2019 年度 修士論文
外付鋼板耐震補強工法における 地震水平力伝達機構の分析
首都大学東京大学院 都市環境科学研究科 建築学域 18852512 荻野航平 指導教員 高木次郎
1
目次
第 1 章 序論 ... 2
1.1 研究の背景と目的 ... 2
1.2 工法の概要 ... 3
1.3 論文構成 ... 4
第 2 章 補強耐震壁の解析... 6
2.1 既往実験の結果分析 ... 6
2.2 解析モデル概要 ... 8
2.3 解析結果 ... 12
第 3 章 腰壁つき 2P の解析 ... 16
3.1 検討方針 ... 16
3.2 解析モデル概要 ... 17
3.3 解析結果 ... 20
3.4 構面への適用 ... 24
第 4 章 検討したモデルの課題と今後の評価方法 ... 30
4.1 解析モデルの課題 ... 30
4.2 今後の方針 ... 33
4.3 モルタル圧縮下の評価 ... 33
4.2 鋼板張力下の評価 ... 36
第 5 章 中野区 K 邸施工調査記録 ... 38
第 6 章 結論 ... 50
第 1 章 序論
2
第 1 章 序論
1.1 研究背景と目的
全国の木造住宅約2500万戸のうちの34%にあたる約850万戸の木造住宅が耐震性能不足 と推定されている1)。1995年の兵庫県南部地震や2016年の熊本地震等の大規模地震では木造 住宅の倒壊による被害が甚大であった2)3)。今後発生の確率が高いとされている,南海トラ フ地震や首都直下地震に備え,木造住宅の耐震補強は急務であるが,進捗は良くない。木 造住宅の耐震補強が迅速に進められていない原因としては,補強工事費の高さや工事中に 居住者の一時退去が必要となること,補強工事によって開口が塞がるなど工事後の住環境 が悪化する可能性があること,住宅の現状価値や今後の利用期間に対して工事費用が相対 的に割高になること等が挙げられる4)。このような状況を踏まえ,本研究室では2011年から 厚さ0.5㎜の鋼製薄板を用いた木造住宅の耐震補強工法の開発を行ってきた5)6)7)8)9)10)。短工 期で居住者の一時撤去を必要とせず安価で適用可能な工法を開発することで,耐震化促進 に貢献すると共に住宅の価値を高め住宅ストックの長期利用を目的としている。
浅沼らは本工法を開発する上で,木造住宅密集地域における現地調査や既存木造住宅に 関する統計調査を行い耐震補強工法のニーズを把握することで,本工法の適用対象を整理 した7)。調査の結果,全国の耐震性能が不十分な住宅のうち,73%にあたる約 620 万戸の木 造住宅が建築基準法施行例改正(1981 年)以前に建てられており,建築時期が早いほど耐震 性能が不十分な住宅数が多いことが確認された 11)。しかし,耐震性能が不十分である木造 住宅に土台の腐朽や蟻害,基礎の割裂等の構造的な劣化が確認された住宅は 1 割程度であ った。また,1981 年以前に建てられた住宅はモルタル仕上げが最も多く使用されていた 12)。
過去の地震被害ではモルタルの剥落を伴う木造住宅の倒壊や木架構の接合部の引き抜けに 伴う倒壊が顕著な被害であった3)13)14)。これらを踏まえて本工法の適用対象は土台や基礎の 状態が補修を必要としない状態であり,なおかつ厚さ 15 から 35mm のモルタル仕上げを擁 している木造住宅とした。
大向,堀口らは,本工法を適用した耐震壁(以下,「補強耐震壁」)について実大壁水 平耐力試験と有限要素法解析により,補強耐震壁の面内せん断耐力を評価した9)10)。また,
前述の通りビスは木架構接合部の一部として機能する。鋼板辺端部2本のビスが木架構接合 部の一部として機能すると考え,実大壁水平耐力試験では壁の面内せん断耐力と接合部の 補強効果をそれぞれ分けて評価した9)15)。さらに堀口らは,接合部耐力が十分でない補強耐 震壁について,柱と横架材間の接合部破壊が先行する場合の耐震性能を解析的に評価した10)。
本論文では,これまで検討していた解析モデルを改良しより精微な解析モデルを構築す ることで,架構と構面の地震水平力化の挙動と補強耐震壁の構成要素の役割を数値解析に より分析評価する。また,検討した解析モデルの不明瞭項目を洗い出し,今後さらに精微 な解析モデルを構築するための検討項目について論じる。
第 1 章 序論
3 1.2 工法の概要
開発した工法はモルタル仕上げ木造住宅の外側から厚さ0.5㎜の働き幅910㎜の角波鋼板
(以下,「鋼板」)をドリルビス(以下,「ビス」)により留めつけることで,木造住宅 の壁耐力を付与させる工法となっている。ビスは柱に対しては200㎜間隔,土台と梁に対し ては鋼板の各凹部に114㎜間隔で留め付ける。モルタルの不陸調整にゴムスペーサーを,ビ ス孔からの漏水防止のために防水テープをモルタルと鋼板の間に設けた構成になっている (図1.1)。また,ビスの頭にもパッキン付きワッシャーを設け接合部における防水対策を講 じている。モルタルの剥落を防ぎ鋼板と一体化させることで耐震壁の補強を行い,鋼板四 周をビスにより木架構の既存木柱と土台や梁等の横架材に接合させることで木架構接合部 補強を行う工法となっている。本工法適用事例の補強前後の様子を写真1.1に示す。
図 1.1 工法の概要図
補強前 補強後
写真 1.1 外付鋼板耐震補強工法の適用例
第 1 章 序論
4 1.3 論文構成
第1章 序論
研究の背景と目的,及び開発工法の概要,論文構成について述べる。
第2章 補強耐震壁の解析
実大壁水平耐力試験の結果と構築した解析モデルの解析結果を比較し,解析モデルの妥 当性を検証する。さらに,地震水平力化における解析モデルの構成要素の役割を評価する。
第3章 腰壁つき2Pの解析
2章で検証した解析モデルを拡張評価して,標準補強壁に腰壁が隣接した場合について考 える。腰壁にもモルタルが存在し鋼板補強を行った場合(腰壁つき2P)を仮定する。同モ デルについて地震水平力化の挙動と補強耐震壁の構成要素の役割を数値解析により分析評 価する。
第4章 検討した解析モデルの課題と今後の評価方法
