第 5 章 中野区 K 邸施工調査記録
39 補強工事要領
対象建物の補強前後の外観は写真 1.1 に示したものである。補強計画と耐震補強前後の 一般診断結果(生活協同組合・消費者住宅センター実施)をそれぞれ図 5.1,表 5.1 に示す。
図 5.1 に示す入隅補強壁は建物の入隅部や柱が存在しない場合等により片方の柱にビス止 め不可能な状態の壁を補強した耐力壁である。耐力壁としての性能は,既往研究で実験と 解析により評価している26)。
K 邸の既存躯体の状況は木架構の腐食がなく,本工法適用外となるモルタル劣化も見受け られなかった。既存躯体に施す補強工事はミドルコーナー金物(接合部仕様Ⅰ相当)によ る木架構接合部補強と既存モルタル仕上げのひび割れ補修を行ったのみである。
図 5.1 耐震補強壁配置図
表 5.1 K 邸補強前後の一般診断結果(※)
階 方向 上部構造評点
補強前 補強後
2 X 1.44 1.38
Y 1.09 1.47
1 X 0.54 1.05
Y 1.03 1.51
(※)生活協同組合・消費者住宅センター実施
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40 補強工事工程
補強工事は 2019 年 3 月 5 日から 2019 年 3 月 29 日まで行われ,実質作業日数は 12 日間,
人工数は 49 人工で行った。なお,1 日の作業時間に偏りがあったため,1 人工の作業時間 は,板金職人による本工事の平均作業時間の 5 時間とした。午前もしくは午後作業のみ(実 働 3 時間程度)の場合は 0.5 人工とした。本工事の作業工程表を表 5.2 及び表 5.3 に示す。
今回の工事では板金(鋼板と役物)の加工は 3 月 6 日(水)に工場で行い,加工した板 金を現場へ運搬し補強工事を行う流れとした。ただし,窓や換気扇による鋼板への開口や 切り欠きは現場で採寸・加工した。人工数 49 人工のうち,現場における補強工事が 43 人 工,工場における板金加工が 6 人工の内訳となった。
表 5.2 作業工程表(1)
凡例
3/4(月) 3/5(火) 3/6(水) 3/7(木) 3/8(金) 3/9(土) 3/10(日) 日付
雨 晴れ 晴れ - 晴れ 晴れ - 天気
- 5 6 - 5 8 - 人工
- 8:00-15:30 9:00-16:00 - 9:00-15:30 8:10-14:30 - 作業時間(h)
現場打ち合わせ 雨の為現場作業
なし(※1)
墨出し
板金加工
(工場)
(※2)
- - 作業内容
3/11(月) 3/12(火) 3/13(水) 3/14(木) 3/15(金) 3/16(土) 3/17(日)
- 晴れ - - - -
-- 6(午後5) - - - -
-- 8:10-17:00 - - - -
-北側立面1F2F 板金留め付け 金物補強
- (※3) - -
-3/18(月) 3/19(火) 3/20(水) 3/21(木) 3/22(金) 3/23(土) 3/24(日)
晴れ - 晴れ - 晴れ -
-5 - 2 - 2 -
-8:20-15:50 - 9:00-16:00 - 8:30-15:45 -
-北面一部
鋼板貼り直し (※3) 東側立面
鋼板留め付け
-北面凹部役物の 取り付け
排水管差し替え -
-3/25(月) 3/26(火) 3/27(水) 3/28(木) 3/29(金) 3/30(土) 3/31(日) 現場作業
4(午後2) 2 3(午後2) - 3 - - 工場作業
晴れ 晴れ 晴れ - 晴れ -
-9:15-14:45 9:50-14:55 10:00-15:45 - 9:15-15:15 -
-- シーリング
タッチアップ -
-(※1)3/4(月)は雨の為打ち合わせのみ。人工に含まない。
(※2)3/6(水)以外に工場で役物加工しているが当人工には含めない。(少時間と考えられるため。)
(※3)3/14(木)、3/19(火)は作業時間が1時間未満の為人工に含まない。
南、西側立面 土台水切り、中間層水切り
鋼板留め付け モルタル補修
出隅役物・窓枠周り・軒天井 役物取り付け
排水管差し替え箇所のモルタル補修
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41
表 5.3 の作業工程表(2)では補強工事を「A.解体・補修工事」,「B.角波鋼板工事」,「C.
