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人間の生得的な行動性質理解に重点を置いた 道徳授業の研究(概略)

ドキュメント内 Regional_6.indb (ページ 96-99)

 弘前大学大学院地域社会研究科 地域政策研究講座(第11期生)

徳との矛盾を挙げながらも、社会の構成者が徳ならぬ「得」を享受する利他行動を促していくには、

人間の道徳性の生得性と個人の遺伝的差異を考慮した道徳教育の必要性がある (5) 。ただし、永野は 具体的な授業内容にまでは踏み込んではいない。道徳教育の変容が迫られるならばその具体像を描か なければならないだろう。本研究においては、その内容についても示していきたい。

第三に以上の考察を踏まえ、新たな道徳授業の内容と教材を開発していくことである。現在広く行 なわれている道徳授業の形式では、教材となる物語の登場人物の心情を追うというというものが基本 であり、そのため教材も必然的に紙面に印刷された読み物資料である。これに対して進化や脳内の活 動に着目した授業では、たとえば道徳的あるいは反道徳的行動に関連して、快や不快を感じるメカニ ズムを示すことによって、ある具体的な状況における人間の行動を予想させ、その上でその行動を助 長したり抑制したりする方略を考えさせる。したがって資料もその内容に応じたものを作成すること になるが、具体的には今後の研究で明らかにしていきたい。

2 .研究の方法と手順

本研究を進めていくにあたり、道徳性やそれに関する事項の分析や考察の基盤には進化生物学と脳 科学の知見を中心に据える。人間の道徳性をより客観的にとらえていくには、その心理状態の構造的 な把握と、道徳性が発現されている状態における脳の部位ごとの機能の状況を見ていく必要があるだ ろう。そのためには心理面も含めた人類の淵源と今日までの変異を見る進化生物学と、ある認知活動 を行なったときの脳内の活動を見る脳科学の知見に基づくことが求められることになる。

研究の手順としては、次のような構成にしていきたい。まず道徳教育を論じる前提として道徳性そ のものについて、人間にとってどのような意味があるのかを進化生物学と脳科学の観点から考察して いく。その際、重視するのは研究の目的の中でも触れたように道徳性とは反対の反道徳性である。道 徳教育の目的は道徳性を涵養していくためのものである。だが逆に考えれば、こうした目的が設定さ れているということは、その目的が社会の中で未だ達成されていないということになる。達成されて いないということは反道徳的な行動が社会の随所で見られるということであり、実際、学校での深刻 ないじめ等社会を震撼とさせる事件は枚挙に暇がない。反道徳的な行動をなぜ人間は往々にしてとる のか。その進化的な要因を探るとともに、さらにそうした行動中の脳内の状態を把握する必要がある だろう。反道徳性があるから道徳性が発達したのか、あるいは道徳性が発達したことにより反道徳性 が生まれたのか、ということも含め、人間にとっての道徳性の意味を追究していきたい。永野は進 化、また脳科学の知見から感情が判断以前に行動を促し、抑止する事実に照らして、道徳授業の中で 利他行動を涵養していくには、善ではではなく「すぐれた悪の典型」が必要であるとも述べている (6)。 これは悪の存在がそれによって不利益を被っている立場の人たちなどに対する生得的な同情心や利他 性の発動を促すと同時に、自ら犠牲を払っても、悪の跳梁により自分も含めた社会全体の不利益を払 拭していく利他的懲罰の発動をも促すことになるという社会規範に即した考察ということができる。

次にこれまでの道徳教育の内容を歴史的に概観し、その特色と問題点を明らかにしていく。この際 にはたとえばコールバーグの道徳性発達理論や米国で主に取り組まれている人格教育といった道徳教 育思想や実践も批判的に取り上げていきたい。その上でこれまで様々に提案されてきた心情主義では ない視角からの道徳教育へのアプローチを取り上げ、その有用性と限界を考察する。そして以上の考 察を基にして、具体的な進化生物学と脳科学を基盤にした道徳教育の理論を構築し、授業の形式を構 想していく。授業の形式の具体的なものを形作りながら並行して学習教材も開発していく。

3 .課題と解決のための展望

以上、進化生物学と脳科学を基盤にした新たな道徳教育へのアプローチである本研究の概略を述べ た。

課題としては次の 2 点が挙げられる。第一に道徳性を進化生物学と脳科学の観点からのみで措定し

ようとするとあまりに範囲が狭くなり、一般性に欠けることになってしまうのではないか、という点 である。道徳教育という一般性の高い内容が研究対象である以上、専門的になりすぎないようにしな ければならないだろう。第二に授業形式を考案していく上で、進化生物学と脳科学を基盤にした授業 像というものが具体的にはまだ曖昧である、という点である。本文中に例示したようにたとえば快、