2章と3章で評価した解析モデルの問題点について述べる。また,解析モデルの改良方法 と今後検討していく項目について論じる。
第 5章 中 野 区 K邸 施 工 踏 査 記 録
本工法適用2物件目となるK邸の施工状況を述べる。また,1物件目と比較して施工性上昇 率についてまとめた。
第6章 結論
本研究の成果の統括を行い,今後取り組むべき課題について整理する。
第 1 章 序論
5
第 2 章 補強耐震壁の解析
6
第
2章 補強耐震壁の解析
2.1 既往実験の結果分析
大向らは幅 910 ㎜高さ 2730 ㎜の補強耐震壁の性能を評価するために実大壁水平耐力試験
(以下,「壁実験」と呼ぶ)を行った9)。図 2.1 に示す A から F 点では水平加力時おける木 架構・モルタル・鋼板,各部材間の相対変位を測定した。各部材間の相対変位の測定方法 について図 2.2 に示す。モルタル-鋼板間の相対変位量は木架構-モルタル間,木架構-
鋼板間と比較して小さく,なおかつモルタルと鋼板のせん断変形量が小さいことを確認し た9)。つまり,モルタルと鋼板が一体となって剛体回転していると言える。モルタルの損傷 はビス接合部に集中しており(図 2.3),加力側上部から斜めにせん断ひび割れが生じたが,
比較的軽微であった(図 2.4)。
実験結果(3 体の試験体の実験結果)の荷重変形角関係を図 2.5 に示す。縦軸はせん断水 平力,横軸は真の変形角とした。後述の柱脚部を固定した解析モデルと比較することを意 図して,横軸を真の変形角とした。実験結果から木架構試験体の耐力(=6kN)9)を差し引 いた最大耐力 19kN をモルタル平断面積(=15mm×(910+105)mm)で除した平均せん断応力 度は 1.25N/mm2となる。壁実験では木架構の柱脚部を柱 1 本につき 50kN の HD 金物で固定し たが,同様の固定度を実際の木架構脚部の引き抜き耐力として評価することはできないた め,補強耐震壁のせん断耐力は実験結果の壁耐力から脚部を固定された木架構の耐力を差 し引いて評価した。実験で使用したモルタルの材料試験ではモルタルの割裂強度は 0.4N/mm2
(圧縮強度 4N/mm2)であることから,鋼板がモルタルのせん断ひび割れを抑制しているこ とがわかる。モルタルと鋼板が一体となって剛体回転していることがわかる。
第 2 章 補強耐震壁の解析
7
図 2.1 壁実験の概要図 図 2.2 相対変位測定方法
(※)大向修士論文9)の図より引用
図 2.3 接合部の損傷の様子 図 2.4 実験後のモルタル損傷の様子
図 2.5 荷重変形角関係
第 2 章 補強耐震壁の解析
8 2.2 解析モデル概要
概要図を図 2.6 に示す。木架構を弾性線材要素,モルタルと鋼板を弾塑性シェル要素と してそれぞれ置換した。本工法においてビスは木架構とモルタルと鋼板を接合するが,解 析モデルでは木架構とモルタル間の接合ばねを「ビスばね」,モルタルと鋼板間の接合ばね を「鋼板せん断ばね」としてそれぞれ独立した弾塑性せん断ばねを設けた。
木架構の部材断面は柱,土台が 105 ㎜角,梁が 105 ㎜×240 ㎜である。ヤング係数 7.0kN/mm2
(スギ無等級材)とした。木架構接合部は HD 金物による固定度は高いと考え,土台と剛接 合し,柱頭はピン接合とした。モルタルは厚さ 15 ㎜の 4 節点 1 積分点のシェル要素を 1 辺 およそ 50 ㎜のメッシュで分割し,厚さ方向の積分点数を 5 とした。既往材料実験9)より,
モルタルの圧縮強度 Fc=4N/mm2,ヤング係数 E=8.11kN/mm2,引張強度 Ft=0.4N/mm2として完 全弾塑性の復元力特性を設定した。モルタルのヤング係数は「鉄筋コンクリート構造計算 基準16)」に準拠して算出した。鋼板は厚さ 0.5 ㎜の 4 節点 1 積分点シェル要素を 1 辺 20 ㎜ のメッシュ分割し,厚さ方向の積分点数を 5 とした。既往材料実験17)より,ヤング係数を 171kN/mm2,降伏強度を 328.2N/mm2として完全弾塑性の復元力特性を設定した。
図 2.6 補強耐震壁の解析モデル概要図
図 2.7 モルタルの材料特性 図 2.8 鋼板の材料特性
0 50 100 150 200 250 300 350 400
0 0.005 0.01 0.015 0.02
応力度(kN/mm2)
ひずみ
材料試験 解析モデル
第 2 章 補強耐震壁の解析
9
ビスばねの復元力特性は既往のビス接合部せん断試験15)18)を参考に図 2.9 のように設定 した。鋼板せん断ばねはモルタルと鋼板の相対変位がビスの鋼板への支圧変形(めり込み変 形)が支配的な変形と考えて設定した。既往の一面せん断試験17)より復元力特性を図 2.10 のように設定した。なおビスばねと鋼板せん断ばねの反力は補強耐震壁構面内の主力方向 に対する相対変位の絶対値に応じた値を返す設定とした。壁実験においてモルタルと鋼板 が剛体回転したためである。図 2.11,図 2.12 に示す通り,ビスばねを評価した実験では鋼 板張力の影響を加味した実験となっており,木架構-モルタル間の接合ばねとして入力し た場合は鋼板せん断ばねの影響が重複していることになる。詳細については後述の 4 章に て述べる。
壁の屋内側に存在する木摺り等があることによる固定度の違いから,モルタルの構面外 変形は屋内側には進展しないと考え,屋外側のみ構面外変形を許容する拘束を与えた。鋼 板にはモルタルと接触する方向の面外変形を拘束した。
図 2.9 ビスばねの復元力特性 図 2.10 鋼板せん断ばねの復元力特性
図 2.11 ビスばね 図 2.12 鋼板せん断ばね 各ばねを評価した実験
第 2 章 補強耐震壁の解析
10
壁実験時の条件同様に構築した解析モデルを標準モデルと呼ぶ。標準モデルを構成する 各要素が架構の挙動に及ぼす影響を評価する目的で,各要素の特性や条件を変えた解析モ デルを構築した。仕様の一覧と各モデルを用いての検討項目を表 2.1 に示す。以降,同表 中のモデル名を用いて議論を進める。
