湘 南工科 大学 紀 要
第
31
巻第 1 号
1994.
7.
1一
読 会で 「元 老院案は胚を権利の主体として扱 っ て い る」 と まで述べ た
.
→ こ のよ う な社 会では
,
人の 胚 を体外で作り,
そ れに手を加え ら れる よ うに なっ た技 術に竝す る危機感 は,
日本人の 想 像以上.
・
し か し, 胚保 護の情 熱が余りス トレ
ー
ト に主 張 さ れると,
左翼から は科 学 研 究と医 療をキ リス ト教 的信念の下に置 く もの だと批 判 される
.
→ 社 会党 ・共産党が議 会で 棄 権・
反 対 し た理 由の一
つ
.
・
いか なる宗教理 念にも偏ら ない 「世 俗 性」が フ ラ ン ス共 和 国の基 本 理 念であること は,
保 守 多 数 派 も認め る ところ.
(
3
) 胚保 護と中絶 論 争・
ヴェ イユ 保健 大臣 (=
中絶法の立役 者.
← 1974.
11.
28)は,
「中絶法が女 性の 親にな る計 画と自 由に関わ るの に対 し,
生 殖 法 案は子 供 と 将来の世 代の保 護に関わ るもの で , 別 問 題だ」 として,
中 絶 法の再 検 討は考 えない とい う 政府 方 針を再三保 証し た.
し か し,
議 会で は中 絶 法 と絡めた 議 論が繰り返さ れた.
・最 右 派 (中央 党 内 外 )→ 胚は人で あるとい う理念を法案に明 文 化せ よ
.
だ が中 絶 法の見 直 しはし ない.・
共 産 党・
社 会 党→
中 絶法を守る女 性の権 利を擁護 そ れ と抵 触 する恐れの あ る宗 教 的な「胚
二
人 」 理 念に反 対.
胚 保 護 を 反 ・ 中絶に まで 広げ よ う との意 図がこめ れ られて い ると批判. 。
〔妥協案と して〕胚は人か否か は法に規 定 し ない.
しか し,
その範囲内で胚に は で き る限 りの保 護を加え る とい う政 策 基本 線が形成・
維持さ れて い っ た.
。
議 会,
政 府だけで なく, 憲法 院もこ の線に従っ て,
最右派議員か ら訴 え (胚 を 人 と見 立て,
出生 前 診 断 は選 択 中絶を 促 し人の生 きる権 利を侵 害す る か ら違憲との主 張 ) を 却 下 した.
生 命 倫 理に関 する第三法の公 布 (← 6
. 23,
→ 7. 27,
7.
29)(槲 島・
全 体 像 1頁 )・
「保 健の分 野に お け る研 究を 目的とする記 名 情 報の処 理に関 する,
並 びに情 報処理, 情 報フ ァ イルお よ び自由に関 する
1978
年 1月 6 日法 第 78−
17号 を 改 正す る1994
年7
月1
日法 律 第 94−
548号」(いわ ゆ る記名デ
ー
タ法 )(→
施行令 1995,
5.
9) (条文訳=
大村 ・情報33
頁)・三っ の 法 案の うち
,
こ の第 三 法 案は憲 法 員の審査に付さ れ な か っ た (→7.27
).
〔立法 形 態 〕 (櫛 島
・
全体像3
頁,
北 村・
ジュ リ122 頁)・
1978 年情報 保 護 法に,
医 療 研 究 目的での個 人デー
タの 扱い につ い て の1
章「第 5章の 2保 健の 分 野にお ける研 究 を 目 的 とする 記名デー
タの機械処理」を新 設 挿 入 す る法 律 (擶 島 ).
・
個 人の医 療デー
タの コ ン ピュ
ー
タ処 理に よ る医学 的研究に際 する守 秘 義 務 を 整 備し,
デー
タ当事者と研 究者との それぞ れの権 利 義務を確定 するもの (北村)
.
〔内容 〕 (檻 島・全体 像
3
頁)A
.
