なお,表3−1における「論証のもつ一般性」の理解とは,考察の対象である定理 そのもののもつ一般性(1一①),考察の方法である証明のもつ一般性(1一②),
考察の仲介をする図のもつ一般性(1一③)の三つからなる一般性の理解と,さらに 実験・実測による方法は,これらの三つの一般性をもっていないという特徴を理解す
ること(1一④)を指している。
国宗は,生徒への調査結果をもとに,「論証の意義」の理解の実態として,二つの 観点のうち,「推論のしくみ」に関する理解度と比較して「論証のもつ一般性」に関 する理解度の低さを指摘している。また,証明問題を繰り返し練習していると「推論 のしくみ」に関する理解は深まるが,「論証のもつ一般1生」についての理解は意図的 な指導なくしては深まらないと述べている(中西・国宗ら,1983;国宗,1987)。そ こで,本研究では,「論証の意義」の理解に関する二つの観点のうち,根本的な問題 として,「論証のもつ一般性」の理解の困難性に焦点を当てることにする。
(2)証明の機能
宮崎(2005)は,Bell(1976)やDe Viliiers(1999)の研究をもとにして,学校数 学における証明の意義としての証明の機能の分類を行っている。
Bell(1976)は,「証明の数学的意味づけ(meaning)は,三つの意味(sense)をも つ」(p.24)と述べ,証明の意味として以下の三つを挙げている。
・「立証や正当化」…命題の真偽に関わる立証という意味
・「解明」 ・・ある命題が,なぜ真であるかということへの洞察を与える という意味
・「体系化」 ・・公理や主要な概念,定理などを演繹的な体系へと組織化す るという意味
De Viliiers(1999)は, Bellの挙げた三つの証明の意味を証明の機能としてとらえ 直し,さらに,それを拡張した。特に,Be11の「解明」という意味を「説明」という 機能としてとらえ直し,さらに「発見」,「コミュニケーション」,「知的チャレンジ」
という三つの機能を加えて,以下の六つを証明の機能として挙げている。
・「立証」 … 陳述の正しさに関連する機能
・「説明」
・「体系化」
・「発見」
・「コミュニケーション」
・「知的チャレンジ」
ある命題が真である理由への洞察を提供する機能 公理や主要な概念,定理の演繹的体系への様々な 結果の組織化の機能
新しい結果の発見や創造の機能 数学的知識の伝達の機能
証明の構成から導かれる自己実現の機能
さらに宮崎(1993)は,学校数学における証明の意義として,これらの証明の機能 に焦点を当てることにより,生徒の証明の学習が改善される可能性があることを指摘
した。また,これらの機能を学校数学における証明の基本的な機能と応用的な機能の 二つに大別し,さらに応用的な機能を「証明に基づく発展・統合」と「実際的な価値 の生成」に分類した(宮崎,2005)。表3−2はそれをまとめたものである。
表3−2 宮崎(2005)による証明の機能の分類
基本的な機能 「立証14」,「説明」
証明に基づく発展・統合 「発見」,
u体系化」
応用的な機能
実際的な価値の生成 「コミュニケーション」,
u知的チャレンジ」
先行研究では,これらの証明の機能のうち,「発見」の機能に焦点を当てたもの(例
14 aellの証明のセンスでは「立証(veri飾ation)や正当化(justification)」, De Viliiers の証明の機能では「立証(veri飾ation)」の語が用いられており,宮崎(1993)におい ても「立証」の語が用いられている。宮崎(2005)では,この機能を「正当化」と表
しているが,本研究では,後述するSowder&Harel(1998)の「証明及び正当化の図 式」の「正当化」の語と区別し,さらに,証明の機能としては「立証」の語の方が適 切であると考え,それを用いる。
一37一
えば,茅野,2002)や,「体系化」の機能に焦点を当てたもの(例えば,和田,2003)
もある。しかし,本研究は,証明の意義の理解の困難性における根本的な問題を考察 の対象とするものであるので,これらの機能の中でも,特に,基本的な機能として挙 げられている「立証」や「説明」の機能に焦点を当てることにする。
3.正当化における一般性の理解の問題
本研究では,証明の意義の理解に関して,国宗らの一連の研究(国宗,1987他)
における「論証のもつ一般性」の理解の困難性及び,宮崎(2005)の研究における証 明の「立証」や「説明」の機能に焦点を当てることを,前小節において述べた。本小 節では,これらの研究をもとに,この困難性の所在について考察を深めていく。
国乱(1987;2000;2007)は,前述した「論証のもつ一般性」の理解に関して,三 度に渡って調査を行っている。その調査で用いられた調査問題は,以下の通りである。
調査問題 「三角形の内角の和は180。である」
このことが正しいことを,A〜C君の3人がそれぞれ次のように説明しま した。3人の説明は,上のことがらの説明としてじゅうぶんだといえるでし ようカ㌔いえるものには○,いえないものには×を[コ内につけ,なぜそう なのかの理由を[ ]内に書きなさい。
犀 酢 膨 1 し ロ
lA君の説明 . ;