モルタルのみモデルは標準モデルに対して鋼板を取り除いく構成とした。鋼板の有無に よる本工法の補強効果を検証し,水平力化におけるモルタル損傷の様子について比較する。
モルタル強度 2 倍モデルは標準モデルに対してモルタルの圧縮強度 Fc と引張強度 Ft を 2 倍とし(Ft=8N/mm2,Ft=0.8N/mm2),ヤング係数 E は「鉄筋コンクリート構造計算基準16)」 に準拠して E=10.21kN/mm2とした。モルタル強度による架構の挙動の影響について評価する。
参考として標準モデルの部材設定一覧を表 2.2 に示す。
局部座屈や接触等,静的な解析で不安定になりやすい現象を扱うことから動的陽解法 (Abacus/Explicit)を用いて解析を行った17)19)。時間を増分変数とし,構造物の周期よりも 十分長い時間をかけて強制変位を与える方法である。モルタルの密度 1.88×10-9ton/mm3, 鋼板の密度 7.85×10-9ton/mm3として,梁端部のせん断水平変位を図 2.13 に示す時間変化曲 線で与えた。
表 2.1 比較解析モデル詳細
モデル名 鋼板の有無 モルタル強度
(N/mm2) 評価項目
標準モデル あり 4 -
モルタルのみ なし 4 鋼板の寄与
モルタル強度 2 倍 あり 8 モルタル強度の影響
図 2.13 時間的変化曲線
第 2 章 補強耐震壁の解析
11
表 2.2 Abacus 部材設定
木架構
要素 弾性線材
土台,柱
材料 スギ無等級材
断面 105×105 ㎜ ヤング係数 7.0kN/mm2 梁
材料 スギ無等級材
断面 105×240mm ヤング係数 7.0kN/mm2
拘束条件 梁-柱 ピン接合
土台-柱 剛もしくはピン接合
モルタル
要素 弾塑性シェル要素
幅×高さ×厚さ 910×2730×15 ヤング係数 8.11kN/㎜2
圧縮強度 4N/mm2 引張強度 0.4N/mm2
厚さ方向の積分点数 5
メッシュ幅 50 ㎜
鋼板
要素 弾塑性シェル要素
幅×高さ×厚さ 910×2730×0.5 ヤング係数 171kN/㎜2
降伏強度 328.2N/mm2
厚さ方向の積分点数 5
メッシュ幅 20 ㎜
ビスばね
並進タイプ Radial-Thrust 回転タイプ Cardin
剛性
Z 方向 剛
x,y方向
F[N] U[㎜]
1 0 0 2 2456 0.99 3 4157 17.01 4 1 60 5 0.1 150
鋼板せん断ばね
並進タイプ Radial-Thrust 回転タイプ Cardin
剛性
Z 方向 剛
x,y方向
F[N] U[㎜]
1 0 0 2 2937 1.16 3 3000 51.16
第 2 章 補強耐震壁の解析
12 2.3 解析結果
検討した解析モデルの結果を図 2.5 に示す。横軸は上部の梁の水平変位を高さで除した 変形角を示し,縦軸はせん断水平力を示す。
実験結果と標準モデルの比較を行うことで解析モデルの整合性を確認する。双方変形角 0.2%付近でビス接合部近傍のモルタルがひび割れる(図 2.14)ことで補強耐震壁の水平剛性 が低下した。せん断耐力は変形角約 3.0%まで実験結果と概ね一致するものの,以降標準モ デルと比べて実験のせん断耐力が高くなり,変形角約 5.5%時の実験の平均耐力は標準モデ ルの耐力より 17%高い。図 2.14 に示す F 点における木架構とモルタル,木架構と鋼板(それ ぞれ×と●)の Y 方向の相対変位を図 2.15 に示す。なお,実験の加力方向は図 2.14 の-X 方 向であり実験時測定点(図 2.1)は解析時と比べ左右対称に位置する。相対変位は変形角約 5.0%まで実験と解析結果が概ね一致したが,以降差が生じた。図 2.14 に示す A 点と G 点に おける壁実験と解析の挙動を図 2.16 に整理した。A 点では変形角約 5.0%以降で実験時にビ スの曲げ変形が生じ,解析においてもビスばねのせん断変位が上昇している。G 点では変形 角約 5.0%以降で実験時のビス頭の鋼板へのめり込みが生じ,解析においても鋼板せん断ば ねの変位が上昇した。以上より,標準モデルは精微な解析モデルとしては議論の余地があ るが,実験時の挙動と概ね一致しているため,補強耐震壁を評価できるモデルの一例とし て以降議論を進める。
図 2.5 荷重変形角関係(再掲)
第 2 章 補強耐震壁の解析
13 図 2.14 標準モデル 変形角 0.2%時
モルタル塑性ひずみ分布図
図 2.15 実験と解析の相対変位(F 点)
図 2.14 の A 点
図 2.14 の G 点
図 2.16 変形角 5.0%時実験の様子(左)と解析時の接合部変位の比較(右)
第 2 章 補強耐震壁の解析
14
鋼板寄与分を評価する目的で,モルタルのみモデルと標準モデルの結果を比較する。両 モデルとも変形角約 0.2%にビス接合部近傍と壁面対角にモルタルの塑性ひずみが生じ(図 2.14),水平剛性が低下した。以降,モルタルのみモデルに比べて標準モデルは剛性低下の 割合が低い(図 2.5)。モルタルの壁面対角のせん断ひび割れが進展するに従い,鋼板せん断 ばねを介して鋼板にせん断力が伝達されるためである(図 2.17)。鋼板は変形角約 1.3%で張 力場が形成されていることから,せん断水平力を負担していることがわかる(図 2.18)。同 変形角において,モルタルのみモデルと比較して標準モデルのモルタル塑性ひずみが抑制 されている(図 2.19,2.20)。変形角 7.3%の大変形時では,鋼板が引張力を負担しモルタル が圧縮力を負担している(図 2.21,2.22)。以上より,モルタルと鋼板が合成構造を発揮し ていることを確認した。
