幅に慎重化した。英国における
2016
年の実質GDP
成長率は+1.8%
と比較的高い伸びが見込まれるものの、
2017
年は 同+1.1%
まで減速すると見込まれる。2011 2012 2013 2014 2015 2016
(予想) 2017
(予想)
ユーロ圏 1.5 ▲ 0.9 ▲ 0.3 1.1 2.0 1.7 1.5
EU 1.7 ▲ 0.4 0.3 1.6 2.3 1.9 1.7
ドイツ 3.7 0.7 0.6 1.6 1.5 1.7 1.4 フランス 2.1 0.2 0.6 0.6 1.3 1.3 1.3 イタリア 0.6 ▲ 2.8 ▲ 1.7 ▲ 0.3 0.8 0.8 0.9 英国 1.5 1.3 1.9 3.1 2.2 1.8 1.1 チェコ 2.0 ▲ 0.8 ▲ 0.5 2.7 4.5 2.5 2.7 ポーランド 5.0 1.6 1.3 3.3 3.7 3.1 3.4 ハンガリー 1.8 ▲ 1.7 1.9 3.7 2.9 2.0 2.5 ルーマニア 1.1 0.6 3.5 3.0 3.8 5.0 3.8 表1 欧州実質GDP成長率 (単位:%)
出所:International Monetary Fund
2.
欧州建設市場の現状と見通しそうした中、欧州の建設市場(
EC19
カ国*2:ユーロ コンストラクト加盟国)は、Brexit
の影響が懸念されて いたが短期指標においては大きな混乱はなく、引き 続き緩やかに成長している(表2
、表3
)。2016
年の事前予想においてはEC
全19
カ国の予想も前向きであり、新規・改修ともに住宅、非住宅、
土木の予想も例外なく肯定的であったため期待は 高かったが、いくつかの国や土木工事において予想 をマイナス修正とした。結果として、
EC19
カ国の2016
年度の建設投資高は1
兆4,406
億ユーロと一 昨年より2.0%
の成長となった。*
1
ユーロ圏:EU28
カ国のうち、Euro
通貨を導入 している諸国(現在19
カ国)で形成される経済圏*
2
EC19
カ国は以下の通りドイツ、フランス、英国、イタリア、スペイン、オランダ、ベルギー、
オーストリア、デンマーク、フィンランド、アイルランド、ノルウェー、
ポルトガル、スウェーデン、スイス、ポーランド、チェコ、ハンガ リー、スロバキア
2013年実績 2014年実績 2015年実績 2016年見込み 2017年予想 2018年予想 2019年予想
フランス 216,582 203,670 199,329 204,337 211,627 218,226 224,555
ドイツ 290,500 295,860 296,895 304,298 308,905 309,494 307,636
イタリア 163,752 160,108 161,453 164,535 168,192 171,166 174,962
スペイン 83,813 82,412 84,800 86,540 89,269 92,287 95,631
英国 197,378 214,441 223,400 223,042 222,517 224,512 230,797
(※西欧主要5カ国計) 952,025 956,491 965,877 982,752 1,000,510 1,015,685 1,033,581 その他西欧諸国 351,000 357,319 368,898 383,411 393,913 405,260 414,912
西欧15カ国計 1,303,025 1,313,810 1,334,775 1,366,163 1,394,423 1,420,945 1,448,493
チェコ 15,539 16,170 17,307 15,748 15,245 15,931 17,256
ハンガリー 8,314 9,006 9,270 8,960 9,854 11,036 11,818 ポーランド 41,313 43,416 45,202 44,825 46,723 49,918 52,336 スロバキア 4,523 4,344 5,148 4,868 5,170 5,423 5,419
中東欧4カ国計 69,689 72,936 76,927 74,401 76,992 82,308 86,829
(西欧主要5カ国除く計) 420,689 430,255 445,825 457,812 470,905 487,568 501,741
EC19カ国合計 1,372,714 1,386,746 1,411,702 1,440,564 1,471,415 1,503,253 1,535,322
表2 欧州(EC19カ国)建設投資高 (単位:百万ユーロ)
2013年実績 2014年実績 2015年実績 2016年見込み 2017年予想 2018年予想 2019年予想
フランス ▲ 1.2 ▲ 6.0 ▲ 2.0 2.4 3.6 3.1 2.9
ドイツ ▲ 0.6 1.8 0.3 2.5 1.5 0.2 ▲ 0.6
イタリア ▲ 3.3 ▲ 2.2 0.8 1.9 2.2 1.8 2.2
スペイン ▲ 18.7 ▲ 1.7 2.9 2.1 3.2 3.4 3.6
英国 1.6 8.6 4.2 ▲ 0.2 ▲ 0.2 0.9 2.8
(※西欧主要5カ国計) 0.2 0.5 1.0 1.7 1.8 1.5 1.7
その他西欧諸国 2.2 1.8 3.1 3.8 2.7 2.8 2.3
西欧15カ国計 ▲ 2.2 0.8 1.6 2.4 2.1 1.9 1.9
チェコ ▲ 7.0 4.1 7.0 ▲ 9.0 ▲ 3.2 4.5 8.3
ハンガリー 5.3 8.3 2.9 ▲ 3.3 10.0 12.0 7.1
