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ミシガン大学 家庭医療学科

ドキュメント内 表紙/木下 平島 (ページ 104-128)

Christine Kistler 医師

105 初めに、自己紹介をかねて、どのようにして家 庭医になったかについてお話したいと思います。

まず最初に、アメリカの教育システム・医学部 の教育システムについて説明し、次に家庭医のア プローチについて、そしていい家庭医になる方法 についてお話を進めていきたいと思います。

日本の医学部の教育システムは、通常6年間の 一環教育で、1年目から医学を意識した教育を受 けますが、アメリカでは最初の4年間は医学部の 勉強をしません。医学校入学要件を満たすために、

この4年間で生物学や化学などは勉強しなくては なりませんが、その他にも色々な科目を勉強する ことができます。そして、アメリカの医学部はメ ディカルスクールと呼ばれ、このメディカルス クールに進学するためにはACT(American College Test)を受験しパスしなければなりません。

日本ではインターンは2年間ですが、アメリカでは1年間だけです。私は、今3年生なのでレジデ ンシー(専修医)ということになります。インターンを終了した後、アメリカでは専門医になるため にかかる年数が診療科によって違っていて、例えば、外科は5年くらい、脳外科は約10年、小児科と 家庭科は3年程度かかります。日本とアメリカの教育システム全体では、高校を卒業してから専門の 医師になるまで11年くらいなので結局は大体同じような年数になります。

家庭医はとても素晴らしい専門だと思います。

その理由として、まずは患者さんと医者とが診療 を通して長く付き合うような関係があげられます。

一般的な診療には1回だけで患者―医師関係が終 了してしまう場合もあるでしょうが、家庭医療で は基本的に何十年にもわたって患者さんとお付き 合いしていきます。診ている家族の中で産まれた ての小児から、死んでいく高齢者までを通して診 ていくことが出来ますし、子供さんからお年寄り まで幅広い患者さんを診ることが出来ます。それは、とても健康的なアプローチだと思います。

専門医は、例えばお腹の専門ならお腹だけしか診ませんし、歯医者なら歯だけしか診ませんが、家 庭医はすべてを見る事が出来ます。そして体だけではなく患者さんの気持ちや社会的な問題について など、すべてを理解することができます。例えば、糖尿病の患者さんの場合、家庭医と専門医とでは 対応が違ってきます。専門医療では、内分泌科の先生や眼科医、腎臓の専門医でそれぞれ専門分野の 診察を行いますが、家庭医はすべてを視野に入れて慢性疾患のコントロールをすることができます。

このように述べてきますと、家庭医療の専門分野はとても広くなってしまいますが、これに加えて、

もし興味があったら産婦人科やスポーツ医学などを専門とすることも可能です。

次は、私が家庭医を選んだ理由についてお話し します。私は、かねてから高齢者医療について大 変興味がありましたし、幅広い医療にも興味を 持っていました。そのため家庭医療を選びました が、学生時代には、行く先々で【どうして、内科 医になりたくないの?】という質問を受けました。

家庭医と内科医の違いは、内科医にとって病気が 最大の関心事であるのに対して、家庭医は人間が 一番の関心事という点です。この人間を診るとい う考え方に興味を覚えたわけです。そして、予防医学を実践することで病気を予防できたら一番いい

107 私は、一般の4年生大学はノースキャロライナ 州立大学に在籍しており、そこで畜産学科と国際 関係について学びました。その後にメディカルス クールへ入りましたが、ここでは本当によく勉強 したと思います。

本当に医学生一年目の時は大変でした。化学・

生物学・生化学・解剖学・発生遺伝学などについ て学ぶ必要がありましたが、いつでも何処でも教 科書を読んでいました。こうした勉強は、私にとっ てはとても楽しいとは言えず、本当に楽しいと 思ったのは患者さんを診るときでした。次に診断 学についてお話したいと思います。