モルタル強度の影響を確認する目的で,モルタルの強度を 2 倍(Fc=8N/mm2,Ft=0.8N/mm2, E=10.21kN/mm2)としたモデルの解析を行った。変形角約 1.3%時モルタル塑性ひずみ分布は 標準モデルと比べて軽微であり(図 2.23),A 点近傍のビスばねが負担するせん断力が上昇 する(図 2.24)。同ビスばねの耐力低下に伴い,モルタル強度 2 倍モデルはせん断水平耐力 も最大耐力に達しているため,ビスばねの最大耐力が補強耐震壁に及ぼす影響は大きいと 考えられる。また,変形角 7.3%時においては,標準モデルに比べてモルタル強度 2 倍モデ ルは耐力低下が生じるビスばねの本数が多い。
図 2.17 解析のモルタルに対する 鋼板の変位(図 2.14 中の F 点)
図 2.18 標準モデル 変形角 1.3%時 鋼板の応力分布
第 2 章 補強耐震壁の解析
15 図 2.19 標準モデル 変形角 1.3%時
モルタル塑性ひずみ分布
図 2.20 モルタルのみ 変形角 1.3%時 モルタルの塑性ひずみ分布
図 2.21 標準モデル 変形角 7.3%時 鋼板の引張応力分布
図 2.22 標準モデル 変形角 7.3%時 モルタルの圧縮応力分布
図 2.23 モルタル強度 2 倍 変形角 1.3%時 モルタル塑性ひずみ分布
図 2.24 図 14 の A 点ビスばねの せん断力と変形角の関係
第 3 章 腰壁つき 2P の解析
16
第
3章 腰壁つき
2Pの解析
3.1 検討方針
本工法はモルタル仕上げ木造住宅に壁耐力を付与させ,木架構柱脚部の引き抜きを抑制 する点に特徴がある。壁耐力については既往の壁実験により評価を行っている9)。木架構柱 脚部の引き抜きを抑制効果はビス接合部試験により評価をしており 15),一般診断における 接合部仕様Ⅱ20)に値することを確認している。従って,柱脚の局所的な引き抜けを抑制する ことを期待して本工法による補強は階ごとの構面単位の補強を前提としている。本工法の 適用例を図 3.1 に示す。
本章では架構の接合部の引き抜きを考慮した解析モデルにより水平加力下の挙動を解析 的に評価する。実験による評価は行っておらず,解析による巣内評価のみとなる。解析モ デルは壁実験と概ね同じ挙動を再現できた補強耐震壁モデルを参考に設定する。
全面補強 構面単位補強 階ごとの構面単位補強
適用可能な補強方法(階ごとの構面単位の補強)
補強壁配置を固めた補強 配置が著しくバラバラな補強
適用不可能な補強方法 図 3.1 本工法適用例
第 3 章 腰壁つき 2P の解析
17 3.2 解析モデル概要
前章の解析モデルを拡張して図 3.2 のような 1P の全面壁に隣接する腰壁を含めた全幅 2P 分を補強壁とした解析モデル(以下,腰壁つき 2P)を構築した。腰壁にもモルタルが存在 し,補強壁同様に本工法による鋼板補強を行うと仮定する。木架構,モルタル,鋼板の材 料特性及び木架構とモルタル間の接合ばね(ビスばね),モルタルと鋼板間の接合ばね(鋼 板せん断ばね)は補強耐震壁の解析モデルと同様の設定である。
木架構の接合部は接合金物が存在しない場合を想定して柱と横架材の離間を考慮するば ね(以下,ほぞばね)を設けた。ほぞばねの鉛直方向の復元力特性を図 3.2 中に示す。柱 の軸方向引張側の耐力をゼロとし,圧縮側は「木造住宅の耐震診断と補強方法(例題編・
資料編)」21)を参考に復元力特性を算出した。水平方向は「木質構造接合部設計マニュアル」
22)の木ダボ接合部の剛性計算に準拠して算出し 4.8kN/mm の弾性ばねとした。
モルタルの形状は L 字型の立面として 2P 分連続させて 1 枚の弾塑性シェル要素とした。
鋼板は 1P ごとに 1 枚ずつ設け,腰壁高さを 910mm と想定して高さ 910 ㎜の鋼板を弾塑シェ ル要素として置換した。木架構の中柱部で鋼板が重なる箇所では図 3.2 の B 部で示すよう に 2 本の鋼板せん断ばねを設けた。鋼板それぞれのせん断耐力を評価するためである。
なお柱上部には木造住宅の耐震診断と補強方法(例題編・資料編)」21)を参考に 1 階にかか る鉛直荷重相当の鉛直荷重を載荷している。
図 3.2 腰壁つき 2P モデル概要図
第 3 章 腰壁つき 2P の解析
18
前章記述の標準モデルと同様に腰壁をモデル化した 2P 架構の解析モデルを標準 2P モデ ルと呼ぶ。腰壁つき 2P モデルを構成する各要素が架構の挙動に及ぼす影響を評価する目的 で,各要素の特性や条件を変えた解析モデルを構築した。仕様の一覧と各モデルを用いて の検討項目を表 3.1 に整理した。以降,同表中のモデル名を用いて議論を進める。
モルタルのみモデルは標準 2P モデルに対して鋼板を取り除いく構成とした。鋼板の有無 による本工法の補強効果を検証し,水平力化におけるモルタル損傷の様子について比較す る。モルタル強度 3 倍モデルは標準 2P モデルに対してモルタルの圧縮強度 Fc と引張強度 Ft を 3 倍とし(Ft=12N/mm2,Ft=1.2N/mm2),ヤング係数 E は「鉄筋コンクリート構造計算基 準16)」に準拠して E=11.7kN/mm2とした。モルタル強度による架構の挙動の影響について評 価する。参考として標準 2P モデルの部材設定一覧を表 3.2 に示す。なお,木架構,全面壁 の鋼板,ビスばね,鋼板せん断ばねの設定は前章と同様の設定であるため割愛する。
補強耐震壁の解析と同様の理由で,解析では動的陽解法(Abacus/Explicit)を用いた17)19)。
表 3.1 比較解析モデル詳細 モデル名 鋼板有無 モルタル強度
(N/㎜2)
モルタルと
鋼板の接触 評価項目
標準 2P モデル あり 4 考慮 -
モルタルのみ 2P なし 4 考慮 鋼板の寄与
モルタル強度 3 倍 あり 12 考慮 モルタル強度の影響
接触非考慮 あり 4 非考慮 鋼板によるモルタル
の面外変形抑制効果
第 3 章 腰壁つき 2P の解析
19
表 3.2 Abacus 部材設定
モルタル
要素 弾塑性シェル要素
幅×高さ×厚さ 1820×2730×15 ヤング係数 8.11kN/㎜2
圧縮強度 4N/mm2 引張強度 0.4N/mm2
厚さ方向の積分点数 5
メッシュ幅 50 ㎜
鋼板
要素 弾塑性シェル要素
幅×高さ×厚さ 910×910×0.5 ヤング係数 171kN/㎜2