目的:医 学情報の収集,
保 存,
利 用に ともなっ て生じ う る個 人の私生 活の 自由と権 利へ の侵 害 を防 ぎっ っ,
社 会に とっ て有益 なそれ らの情報の医 学 的活用を促すこ と.
B .
内容:医師の守秘 義 務の例 外と して,
コー
ド化した個 人の医 学 情 報 を 疫 学 な どの保 健 研 究のために提 供で き ること と す る
.
事前に本人の 同意 を得るこ と が必 要で,
本 人に は,
提 供さ れ る情報 の内容,
利 用目 的 を告げ, 拒否する権利が あ ることを 説 明 しなけ れ ばなら ない.
C .
審 査 機 関:情 報 を利 用する研 究の審査 を行う特別の諮 問 委 員会を 設 置.
既に情 報 保 護 法で設 け られてい た国家委 員 会(CNIL
)に よ る管理 と併せて二重の チ ェ ック体 制が築かれる.
〔主な改 革点 〕 (北 村
・
ジュ
リ 互22
頁 )患者 個人の治 療 的
・
医 学 的 経過 調査を 目 的とす るデー
タ 処 理:本 法の適用除外 (40 条の1
項 )
.
患者側に は故 障 申立権が認め られる (40 条の 4 項).
保健 業 界の者に よる記 名デ
ー
タの伝 達 移 転: 本 人特定可 能なデー
タ は, 原 則とし て移転以前に
コ
ー
ド化 する義 務がある(40 条の 3)
.
ま た,
結 果公表は本人を特定 可能で あっ て はな ら ない一 182一
フ ラン ス生 命 倫 理の展 開 (上 野 芳 久 )
1994
.
7.
251994
.
7.
27(同条 項)
研 究 上
,
本 人 特 定 的な生 物 学 的 摘 出 物の採 集が必 要な場 合:本 人の 同 意が必 要 (40 条の 4 項 ).
主 治 医 が 良 心 的 判 断か ら重 大な診 断 また は予 後を本人に知ら せ て ない場 合: これ らの情 報を知 ら せて は な ら ない (40 条の 5 項 ).
改 正 被 験 者 保 護 法の成 立 (
←5.4
> (構島・
人体 実 験 10 頁 )・公衆 衛生 法 典 内に単 独の 「第二編の二」 を新設 する形で
,
既 存の医療 法 体 系に組み込まれた.
〔内容 〕
(
1
)本法の対 象等
・
生 物 医学 研 究一
生物 学 ・医 学の知 見の 発 達の ために,
人に対 して 行 わ れる試 験,
実 験 (以 下 実 験 とする)・
実 験→
直 接 益の ある/ない 実 験に分け ら れ る.
な い実 験に, よ り厳しい規制が加え ら れる.
・
研 究主催 者 (promoteur )一
実 験を発 案 し計 画 を 進め る主 体 (例.
新 薬 試 験を依 頼 する製薬 会 社)・
研 究 従 事 者 (investigateur
)=
実 際に実 験 を 実 施 し指 導・
監 督 を 行 う者 (例.
試 験を行 う臨 床 医 )(2) 人 を 対 象に行 う実験の条 件
・
前 提 条件: 現 段 階で最 新の科学知 識 と十 分な基 礎 実 験に基づ い て いるこ と リス ク が,
被 験 者の益や得られる知 見の利 益に比べ て大 き くない こ と人 間の た めの科 学
・
医 学の向上 ・改善に資す る もの で あ るこ と・
実 施条 件1 ふ さわ しい経 験 を 持つ 医 師・
歯 科 医 師の指 導と監督を受け るこ と (た だ し,
行動 科学の研 究におい て は医 師 と共 同で専 門 家の実 験 指 導を認め る)
科 学 的 要請と被 験 者の安全保 護に 見合っ た設 備
・
技 術の もとで 行わ れ る こ と・
弱 者 (被 収 監 者,
緊 急 状 態の 患者, 強 制入院 患者, 社 会 保 険 未 加入者,
未成年 者,
法 的 被 保 護 者,
医 療 社 会 施 設 入 所 者,
妊 婦・
分 娩婦・
授乳 婦 )の 保 護=
た と え本 人の同 意 あっ て も一
定の実 験は 行え ない.
