参考文献
5. 連続マルチウェーブレット変換
5.5 マルチウェーブレット関数のデザイン
ここでは,周波数空間でコンパクトサポートを持つようなアナライジングマルチウェー ブレット関数をデザインしよう.許容条件を満たすウェーブレット関数を周波数空間で切 り刻んでマルチウェーブレット関数を構成する.
命題4 許容条件
(5.1)
を満たすウェーブレット関数ψ0 ∈L
2(
Rn)
と Pp=1
|χp
(
ξ)
|2 =1
,a.e.
ξ∈Rn\ {0
}を満たす周波数空間の分割関数 χp
(
ξ), p
=1
, . . . ,P
に対して,ψp をψp = χpψ0 で定義す る.このとき,Ψ:
=(
ψp)
Pp=1 は,定数C
Ψ =C
ψ0 を満たすアナライジングマルチウェーブ レット関数になる.以下では,画像分離を考えるため
n
=2
次元の場合に限定して,マルチウェーブレット 関数をデザインする.9
5.5.1 円環マルチウェーブレット関数
ψα
(
ξ)
が周波数空間でFig. 3
左のマスクを持つアナライジングウェーブレット関数とす る.つまり,定数α >1
に対して,周波数空間の1
の分割
j∈Z
ψα
(
αjξ)
2 =1
,a.e.
ξ∈R2\ {0
}を満たすような滑らかな関数として ψα
(
ξ)
を設計する.具体的には,α=2
の場合には,メイエの正規直交ウェーブレット関数ψMeyer
(x)
を用いて,ψα(
ξ)
= ψMeyer(
|ξ|)
とする.リース変換のマスクを用いて,周波数空間の分割を行う.
χ1
(
ξ)
=1
√
2
, χ2(
ξ)
= −i
ξ1√
2
|ξ|, χ3(
ξ)
= −i
ξ2√
2
|ξ|.命題
4
を用いると,ΨAα = ψAα,p3
p=1
:
=(
χ1(D)
ψα, χ2(D)
ψα, χ3(D)
ψα)
T =1
√
2 (
ψα,R1ψα.R2ψα)
Tは,アナライジングマルチウェーブレット関数になる.また周波数空間の
1
の分解(5.9)
j∈Z
3 p=1
ψAα,p
(
αjξ)
2 =1
,a.e.
ξを満たす.
これらの関数を用いて画像分離を行ったのが文献
[15]
である.マルチウェーブレット 関数ΨAα の外形をFig. 4
に描く.左:F(
χ1(D)
ψα)
,中:χ1(D)
ψα,右:χ2(D)
ψαを濃淡図 で描いた.上からα=1
.25, 1
.5, 2
.5
である.5.5.2 円環分割マルチウェーブレット関数
Fig. 3
左のマスクを持つアナライジングウェーブレット関数ψα(
ξ)
を周波数空間で原点からの偏角方向に
P
等分すと,Fig. 5
左図で灰色に塗ったようなマスクができる.このよ うにして作ったアナライジングマルチウェーブレット関数をΨASα,P =
ψASα,P,pP p=1
とする.
Fig. 6
にウェーブレット関数ψAS,α,Pp のマスク(左),実部(中),虚部(右)の例をあげた.上から,
(
α,P
,p)
=(1
.5
,12
,1), (2
,20
,4), (2
.5
,28
,2)
である.このマルチウェー ブレット関数のマスクも周波数空間の1
の分解(5.10)
j∈Z
P p=1
ψASα,P,p
(
αjξ)
2 =1
,a.e.
ξ10
Fig. 4. F(χ1(D)ψα),χ1(D)ψα,χ2(D)ψαの密度分布.α=1.25, 1.5, 2.5.
Fig. 5. 左:円環分割マルチウェーブレット関数のマスク.右:四角タイリングによる
マルチウェーブレット関数のマスク.
を満たす.補助定理
3
から,(
ΨASα,P;
ΨASα,P)
もアナライジングマルチウェーブレット関数 になる.画像分離のエッジ抽出を行う線形変換B
とB
1には,それぞれウェーブレット関 数としてψASα,P,pとψASα,P,p を用いた連続ウェーブレット変換を使う.5.5.3 四角タイリングによるマルチウェーブレット関数
文献
[3]
で提案したマルチウェーブレット関数を用いる.周波数平面をFig. 5
右のよう に分割する.灰色の4
角形と同じ大きさの4
角形12
個をマルチウェーブレット関数と11
Fig. 6. 左:ψAS,pα,P ,中:ψAS,pα,P ,右:ψAS,pα,P .上から(α,P,p)=(1.5,12,1), (2,20,4), (2.5,28,2).
する.
ΨSTα = ψSTα ,p
12 p=1
このマルチウェーブレット関数も周波数空間で
1
の分割(5.11)
j∈Z
12 p=1
ψSTα ,p
(
αjξ)
2 =1
,a.e.
ξを満たす.
Fig. 7
にこのウェーブレット関数のマスク(左),実部(中),虚部(右)を描 いた.四角タイリングによるマルチウェーブレット関数は,許容条件
(5.4)
を満たしていない(満たすように変更はできる)ので,アナライジングマルチウェーブレットではないが,次 小節で述べる離散化した関数系がパーセヴァルフレームになるので,そのまま用いる.画 像分離のエッジ抽出を行う線形変換
B
とB
1 には,それぞれウェーブレット関数ψSTα ,pとψSTα ,p を用いた連続ウェーブレット変換を使う.文献
[5]
では,このマルチウェーブ レット関数を用いて画像分離を行った.12
Fig. 7. 四角タイリングによるマルチウェーブレット関数左:ψST,pα のマスク中:実部 ψST,pα ,右:虚部ψST,pα .上から,(α,p)=(1.5,1), (2,3), (2.5,2).