第3節 事例的考察
本節では,前節で述べた正当化における一般性に関する二つの視点に基づいた学習 場面として,証明の学習の初期における事例とある程度証明の学習を行った後の事例
について考察を行う。
1.証明の学習初期における事例
いくつかの例や見た目の正しさによる正当化という問題に関して,委譲されなけれ ばならない問題は「いくつかの例から言えそうなことは,正しいのだろうか?」や「見 た目に正しいと言えそうなことは,本当に正しいのだろうか?」である。そこでこの 問題を生起させるために,まず最初の場面では,図3−2のような課題3−1を与え
る。
課題3−1 下の図は,いずれの図も∠〃勿である。∠AOBの二等分線を作図
しなさい。また,その時にどんなことが言えそうですが。A
B
A
Qi≦==
B
〆
%
S1は,教授学的契約「いくつかの例によって確認された性質は,正当化される」
または「知覚的に確認された性質は,正当化される」に従った反応である。しかし,
平行線と二等分線という二つの事項の関連に不思議さを持つ生徒はS2の反応を示す であろう。そして,「本当にそうなるのか」という疑問を生じる。この疑問を自ら生
じる場面こそが,生徒に問題を委譲する最初の場面となる。
次の場面では,この疑問を抱いた生徒によって,反例はないか他の図でも調べてみ ようという活動がなされるであろう。そして,多くの場合に成立しないことが明白と なる(図3−3)。こうして得られた
順の成立・不成立の判断は・与えA.∠ひ、馬
られた図や自ら描いた図,すなわち 〜㌔ 、\
たへ へも
、、0 、 milieuからのフィードバックによる
B B ものであり乳決して教師によって示
されたものではない。これは問題の委 図3−3 譲にとって不可欠な条件である。この
場面において,最初の教授学的契約「いくつかの例によって確認された性質は,正当 化される」や「知覚的に確認された性質は,正当化される」が問題視されることとな
り,それを進化させる必要性が生じてくる。
第3の場面として,「どのような場合に
∠AOBの二等分線と4%は平行になるの
か?」といった疑問が第2の場面によって必 然的に生じるであろう。この場面では,以前 行っていたように実測に頼ろうとして,分度 器の使用を要請する生徒もいるかもしれな い。しかし,正当化における一般性を生徒が 認識するためには,そのような実測による方A a
B
O b %
図3−4
法に頼ることなく,平行線の性質(錯角や同位角は等しい)より∠a=∠bという条 件を生徒の議論から産み出させなければければならない(図3−4)。
最終場面では,∠AOBの二等分線と4%の平行関係と,∠aニ∠bに関する命題
が議論の対象となる。議論の対象として生徒がつくると予想される命題は以下の3つである。
S4 「∠a=∠bならば,∠AOBの二等分線は,4仰と平行になる」
S5 「∠AOBの二等分線と4%が平行であれば,∠a=∠bである」
S6 S4とS5の両方を述べている命題
S4は・この一連の系列からすA C
れば,順当に生じる命題である。 一輩 ・・∠
臨騨翻ご篇 一一甲糖扁層「〜6ケ騨 一
助線を引き,さらに三角形の内角 B
と外角の性質を用いなければなら 図3−5 ない。この活動によって,生徒の
思考を活性化させる場合もあれば,逆に生徒の状態によってはその証明に困難さを生 じる場合もあろう。S5は, S 4の逆命題であるが,もしこの命題が生徒の議論によ って受け入れられれば,その証明は容易にできると思われる。また,S6のように,
この両方の命題に目が向けられた場合,命題の「逆」という概念についての議論に広 がる可能性もある。しかし,証明の学習初期における学習場面でもあり,その議論が 可能かどうかについては,生徒の状態に依存し,早計には判断できない。
いずれの場合にせよ,問題の委譲の概念に沿って,これらの問題についての議論の 必要性は,生徒自身によって産み出されなければならない。また,上述の学習場面で 最も重要なことは,「正当化するためには,いくつかの例や見た目の正しさだけでは なく,どのような場合でも成り立つことを説明しなければならない」ことを生徒が認 識することである。課題3−1に対する一連の学習によって,生徒は委譲された問題 を解決するために,それまでの教授学的契約である「いくつかの例によって確認され た性質は,正当化される」や「知覚的に確認された性質は,正当化される」を進化さ せ,「一般1生のある説明をすることによって性質は正当化される」という新しい教授 学的契約を認め始めることになるのではないかと考える。また,このように教授学的 契約を進化させることによって,「証明する」とはどういうことかを生徒は認識し,
「証明」という数学的知識の進化を図ることができると考える。
一49一
2.証明の学習中期における事例
前節でも述べたように,正当化における一般性に関する生徒の認識は,証明の学習 初期に行った一度の指導で容易に変容するものではない(例えば,国宗,1987)。教 授学的契約という視点から見ても,一度の指導によって生徒がその進化を認識すると いうことも多くは期待できないであろう。なぜならば,生徒の理解は,必ずしも直線 的に深まるとはいえず,多くの場合,行きつ戻りつするのが自然であるからである
(Pirie&Kieren,1989)。
そこで,ある程度証明の学習を行った後に,例えば,図3−6のような課題3−2
を設定する。
課題3−2 下の図は,いずれも四角形の各辺の中点を結んだものである。この とき,四角形の内側にはどんな四角形ができると言えそうですが。
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図3−6
この課題は,一瞥すると長方形ができるように見えるが,前小節の課題と同様,そ れは特殊な条件(対角線が直交する)のもとでのみ成立する。問題の意図するところ や問題場面の構成は,前小節での課題3−1とほぼ同様であるため,詳細は略し,以 下に教授・学習場面の構成の概略を示す。
教授・学習場面の構成
①課題3−2の提示
課題3−2に対する生徒の予想される反応は以下の通りである。
S7 :「長方形(または正方形)になる」
S8 :「長方形(または正方形)になるような気がするけど,どんな場合 でもなるのだろうか?」
S9 :「平行四辺形になる」
S10:「どんな四角形になるか決まっていない」
② 最初の問題の生起
①のような生徒の反応より,「本当に長 方形や正方形になるのか」という問題が生 起し,反例がないか他の図でも調べてみよ うとする。
その結果,図3−7のように多くの場合 に正方形や長方形にはならないことが明白 となる。
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図3−7
③ 第二の問題の生起
「どのような場合に正方形や長方形にな るのか?」といった問題が②の場面によっ て必然的に生じると考える。
議論の対象が二つの対角線に向けられ,
それらの垂直関係に目を向ける必要がある が(図3−8),この必要性をいかに生徒 の議論から生じさせることができるかが重 要となる。
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図3−8
④ 第三の問題の生起
与えられた四角形の内側にできる四角形と二つの対角線の関係を様々な場合 について考察する。
S11:「2つの対角線が垂直に交われば,長方形になる」(図3−9)
S12:「2つの対角線が直交し,さらに等しければ,正方形になる」
(図3−10)
S13:「2つの対角線が等しければ,ひし形になる」(図3−11)
S14:「2つの対角線が垂直でも等しくもなければ,一般の平行四辺形