113. リスクポジションがスタンドアローン評価またはグループ信用力評価の次の要因であ
る。これは相対的かつ非常に定性的な分析であり、S&Pの自己資本・レバレッジ・収益 性の分析に使う標準的なリスクの想定に基づいて得られた結論の枠を超える、会社の実 際の具体的なリスクに関する見解の精度をさらに高める役割を担う。標準的なリスクの 想定が、特定の金融会社の個々のリスクの特性を必ずしも適切に反映または把握してい るとは限らないからである。リスクポジションの評価では、以下に挙げる6つの内訳項 目を検討する。
貸し出し・引き受け基準
損失実績
RACでもレバレッジでもカバーされていないリスク
リスク選好度
複雑性
多様性
114. リスクポジションは、「非常に強い(very strong)」「強い(strong)」「適切(adequate)」
「やや弱い(moderate)」「弱い(weak)」「非常に弱い(very weak)」のいずれかで 評価する。まず、金融会社の貸し出しと引き受けの基準を(同じ国の銀行の貸し出し・
引き受け基準に照らして)分析し、リスクポジションの予備的評価を決める(表18参照)。
次に、予備的評価を5つの内訳項目それぞれについて調整する。過去の損失実績は、評 価を1段階上下させることがある(たとえば、「適切」から「強い」、あるいはその逆 など)。RACでもレバレッジでもカバーされていないリスクについては、評価を1段階 引き上げるか、または1段階以上引き下げることがある。リスク選好度、複雑性、多様 性については、合わせて評価を1または2段階引き下げることがある。これらの調整は、
累積的に適用される。内訳項目のいずれか1つまたは複数の組み合わせが十分にネガテ ィブである場合、それだけでリスクポジションを「弱い」または「非常に弱い」と評価 できる。その決定は自己資本・レバレッジ・収益性の評価の信頼性についての影響の評 価に起因する。
115. 最後の3つの内訳項目――リスク選好度、複雑性、多様性――では、最初の3つの内
訳項目の分析を通じて得られた結論が、自己資本の充足性を過大評価していないかどう
格付け規準|金融機関|一般:ノンバンク金融機関の格付け手法|S&P Global Ratings 38 かを評価する。この3つの内訳項目の評価が有意にネガティブで(自己資本・レバレッ ジ・収益性の評価との対比で)、最初の3つの内訳項目でも自己資本・レバレッジ・収 益性でもまだ反映されていないリスクを指摘しているのであれば、通常はリスクポジシ ョンの評価を2段階引き下げる。1つまたは2つの内訳項目の評価が「ネガティブ」と なり、かつそのリスクが重要で(自己資本・レバレッジ・収益性の評価との対比で)、
最初の3つの内訳項目で反映されていない場合、リスクポジションの評価は通常、1段 階引き下げられる。
金融会社の貸し出し・引き受け基準
銀行業界のカントリーリスク評価(BICRA)の内訳項目の1つに、各国で適用される貸し出し・引き受 け基準がある。同項目を利用して、対象国の銀行に照らした金融会社の想定を検討する。これは、ノン バンク金融機関についてはまだ調整されていないRACの想定を補うことが目的である。ノンバンク金融 機関は銀行と競争しなければならず、銀行に比べて高い資金調達コストを埋め合わせるためにも、より 高い収益を生み出すべくリスク選好度を高める必要があるとS&Pは想定する。ただし、一部には単純 に、銀行が追加的なリスクを取らない、または、取る必要のない分野で、業務を展開している金融会社 もある。そのほかの金融会社は高リスクの金融商品の分野で事業展開しているが、より保守的な引き 受けによってそれを補っている。結果的に、その国の金融会社の貸し出し・引き受け基準は、国内銀行 より優れたものになりうる。
1)貸し出しと引き受けの基準
116. まず、金融会社の貸し出しと引き受けの基準を、同じ国に所在する銀行のそれと比較
する(表18参照)。貸し出しと引き受けの基準は、格付け規準「銀行格付けの手法と想 定」に基づく銀行の評価と同様、「少なくとも相応に保守的(at least moderately conservative)」「緩和的(relaxed)」「非保守的(aggressive)」で評価される(表19 参照)。典型的な銀行よりも低い基準で引き受けを行うということは、RACの損失想定 が潜在的な損失を過小評価していることを示唆する。金融会社の基準が典型的な銀行の それより高ければ、リスクポジションの予備的評価に「強い」または「非常に強い」が 可能である。金融会社は銀行と同じような資産は引き受けず、ニッチ分野に注力するこ とが多い。仮に、金融会社が銀行と同じタイプの資産を引き受けるとすれば、金融会社 が融資を行なう資産クラスに適用する基準を踏まえたうえで、金融会社がどの水準まで 引き受けるかを銀行の基準を用いて考察する。これは、数ある内訳項目の中でも特に、
