S8 :「長方形(または正方形)になるような気がするけど,どんな場合 でもなるのだろうか?」
S9 :「平行四辺形になる」
S10:「どんな四角形になるか決まっていない」
② 最初の問題の生起
①のような生徒の反応より,「本当に長 方形や正方形になるのか」という問題が生 起し,反例がないか他の図でも調べてみよ うとする。
その結果,図3−7のように多くの場合 に正方形や長方形にはならないことが明白 となる。
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図3−7
③ 第二の問題の生起
「どのような場合に正方形や長方形にな るのか?」といった問題が②の場面によっ て必然的に生じると考える。
議論の対象が二つの対角線に向けられ,
それらの垂直関係に目を向ける必要がある が(図3−8),この必要性をいかに生徒 の議論から生じさせることができるかが重 要となる。
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図3−8
④ 第三の問題の生起
与えられた四角形の内側にできる四角形と二つの対角線の関係を様々な場合 について考察する。
S11:「2つの対角線が垂直に交われば,長方形になる」(図3−9)
S12:「2つの対角線が直交し,さらに等しければ,正方形になる」
(図3−10)
S13:「2つの対角線が等しければ,ひし形になる」(図3−11)
S14:「2つの対角線が垂直でも等しくもなければ,一般の平行四辺形
になる」
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図3−9
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図3−10 図3−11
さらに,これらの命題がなぜ正しいと言えるのかについての議論が生じ,正当 化における一般性に関する認識が深まる。
課題3−1の一連の学習場面と同様に、これらの四つの場面において重要なことは,
これらのすべての議論の必要性は,生徒自身によって産み出されるように工夫するこ とである。生徒の議論が自ら生じるように,このような課題をいくつか設定すること によって,正当化における一般性の認識は一層深まり,証明の必要性を生徒は感じる ことができると期待できる。そして,進化した教授学的契約「一般性のある説明をす ることによって性質は正当化される」を生徒が一層容認していくと同時に,「証明」
という数学的知識の進化を図ることができる。
第 4 章
証明の遂行場面における考察
本章では,証明の遂行場面における困難性の所在を明確にし,その困難性の一因と なる教授学的契約について考察する。そして,その教授学的契約のネゴシエーション を可能とする問題の委譲の条件を抽出し,それをもとに円周角の定理の証明の教授・
学習場面における事例的考察を行う。
本章の構成は,以下の通りである。
第1節 証明の遂行場面における困難性の所在 1.証明を遂行することの困難性
2.Herbstの研究における事例
第2節 証明の遂行場面における教授学的契約と委譲 1.証明の遂行場面における教授学的契約
2.問題の委譲と教授学的契約のネゴシエーション
第3節 事例的考察 一円周角の定理の証明一 1.事例における教授学的契約の問題
2.事例における教授学的契約のネゴシエーション
一53一
第1節 証明の遂行場面に関する困難性の所在
本節では,まず,中西(1987)の研究をもとに証明を遂行することの困難性につい て述べる。そして,その困難1生の中でも,特に教授的な側面に着目したHerbst(2002)
の先行研究をレビューし,証明の遂行場面における教授学的契約の問題について述べ
る。
1.証明を遂行することの困難性
図形の証明を行うことの困難性は,多くの調査や実践によって示され,同時にその 改善を目指すための示唆的な研究も数多く行われている。しかし,第1章第1節でも 述べたように,依然として,基本的な証明問題についてもその困難性は解消されたと は言い難い現状にある。では,その困難陛の要因として,どのような観点が挙げられ るのだろうか。
中西ら(1987)は,「証明は生徒にとってどうして難しいのだろうか」という根元 的な問いへの答えとして,「証明の難しさ」として考えられる要因をすべて挙げ,そ の分類を行っている(表4−1)。
表4−1 図形の証明の難しさの要因
① 命題の表現の問題
(例えば,一般命題か特述命題か,など)
② 証明の方法の問題
(例えば,間接証明法ではないか,場合分けが必要ではないか,など)
③ 論理の型にかかわる問題 (i)証明の長さにかかわる問題 (i)仮定・結論の数にかかわる問題 (皿)論理の流れにかかわる問題
④ 図にかかわりのある問題 (i)図の重なりの問題 (五)図の一般性の問題 (皿)補助線の問題
さらに,中西らは,この分類において,特に表4−1の③の論理の型にかかわる問 題と④の図にかかわりのある問題について,これらの問題に関わる困難性を得点化し,
実態調査の結果と照合している。(なお,①の問題に関しては,特述命題(例えば,
「△ABCにおいてAB=ACならば,∠B=∠Cである」)よりも一般命題(例え
ば,「二等辺三角形の二つの底角は等しい」)の方が証明することが困難であること,
また,②の問題に関しては,間接証明法や場合分けが必要な場合の方が高度な証明で あり困難性が増すことは自明であるとして分析の対象からはずされている。)その結 果,その得点化の方法はほぼ妥当であるとしながらも,証明の困難さの要因として,
例えば,
・三角形の合同条件を用いるかどうか ・「外角」の用語を用いるかかどうか
といった③,④に挙げた問題以外の要因を考えざるをえないという結論にいたってい る。ここでの「三角形の合同条件を用いるかどうか」という要因は,三角形の合同条 件を用いない証明はそれまでにあまり行っておらず,証明の方針自体を立てることが 難しいこと,「外角の用語を用いるかどうか」という要因は,外角という言葉自体に 生徒が慣れておらず抵抗感があることであり,これらの要因はそれまでの教授・学習 の状況に影響を受けるという教授的な側面に起因する問題であるととらえることがで きる。このことは,③や④にあげられたような主として証明問題自身に内在する困難 さに関わる問題だけではなく,教授的な側面の影響による問題を検討する必要性があ ることを示唆している。
本研究では,この教授的な側面の影響による問題に特に焦点を当て,教授学的契約 の概念を用いて考察を深めていく。そこで,次小節では,証明の遂行場面での教授的 な側面について考察したHerbst(2002)の研究をレビューする。