役物工事」に分類した。
「A.解体・補修工事」はモルタルのひび割れ補修や木架構脚部の金物補強等,既存躯体 に対する補強工事である。「排水管の差し替え」作業はビスを打ち付けた際に壁内部の排水 管まで打ち付けたことにより漏水した排水管を差し替える作業である。「東面小屋」作業は 住宅の東面に接する小屋を撤去する作業である。
「B.角波鋼板工事」に記載している「N101」等の記号は後述に示す壁番号を示す。工事 全体で壁番号が重複して記されているのは施工上の問題により,鋼板を取付け直した壁番 号である。3 月 20 日(水)は未調査であるが,板金職人 2 人で東面の鋼板を取付けたこと を板金職人へのヒアリングにより確認した。
表 5.3 作業工程表(2)
K 邸補強工事の作業歩掛りは 1.86m2/人工となり S 邸補強工事の作業歩掛り(0.79 ㎡/人 工)の約 3 倍となった。作業歩掛を以下に示す。なお S 邸補強工事との施工性比較につい ては後述に詳細を述べる。
91.6 ㎡ ÷ 49 人工 = 1.86 ㎡/人工
4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29
月 火 水 木 金 土 日 月 火 水 木 金 土 日 月 火 水 木 金 土 日 月 火 水 木 金
- 5 6 - 5 8 - - 5.5 - - - - - 5 - 2 - 2 - - 3 2 2.5 - 3 - 6 6 - 5 5 - - 7 - - - - - 6 - 5 - 6 - - 4 4 4 - 5
W103
W102
排水管差し替え W103
東面小屋
墨出し 5人
E107-8S201-14 N101-8,N201-3 N101-3
S101-12 W204-7 N206-8,S101 N201-3
W103-6 S107,S201-2 S201-2
W102,W203
シーリング タッチアップ
水切り 東、南、西面土台、南、西面中間層北面土台、中間層 南、西面窓枠周り 北、西、南面軒天井 東、西面軒天井
未調査日、作業内容を類推して記述 日程 2019年3月
工 場 で の 板 金 加 工 工程
A,解体・補修 工事 4人工
金物補強
モルタル補修 東、北面
B,角波鋼板補強 32人工
C,役物工事 13人工
作業時間(h) 人工
板金
役物
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42 調査概要
調査は調査員 2 人を施工現場に配置した。板金を留め付ける箇所ごとに壁番号を設け(図 5.2),壁番号ごとに作業内容と作業にかかった時間を分刻みで計測した。また,施工記録 だけでなく板金職人へのヒアリング調査も適宜行った。工事の様子を次頁に記載する。
図 5.2 建物の壁番号(板金貼る箇所)
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43
役物加工(6m ベンダープレス機) 工場での板金加工
金物補強の様子 モルタル補修の様子と土台水切り設置
現場での板金加工の様子 現場作業
排水管の漏水箇所 シーリング箇所(仕上げ)
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44 調査結果
調査結果の補強工事作業内訳を図 5.3 に示す。板金作業項目を分析するために,「B.角波 鋼板工事」の 31 人工から工場加工の 5 人工を除いた 26 人工分(述べ作業時間 7800 分)の 角波鋼板工事の内訳を図 5.4,さらにそのうち鋼板の加工・取付け・仕上げ作業にかかった 時間(述べ 2477 分)の作業内訳を図 5.5 に示す。なお,「C.役物工事」については,大ま かな作業人工は算出できたものの部位別の作業時間を記録することはできなかった。
角波鋼板工事(図 5.4)では,鋼板の加工・取付け・仕上げ作業が全体の約 3 割を占めて おり,「墨出し」と「打ち合わせ(現場での施工方法の共有)」作業に多くの時間がかかっ た。
図 5.3 工事別の人工内訳
図 5.4 角波鋼板工事の内訳 図 5.5 加工・取付け・仕上げの内訳
(※1)工場作業 5 人工分を除く 26 人工分の作業時間
(=26 人工×5h/人工×60 分/h)
(※2)現場で記録できた作業時間のみ算出して比較している。
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角波鋼板工事を角波タイプ別に分類して分析を行った(表 5.4)。角波タイプは現地にお いて無加工で全面壁に留め付ける「無開口」(図 5.2 中の N106,N107 等),窓の開口位置等 に切り欠きを施した「切り欠きあり」(図 5.2 中の N101,N204 等),無加工で腰壁や垂れ壁 に留め付ける「窓上・窓下」(図 5.2 中の N102,N209 等)の 3 タイプに分類した。