・
被 験 者に損害が生 じ た場 合→
研 究 主 催 者は賠 償 責 任を負 う.
保 険 加 入 義 務あり. ・
無 償 原 則 (例外= 実 費の 償還,
直 接 益の ない実 験に伴 う拘束に対する補 償)(
3
》 被 験 者の 同 意一
原 則:事 前,
文 書 によ る説明 し た う えで の, 自由 な, 書 面に よ る同 意(
4
) チェ ッ ク機 関 ・手 続一
被 験 者 保 護 諮 問 委 員 会 (CCPPRB
),
手 続は略 (24
頁 図1
参 照 ) 直 接 益の な い実験の条 件一
重 大な リス ク がな い,
複 数・
同 時に実 験に応 じ るの で はない
,
大 臣認可の適 切 な 施 設での 実 施 (6) 罰 則・
行 政罰: 審査される側 :本 法の いず れかの条 項 違 反→ 行 政当局が, 実 験 計 画を差 止め また は禁 止.
審 査す る側:法 律を遵守しな い諮 問 委 員 会は認 可を取 消され る
.
・
刑 事 罰:重 大な罪=
無 同意の実験 (→ 刑 法223 −8
, 同一9
条に挿入され た ),
弱 者 保 護 規 定の違 反 法 人 処 罰→ 実 験を した病院や製 薬 会社な ど も起訴で きる.
(
7
}雑則一
損 害 賠 償訴訟の管 轄≡
大 審 裁 判 所憲 法 院
,
二っ の生 命 倫理法案に つ き合憲 判 断を 下 す (←
7.
1, →
7.
29)(岡 村・
ジュ リ1058
号,
概島・
政 策 138 頁, 北村・
ジュ リ 121 頁 )・
「第三法 案」は憲 法 院に付 託さ れずに成 立 したが (←
7.
1),
「第一
法 案 」「第二法 案 」は,
国 民議会 議長及び 68 名の国 民 議 会 議 員に より
,
憲 法 院の審査に付 さ れ た.
・
国民議 会 議 長: 両法律の 規 定 が 憲 法の守る基 本 原 則に相 当 する とい うお墨付き を憲 法 院か ら得る こ とで,
論争の激 し か っ た こ の立 法の 決 着 を 確 実な もの に しようとした.
・
国 民 議 会 議 員 (68
名,
保守派 ):生 殖 介 助, 保 存胚の廃 棄, 出生前診 断,
着 床 前 診 断の条 項につ き,
一 183一
湘 南工科 大 学 紀 要 第
31
巻 第1
号7.
29胚 を 人 と見立て て
,
その 平 等に生 きる権 利が侵 害さ れ る と違 憲を 主張し た.
(→ 〔問 題 点 〕)〔問 題 点 〕 問題とさ れた の は, 両 法律 中の, 人工生 殖に関 わ る規 定であっ た
.
(1) 第
一
法 案の問 題 点 :人 工 生 殖に よっ て生 ま れた子の親 子 関 係
・
提 供 者 (精 子・
卵 子の)の匿 名 性,
提 供 者 と生ま れ た子 との親 子 関 係 形成の禁止, の規 定は,一
定の条 件 下で婚 外子に父 親を探すこ と を認め た既 存の法 律と整 合 する か.
・
提 供 者は子に対 して いか な る責 任 も負わ ない とい う規 定は,
精子 提 供者の子に対する責任 を 認 め た既 存の法と整 合 するか。
(2) 第二 法 案の問 題 点 :受 精 卵や胎 児の権利
・
受 精 卵に人 権 規 定の適用がある か.
その取 扱いにっ い て 平 等の原 則が侵 さ れて い ないか.