降伏強度 328.2N/mm2
厚さ方向の積分点数 5
メッシュ幅 20 ㎜
ほぞばね
並進タイプ Cartesian(直交)
回転タイプ -
剛性
(※)
X 方向 4803(N/mm)
Y 方向
F[N] U[㎜]
1 -70000 -10 2 -43000 -2 3 0 0 4 1 10000
Z 方向 剛
(※)入力ばねの座標系は図 3.2 中記載の座標系
第 3 章 腰壁つき 2P の解析
20 3.3 解析結果
検討した解析モデルの結果を図 3.3 に示す。横軸は上部の梁の水平変位を高さで除した 変形角を示し,縦軸はせん断水平力を示す。
標準 2P モデルの+X 方向載荷時について,変形角 0.3%で図 3.4 の a 部のビスばね接合部 周辺のモルタルの塑性ひずみが進展し,壁の水平剛性が低下した。変形角 3.0%時に a 部の ビスばねが最大耐力に達し,同部の浮き上がりにより全面壁が剛体回転した。全面壁と腰 壁の接触位置に圧縮応力が集中し(図 3.5 の b 部),変形角 5.5%で腰壁部モルタルの構面外 変形が急激に上昇した(図 3.6 の c 部)。さらに,a 部近傍で耐力低下するビスばね増加と共 に架構のせん断水平耐力が低下する。
標準 2P モデルの-X 方向載荷時について,変形角 0.2%で中柱近傍のモルタルに鉛直ひび 割れが発生し,全面壁にもせん断ひび割れが発生した(図 3.7)。変形角の増大に伴い,全面 壁のモルタルのせん断ひび割れは進展するが(図 3.8),図 3.9 の d 部の鋼板せん断ばねを介 して全面壁の鋼板が張力場を形成してせん断力を負担する合成効果が確認できる。腰壁部 モルタルの損傷が軽微でありビスばねの耐力低下が発生していないため,架構のせん断水 平耐力が低下しない。
図 3.3 荷重変形角関係
第 3 章 腰壁つき 2P の解析
21 図 3.4 標準 2P モデル
+X 方向載荷 変形角 0.3%
モルタル塑性ひずみ分布
図 3.5 標準 2P モデル +X 方向載荷 変形角 3.0%
モルタルの応力分布
図 3.6 標準 2P モデル +X 方向載荷 変形角 5.5%
モルタルの面外変位(※)
図 3.7 標準 2P モデル -X 方向載荷 変形角 0.2%
モルタル塑性ひずみ分布
図 3.8 標準 2P モデル -X 方向載荷 変形角 2.0%
モルタル塑性ひずみ分布
図 3.9 標準 2P モデル -X 方向載荷 変形角 2.0%
鋼板の応力分布
(※)モルタルの面外変位は図 3.2 中の Z 方向
第 3 章 腰壁つき 2P の解析
22
モルタルのみモデルについて,+X 方向載荷時は変形角 0.3%時に全面壁最下最左でモルタ ルにひび割れが発生してから水平耐力は上昇しない。鋼板が存在しないため,全面壁が剛 体的に回転せず,腰壁の構面外変形も発生しない(図 3.10)。
-X 方向載荷時では変形角 0.2%で中柱近傍のモルタルに鉛直方向のひび割れが発生し,全 面壁のせん断ひび割れも発生して架構の水平剛性が低下した。図 3.11 で変形角 2.0%のモル タル塑性ひずみ分布を図 3.8 の標準 2P モデルと比較すると,全面壁の引張ひずみとせん断 ひび割れの進展が大きいことがわかる。すなわち,鋼板がモルタルのせん断ひび割れを抑 制していると考えられる。また,標準 2P モデルの最大耐力はモルタルのみモデルの 2.0 倍 (+X 方向)と 2.4 倍(-X 方向)であり,鋼板の耐力寄与は大きい。
モルタル強度 3 倍モデル(Fc=12N/mm2,Ft=1.2N/mm2,E=11.7kN/mm2)では,標準 2P モデル と比べて+-X 方向載荷共に全面壁の引張ひずみが小さく,せん断ひび割れが尐ない(図 3.7 と図 3.12)。+X 方向載荷時の図 3.4 の a 部と接合部ばねのせん断力を図 3.13 に示す。モル タル強度 3 倍モデルでは同部周辺のモルタルの局所的な塑性変形が小さく,結果的にビス ばねが負担するせん断力が他のモデルの同じ変形角での値よりも大きい。また,変形角 7.3%
時の図 3.4 の a 部の木柱の浮き上がりに着目すると,標準 2P モデルでは 56 ㎜,モルタル 強度 3 倍モデルでは 64 ㎜である。従って,モルタル強度の増大により,木架構とモルタル 鋼板がより一体的に変形することがわかる。
-X 方向載荷時では,標準 2P モデルのように変形角 0.2 %付近で水平剛性が低下しない。
また,腰壁が全面壁の剛体回転を抑制する効果があり,壁の水平耐力はビスばねのせん断 耐力よりモルタル強度に依存する。
接触非考慮モデルでは,+X 方向載荷時変形角 5.0%から腰壁部モルタルの面外変位が急激 に増大し(図 3.12),架構の水平耐力が低下した。一方,標準 2P モデルでは腰壁部モルタ ルの面外変形が拘束され,変形角 5.5%以降水平耐力は緩やかに低下している。
-X 方向載荷時は,全面壁のモルタルにも面外変形が発生した(図 3.13。それに伴い変形 角 6.0%での架構の水平耐力が低下した。すなわち,角波形状である鋼板の面外剛性により,
モルタルの面外変形抑制効果があることがわかる。
第 3 章 腰壁つき 2P の解析
23 図 3.10 モルタルのみモデル
+X 方向載荷 変形角 5.5%
モルタルの面外変位(※)
図 3.11 モルタルのみモデル -X 方向載荷 変形角 2.0%
モルタル塑性ひずみ分布
図 3.12 標モルタル強度 3 倍モデル -X 方向載荷 変形角 0.2%
モルタル塑性ひずみ分布
図 3.13 図 21 の a 部 ばねのせん断力と変形角の関係
図 3.12 接触非考慮モデル +X 方向載荷 変形角 5.5%
モルタルの面外変位(※)
図 3.13 接触非考慮モデル -X 方向載荷 変形角 7.3%
モルタルの面外方向変位(※)
(※)モルタルの面外変位は図 3.2 中の Z 方向
第 3 章 腰壁つき 2P の解析
24 3.4 構面への適用
腰壁つき 2Pをさらに拡張して,「木造住宅の耐震診断と補強方法(例題編・資料編)」
