龍谷大学農学部資源生物科学科 新技術解説
図−1 DNA抽出に供試した根こぶ
― 40 ― よび根の中間部位1 cmを無作為に採取し,実験に供試 した。
2 DNA抽出
ビーズ破砕用2 mlチューブにDNA抽出キット(簡易 DNA抽出キット植物用,カネカ*)A液を100μl分注し,
採取した根こぶ1個を入れた。そこへ径3.5 mmステン レ ス ビ ー ズ を1個 入 れ,ビ ー ズ 破 砕 機(Bead Smash 12R,ワケンビーテック)を用いて4,000 rpm・1分処理 し,根こぶを破砕した。破砕液をPCR用0.5 mlチュー ブに移し,95℃・10分間処理し,反応液が室温まで冷 めた後,B液14μlを添加し,よく混和した。5,000 rpm・
5分の遠心を行い,上澄みのみを別のチューブに移し,
鋳型DNAとした。なお,PCRのみであればB液混和後 のそのままの反応液を用いてもよい。根こぶの見られな い根の先端1 cm,および根の中間部位1 cmについても 先述と同様に鋳型DNAを作成した。このように,DNA 抽出に要する時間は15〜20分程度と短時間であった。
鋳型DNAは使用時まで−20℃で保存した。
3 PCRおよびリアルタイムPCR
PCRには,プライマーとしてネコブセンチュウの種 同定に用いられるPOWERS and HARRIS(1993)のミトコン ドリア領域を増幅するプライマー,およびサツマイモネ コブセンチュウ種特異的プライマー(TOYOTA et al., 2008)
を用いた。配列は,種同定用プライマーがC2F3:5ʼ―
GGT CAA TGT TCA GAA ATT TGT GG―3ʼ,1108:5ʼ―
TAC CTT TGA CCA ATC ACG CT―3ʼ,種特異的プライマ ーがRKNf:5ʼ―GCT GGT GTC TAA GTG TTG CTG ATA C―3
ʼ,RKNr:5 ʼ―GAG CCT AGT GAT CCA CCG ATA
AG―3ʼである。反応はPCR用0.5 mlチューブを用い,鋳型DNAを2μl,10×緩衝液を2.5μl,10 mM dNTPを
2.0μl,10 mMプライマー溶液をそれぞれ1μlずつ,水
を16.4μl,TaqDNAポリメラーゼ(TaKaRa Ex Taq® Hot Start Version,タカラバイオ)を0.1μl,計25μlで反応 させた。PCR装置はGeneAtlas S(ASTEC)を用いた。
反応は,種同定用プライマーを用いたものは,94℃・2
分の後,94℃・1分,48℃・2分,68℃・3分のサイクル を35回行い,最終伸長を72℃・5分行った。種特異的 プライマーを用いたものは,95℃・10秒の後,95℃・5 秒,60℃・30秒のサイクルを45回行った。反応後,サ ンプルは0.005% GelRed™(GelRed™ Nucleic Acid Stain, 10,000× in water, Biotium)を含む寒天ゲルで電気泳動
(100 V・20分)を行い,撮影した。
リアルタイムPCRは先述のサツマイモネコブセンチ ュウ種特異プライマーを用い,リアルタイムPCR装置
(CFX Connect™,BIO―RAD)によるDNA増幅を行った。
反応は反応キットのプロトコールに従って行った。鋳型 DNAは,遠心により植物残渣を沈殿させた上澄みを別 チューブに移したものを用いた。
III
根こぶ
1
個,または根こぶの見られない根の先端 部位,および根の中間部位約1 cm
から抽出したDNA
による線虫の検出1 PCRによる線虫の検出
根こぶ1個から迅速・簡便に抽出した鋳型DNAを用 い,種同定で用いるミトコンドリア領域のプライマー,
およびサツマイモネコブセンチュウ種特異プライマーを 用いたPCR増幅を行った結果,供試したすべての根こぶ サンプルにおいて極めて良好な増幅が見られた(図―2)。
根こぶの大きさはPCR増幅結果には影響しなかった。
根こぶの見られない根の先端部位1 cm,および根の 中間部位1 cmについては,すべての反復でPCR増幅が 見られるとは限らなかった(図―3)。根の先端1 cmで は反復8のうち一つで,根の途中の部位1 cmでは四つ でPCR増幅が見られなかった。これは,ネコブセンチ ュウの寄生侵入部位が根端付近であることから,根の先 端ではこぶが見られない状態でも既に2期幼虫が侵入し ており,それらのDNAが検出されたものと思われる。
一方,根の中間部位では,線虫が検出される確率は低か った,これは,根の途中の段階でこぶになっていない状 態であるということは,もともと線虫は侵入していなか
反復
同定用プライマー 種特異的プライマー