1 8 ロ じ コ じ
1 右の図の三角形の3つの角をはかってみたら, 1
じ ぽ じ ド ロ
150。,53。,77。だった。3つの角の和は l
l 匪 ロ ほ
1 500 十 530 一←770 = 1800 1
1 8 ほ の ほ ロ
;だから,三角形の内角の和は180。である。 . 1
曇 摩 9 塵 8 霧
[コ[○または×] 理由[ ](以下解答欄略)
農 書 酢 君 ほ ロ
;B君の説明 1
1 匡 じ さ
i三角形をかき,その3つの角を . 「i
ぽ じ コ ロ
1切りとって右の図のように集めて 「 1
蔭 書 ほ コ
1みたら,ちょうど一直線になった。 1
量 嚇 8
1 犀
iだから,三角形の内角の和は180。
1である。
…
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lC君の説明
i△ABC℃辺BCを延長し・ 、バ 2
1BEとする。また, CからBA 、. L・, /
ロ が イドく タ
・ ノ ・1テ
i綱開驚ひく. 論・・顛傾隔
1錯角で ∠A=∠ACD i同位角で ∠B=∠DCE
lしたがって,∠A+∠B十∠ACB=∠ACD十∠DCE十∠ACB
i 一∠BCE−18。・
I
iだから,三角形の内角の和は180。である。
1騨一一一一幽_一一一一一一一_騨騨扁一一一鱒一一需層■一■幽噂_層一一一一一_一一一一一一一一一一rr一一一一一曽_一ロー一一〇一_國一一卿胴一一一一一一一一1
(国宗,1987,PP5−6)
この調査は,A君, B君の説明に対して×を, C君の説明に対して○をつけ,さら にその理由もそれぞれ正しく述べている生徒を「論証のもつ一般性」の理解が十分で ある生徒と想定し,こうした生徒の経年変化を調べるために,三度実施された。その 結果が以下の表3−4である。
表3−4 「論証のもつ一般性」を理解している生徒の割合
実施時期 1986年1月
1999年2〜3月 2005年2〜3月
中学2年生
98
9中学3年忌
23 23 22(数値は%),(国宗,1987;2000;2007)
この表から分かるように,「論証のもつ一般性」を理解している生徒は,第1回目
の調査(国宝,1987)では,中学2年生でわずか9%,中学3年生においても23%
にとどまっている。また,その継続研究として行われた第2回目の調査(国宗,2000)
においても,中学2年生で8%,中学3年生で23%の生徒,第3回目の調査(国宗,
2007)においても中学2年生で9%,中学3年生で22%の生徒しか,「論証のもつ一
般性」を理解しておらず,ほぼ第1回目の調査と同様の結果となっている。
また,梅川(2001)も,中学3年生に対して同様の調査を行っている。梅川の調査 では,国宗の調査と同様に「三角形の内角の和は180。である」ことの説明として,
上述の三つの説明にもう一つ以下のような説明を加えている。また,四つの説明の中 から「一番よいと思う」説明を選択し,その理由を記述させる方法をとっている。
O l 8 1 ロ ロ
1 正三角形について考えます。正三角形の1つの内角は600です。内角l
I 8 コ コ コ ロ
:は3つありますから,3つの内角の和は,60。+600+60。=180。l
l I コ
1となります。 1
駐 o コ ロ
1 だから,三角形の内角の和は180。であることがいえます。 l
l l O l
「 1
その結果,前述のC君のような証明を最もよい説明であるとして選択した生徒は 27。4%であった。さらに,その理由として「論証のもつ一般性」を理解しているとと
らえられる記述をした生徒は,全体の245%であった。この結果は,国宗の調査結 果とほぼ一致しており,「論証のもつ一般性」の理解の困難さを示しているとともに,
従来型の指導(例えば,形式的証明ができることを重視した指導など)の改善が必要 であることを示唆している。
では,このような「論証のもつ一般1生」の理解の困難性は何に起因しているのであ ろうか? 次に,その困難性の所在を明確にするために,前節で述べた証明の機能や
「論証のもつ一般性」との関連をふまえながら考察を進める。
本研究においては,宮崎(2005)による証明の基本的な機能の中で,立証と説明の 機能に焦点を当てることは既に述べた。しかし,この二つの機能は,並列して作用す
る機能ではない。説明の機能は,「命題の正しさに加え,その理由やアイディア等に 及ぶ」(上掲書,p.495)という点において,立証の機能を前提としている。この前提
に位置つく立証の機能において,「論証のもつ一般性」の理解は欠かすことのできな い観点である。特に,「論証のもつ一般性」の中の,命題のもつ一般性(前述の表3
−1の1一①)や証明のもつ一般性(同1一②),図のもつ一般性(同1一③)の理 解といった一般性の理解は,立証において欠くことのできない観点である。そして,
これらの一般性の理解の困難さが,立証や,それを前提とする説明といった基本的な 機能の理解に,影響を及ぼしているのではないかと考える。その根拠を,次に述べる
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