不快のメカニズムを明らかにするといったパターンでいくつもの授業案が示すことができるのかとい うと、現時点では何ともいえないのが実情である。

以上の課題については、次のような解決の展望を示したい。まず、課題の一点目については、進化 生物学と脳科学を基盤にしながらも、道徳性のより広範な意味での措定の確立を目指していきたい。

本研究では進化生物学と脳科学を基に道徳性に焦点を当てるが、一般には道徳性は、観念的、主観的 であり、そのため哲学的、倫理学的な要素が強いと受け止められている。したがってそうした分野と のすり合わせを十分に行なう必要があるだろう。結果として、より広い範囲での道徳性の位置づけを 行なっていきたい。

二点目については、各地で検討されている新たな道徳教育へのアプローチの動きと連動していくこ とにより、進化生物学と脳科学を理論的背景した授業実践のバリエーションの拡大を図りたい。従来 からの道徳授業への批判は以前から存在するため、今現在も様々な道徳授業の形式が試みられてい る。そうした新たな動きの状況を把握し、本研究と関連した部分について知見や実践を参照していき たいと思う。こうした課題や展望を踏まえ、研究を進めていきたいと考えている。

(1) 徳永正直、堤正史、宮嶋秀光、林泰成、榊原志保(2003)『道徳教育論』ナカニシヤ出版 p.21

(2) 柳沼良太(2006)「問題解決型の道徳授業の理論と実践」岐阜大学共育学部研究報告 教育実践研究 第 7 巻

(3) たとえば、押谷由夫(1999)『新しい道徳教育の理念と方法』東洋館出版社

(4) たとえば、林泰成(2009)『道徳教育論』放送大学教育振興会

(5) 永野文一 (2006)「進化・道徳・教育」道徳教育学論集第13号

(6) 同上 

人間の生得的な行動性質理解に重点を置いた道徳授業の研究(概略)

1 .緒言

本稿は、地域経済発展へ向けての事業・産業開発スキームの一つである、大学と企業の協働を柱と した、産学官連携活動においての成果創出に係る課題の指摘と改善策の提示をねらいとした。特にそ の活動に深く携わる産学官連携コーディネーターに着目し、かねてから筆者自身が現場に携わる中 で、現況における彼らの雇用形態のあり方に、人的資本マネジメントが効果的になされていないので は(仮説)という違和感を持っていたことが契機である。

本稿においては、大学発先端科学技術が、共同研究等による連携活動の結果、最終的に製品化・事 業確立・産業化を達成するという地域イノベーション創出へ向け、本稿で指摘する課題を受け、新た な仕組みの提案まで行なうものである。本稿の目的を達成すべく全国アンケート調査(1)の結果を活 用し、実態を正確に把握することに留意した。

2 .先行研究からの位置付けの明確化:イノベーションと地域・企業・大学

イノベーション(2)の発生にはその源泉ともいうべき土壌が必要である。その土壌とも言うべき イノベーションシステムについては、大きく、国家イノベーションシステム(National  system  of  Innovation)及び、地域イノベーションシステム(Regional System of Innovation)に分けられる。

地域イノベーションシステム(Regional System of Innovation)は、地域化された自律システムと 言え、地理的接近を伴う相互に関連する個別経営主体(企業等)から成る地域産業クラスターの議 論も併せて展開されたが、枠組みとしては「自律・自生的」タイプもあれば、「制度化・システム化」

された形態もある(3)

地域イノベーションシステムが、新事業・新産業を生み出すという創造的活動を推進する土壌であ るなら、それは知識基盤経済に依拠するものであるといえよう。マーシャル以降、ポーターやピオ リー&セーブル、フロリダ等の関連する領域での先行研究者の議論からは、工業社会から情報社会、

そして知識基盤社会へと社会が移行していく中で、外部経済獲得性や物理的な立地・集積論から、知 識ベースによる諸展開・イノベーション創出へと理論的潮流も移行し、地域イノベーション創出の視 角からの議論へと進化していることが理解できる(4)

各議論の地域における中心的アクターは企業である。地域イノベーションシステムはアクター・ダ イナミクスによる知識創造プロセス実現の場ともいえる。ゆえに、地域における知の拠点ともいうべ き地域大学の存在意義・役割は大きいといえる。

3 .地域イノベーションシステムとしての産学官連携スキーム

その地域大学が介在する地域イノベーションシステムとして、産学官連携活動のスキームが挙げら れる。基礎的・先端的技術であることを特徴とする大学発先端科学技術が、共同研究等による連携活

〔研究展望〕

 清   剛 治

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