せている.加えて,これらは海域の流れにより移流及び拡散されるものとし,水平方向 の移流・分散と鉛直方向の(上下層間の)乱流拡散に よる混合を考慮した.
各物理的・生化学的過程に関しては,表ー5.1 にまとめて示したようにモデル化を行 い 各物質の移流拡散方程式に付け加える ことで計算を行う. また,本モデルにおけ る物質循環の概略を図‑5.1に示す.
水質シ ミュ レーショ ンに用いた基礎式は以下に示す通りである.
'COD上層
誓 +U 安 +V す=山 [ ま { : t h 1 + S ) D 引+去((日 ) D す )
ここで, Ci(x,y,f),Pi(x,y,f)は各層 (i
=
1 :上層,i=
2 :下層)の COD,T‑P 濃度, hi (x, y )は時間平均層厚, Dz(x,y,f)は鉛直混合係数, Qc (x, y ,)Qp (x, y )はCOD,T‑Pの流 入負荷,Sc(x,y),Sp(x,y)はCOD,T‑Pの沈降速度,SSc(x,y),SSp(x,y)はCOD,T‑P中の 懸濁態の割合,Kc (x, y )は CODの生産速度,Dc (x, y )は CODの分解速度,九(x,y ,)Yp (x, y )は COD,T‑Pの底泥からの溶出速度,その他の記号は第4
章で用いられたものと 同じである.鉛直混合係数 Dzは,乱れにより層間の混合が生じるものと考え,流速分布が対数則 をとる場合に混合距離理論より得られる渦動拡散係数の水深平均値の l周期平均値と上 下層の中心点を代表点と見なした場合の代表点間の距離から次式の様に表わした.
D z = P F h l + ; 2 + c )
(5.5)ここで, 1(は Karman定数(ニ0.41),"[i;(x,y)は一周期平均海底摩擦速度,
s
は比例定数 であり, DZに影響を及ぼす他の要因の影響は全てP
に含まれるものとする.以 下 , こ れ ら の モ デ ル を 用 い て 博 多 湾 に お け る 現 況 の 年 平 均 COD,T‑Pを対象とし て,第 4章で行った拡散計算と同様に式 (5.1)‑‑‑‑(5.4)を splitoperator approachにより x, y方向の純粋移流方程式と生化学的過程と沈降を含んだ拡散方程式に分離し,それぞ、れ 6・pointschemeと有限差分法により計算を行った.なお,移流の計算には潮流計算から得
られた l周期分の流れの計算結果を適用して行った. r
物質循環モデル中に含まれる各モデルパラメータは,九州環境管理協会(1992)により 実施された疑似現場法による実験や現地実測の結果をもとに決定された値を採用した.
福岡市(1993)の行った計算ではこのパラメータ値が採用されている.但し,今回の計算 では, CODの生産速度 Kcについて九州環境管理協会の疑似現場法による実験結果の中 に異常値と考えられるものが含まれていたために それらの値を除いたデータをもとに 補正を行っている.各モデルパラメータの値を表‑5.2に示す.また 表‑5.2中に示
されている海域の区分を図‑5.2に示す.
5 . 3 博多湾における水質シミュレーションの計算結果
5.3.1比 例 定 数 α,
s
の評価本章における潮流計算と水質シミュレーションの計算条件と計算領域は,第
4
章にお いて博多湾の計算に用いられたものと同じものを用いた[表‑ 4 . 1
参照].計算結果の 再現性の検討に用いた実測値としては,九州環境管理協会(1992)により平成元年度に博 多湾内全域に渡る約 30地点で実施された水質の測定結果を年平均した値を用いた.水質シミュレーションにおける湾口部での境界条件は 上げ潮時には上記の実測デー タより COD上 層 : Cj = 1.8 mg/l, COD下 層 :C2= 1.3 mg/l, T‑P上層 :Pj = 0.023 mg/l,
T‑P下 層 :P
2= 0.016 mg/lを与え,下げ潮時には自由流出条件を用いた.層の分割につい
ては ,博 多 湾 における透明度の実測結果 [九 州環 境管 理協 会( 1992)] に よ る と , 湾 奥 部 の値が最も低く 2.0m で あ っ た . そ こ で , 光 合 成 作 用 の 及 ぶ 範 囲 で あ る 補 償 深 度 と し て 透明度の 2倍[中西ら(1975)] を と り , 今 回 の 計 算 で は 有 光 層 ( 上 層 ) の 厚 さ を 4.0m
と設定した.淡水流入量と COD,T‑Pの 負 荷 流 入 量 に つ い て は , 表‑5.3 に 示 す 九 州 環 境管理協会(1992)に よ る 平 成 元 年 度 の 調 査 結 果 を 適 用 し た .
