第 8 章 特徴量の明確化を目的とした 脳の可塑性の検証と訓練の有脳の可塑性の検証と訓練の有
8.2 一般健常者におけるニューロフィードバック訓練の 有効性
前節では主にラットやネコをはじめとする動物に対するニューロフォードバック 訓練の成果を述べた.本節では,対象を一般健常者として行われた研究成果につ いてまとめる.ニューロフィードバック訓練におけるの人間の認知能力および感 情調節の改善における有効性は,さまざまな国の研究者による多くの研究によっ て証明されている.
1. 1990年代に,NASA(The National Aeronautics and Space Administration) の研究者であるAlan Popeは,宇宙飛行士の仕事の効率を改善するために脳 波ニューロフィードバック訓練を始めた.
2. 2002年に発表された結果では,偽のフィードバックをプラセボ対照群として
使用し,α,β,およびθ波に基づくニューロフィードバック訓練を使用する 訓練グループが優れたパフォーマンスを得られ,認知的負担がより低いこと が分かった [120].
3. イギリスでの2004年の研究では,SMRベースのニューロフィードバック訓 練が知覚感度を向上できる一方で,β波のフィードバック訓練が注意力と応 答速度を向上させられることが分かった [121].
4. ドイツの研究者は,より厳密な対照群を設計した実験で,SMR訓練が応答 速度と視覚処理能力を改善できることを発見した [122].
5. また,同じく厳密な偽フィードバック対照群を使用した台湾の研究では,前 頭葉のθ波に対するフィードバック訓練により,高齢者の注意力と作業記憶 が改善され,若者では脳の実行機能の改善ができることが判明した [123].
6. MRIスキャンにより,前額葉-頭頂葉でβ波によるニューロフィードバック
訓練を行ってから1週間後,脳の灰白質量が増加し,白質経路の接続性が増
8.2. 一般健常者におけるニューロフィードバック訓練の有効性 105 加したことが示された [124].
7. Megumi
らは,ニューロフィードバック訓練を通じて頭頂外側皮質(Later-alparietal Cortex)と一次運動皮質の間に新しい機能的な接続を形成される ことを示唆した.またこの接続は少なくとも2か月間維持できることを発見 した(いわゆる機能的な接続は,同じタスクを実行中,異なる脳領域によっ て形成される同時変化で協同で働くネットワークを指す)[125].
8. プラセボ対照群を用いた前頭葉でのβ波神経フィードバック訓練に関する研 究では,β波の変化が少なくとも3年間維持されていることが分かった[126]. 大規模なサンプル(N = 523)に基づく研究では,成人は脳波強度の自己調 節能力を約1分間で学習できることが分かった[127].
ニューロフィードバック訓練による脳全体のレベルでの神経可塑性は,脳の機 能的結合の変化として現れる.Rosらは,EEGニューロフィードバック訓練を使 用してα波を低減し,偽フィードバック対照グループと比較すると,30分間の訓 練により,脳のsalience network内の機能的な接続を増加し,脳のデフォルトモー ドのネットワークDMN内の機能的な接続を削減し,タスクを実行する際に被験者 の集中力が大幅に向上したと報告した [128].さらに,別の脳源定位法を使用した 研究では,ニューロフィードバック訓練グループは,偽フィードバック対照グルー プと比較すると,左脳の言語領域の活性化レベルを高めることに成功した [129].
ニューロフィードバック訓練には,複数の脳領域が含まれる.Emmertらは2016 年に12個のfMRIの研究を分析し,ニューロフィードバック訓練に関与する脳領域 には,前島皮質(Anterior Insular Cortex: AIC),前部帯状回(Anterior Cingulate Cortex: ACC)),前頭前皮質背外側部 (DorsoLateral Prefrontal Cortex: dlPFC),
前頭前皮質腹部,(Inferior Parietal Lobe: IPL) ,大脳基底核(Basal Ganglia),
視床(Thalamus)が含まれることを発見した.
1. 前頭前皮質は,ニューロフィードバック訓練でとても重要な役割を果たして いた [130].
8.2. 一般健常者におけるニューロフィードバック訓練の有効性 106 2. またニューロフィードバック報酬処理,制御,および学習ネットワークに関 して,フィードバックが視覚的に提示されるときに,一般的な神経フィード バック中に,AIC,dlPFC,ACCおよびPPC(Posterior Parietal Cortex)が 活発な状態になる [131].
3. 視覚フィードバックの場合,信号への注意はLOC(Lateral Occipital Com-plex)によって支配される.
4. dlPFCとPPCはタスクの実行に関与している.
5. ACCとAICはSalienceネットワークの一部を形成し,フィードバックと報
酬の意識的な認識に関与している.
6. DSはニューロフィードバック学習に関与されている.
7. 無意識の報酬処理には,VSが含まれる.
そのため,これらの結果は,ニューロフィードバックには報酬処理ネットワーク
(ACC,AIC,およびVSを含む),制御ネットワーク(LOC,dlPFC,PPC,およ び視床を含む),および学習ネットワーク(DS)が含まれることを示唆している.