表18(銀行については表19)で概説する文言とパラメータを判断材料とする定性評価で ある。
表18 金融会社のリスクポジション予備的評価:貸し出しと引き受けの基準
金融会社の法域に所在する銀 行に対する貸し出しと引き受け の基準のBICRA評価
表19を適用した貸し出しと引き受け基準についての金融会社固有の評価 少なくとも相応に保守的 緩和的 非保守的
少なくとも相応に保守的 適切 やや弱い 弱い
緩和的 強い 適切 やや弱い
非保守的 非常に強い 強い 適切
訳注:BICRA=銀行業界のカントリーリスク評価
格付け規準|金融機関|一般:ノンバンク金融機関の格付け手法|S&P Global Ratings 39
表19 貸し出し・引き受け基準についての調整
評価区分 特性の説明
少なくとも相応に保守的 (at least moderately conservative)
相応に保守的な貸し出し・引き受け基準
住宅ローンの新規貸出額に占めるローン・トゥ・バリュー(LTV)が80%超のローンの割 合:0-30%
指数化された住宅ローン貸し出しポートフォリオの平均LTV:60%未満
住宅ローンの貸し出し基準が、少なくともある程度保守的なキャッシュフロー要件と担保 価値などの複数の要因に基づいている。
プライム層以外向けの住宅ローンの貸し出しは最小限。
シクリカルな(景気に敏感な)業界や、変動の大きい業界への集中が限定的(ガイドライ ン:8%未満)。
不動産建設・開発への集中が限定的(ガイドライン:8%未満)
特定の大口貸出先への集中が限定的。
外貨建て貸し出しが限定的(20%未満)、あるいは、外貨建て貸し出しの通貨に安定し た信頼できるペッグ(連動)があるため、通貨変動の影響を受けにくい。
バランスシートからのリスクの切り離しが目的の証券化やデリバティブの利用は皆無も しくは非常に少ない。
緩和的(relaxed)
緩和的な貸し出し・引き受け基準
住宅ローンの新規貸出額に占めるLTVが80%超のローンの割合:30-60%。
指数化された住宅ローン貸し出しポートフォリオの平均LTV:60-75%。
住宅ローン貸し出し基準が、キャッシュフロー要件と担保価値などの複数の要因に基づ いている可能性がある。
プライム層以外向け住宅ローンの貸し出しが若干ある<投資用(buy-to-let)やサブプラ イム層など>。
シクリカルな業界や変動の大きい業界への集中度:8-15%。
不動産建設・開発への集中度:6-15%。
特定の大口貸出先への集中が若干みられる。
外貨建て貸し出しが20-40%を占めているため、自国通貨の下落による影響を受けや すい。
バランスシートからのリスクの切り離しが目的の証券化やデリバティブの利用が若干あ る(OTDモデル)。
非保守的(aggressive) 非保守的な貸し出し・引き受け基準
住宅ローンの新規貸出額に占めるLTVが80%超のローンの割合: 60%超。
指数化された住宅ローン貸し出しポートフォリオの平均LTV:75%超。
住宅ローン貸し出し基準は通常、担保価値のみに基づいている。
プライム層以外住宅ローンの貸し出しが重要な部分を占める(投資用やサブプライム層 向け)。
シクリカルな業界や変動の大きい業界への集中度: 15%超。
不動産建設・開発への集中度:貸出総額の15%超。
特定の大口貸出先への集中度がかなり高い。
外貨建て貸し出しの割合が40%を超えており、自国通貨の下落による影響を非常に受 けやすい。
バランスシートからのリスクの切り離しが目的の証券化やデリバティブが幅広く利用され ている(OTDモデル)。
注:本表は2011年11月9日付「Criteria | Financial Institutions | Banks: Banking Industry Country Risk Assessments Methodology & Assumptions」(和訳版:2012年2月23日付「格付け規準|金融機関|銀行:銀行業界のカントリーリス ク評価の手法と想定」)からの抜粋である。
2)損失実績
117. 通常、金融会社の過去の損失実績が同業他社より優れており(損失が少ない)、加え
て金融会社の損失額が同業他社より低く、RACの損失想定額(またはレバレッジが同程 度の同業他社)より低くとどまるとS&Pが予想する場合、リスクポジションの評価を1 段階引き上げる。損失実績が同業他社より劣っており、RACの損失想定を上回る(また はレバレッジが同程度の同業他社の損失を上回る)場合、および、それが継続するとS&P が予想する場合、リスクポジションは通常、1段階引き下げられる。