分 散 係 数 の 評 価 式 (4.2)中 の 比 例 定 数
α
は , 博 多 湾 に お い て は 第4
章 の 塩 素 イ オ ン 濃 度 の 拡 散 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン か ら α =90と な る こ と が 分 か っ て い る . 従 っ て , 先 ず は αを そ の 値 に 固 定 し て , 鉛 直 混 合 係 数 の 評 価 式 (5.5)中 の 比 例 定 数
p
の 最 適 値 の 決 定 を 計 算 結 果 と 実 測 値 の 比 較 に よ り 行 っ た . そ の 結 果,s =
0.04が 現 況 を 最 も 良 く 再 現 し て い ることが分かった. し か し な が ら , こ こ で 用 い たα
の 値 は 塩 素 イ オ ン 濃 度 に 対 す る 最 適 値 で あ り , 鉛 直 方 向 の 分 布 形 が 塩 素 イ オ ン 濃 度 の 場 合 と は 異 な る COD と T‑Pを対象とし た 場合 に は異なる値をとることも考え られる.
そこで,
s
= 0.04と 固 定 し , 再 度 αの 最 適 値 の 決 定 を 試 み た . 計 算 結 果 と 実 測 値 の 比 較を容易にするために, T‑Pに つ い て 湾 口 か ら 湾 奥 に か け て 一 次 元 的 に 分 布 を 表 示 し て 図‑5.3a),b) に 示 す . 各 点 に お け る 実 測 デ ー タ の 標 準 偏 差 を 実 測 値 の 上 下 に と っ て 同 図 中に表示している(図‑5.4a),b) も同様) . 比 較 地 点 は 図‑5.2中 に 黒 点 で 示 し た 湾 口 から湾奥にかけての 7点である.比較の結果, α =80が 最 適 で あ る こ と が 分 か っ た . そ の後, α=80として再度p
の 最 適 値 の 決 定 を 試 み た と こ ろ ( 図‑5.4a),b)に CODの 分 布についてのみ示す) , 再 びs
= 0.04が最適と見なせたため, α=80,s
= 0.04を最適な 組 み 合 せ で あ る と 決 定 し た α= 80,s
= 0.04と し た 場 合 の 水 平 方 向 分 散 戸 数 と 鉛 直 方 向 渦 動 拡 散 係 数 の 分 布 図 を 図‑5.5,5.6に示す.5.3.2計 算 結 果 に つ い て
現 況 の COD,T‑P 濃 度 分 布 の 上 下 層 に お け る 再 現 結 果 は , そ れ ぞ れ 図‑5.7a),b),図
‑5.8a), b) に 示 し た 通 り で あ る . 博 多 湾 に お け る 主 要 な 汚 染 流 入 源 は 下 水 処 理 場 か ら の 流 入 に よ る も の で あ る が , 湾 奥 部 の 停 滞 水 域 に お け る 汚 染 が 著 し く な っ て い る こ と が 分 かる.上層と下層を比較すると, CODに つ い て は 光 合 成 に よ る 内 部 生 産 に よ り 上 層 ( 有 光 層 ) の 方 が 高 い 値 を 持 ち T‑Pに つ い て は 最 湾 奥 部 以 外 は 違 い が ほ と ん ど な い こ と が 分かる.
福岡市(1993)による現況の COD分 布 の 再 現 計 算 結 果 と 比 較 す る た め に 図‑5.4に 福 岡 市 の 計 算 結 果 か ら 読 み 取 っ た 一 次 元 分 布 に つ い て も 示 し た . 上 層 の 再 現 結 果 で あ る 図
‑5.4 a)に よ る と , 最 湾 奥 部 の 第 7点 を 除 い て 今 回 の 最 適 な 場 合 (α=80,
s
= 0.04 )の 計 算 結 果 の 方 が 精 度 が 高 い こ と が 確 認 で き る . 一 方 , 下 層 ( 図‑5.4b)参 照 ) に つ い て は , 両 者 の 有 意 な 差 は 見 ら れ な か っ た . し か し な が ら , 福 岡 市 の 計 算 で は 湾 口 部 の 境 界 条件として COD上 層 :C, =
l.1 mg/l, COD下層 :C2= 1.0 mg/l, T‑P上層 :P1=
0.014 mg/1, T‑P下層 :P2 = 0.016 mg/lを 与 え て お り , こ れ ら の 値 は T‑Pの 下 層 を 除 き 実 測 値 と は か な り ず れ て い る こ と か ら , 境 界 条 件 に よ り 計 算 結 果 の 調 整 が 行 わ れ た も の と 推 測 さ れ る.