ポーランド ▲ 5.7 5.1 4.1 ▲ 0.8 4.2 6.8 4.8
スロバキア ▲ 5.2 ▲ 3.9 18.5 ▲ 5.4 6.2 4.9 ▲ 0.1
中東欧4カ国計 ▲ 4.8 4.7 5.5 ▲ 3.3 3.5 6.9 5.5
(西欧主要5カ国除く計) 1.3 2.2 3.5 2.6 2.8 3.4 2.8
EC19カ国合計 ▲ 2.4 1.0 1.8 2.0 2.1 2.2 2.1
表3 欧州(EC19カ国)建設投資高の伸び率 (単位:%)
出典:82th Euroconstruct Conference, Barcelona, November 2016
セグメント構成比を見ると、住宅の改修が
3,891
億ユーロ(27%
)と大きな割合を占め、土木工事(新築・改修)が
3,077
億ユーロ(21%
)と続いた。そして新築 住宅が20%
、非住宅の新築が17%
、改修が15%
と なっており、一昨年までと大きく変わっていない。セグメント別建設投資増減を見てみると、
2015
年 に一旦伸びた土木も2016
年にはマイナスとなりそ うだが、2017
年には再度成長が見られる。住宅にお いては2016
年に大幅な成長が予想されるが、2017
年には減少となりそうだ。非住宅は2016
年、2017
年と安定が予想されている(図2
)。今後の見通しとしては
2017
〜2019
年は堅調を 維持するが、緩やかな成長となりそうだ。ヨーロッ パの建設市場危機はかなり深刻だったため、発生 後8
年経った現在でも回復が追い付いてはおらず、ヨーロッパ全体としては
2019
年まで成長を続ける が、2010
〜2011
年頃の水準までの回復にとどまり そうだ。ただしスペインを除く他のEC18
カ国では、2007
年のピーク水準まで回復している。国別に見てみると、ドイツでは、移民流入などの 影響により新築住宅市場が成長しており
2016
年に は2.5%
、2017
年には1.5%
の伸びが予想される。し かし2018
年以降、徐々にペースを落としていきマ イナス成長になると予想されている。英国は
2016
年、2017
年と新築住宅は堅調であ るが、その他の建設市場は低迷を続けるであろう。2018
年には非住宅市場において、ようやく回復の 兆しが見える模様だ。2019
年には土木市場にも回 復が見られ、2.8%
の伸びが期待される。フランスは、市場の回復により
2017
〜2019
年の 予想平均では3.2%
の上昇が予想される。2017
年の 選挙が懸念される中、非住宅の回復は減速の模様だ が土木市場は民間投資の増加により公共投資も伸び が予想され、回復傾向にある。イタリアの建設業は建物の改修が全体の
60%
を 占めている。政府によるインフラ事業の再開も半年 後には下降気味となった。新築住宅事業はまだ低迷 が続いているが、2018
〜2019
年には回復が見られ る模様である。土木事業が期待されたほど好調では ないが、改修市場が堅調を続けている。スペインは、回復傾向が続いている。新たな金利 制度によって新規建築市場の回復が見込まれ、
2017
〜
2019
年の予想は3.4%
とEC19
カ国の平均を上 回っており、今後が期待される。住宅 非住宅 土木
40,000 30000 20,000 10,000 0 -10,000 -20,000 -30,000 -40,000
13
14 15 16(予想) 17(予想)
図2 セグメント別建設投資増減(前年比)
出典:82nd Euroconstruct Conference, Barcelona, November 2016
住宅 3,891(27%) 住宅 2,819(20%)
非住宅2,413(17%)
新築:7,020(49%)
建設市場:14,406 改修:7,386(51%)
土木1,788(12%)
土木1,289(9%)
非住宅2,206(15%)
図1 欧州(EC19カ国)建設市場割合 (単位:億ユーロ)
中東欧は、
EU
ファンドの改定により2016
年は 一旦停滞が見られる(特にチェコ、スロバキアは2015
年 の駆け込み需要の反動でマイナス幅が拡大)が、2019
年 までの予想では引き続き好調なポーランド、ハンガ リーを筆頭に今後もインフラ関連工事を中心とした 市場拡大が期待される。10.0 8.0 6.0 4.0 2.0 0.0 -2.0 -4.0 -6.0 -8.0
ドイツ
2014 2015 2016
(見込) 2017
(予想) 2018
(予想) 2019
(予想)
フランス
イギリス 中東欧4カ国
EC19カ国合計
図3 国・地域別建設投資高の伸び率 (単位:%)
出典:82nd Euroconstruct Conference, Barcelona, November 2016
3.
おわりに一昨年来、テロの脅威や難民問題が影を落とす中、
今年に入り、英国の
EU
離脱問題など政治面での不 確実性が増し、2016
年は将来への不透明感を深め た年であった。各国でポピュリズムが台頭し、右傾 化が強まる中、2017
年に行われるフランス、ドイツ の選挙などにおいても、排他的な右派勢力の台頭が 懸念されている。グローバル化、経済の自由化によ る勝ち組と負け組の格差が、世界全体そしてEU
域 内の国家間、個人間にも拡大し、成長の波に乗り遅 れ、あるいはその犠牲になったと感じる民衆の不満 は大きな政治的うねりになりつつある。しかし、こ うしたさまざまな社会問題を抱えながらも、それに 立ち向かい、困難を克服することによって、EU
と いう一大事業が次の段階へと進化し、世界に範を示 す共同体としてさらなる発展を続けることを期待し たい。〈参考および引用〉