第 5 章 実験と評価
5.1. 予備実験
5.1.1 予備実験の概要
予備実験では鏡[31]という映像ストリーミング転送ソフトに遅延測定機能を追 加して二つの実験を行った.この予備実験では時間を正確に測るために,同一PC 内で時刻を計算するようにした.二つの予備実験でALMにおける遅延時間の影 響を調べ,本提案システムにおけるインターネット環境での影響について述べる.
予備実験1
予備実験の1つ目として,パケット転送における内部転送処理遅延時間の測定 を行った.実験の環境を図5.1に示す.
予備実験1ではまずエンコーダから圧縮されたデータが鏡サーバに送られる.
この鏡サーバに送られた時に,映像データの最初にタイムスタンプを付ける.タ イムスタンプデータはシステム起動時からの時間(ミリ秒単位)を10バイト(+
区切り10バイト)とした.このデータが内部の転送バッファに送られて,Send関 数を用いて送信される直前までの時間を処理遅延時間として測定した.
図 5.1 予備実験1環境 予備実験2
図5.2に実際のネットワークを通じた転送遅延実験の方法を示す.
WIDEネットワークPC〜自宅PC(eo光ホームファイバー100Mコース)間 の転送遅延を計測した.
この間のpingによるRTTは9msであった.
これをホップなし,2ホップ,4ホップ,6ホップ,8ホップ,10ホップの遅延時 間を測定した.
5.1.2 予備実験結果と評価
予備実験1の結果
予備実験1の結果のうちパケット転送時間の分布については図5.3に示し,パ ケット転送遅延時間の範囲について図5.4に示す.
図 5.2 予備実験2環境
図5.3はパケット転送における遅延時間の分布を示したものである.これを見 ると,30秒付近の,70秒付近,120秒付近にデータが分布していることがわか る.鏡では内部の転送バッファを定期的に調べ,転送バッファ内にデータがあれ ばデータを転送するという処理をしている.これによりネットワークのゆらぎや 転送処理に時間がかかり,処理タイミングが一つずつ遅れた結果によるものと考 えられる.平均遅延時間は80.18msであった.
予備実験2の結果
予備実験2の結果のうちホップ毎の遅延時間について図5.5で示し,ホップ毎 の平均遅延時間について図5.6に示す.
この2つのグラフから,実際のインターネットの環境でALMストリーミング を流した場合,ホップ数が増えるごとごとに遅延時間は,10ホップまで大体線形 的に増えることがわかった.これは国内においてはネットワーク転送遅延による 影響よりもPC内の転送遅延による影響を受けるためだと考えられる.ここで仮
図 5.3 パケット転送時間の分布
に2分木のALMツリーを想定した場合,2ホップで7ノード,10ホップで1023 ノード参加していることになる.
5.1.3 予備実験のまとめ
予備実験ではノード間のRTTが9msと非常に高速な環境であったが,他のネッ トワークにおけるRTTを計測した結果を表5.1に示す.
この結果から国内では数10ms以内,日本〜米国では100ms以内,日本〜ペルー
では300ms以内で通信遅延が発生することがわかる.そして国内通信でのALM
においては,ネットワークの転送遅延よりもクライアントにおける転送処理遅延 の影響の方が大きいことがわかる.そのため映像データの転送遅延時間は転送 処理を行うホップ数が増えるにつれ線形的に増えていったものだと考えられる.
今回の予備実験1,予備実験2,により映像データの転送の際1ホップで100ms
図 5.4 パケット転送遅延時間の範囲
表 5.1 場所ごとの遅延時間の目安
測定範囲 RTT
yahoo.com−NAIST 128ms google.com−NAIST 60ms yahoo.co.jp−NAIST 10ms yahoo.com−eonet 47ms google.com−eonet 60ms yahoo.co.jp−eonet 13ms www.inei.gob.pe−NAIST 277ms
WIDE−eonet 9ms
図 5.5 ホップ毎の遅延時間
〜200msの遅延が発生することがわかる.仮にALMツリーにおいて全ての段で
200ms遅延が起きた場合,合計で2秒ほどの遅延が発生してしまう.このように
遅延時間がバラバラだと複数の映像を同時に視聴しようとすると問題になる.そ こで本研究が提案しているズレずに再生できるシステムの実装を行うことにより,
複数の映像をALMにおいてもズレなく再生することができると考えられる.