本 章 の 計 算 に お い て は , 境 界 条 件 に は 実 測 値 を そ の ま ま 採 用 し て い る こ と と 物 質 循 環
『 司 『
モデルは福岡市が使ったものとほぼ同じものを採用していることから,主として拡散能 の精度が計算精度に反映されているものと推測される.福岡市の計算において拡散係数 の値は,湾口から西戸崎周辺の湾中央海域までを 90m2 /s,その奥の海域は 30m2 /sと 一定値を与えているため,拡散能の局所性があまり評価されていない.それに対して,
本章における分散係数の評価では, (4.2)式により局所性が良く表現されている.福岡市 の計算において境界条件を実測値に合わせた場合に予想、される現況の分布からのズレ (全体的に濃度がシフトアップすると考えられる)を考えても,本章で採用した分散係 数の評価法は良い精度を持っていると考えられる.
なお,図‑5.3,5.4によると湾奥部の第 7点でのみ計算値は実測値よりやや高い値を 示しているが これは 湾奥部では水深が浅く流速も小さくなっていて船の航行や他の 外 力 の 影 響 を 相 対 的 に 受 け 易 く な っ て い る た め に 分 散 係 数 が 実 際 よ り も 過 小 評 価 さ れ て,計算上 COD,T‑Pが停滞してしまうことになっているためと考えられる.また,実 際は局所的にある程度異なるはずの比例定数
α
を湾全体で一定としているために,湾全 域の平均的な成層度に比べて河口の集中により相対的に高い成層度を持つと考えられる 湾奥部において分散係数が過小評価されているためとも考えられる.5 . 4 おわりに
本章の研究によ り得られた主な結果は次の通りである.
1.第
4
章で新しく提案された閉鎖性内湾における平面2
次元拡散シミュレーシ ョンの た め の 分 散 係 数 の 評 価 法 を 物 質 循 環2
層 モ デ ル に 組 み 込 み , 博 多 湾 に お け る 水質 予 測 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン を 行 っ た . 計 算 結 果 は 実 測 値 を 十 分 再 現 で き て お り, モデルの有効性と分散係数の評価精度が高いことが確認できた.
2.拡散能の局所性が水質の分布に強い影響を与えていることから,物質循環モデルを 用 い た 水 質 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン に お い て も 局 所 的 な 拡 散 係 数 の 高 精 度 な 評 価 が 重 要 であることが確認された.
なお,分散係数の評価法中の比例定数
α
の値が第4
章で決定された塩素イオン濃度の 拡散シミュレーションの場合の値と若干異なっていたが,これには以下の理由が考えら れる.a).本 章 で 用 い ら れ た 物 質 循 環 モ デ ル で は 十 分 に 考 慮 さ れ て い な い 過 程 の 影 響 や モ デ ルパラメータの誤差の影響が分散係数に反映されている.
b).CODは上層(有光層)で内部生産が行われるために下層に比べ高い値をとるが,
塩 素 イ オ ン 濃 度 は 下 層 の 方 が 高 い 濃 度 を 持 つ た め , 両 者 の 水 深 方 向 の 分 布 形 が 異 な る . 従 っ て , 水 深 方 向 に 積 分 す る 際 に 生 じ る 移 流 分 散 効 果 が 異 な っ て く る 可 能 性がある.
c).本 章 で 用 い ら れ た 分 散 係 数 の 評 価 法 は 元 々 単 層 モ デ ル に 対 し て 開 発 さ れ た も の で あり,
2
層モデルに適用した際の影響が現れている.しかしながら,
α
に対して大幅な修正は必要とされておらず,対象とする内湾に対し て成層度パラメ ータ(4.8)と吹送流パラメータ (4.9)の推定を行えば,式 (4.10)により場 所毎の CODや T‑Pなどの水質指標に関する分散係数の評価が十分精度良く行えると思 われる.よって, 事 前に保存性物質の拡散シミュレーションを行うなどして拡散能を推 定することなく 物質循環モデルによる水質予測シミュレーションを直接行うことが可 能になるものと期待される.一第 5 章 参 考 文 献 ‑
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九州環境管理協会(1992):平成
2
年度水質モデル定数調査委託報告書.Kremer, J. N. and Nixon, S. W. (1978) :沿岸生態系の解析(監訳:中田喜三郎),生物研究 社,228p.
中西弘・浮田正夫・宇野良治(1975): "海域におけるCOD生産量についてH,用水と廃水,
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堀江毅(1990): "海域の水質・生態系の数値モデルH,土木学会論文集, 417(II‑13), pp. 2ト 31.
堀江 毅(1987): "海域の物質循環過程のモデル化と浄化対策効果の予測手法についてH, 港湾技術研究所報告, 26(4),pp.57‑123.
堀江毅・細川恭史(1983): "海域における物質循環数値モデルの水質支配要因についてH, 港湾技術研究所報告, 22(3), pp. 159‑205.
堀口文男・中田喜三郎(1994): "沿岸生態系モデルの福岡湾への適用H,資源、と環境, 3,pp. 31‑44.
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