21)pp175 の例題架構の 1 階部分に対して本工法による鋼板補強を行うと仮定する。構面すべ ての腰壁と垂れ壁に本工法を適用する。解析モデル技要図を以下の図 3.14 に示す。部材設 定は腰壁つきと同様の設定となっており,垂れ壁については腰壁と同じ形状の鋼板を置換 している。
本モデルにおいても,架構を構成する各要素が架構の挙動に及ぼす影響を評価する目的 で各要素の特性や条件を変えた解析モデルを構築した。仕様の一覧と各モデルを用いての 検討項目を表 3.3 に整理した。以降,同表中のモデル名を用いて議論を進める。
補強耐震壁の解析と同様の理由で,解析では動的陽解法(Abacus/Explicit)を用いた17)19)。 時間変化曲線も補強耐震壁の解析と同様に設定した。
図 3.14 構面シェルモデル概要図
表 3.3 比較解析モデル詳細
モデル名 鋼板有無 モルタル強度
(N/㎜2) 評価項目
標準構面モデル あり 4 -
モルタルのみ構面 なし 4 鋼板の寄与
モルタル強度 3 倍構面 あり 12 モルタル強度の影響
第 3 章 腰壁つき 2P の解析
25
構築した 3 つのモデルの解析結果を以下の図 3.15 に示す。横軸は上部の梁の水平変位を 高さで除した変形角を示し,縦軸はせん断水平力を示す。
いずれのモデルにおいても載荷方向の違いによる架構の耐力差は限定的であった。標準 モデルの正方向載荷時の挙動について以下の表 3.4 にまとめた23)
図 3.15 荷重変形関係
表 3.4 標準構面モデル正方向載荷時の挙動まとめ
変形角 挙動
0.1%程度 腰壁の圧壊により剛性が低下
0.2% 開口部付近のモルタルのひび割れが進行(図 3.16)
0.6% 全面壁せん断ひび割れ発生
1.3% 腰壁,垂れ壁せん断ひび割れ発生し架構の耐力が低下(図 3.17)
その後,通り芯①(図 1C 部)の柱脚部ビスばねのせん断力が上昇(図 3.18)
1.6% 中央全面壁鋼板に張力場発生し,架構の耐力が上昇したと考えられる。(図 3.19)
4.0% 最左隅の柱脚部のビスばね及び鋼板せん断ばねの耐力が低下。右側の垂れ壁 圧縮部分の面外座屈に起因したと考えられる。
第 3 章 腰壁つき 2P の解析
26
標準構面モデルは正負両方向ともに変形角 0.1~0.2%時に開口部付近のモルタル損傷に よって,架構のせん断水平剛性が低下する。 開口部付近のモルタルの損傷と早期の腰壁 部モルタルの圧壊によって,耐力負担する架構が線対称となり,1P ごとで独立して剛体回 転する。載荷方向によって解析への影響がない原因はこれらに起因すると考えられる。ま た,正負両方向で引張側柱の 2 つのばね(ビスばねと鋼板せん断ばね)の挙動がほぼ一致 していることを確認した(図 3.21)。
+-X 方向載荷時の挙動が概ね一致していたため,以降+X 方向載位荷時のみについて述べ る。
図 3.16 標準構面モデル +X 方向載荷 変形角 0.2%
モルタル塑性ひずみ分布
図 3.17 標準構面モデル +X 方向載荷 変形角 1.3%時
モルタルひずみ分布
図 3.18 図 3.14 の C 部 ばねのせん断力と架構の変形角の関係
図 3.20 標準構面モデル +X 方向載荷 変形角 1.6%時
鋼板の応力分布
ばねの変位-架構の変形角関係 ばねのせん断力-架構の変形角の関係 図 3.21 引張側脚部 2 つのばね(ビスばねと鋼板せん断ばね)の挙動
第 3 章 腰壁つき 2P の解析
27
標準モデルとモルタルのみモデルは共に変形角約 0.2%時に開口部付近のモルタルにひび 割れが進行(図 3.16 と図 3.22)し架構の剛性は低下する。同変形角以降モルタルが離間す る位置(図 3.14 の A,B 部)の鋼板せん断ばねが全面壁の鋼板にせん断力を伝達するため(図 13),モルタルのみモデルと比較して,架構の耐力が上昇していると考えられる。変形角 0.2%
以降の標準モデルとモルタルのみモデルの挙動の違いはこのことに起因すると考えられる。
モルタルの損傷について比較するとモルタルのみモデルと比べて標準モデルの全面壁の損 傷が抑えられていることが確認できた(図 3.17 と図 3.23)。図 3.24 のばねの挙動と架構の 変形角関係において,全面壁側に取りついている鋼板せん断ばねが変形角 1-2%で負担する せん断力が上昇し降伏耐力に達していることからも,全面壁の鋼板にせん断力が伝達され ていることがわかる。
変形角 7.3%時における標準モデルとモルタルのみモデルのモルタルの損傷の違いを以下 に示す。標準モデルはモルタルのみモデルと比べて,全面壁の面外方向の変形が抑えられ ていること(図 15)が確認できた。また,開口部付近のモルタルの損傷は激しいものの全面 壁のモルタルの損傷はモルタルのみモデルと比べて抑えられていることも確認できた(図 16)。
図 3.22 モルタルのみモデル +X 方向載荷 変形角 0.2%時
モルタルひずみ分布
図 3.23 モルタルのみモデル +X 方向載荷 変形角 1.3%時
モルタルひずみ分布
鋼板せん断ばね全面壁側 鋼板せん断ばね垂れ壁側
図 3.24 A 部のばねの挙動
図 3.25 標準構面モデル +X 方向載荷 変形角 7.3%時
モルタルの面外方向変位
図 3.26 モルタルのみモデル +X 方向載荷 変形角 7.3%時
モルタルの面外方向変位
第 3 章 腰壁つき 2P の解析
28
モルタル強度 3 倍モデル(Fc=12N/mm2,Ft=1.2N/mm2,E=11.7kN/mm2)の解析結果を標準モデ ルと比較する。図 3.15 の荷重変形関係より,モルタル強度 3 倍モデルは標準モデルと比べ て変形角 0.2%以降剛性が高い。これは全面壁モルタルのせん断破壊が進展しない代わりに 全面壁のロッキング変形が進展するためであると考えられる(図 3.27 と図 3.28)。また,