1 2 3 4 5 6 反復 1 2 3 4 5 6
図−2 ビーズ破砕法による根こぶ1個から抽出したDNAによるPCR増幅
*:現在は簡易DNA抽出キットversion 2が販売されている。
った可能性が高いことを示唆する。しかしながら,こぶ でない根の中間部位から検出可能であったことは,これ までにない知見である。
2 リアルタイムPCRによる線虫の検出
PCRで使用したものと同じ鋳型DNAを用い,リアル タイムPCR増幅を行った結果,すべてのサンプルで良 好な増幅が確認された(図―4)。根こぶの大きさとCt値 の間には明確な相関性はないように思われた。これは,
根こぶの外見の大きさとその中のネコブセンチュウの発 育度合いには相関性が低いためと考えられる。また,1 個のこぶに複数の線虫が寄生していることがあることも 関係していると思われる。
お わ り に
日々多くの輸入植物貨物が運び込まれる輸入植物検疫 の現場においては,感染が疑われる植物からいかに迅速 に線虫DNAを抽出し,種を同定するかが極めて重要で ある。本研究では簡易DNA抽出キットおよびビーズ破 砕 に よ る 根 こ ぶ1個,あ る い は 感 染 が 疑 わ れ る 根 約 1 cmからのサツマイモネコブセンチュウ検出法により,
迅速・簡便に線虫DNAを抽出できる条件を確立した。
本方法により,PCR法では電気泳動を含めた4〜5時 間程度,リアルタイムPCR装置を用いた検出ではより 短時間の2時間程度で根こぶ1個から種同定までが可能 となった。
本研究では根こぶ1個からの検出法について述べた が,有害線虫にはネコブセンチュウ以外にもシストセン チュウ,ネグサレセンチュウ,ハセンチュウ等の生態の 異なるものがおり,シストセンチュウのシスト1個,ネ
グサレセンチュウの病斑根等,それぞれの線虫に特徴的 な加害部位からのDNA抽出が可能であると考えられる。
さらには,本手法は根に寄生する有害線虫以外の様々な 病原糸状菌や細菌,さらには昆虫類の,感染根からの検 出にも応用することができると期待される。
引 用 文 献
1) HU, M. X. et al.(2011): Phytopathology 101 : 1270〜1277.
2)岩堀英晶(2014): 線虫学実験,京都大学学術出版会,京都,p.50
〜55.
3) POWERS, T. O. and T. S. HARRIS(1993): Journal of Nematology 25 : 1〜6.
4) TANAKA, R. et al.(2012): Applied Entomology and Zoology 47 : 291〜294.
5) TOYOTA, K. et al.(2008): Soil Science and Plant Nutrition 54 : 72
〜76.
根の先端部位 根の中間部位
図−3 ビーズ破砕法による根の先端部位および中間部位約1 cmから抽出した
DNAによるPCR増幅
35
30
25
20
15−5 −4 −3
SQ(log)
−2 −1 0
Ct
M M L
L LL
LL
M S S S S
S M S
M スタンダードは70個の根こぶ から抽出したDNAを希釈
:相対的に大きい根こぶ
:相対的に中程度の根こぶ
:相対的に小さい根こぶ L
M S
図−4 リアルタイムPCRによる根こぶ1個から抽出したDNAに よるサツマイモネコブセンチュウ検出
Ct:反応生成物が有意に増加したサイクル数.
SQ:試料のDNA濃度.
は じ め に
トマト褐色輪紋病は,1985年に岡山県で初めて発生 が確認された病害で(粕山ら,1992)
,
その後,大分県(児 玉・挾間,1994),鹿児島県(尾松・牟田,2005)等で
発生が報告されている。本病害は,キュウリ褐斑病の病 原菌と同種の糸状菌Corynespora cassiicolaにより引き起 こされる。和歌山県では,有田郡有田川町の施設および 雨除け栽培トマトにおいて,2015年8〜9月にかけて 多発し,大幅な減収となり問題となった。和歌山県のト マト栽培において発生する糸状菌による主な茎葉の病害 は,うどんこ病,葉かび病,すすかび病,斑点病,灰色 かび病,疫病等であり,褐色輪紋病は一般的に認知され ていない。そのため,生産者自らや普及組織による防除 対策の遅れが,多発した要因の一つと考えられた。今回は,トマト褐色輪紋病の病徴や和歌山県での発生 状況を述べるとともに,第一次伝染源や薬剤の防除効果 について若干の知見を得たので併せて紹介する。本稿が トマト褐色輪紋病の診断や防除において少しでも参考に なれば幸いである。