さらに立面ごとに各角波タイプ 1 枚あたりに要した作業時間を図 5.6 に示す。西面(W)は 作業場所が狭小であったことと 1 枚の鋼板に対する切り欠き箇所が多かったために,北面 (N)はビス留付け位置のずれにより鋼板の貼り直し(N101-N104)作業が生じたために多く の作業時間を要した。
表 5.4 角波タイプ別の作業量内訳表
角波タイプ 枚数
(枚)
作業時間
(※1)(分)
1 枚当たり 作業時間
(分/枚)
1 枚当たり 平均面積
(m2)(※2)
面積当たり 作業時間
(分/m2) 無開口(A) 20 660 33.0 2.5 12.9 切り欠き有り(B) 12 758 63.2 2.5 25.3 窓上・窓下(C) 24 670 27.9 0.8 34.9
(※1)図 5.5 中「取付け」「採寸・加工」「ブチルゴム」作業時間合計(=2477 分)に相当
(※2)算出方法:無開口=各階の高さの平均(2.7m)×幅(0.91m)
切り欠き有り=切り欠き部分の面積を考慮せず無開口と同じとする。
窓上・窓下=無開口の面積 ÷ 3
図 5.6 立面ごと各角波タイプ 1 枚あたりの作業時間
(※)東面(E)は未調査であるため,角波タイプの作業時間は各構面の平均値とした
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46 施工上の課題
板金職人が日ごとに入れ替わりで作業していたこともあり,施工方法についての情報共 有ができておらず,施工間違いが生じた。具体的には,隣接する鋼板のビス打ち込み位置 が不揃いとなったこと,打ち込むビスの種類を間違えたことにより壁内部の水道管を打ち 抜いたこと等が起こった。施工間違いにより作業のやり直しが生じた(図 5.7 と図 5.8)。 作業のやり直しに要した時間は 900 分となっており,今回の工事においては 3 人工分に相 当する。図 5.9 中の「漏水箇所修復」「ブチルゴム貼り忘れ」作業は,施工方法を共有する ことで,「北面鋼板貼り直し」作業は鋼板加工方法をマニュアル化することで予防できる作 業である。
図 5.7 排水管の漏水箇所 図 5.8 ビス打ち込み位置のずれ
図 5.9 やり直し箇所の作業時間
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出隅部留め付けビス鋼板と兼用すると施工誤差が取れなくなり、出隅部役物のやり直し に繋がっている。よって、やり直しを防止するために、形状の改良を提案する。今期の工 事では出隅部は以下のような納まりとした。
図 5.10 当初の出隅役物の納め方 図 5.11 出隅役物改良案
オスとオスとなる箇所(東-南側立面)
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48 施工性比較
S 邸・K 邸補強工事の作業歩掛かりについて比較したものを以下の表 5.5 に示す。鋼板作 業は鋼板の加工・取付け・仕上げにかかった時間である。S 邸との施工性を比較することが 目的なので,鋼板作業時間は類推して算出した東面(E)の延べ作業時間合計を含んだ値を記 載した。表 5.5 に示す補強工事は,S 邸においては土台・柱・基礎の新設と合板設置にかか った延べ作業時間,K 邸においてはモルタル補修と金物補強にかかった時間を算出している。
人工数で約 3 倍,鋼板作業で約 1.5 倍の施工性が向上している。工場加工を実施したこ とによる人工数の削減,鋼板にビス穴を設けたこととブチルゴムを一体化させたことが施 工性向上に繋がったと考えられる。K 邸補強工事では既存木架構が補強を必要としない状態 であったため,補強工事にかかる時間が尐なかった。
表 5.5 S 邸と K 邸の施工性の比較表
S 邸 K 邸 S/K
施工面積 A(m2) 50.1 91.6 0.55
人工 63
[0.79]
49
[1.86] 0.42 鋼板作業(分)(※2) 4047
[80.8]
2965.9
[52.9] 1.53 補強工事(分) 1361
[27.2]
690
[7.5] 1.97
(※1)[]内の数値は各項目の数値を施工面積 A(m2)で除した値 ただし,人工のみ[m2/人工]とする。
(※2)鋼板作業は加工・取付け・仕上げにかかった時間を示す。
類推して算出した東面の作業時間(518.9 分)を含む。