島 克 弥
3 世代内での同一剤の 2 回連続散布
害虫の同じ世代での同一薬剤の使用は抵抗性発達には 影響しない。日本では実践されていないが,米国の果樹,
ブラジルの大豆,EUの果菜等では普通に行われている。
我が国においても農薬登録の使用方法を守れば特段問題 はない。使用回数が複数回の剤では利用可能な技術であ る(渡邊,未発表)。また,マイナー作物のように登録 がある薬剤,登録剤の作用機構の数が限られている場合 も同様に利用できる技術である。さらに,茶のように1 作期当たり1回の使用回数制限がある場合は同一作用機 構グループ内の複数剤を連用することで同様の効果を期 待することができる。
4 IPM技術やその研究の併用
総合的病害虫・雑草管理(Integrated Pest Management,
以下IPM)の実践がそのまま殺虫剤抵抗性管理( Insecti-cide Resistance Management
,以下
IRM)の実践になる ことはすでに言及されている(宮井,2015)。例えば以 下のような技術も世代間ローテーションと併用すること でIRMに有効である。・天敵利用技術:日本では多種多様な天敵の基礎あるい は利用研究や天敵に対する薬剤影響試験などが行われて おり,その結果は容易に利用できる。増田(2015)は宮 城県のイチゴでのIPM実証研究が,結果的に抵抗性害 虫に対する防除技術になることを紹介した。過去に実施 された天敵試験を見直し,利用することは,データソー スの多い我が国ではとても有効な手段と考えられる。た 図−4 世代間ローテーションを考慮した時系列に基づいた新しい防除暦
県/地区 長野 八ヶ岳 作物 ハクサイ
月
週 1st 2nd 3rd 4th 1st 2nd 3rd 4th 1st 2nd 3rd 4th 1st 2nd 3rd 4th 1st 2nd 3rd 4th 1st 2nd 3rd 4th 1st 2nd 3rd 4th 1st 2nd 3rd 4th コナガ
オオタバコガ アブラムシ その他チョウ目害虫
0 0 0 0 0 0 1 2 3 4 7 10 13 9 4 3 6 6 7 6 5 4 6 7 6 5 4 3 2
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1 2 2 2 3 5 6 7 4 5 6 8 8 10 8 6 8
1 2 3 4 5 6 9 10 6 3 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 5 5 2
0 0 0 0 1 1 0 10 3 4 2 1 2 0 6 10 11 0 6 0
コナガ データ:トラップ捕殺数(JA 八ヶ岳,2014)
オオタバコガ データ:トラップ捕殺数(JA 八ヶ岳,2014)
アブラムシ 佐久浅間2013,代用
その他チョウ目害虫 データ:トラップ捕殺数(JA 八ヶ岳,2014)
播種 定植
(生育期間)
結球 収穫
殺虫剤 IRAC ナンバー 51 52 53 54 55 56 51 52 53 54 55 56 ※ここでのナンバーは仮想
殺虫剤 IRAC ナンバー 53 54 55 56 51 52 53 54 55 56 ※ここでのナンバーは仮想
殺虫剤 IRAC ナンバー 61 62 63 64 65 66 61 62 63 64 65 66 61 ※ここでのナンバーは仮想
殺虫剤 IRAC ナンバー 24 25 26 21 22 23 24 25 26 ※ここでのナンバーは仮想
殺菌剤 FRAC ナンバー ※ここでのナンバーは仮想
その他 チョウ目害虫 備考
・・・・ 備考 コナガ 備考 オオタバコガ
備考 アブラムシ
備考 害虫の発生/
栽培体系 発生消長
害虫の 発生消長
栽培体系
6月 7月 8月 9月 10月
3月 4月 5月
Cf.
過去5
年の発生消長の平均
例
図−6 ハワイでのコナガの薬剤抵抗性管理
(2005よりIRMを実施:キャベツの場合,時系列での薬剤ローテーションと縦への混用(一部)の併用 で,2017年現在まで抵抗性発達の報告はない.)
図−5 西オーストラリアでのコナガの薬剤抵抗性管理
(2009よりIRMを実施:1年を2ブロックに分けて,それぞれのブロックで使用する剤を限定している.
2017年現在まで抵抗性発達の報告はない.)