図 3.14 の C 部の引張側側木架構柱脚部の浮き上がりは,標準モデルの場合は 55.7mm であ り,モルタル強度 3 倍モデルの場合は 86.0mm であった。なお本研究では,木架構のほぞが 完全に引き抜けることによる柱の土台からの踏み外しを評価できていない。同部周辺のモ ルタルの局所的な塑性変形が小さく,結果的にビスばねが負担するせん断力が他のモデル の同じ変形角での値よりも大きい(図 3.29)。
構面モデルの崩壊形は架構の最大耐力はビス引張側の全面壁の浮き上がりによるビスの 耐力低下により決定した。
図 3.27 構面標準モデル +X 方向載荷 変形角 7.3%時
鋼板の応力分布
図 3.28 モルタル強度 3 倍モデル +X 方向載荷 変形角 7.3%時
鋼板の応力分布
図 3.29 図 3.14 の C 部 ばねのせん断力と変形角の関係
第 3 章 腰壁つき 2P の解析
29
第 4 章 検討したモデルの課題と今後の評価方法
30
第
4章 検討したモデルの課題と今後の評価方法
4.1 解析モデルの課題
本工法を適用した補強耐震壁がせん断水平力を受けたとき,モルタルが壁面対角に圧縮 場を形成し,鋼板が壁面対角に引張場を形成する (図 4.1 と図 4.2)。モルタルが圧縮場を 形成する箇所においてはモルタルが主として圧縮力を負担しながらモルタルと鋼板が一体 となって木架構に対してずれる。一方,鋼板が張力場を形成する箇所においてはモルタル 損傷後に鋼板が主として引張力を負担しながら鋼板がモルタルに対してずれる。そのため,
鋼板を留めつけているビスは,モルタルの圧縮力を主としてせん断力が生じるビス(以下,
モルタル圧縮下のビス)と鋼板の引張力を主としてせん断力が生じるビス(以下,鋼板張力 下のビス)がそれぞれ存在する(図 4.3),モルタル圧縮下のビスは木架構-モルタル間で生 じるずれ変位に対してせん断力を発揮する。一方で,鋼板張力下のビスは木架構-モルタ ル間のずれ変位に対するせん断力だけではなく,モルタル-鋼板間で生じるずれ変位に対 してもせん断力を発揮する。
2 章で記載した補強耐震壁の性能を評価する解析モデル(図 2.6)は各部材のずれ変位 に対してそれぞれ反力を返すばねを入力している。次頁以降で各ばねの解析モデルに入力 する上での問題点について述べる。
図 4.1 標準モデル 変形角 7.3%
モルタルの圧縮応力度分布
図 4.2 標準モデル 変形角 7.3%時 鋼板の引張応力度分布
第 4 章 検討したモデルの課題と今後の評価方法
31
図 4.3 ビスの挙動概念図
図 4.4 補強耐震壁の解析モデル概要図(再掲)
第 4 章 検討したモデルの課題と今後の評価方法
32
本論文の解析モデルで用いたビスばねの復元力特性算出根拠となった既往のビス接合部 せん断試験15)18)は鋼板張力の影響を加味している(図 4.5)ため,木架構-モルタル間に入力 するばねとして入力した場合は鋼板せん断ばねの特性が重複する。また,鋼板せん断ばね は壁実験時に発生したビスの曲げ変形に伴うビス頭の鋼板へのめり込みを考慮できておら ず(図 4.6),防水対策のビス頭のパッキン付き AZ ワッシャーによる影響も考慮できていな い。
図 4.5 ビスばねの復元力特性を 評価した接合部実験の様子(再掲)
図 4.6 壁実験時 尾部変形の進行に伴うめり込み
第 4 章 検討したモデルの課題と今後の評価方法
33 4.2 今後の方針
今後はそれぞれの部材間のずれ変位に対して反力を返すばねの復元力特性を一面せん断 試験により求める。モルタル圧縮下のビスの挙動を評価する実験を図 4.7,鋼板張力下のビ スの挙動を評価する実験を図 4.8 にそれぞれ示す。モルタル圧縮下一面せん断試験では,
木架構に対してモルタルと鋼板が一体となって動くことで木架構-モルタル間に生じるせ ん断力(つまり,モルタル圧縮下においてビスに生じるせん断力)を評価し,鋼板モルタル 間のビス接合部一面せん断試験では,木架構に固定されたモルタルに対して鋼板のみが動 くことによってモルタル-鋼板間に生じるせん断力(つまり,鋼板張力下においてビスに生 じるせん断力)を評価する。
図 4.7 モルタル圧縮下のビス接合部一面せん断試験
図 4.8 鋼板張力下のビス接合部一面せん断試験
第 4 章 検討したモデルの課題と今後の評価方法
34 4.3 モルタル圧縮下の評価
実験の目的
前述の通り,本工法を適用した補強壁がせん断水平力を受けたとき、モルタルが壁面対 角に圧縮場を形成し、鋼板が壁面対角に引張場を形成する。そのため、鋼板を留め付けて いるビスはモルタルの圧縮力を主としてせん断力が生じるビスと鋼板の引張力を主として せん断力を負担するビスが存在することになる。本論文で入力したビスばねの復元力特性 算出根拠となった2016年度柱脚引張実験はモルタルと鋼板に対して引張力を加力している ためモルタルが初期にひび割れを起こし鋼板が負担する張力も評価した実験となっている。
つまり,鋼板せん断ばねの特性を重複して評価されているため,木架構-モルタル間の相 対変位に対するビスばねの復元力特性値として解析モデルに入力することは不適切である ことが考えられる。また,本論文においてモルタル強度が
モルタル圧縮下ビス接合部一面せん断試験ではモルタルの圧縮力を主としてせん断力が 生じるビスの性能を評価することで,木架構-モルタル間の相対変位に対するビスばねの 復元力特性を算出することを目的とする。
評価項目
本試験は(財)日本住宅・木材技術センターの「木造軸組工法住宅の許容応力度設計(2008 年度)24)」の「試験方法と評価方法 継手・仕口接合部の試験」に準拠し、試験体上部柱を 材軸方向に繰り返し載荷を行う。試験体は 17 体行い、そのうち 1 体を予備試験で単調圧縮 加力する。予備試験の結果を踏まえ、本試験で試験体柱の材軸方向に一方向の繰り返し加 力を行う。予備試験(単調加力)から得た降伏変位δyの 1/2,1,2,4,6,8,12,16 倍の 変形まで順に 1 回の繰り返し加力を行う。なお、降伏変位δyが得られない場合には、最大 荷重時変位δmax の 1/10,1/5,3/10,2/5,1/2,3/5,7/10,1 の順で繰り返し加力を行う。
