リモートセンシングによる森林モニタを実用化するということは、あくまでも森林管理業 務費用の一部としての予算を確保する必要がある。従来リモートセンシングが森林管理に 対して実用化されていなかったのは、木材生産のための林業にとってリモートセンシング 技術で提供できる情報には費用を負担するだけの価値がないと見なされていたためである。
実際林業は衰退する第一次産業のなかでも最も資金が投入されにくい産業といわれていた。
60
リモートセンシング技術を用いても樹種分類にしか使えないのであれば、この情報は森林 管理のための補助情報にすぎず、高額のリモートセンシング技術を導入する必然性がなか った。宇宙開発事業団等宇宙開発当事者・リモートセンシング技術提供当事者から共同研 究・利用実績作りという取り組みをしても、共同研究として無償または安価なデータが提 供されているときのみリモートセンシングによる森林モニタが行われたが、共同研究期間 が終了して林業従事者自らの予算で森林モニタをする必要が生じるとその時点でリモート センシングによるモニタが中止されてしまうことが多かった。
第1 章で述べたように、近年森林の役割が単に林業のための生産財としてだけではなく温 暖化防止のための環境財と認識されるようになってきた。これに伴い、森林管理の目的お よび受益者が変化しつつある。すなわち伐採管理のための森林管理から、地球環境保護の ための森林管理が求められるようになった。この新たな目的は地球規模・全人類が関与す る重大問題であり、森林管理・モニタに使用しうる費用は従来の費用と比べて大きなもの となろう。すなわち地球環境保全のための森林管理・モニタに従来以上の価値が認められ るようになってきた。つまりリモートセンシングによる森林モニタがこの目的のためにふ さわしい情報を提供し得るなら、必要な資金を確保するのが従来に比べてはるかに容易に なってきたといえる。
とくに従来林業関係者がほとんどであった森林管理・モニタの受益者が、地球環境保全の ための森林管理・モニタ目的での受益者は不特定多数、ひいては全人類となってきた。こ のとき従来林業関係者のみが把握しておれば良かった森林モニタ情報を、広い範囲にわた る受益者に情報開示する必要が出てきた。とくに国家規模・世界規模の地球環境保全のた め、税金の投入による森林管理が実現されるようになると、税金投入による森林管理の実 効性把握のため、納税者への情報開示として、森林の精密なモニタが要求されるようにな ってくる。このように、近年森林モニタはその目的の変化により、受益者および予算確保 の財源・量に変化がでてきており、リモートセンシングによる森林モニタを実施する環境 が整いつつある。
実際に広域な受益者が森林管理の受益者となる、またそのための情報開示が求められてい る例を以下に示す。
(1) 高知県による森林環境税
高知県は2002 年 12 月 3 日、荒廃する森林を保全するため、来年度から県民税に一律 500円上乗せする形で「森林環境税」を導入すると発表した。来年の2月県議会に条 例改正案などを提出する。議会側に大きな異論はなく、森林整備の新税導入は全国初と なる。
橋本大二郎知事は記者会見で「広く薄く負担してもらうため、上乗せ方式を取った。都 市部の人にも山のことを考えてもらい、全国で起きている森林の荒廃に対して1歩踏み 出す。県民参加で税を運営する中で、使途についてよいアイデアも出 てくると期待し ている」と意義を強調した。
県森林局などによると、森林保全を進めるとともに、森林が持つ水源維持や大気浄化、
国土保全などの役割と林業衰退で荒れる山の現状を県民に知ってもらうのが狙い。
個人・法人の県民税に年500円を上乗せし、総額で年約1億4000万円の税収を見 込んでいる。
(以上京都新聞ニュース 2002年12月3日)
この森林環境税は、まさしく地球環境保全のため森林保全に必要な費用を広く負担する という思想であり、従来の林業関係者のみの森林管理ではなく全県民にとっての森林管 理の費用である。森林環境税が実行され、森林保全が高知県全納税者の負担で実施され るようになると、森林管理の実状を納税者に開示する必要がある。この情報開示は従来 のように林業関係者のみが利用しうる情報ではなく、広域・科学的に環境保全に合目的 の情報となる。
(2) 和歌山県本宮町(熊野)による森林交付税の提案
