第 1 節 交流の場で生起する相互作用とその効果
第5、6章では家族によるケアの語りから、家族による「ケアに関する役割認識と役割 取得の推移」を確認した。情報を求めて奔走する家族、病者への接しかたに悩む家族、家 族は家族なりに行動し、手を尽くし、手探りしていた。しかし、自らが支援を必要として いることに関しては自覚的ではないという姿を明らかにできた。今回の 10 事例のうち 2 事例が具体的な支援を求める言葉を示したが、その内容は相談窓口を求めることや新たな 課題に対する対処方法への助言など、道具的側面の支援に関するものであった。このよう に、家族のケア認識やケア役割遂行を見てくると、家族であるから当たり前に心配し、そ の時々に必要となった事項に対してそれぞれが持てる資源で対処しているのであった。こ のように家族にとっては病者へのケア的なかかわりは自明であるはずなのに、否、自明で あるがゆえにと言ったほうがいいのだろう、家族の悩みは尽きず、苦しいのである。しか し、繰り返すがほとんどの家族は、自らが支援を必要としている状態にあることは認識し ていなかったのである。
筆者はここに家族支援の必要性があると考えている。本研究の課題は、このように家族 が「当たり前」にとっているケアという行為に対して支援を構築するための基礎的な知見 を得ることにある。
そこで、本章ではフォーカスグループインタビュー99 [筑波大学国際発達ケア;エンパ ワメント科学研究室]を題材に、家族支援について検討する。
フォーカス・グループ・インタビュー法の選択理由
フォーカス・グループ・インタビュー法を選択したのは、聞き取り調査の分析結果を協 力者にフィードバックすることにより、分析内容の妥当性を得るためであった。同時に、
ベーチェット病病者の家族のニーズや意見を明確化し、家族の体験に関する考え方やヒン トを得て、分析の精度を高めるためであった。第一には、このような研究実践上の理由の ために実施した。
しかし、個別調査を重ねるうちに、筆者は家族が一堂に会することは必須だと思うよう になった。それぞれの家族の経験が他の家族が正に直面している困難への対処方法を示し ており、家族支援の可能性に富んでいたからである。この意味において家族の語りを筆者 のみに留めていたのでは、ケアする家族の経験が活かされない。調査対象の家族は基本的 には個別に接することはない関係である。このため、交流のための機会を設定することが 必要だと考えたのである。
99 フォーカスグループインタビューとは、「複数の人間のダイナミックなかかわりに関する情報を集め、
系統的に整理して新しい理論を構築するための調査手法」のひとつである(筑波大学国際発達ケア;エン パワメント科学研究室「フォーカスグループインタビュー法の概要」
http://square.umin.ac.jp/anme/research/anme/FGI.html 2013.12.10)。
対象特性と抽出プロセス
フォーカス・グループ・インタビューへの協力は本研究の個別調査協力者に依頼した。
協力予定者には、研究上の開催目的と交流会の開催として案内を配布した。しかし、それ ぞれの家族が他の家族に関してどれほど関心があるかに関しては、ははなはだ不安であっ た。このため、1 枚目の出席の通知を受け取ったときには胸をなでおろした。当日は、B 氏、D氏、E氏、F氏、G氏の参加があった。参加者の病者との関係は、B氏は夫、D氏 とE氏は妻、F氏とG氏は母親であった。なお、D氏とE氏は自身も病者である。
E氏は夫が付き添っての参加であった。夫は本研究では病者にあたり、家族ではなかっ た。しかし、開催案内に同封したケアラー100 [一般社団法人ケアラー連盟, 2013]に関する パンフレットで、自身もケアラーであることを理解し、さらに、ケアラー自身も支援を必 要としている人であるという記述に関心を持ち参加したのであった。夫はE氏の視覚障害 からの回復過程をナビゲートし、日々の生活でもE氏をリードしている。夫は互いに双方 へのケアラーであると認識していると言う。病者が参加することによるグループ・ダイナ ミックスへの影響を懸念したが、E氏の夫の病者としてのキャリア、職場復帰を経たキャ リア、障害者支援活動の主催キャリアなどから、助言者役割を期待できると判断し、参加 してもらった。したがって、参加者は筆者を含めた7名であった。
分析プロセス
分析の素材は交流会の逐語録である。調査結果の報告ののち交流会を実施した。交流会 では、病者との続き柄、病者の病状、家族の病者へのかかわり方、医療との関係、治療に ついて、そして、家族が抱えている困難に関してやり取りが行われた。