だし,利用できる研究データが県の試験場報告レベルな どで広く知られていないケースがしばしば散見され,デ ータを有効活用できていないケースも多々ある(北林,
私信)。
・抵抗性品種の利用技術:近年,問題化しているウイル ス媒介虫による病害被害は深刻である。ウイルス抵抗性 品種などが,非常に有効な手段として利用されている。
・赤色ネット(大矢ら,2012)や赤色光を利用した害虫 防除技術(農研機構,2014)
:害虫の生態をうまく防除
に利用した技術で近年実証研究もかなり進んでいる。・苗での高濃度炭酸ガス処理の技術:近年イチゴで農薬 登録されたナミハダニ(小山田ら,2013)や,ミカンキ イロアザミウマ(関ら,2011)の微小害虫の初期密度低 下に極めて有効である。
・高薬量・保護区戦略:登録の薬量に範囲がある場合,
低薬量側を用いず高薬量で処理を行い,さらに圃場の一 部に薬剤処理を行わない保護区を設定することにより薬 剤感受性の高い害虫を残していくという考え方で(鈴木,
2012
;山本,
2015),海外では実践されている。
これらのようなIPM技術は世代間ローテーションと 併用することにより,さらに抵抗性リスクを下げる非常 に有効な管理手段になりうると考えられる。
お わ り に
安定した農産物の生産には病害虫・雑草防除が必要不 可欠であり,そのための手段としては耕種的・物理的・
生物的・化学的防除等が挙げられるが,それらを総合的 に組合せ,さらに環境への負荷を低減するための概念と して,IPMが提唱されている。現状ではIPM実践の核 になるのはやはり化学的防除で,多くの有機合成農薬が 使用されている。
これら有機合成農薬に対する薬剤抵抗性は1950年代 以降現在まで,生産者,農業関係者および農薬メーカー が直面している深刻な課題の一つである。薬剤抵抗性の 発達は最終的には避けようのないものであり,薬剤抵抗 性の発現がゼロになることはない。しかしながら,IRAC ホームページに紹介されているアブラナ科でのコナガに 対する西オーストラリア(図―5)やハワイ(図―6)での 薬剤感受性維持の成功例のように,抵抗性を管理し,そ の発現を防ぐ,もしくは遅延させることは可能であると 考える。本稿で世代間ローテーションの実践とそれと同
時に行うべき手法について述べてきた。指導者の現場で の抵抗性管理に参考やヒントとなれば幸いである。
最後に,1960年代にさかのぼるIPMの考えかたは日 本でも2000年代初頭には生産者レベルにも定着してき た(島,2005)。生産者の仕事は作物を作ることで決し て害虫や病気を管理することではないことを指導者は理 解し,IPM技術を普及するうえでは常に作物生産を意識 した栽培管理を中心とした総合的作物管理(ICM;Inte-grated Crop Management)の中で生産者へ薬剤抵抗性管 理をご指導していただきたい。将来的には総合的生物多 様性管理(IBM;Integrated Biodiversity Management)
へと継っていくうえで,さらに抵抗性管理は重要な構成 要素・技術になると考えている。
引 用 文 献
1)足立年一ら(1989): 兵庫県立中央農業技術センター研究報告 37 : 83〜86.
2) Arthropod Pesticide Resistance Database : https://www.pesticideresistance.org/
3)廣岡 卓(2010): 日本植物防疫協会シンポジウム「薬剤抵抗 性を考える」講演要旨集 : 1〜18.
4) IRACホームページ : http://www.irac-online.org
5) IRACチョウ目部会日本支部会(2017): チョウ目殺虫剤の抵抗
性に関するお願い〜ジアミド剤を例にして〜 Ver.1702 : 6 pp. 6) JFRACホームページ : https://www.jfrac.com
7)増田俊雄(2015): 第20回農林害虫防除研究会(大分大会)講演 要旨集 : 17.
8)宮井俊一(2015): 第20回農林害虫防除研究会(大分大会)講演 要旨集 : 5〜6.
9)水野晶巳(2010): 日本植物防疫協会シンポジウム「薬剤抵抗 性を考える」講演要旨集 : 51〜68.
10)日本植物防疫協会(2013): 農薬作用機構分類一覧 : 117 pp. 11)農研機構(2014): 光を利用した害虫防除のための手引き : 66 pp.
12)農林水産省(2016): 消費・安全局植物防疫課通知 : 27消安第 5899号.
13)農薬工業会ホームページ : http://www.jcpa.or.jp
14)岡崎真一郎ら(2015): 第59回日本応用動物昆虫学会(山形大会)
講演要旨集 : 206.
15)大矢武志ら(2012): ナノファイバー学会誌 3(1): 22〜24.
16)小山田高一ら(2013): 日本応用動物昆虫学会誌 57(4): 249〜 256.
17)関 昌夫ら(2011): 同上 55(3): 174〜177.
18)島 克弥(2005): 植物防疫 59(11): 488〜491.
19) (2010 a): 第27回日本農薬学会農薬生物活性研究会講
演要旨集 : 13〜16.
20) (2010 b): 第15回農林害虫研究会(埼玉大会)講演要 旨集 : 24.
21)白石 慎(2012 a): 日本植物防疫協会シンポジウム「薬剤抵抗 性の課題と対応」講演要旨集 : 65〜84.
22) (2012 b): 「ポストゲノム時代の害虫防除研究のあり 方」第5回―殺虫剤抵抗性問題の最前線― : 50〜53.
23)曽根信三郎(2007): 木材保存 33(4): 160〜165. 24)鈴木芳人(2012): 植物防疫 66(7): 380〜384.
25)田中 寛(1993): コナガおもしろい生態とかしこい防ぎ方,
農文協,東京,118 pp.
26)山本敦司(2015): 農業および園芸 90(3): 320〜330.