第 4 章 検討したモデルの課題と今後の評価方法
35 試験体構成
試験体はモルタル既存仕上げを再現した上でゴムスペーサーと防水両面テープ(ブチル ゴム)を介して鋼板をビス(6φ×115 ㎜)により留め付ける。木架構は梁・柱が 105 角,
土台は 150×105 ㎜としいずれも杉(無等級材)とした。モルタル養生後,ゴムスペーサー
(幅 50 ㎜,厚さ 2 ㎜)を防水両面テープ(ブチルゴム)を使用してモルタルに貼り付ける。
その上から鋼板をビスにより留め付ける。柱・梁に留め付けるビスによりモルタル・鋼板 を木架構に固定し,土台に留め付けるビスにより,木架構-モルタル間の相対変位に対す るビスばねの復元力特性を評価する。試験体は圧縮力を裁荷するために土台と柱の間には 50 ㎜の隙間を設けた。
図 4.7 モルタル圧縮下のビス接合部一面せん断試験概要(再掲)
第 4 章 検討したモデルの課題と今後の評価方法
36 4.4 鋼板張力下の評価
実験の目的
前述の通り,本工法を適用した補強壁がせん断水平力を受けたとき、モルタルが壁面対 角に圧縮場を形成し、鋼板が壁面対角に引張場を形成する。そのため、鋼板を留め付けて いるビスはモルタルの圧縮力を主としてせん断力が生じるビスと鋼板の引張力を主として せん断力を負担するビスが存在することになる。本論文で入力した鋼板せん断ばねの復元 力特性算出根拠となった 2014 年度ビス接合部一面せん断試験は木架構と鋼板の接合部の力 学的特性を評価した実験であり,本工法においては木架構と鋼板の間にモルタル仕上げ(厚 さ 15~35mm)が存在する。また止水を考慮してビス頭には AZ ワッシャーを設けている。従 って,ビスの曲げ変形進行に伴うビス頭の鋼板へのめり込み及び AZ ワッシャーによる支圧 強度の変化を考慮できていない。従って,モルタル-鋼板間の相対変位に対する鋼板せん 断ばねの復元力特性値として解析モデルに入力する際には見直しが必要であると考えた。
鋼板モルタル間のビス接合部の一面せん断試験では鋼板の張力を主としてせん断力が生 じるビスの性能を評価することで,モルタル-鋼板間の相対変位に対する鋼板せん断ばね の復元力特性を算出することを目的とする。
評価項目
耐震補強壁にせん断水平力が作用した場合にモルタル-鋼板間に作用するせん断力,つ まり鋼板の張力を主としてせん断力を伝達する鋼板せん断ばねの復元力特性を評価する。
試験体の木材の繊維方向に単調加力し,ビス接合部位置でのモルタルと鋼板の鉛直変位 を測定することで,モルタル-鋼板間の相対変位と引張荷重の関係を得る。ビスの曲げ変 形を考慮する目的でモルタルは鋼板に追従しない範囲で木架構に半固定とした。
第 4 章 検討したモデルの課題と今後の評価方法
37 試験体構成
試験体はモルタル既存仕上げを再現した上でゴムスペーサーと防水両面テープ(ブチル ゴム)を介して鋼板をビス(6φ×115 ㎜)により留め付ける。木架構は柱が 105 角,柱の 間の横架材は 210×105 ㎜としいずれも杉(無等級材)とした。モルタル養生後,ゴムスペ ーサー(幅 50 ㎜,厚さ 2 ㎜)を防水両面テープ(ブチルゴム)を使用してモルタルに貼り 付ける。その上から鋼板をビスにより留め付ける。上側柱に十分なせん断耐力を保持する ように複数のビスにより固定した。下側柱に留め付けたビスにより,モルタル-鋼板間の 相対変位に対する鋼板せん断ばねの復元力特性を評価する。
図 4.8 鋼板張力下のビス接合部一面せん断試験(再掲)
第 5 章 中野区 K 邸施工調査記録
38
第
5章 中野区
K邸施工調査記録
施工調査の目的
本工法を短工期で安価にて普及させるため,人工減に繋がる製品改良や板金作業項目を 抽出することを目的とし,作業能率測定指針(案)25)に準拠して,K 邸補強工事の施工調査 を行った。本物件は外壁構面に直接鋼板を留め付ける工法として確立してから 2 物件目に なる。1 物件目(S 邸)の工事15)で生じた課題から製品改良や施工マニュアルの整備を行う ことで,施工性向上率を確認する。以下に工事の改良点を示す。
1. 鋼板
1-1 外周部の取付けビス穴加工(1 物件目は現場で職人が穴加工)
1-2 養生フィルム張りを施した(製品の傷防止)
1-3 工場加工を実施
2. ゴムスペーサーとブチルテープが一体となったブチルゴムを使用 3. 工事前に外付鋼板耐震補強工法の施工マニュアルを実施
長ビスと短ビスを打ち付ける箇所の違い等について講習を行った
建物概要
建物概要を以下に示す。
建物名称 : 上落合 K 邸 所在地 : 東京都新宿区
竣工念 : 1985 年(築 33 年)
構造 : 外壁モルタル仕上 木造住宅 2 階建て
(新耐震基準)
延床面積 : 56.26m2 施工面積 : 91.6m2
K 邸補強工事前外観 2019 年 2 月 1 日撮影
第 5 章 中野区 K 邸施工調査記録
39 補強工事要領
対象建物の補強前後の外観は写真 1.1 に示したものである。補強計画と耐震補強前後の 一般診断結果(生活協同組合・消費者住宅センター実施)をそれぞれ図 5.1,表 5.1 に示す。
図 5.1 に示す入隅補強壁は建物の入隅部や柱が存在しない場合等により片方の柱にビス止 め不可能な状態の壁を補強した耐力壁である。耐力壁としての性能は,既往研究で実験と 解析により評価している26)。
K 邸の既存躯体の状況は木架構の腐食がなく,本工法適用外となるモルタル劣化も見受け られなかった。既存躯体に施す補強工事はミドルコーナー金物(接合部仕様Ⅰ相当)によ る木架構接合部補強と既存モルタル仕上げのひび割れ補修を行ったのみである。
図 5.1 耐震補強壁配置図
表 5.1 K 邸補強前後の一般診断結果(※)
階 方向 上部構造評点
補強前 補強後
2 X 1.44 1.38
Y 1.09 1.47
1 X 0.54 1.05
Y 1.03 1.51
(※)生活協同組合・消費者住宅センター実施