・
出生 前診 断に関 する規 定に は, 胎児の生き る権 利を侵 害 する お それが ないか
.
〔憲 法 院の判 断〕 両 法 律の いずれ も合 憲
・
人の尊 厳の保 護は憲 法 上の原 則で ある (1946 年憲法 前 文 第 1 項 ).
・
個 人の 自由 も, 人権宣言
1
条,2
条,4
条に よ り肯 定さ れ る.
・ 「国は, 個人及び家族に対して その発 展に必 要な条 件を確保す る」(1946 年 憲 法前文 第 10 項 )
.
「国はすべ ての者,
特に子,
母…
に対して健康の保 護を保 陣する」(同第
11
項).
・
〔以 上の3
種 類の憲 法 規 範によ れ ば 〕 国は生 命 倫 理の問題 に関 与するこ とがで きる.
生命 倫理に関す る第
一
法,
第二法の成 立 (←3,1,7.1,
7. 27,
→1995.8.
4 )(構 島・
全体 像 1頁,
条 文 訳=
大 村・
人 体9
頁,
同・
生 殖16
頁.
北 村・
ジュ リ120 頁 )・
第一
法=
「人 体の尊 重に関 する 1994 年 7月 29 日法 律 第 94−
653 号」 (いわ ゆ る人 体 尊 重 法 )・
第二 法;
「人体の構成 要 素 及び 産物の提 供 及び利 用, 生殖へ の医学 的 介 助, な ら び に出生前診 断に 関する
1994
年7
月29
日法律 第94−654
号」(い わ ゆ る移 植 生殖 法)・ 審 議 開 始以来
18
ヵ月に及ん だ 「立法マ ラ ソ ン」は,
よ う や く終わ りをつ げ た (擶 島 1頁 ).
・
フラ ンス は,
約8
年の歳 月 を か けて,
先 端 医 療 技 術 全 般 を 共 通の倫 理 原 則に基づ いて包 括 的に規 制 す る立 法 を 行っ た (同 上 ).
〔法 制 定 前の状況〕 (櫛 島
・
政 策 120〜
2 頁)(
1
)法 令:本 法施 行 前は, 生殖 技術の規 制は,2
つ の法 律を除き(←199Ll2 .31,1992.12.31
),
主に行 政 令に よ るもの だ っ た (←1988.4.8
),
(
2
)判 例:上記 規 制は, 実 施施 設を設 備・
ス タッ フな どの技 術 的基準で管理 するだ け.
各 種生殖 技 術の実施 自体の是非にっ い て の判 断基準と して は裁 判 所の 判決しか な かっ た (→ 次 段 〔従来の 判 例〕).
(
3
}指 針:医療 専門職の ガ イ ド ラ イ ンと し て は次の2
っ が あっ た.
医 師会の倫理規範 (←
1986
年 )一
ドイツ の場 合ほ ど社会 的権 威はな く,
政 策 論 議の 際もほ と ん ど言及 され な か っ た.
む しろ,
医師会は生命倫理 上の問題に対して 活動的で ない と議会で 批 判 さ れた.
CECOS
の 内規 (←1987
年)一
施 設を直 接 拘 束す る規則なの で実 効性 は か な り あ る と み られ る
.
医師会 倫理規範も準拠すべ き と し てい る し,生命 倫 理 法 も多 くの条 項 をこ こか ら採 用 した
.
しか し,一
部立 法 化さ れた とい うことは,
そ れだけでは 不安 定だと みなさ れて い るの だろ う.
(
4
>勧 告:その他CCNE
の勧 告 (←1984.10.23,1986.12.15,1989,12.15,1990.7,18
)も あ った が
,
あ く まで参考 意見に す ぎず,
拘 束力 を持っ ルー
ル として は認められて い ない.
〔従 来の判 例〕
…
判 例があるの は次の 4 点 (櫛 島・
政 策 120 頁 )第三者の提 供に よ る生殖技 術で生 ま れ た子との親 子 関係 (←
1990.1.18
否認不可,
1991. 3.29
同 )