診断学の授業というのは、最近は日本にも増え てきていると思いますが、私たちの大学では2つ のコースで構成されていました。まず初めに、例 えば、心臓の雑音などについてレクチャーを受け たり、ロールプレイングしたりして典型的な事に ついて学びます。次は、地域の病院で本当の患者 さんで研修を行います。実際の患者さんを診るこ とは大変いい経験になりますが、この研修では指 導医が一緒にいますので、失敗したりすることは ありません。history taking(病歴聴取)、physical exam(身体診察)で、80%〜90%の医学的問題点を 探り出すことが出来るのです。

学生同士でロールプレイングしながら、診察を していくことはとても大切です。

病歴聴取とはとても広い内容を意味しています が、診療を行う上で一番効率のよい方法だといえ ます。病歴聴取では、まずは原病歴について聞き、

その後に既往歴や家族や家族歴について確認して いきます。

身体診察では、最初に全体をみわたして体調が 大まかにいいか悪いかを感じ取ります。この最初 に診た時に、「悪い」と感じることが重要です。

また、頭や腎臓、肺、お腹、腰など問題があった ときは、色んな方法を使って診察を進めていくス キルが必要です。

109 家庭医は、本当に素晴らしい医療を行っている と思います。家庭医は日常よく目にする病気につ いて実によく勉強していますし、実際の診療の際 には患者さんの症状や身体所見から幅広く診断を 考えることができます。すなわち、専門の診療科 とか臓器にとらわれず、肺炎、膀胱炎、糖尿病、

そして高血圧などといったプライマリ・ケア全般 について学んでいます。

薬物治療はいい方法だとは思いますが、常に副 作用があるということを忘れてはいけません。そして、患者さんに一番よい方法を探さないといけま せん。家庭医は、患者さんのためにあらゆる手を尽くしますし、患者さんと一緒になって医療を進め ていきますので、家庭医の基本的な考え方はすばらしと思っています。

医療を行う上で大切なことが3つあります。そ れは患者さんと一緒になって治療していくという 意識、友人や医師同士のコミュニケーション、そ れに社会との相互関係です。

学生にとって診察は高度なもので、大きな不安 を感じていることと思います。診察法の勉強をす る前は、どうやって心臓の雑音を聞くのか、どう やって耳や歯、口の診察をするのかわからないの で非常に不安だと思います。しかし、怖がらない で下さい。初歩的なことから始めて、徐々にスキ ルを習得していけばいいのです。そのためには、

是非とも正常の所見を把握しておく必要がありま す。正常所見を把握できていれば、もし鼻や口の 異常所見を見たら確実におかしいと判断できるようになります。そのためには、正常所見を繰り返し 診てしっかりと把握しておくように訓練を積む必要があります。

アメリカの3年生と4年生は、日本でいう研修 医にあたりますが、この時期には色々な専門科を ローテーションして学んでいきます。回る診療科 は、外科、産婦人科、小児科、精神科、内科、家 庭科など全科にわたります。全科について学ぶこ とは私にとってとても難しいことでしたが、小さ い頃から医者にあこがれていて、私の中の医師の イメージが子供や妊婦さん、そしてお年寄りなど あらゆる年齢層に関わっていくことこそが医者で あると思っていましたので、やはり家庭医としてやっていきたいと思いました。

4年生になると、自分でローテーションする診 療科を選ぶことができるようになりますので、私 は、内科での研修を選択しました。そこでは、本 当の研修医ではありませんが、研修医のような仕 事をします。これまでお話ししたように、本来、

家庭医はあらゆる健康問題を抱えている人を助け たいという気持ちが重要で、疾病に対して固執し ませんが、この内科研修の時に、私はこの家庭医 としての基本的な考え方を見失ってしまいました。

病気の治療に対してこだわるようになってしまい、ある日、そのことに気付いて大いに反省させられ ました。人間の問題は、病気だけではありません。守備範囲を広くし、その人を取り巻く環境をも視 野に入れて対応してゆくことが重要なのです。

だから、私は家庭医としての基本的な姿勢を しっかり心の中に定めることにしました。初めか ら広い範囲を対象にすることで、いい診療を学ぶ ことができるでしょうし、最初はとまどうかもし

ドキュメント内 表紙/木下 平島 (ページ 104-128)