1991 年和歌山県本宮町町長であった中山喜弘氏が提案した制度で、国から地方公共団 体へ交付される地方交付税の一部を森林管理のために充てようというものである。中山 氏の発想では、「森林の公共性は高く、その恩恵は都市にも及ぶ。整備に必要な費用を 地元だけで負担するのではなく、国から交付を受け、荒廃が進む森を守れないか」とい うものであった。この提案は森林を有する全国地方自治体の賛成を受け、1998 年から 国も国土保全対策として、森林管理対策の充実や後継者対策などのために、森林面積な どに応じて、地方交付税の枠内ながらも予算配分を行う「国土保全ソフト事業」が新設 され、六百億円が計上された。以来、この事業は今年度も継続されている。
この森林か交付税の提案も、森林の受益者が全国民であるという立場に立っての提案で あり、この税金によって森林保全事業を実施する場合、説明責任は税の負担者である全 国民に対して生ずる。
(3) 二酸化炭素排出権取引のための根拠資料(炭素基金)20)
世界銀行は2000年1月18日に炭素基金(Prototype Carbon Fund: PCF)を発足させ た。炭素基金は主に先進国の各国政府と民間から拠出金を得て、途上国や東欧諸国にお ける再生可能エネルギの利用などの温暖化対策プロジェクトに投資し、拠出者には温室 効果ガス削減相当量を排出クレジットとして還元するものである。
この炭素基金では先進国が途上国など自国以外への植林事業なども含まれており、この 資金で植林・管理されている森林の受益者は第一次的には炭素基金を拠出した政府・民 間会社である。すなわち説明責任を果たすための森林モニタが根拠資料として要求され るようになった。
6.4 技術的観点からのリモートセンシングによる森林モニタ実用化のための提言
62
6.3 節に述べたように森林モニタのために必要な資金を確保するための枠組みは順次整い つつあるが、リモートセンシングによる森林モニタを実現させるには、これら森林の広域 受益者への説明のために必要な情報がリモートセンシング技術で抽出できるかという点を 検討する必要がある。また 6.2 節に述べたように実用化のための要件を満足させる必要も ある。5 章までに確立したレイトレーシングモデルに基づく樹冠率の推定は、今までにな いモデルを用いて樹冠率を始め森林モニタに要求されるパラメータを推定する方法を示し た。しかし今回開発した手法そのままでは、すぐ実用化に結びついてはいない。このため、
今回提案したレイトレーシングモデルに基づく樹冠率推定方法をどのように発展させれば よいのか考察する。
まず今回提案した方法が、地球環境保全のための森林管理に必要な情報を抽出できること を確認する。今回提案したモデルでは、できるだけ現実世界を忠実にモデル化している。
今回の論文では樹冠率を中心に推定したが、このモデルでは容易に修正の上、樹木間隔、
樹木サイズというパラメーラ推定に用いることができる。これらのパラメータは現場の森 林管理者でも容易に理解しうるパラメータであり、森林構造を規定するパラメータである。
もちろん温暖化防止と言った地球環境管理のためにはこの森林構造を規定するパラメータ と樹種から、吸収する二酸化炭素量を算出する必要がある。ただし森林で吸収しうる二酸 化炭素量を直接、森林管理に有用なように提供する技術は現在存在しないので、森林構造 を規定するパラメータと別途求めた単位あたりの二酸化炭素吸収量とを用いて森林全体と しての二酸化炭素吸収量をもとめることになる。この情報は地球環境保全のために必須の 情報であり、十分価値ある情報といえる。
次に 6.2 節で述べた実用化の技術的要件毎に、今回提案したモデル・推定方法をどのよう に進展させていけば実用化に向かうのかを考察する。
(2) 顧客は衛星画像データには興味がなく、データから得られる情報のみを求めている。
たしかに森林管理のためには衛星画像データそのものは必要なく、そこから抽出する樹 木パラメータが重要である。ただしこのときに、森林管理の観点からは、山岳部におけ る画像の歪み補正・地図への重ね合わせなど当然とされるので、これらリモートセンシ ングとしても基本的な処理を確実に実行して必要な精度を確保する必要がある。また森 林管理の立場から言えば、年に数回の情報収集が必要であり、被雲・観測要求競合など で現実に同一箇所を必要回数観測することを保証する必要がある。
(3) このときリモートセンシング技術からの情報としては、例えば地表面移動量のような現 場技術者が容易に理解できる情報が、例えば2次元で・過去に遡って得られれば価値を 認めてくれる。
従来作業者による実測など狭い範囲でしか計測できなかった森林パラメータは、衛星を