しかし、本研究での分析は、会話の意味内容に焦点を当てるのではなく、やり取りを通 した家族間の相互作用に焦点を当て、グループ・ダイナミックスを分析することにより交 流会の支援効果を確認することとした。
そこで、「共感」を分析の鍵概念として交流会でのやり取りに関する逐語録分析を進め た。具体的には、相槌や発言の反復を拾い上げ、それらの場面を分析した。これにより、
具体的な相互作用を明らかにした。
共感の空間
筆者の報告に続いて参加者に簡単な自己紹介をしていただいたて休憩をとった。休憩中 にアイス・ブレーキングを進め、タイミングを見計らい交流会を始めた。初めての家族の 交流の場であるため、「聞きたいこと、質問したいこと、困っていることなどを出していた だき意見交換できたらよいこと、その中からそれぞれ、何らかの方向性やきっかけなどを 掴んでいただけたら幸い」とグループに話題を預ける形で会を始めた(図36)。
以下は、F氏の息子が発病した時期を巡る二つのやり取りの場面である。
100 交流会開催案内に「ケアラー手帳」を同封したためである。ケアラー手帳とは、一般社団法人ケアラ ー連盟開発の手帳で「在宅で病気や障害を持った家族などを無償でケアしている“ケアラー”を支援する ためのツールである(一般社団法人ケアラー連盟(2013)「平成24年度老人保健事業推進費等補助金老 人保健健康増進等事業 ケアラーを地域で支えるツールとしくみ 多様な介護者を地域で支援するツー ルの検証および人材育成プログラムの開発等モデル実践に関する調査研究報告書」, p42)。
図 36 フォーカスグループインタビューの様子
F まぶしくて目が見えなくて、このまま見えんごとなるんやないやろかってことで。
で、大体、明るい子でスポーツマンだったけど、スポーツもできなくてかわいそうで す。変わってやりたいくらい。だからわからない。以前、45歳かになったら落ち着き ますって。なんか、言われたんですけど、それがないんですね。
E 落ち着きますよ。
(笑)
E だいじょうぶ、だいじょうぶ。
F この前、「わだち」に載ってた方は、こどもさんができてるんですね、レミケード 止めてる間に。結婚はできたけどこどもはだめかなっと思ってたけど、止めたらでき るんかなと思ったり。あの、欲が出て。結婚できただけでよかったのに。ねえ。
(笑)
F氏の心配を受けて、E氏が大丈夫だと安心させるように声をかけた。これを受けて、
F氏が息子夫婦に対する率直な思いを述べている。結婚できただけでも安堵したのだが、
結婚が実現したらこどもが欲しいと、次なる希望が出てきたと語る。
筆者 Fさん、ねえ、ご心配でしょうけど、診断されたの去年でしたっけ。
F 平成21年です。
E びっくりされたでしょ。
F ベーチェットっていうのは何でか知ってたんですけど。
E へえ。
F ベーチェットって、主人なんかはなんか知らないから。
E 怖いですよね。
F すぐ医学書見て。
F氏が筆者の質問に答えて、息子の発病時期をいうと、すかさずE氏がその時の心情を慮る発
言をした。さらに、F 氏がすでに病名は知っていたということを受けて、E 氏は驚きを示した。続い てF氏は、夫に関して発言しているが、E氏の驚くような反応に促されての発言であった。さらに、
E氏はF氏の発言を受けて、再びF氏の心情を慮る発言をした。E氏はF氏の心情への支持を 示し、それに促されてF氏はどう対処したのかを語った。その間、他の参加者は、うなずくなどして やり取りを聞いていた。参加者は両者の発言に耳を傾けつつ、同時にさまざまに思いを至らせて いるようであった。
次に示したのは、E氏とD氏のやり取りである。障害や特定疾患は治らない病気だということだと いう話題の続きである。
筆者 どうなっていくかに関しては、たぶん今日、一番キャリアが長いのは、Dさん。
D あ、病気のキャリア?
(笑)
E あ、そうですね、ご主人もお仕事、大変でしょうけど。
D そうですね、なんか、今考えると、わたしと出会う前の時期の主人が一番大変だ ったんですよね。
E うん、うん。
D やっぱり、すぐに目から来ているので、若い時で目の症状が出て、職種変更もし ないといけないとなると、それまで自分が築いてきたキャリアはもうなしになってし まうわけだしー。
E あー。
D 右目が強くて、次は、今度は左目に出てとなると、この先、完全に失明した時に、
まだ、結婚前だったんで、親のほうが心配して。
E 氏は自身も障害を持ち、回復過程で眼病変の夫と出会っている。ゆえに、E 氏は夫婦ともに 病者であるD 氏の発言に対し、夫も病気を持って仕事をしていて大変だろうが、D 氏自身も大変 なのではないかという含みで、「大変でしょうけど」と対応している。それに対して、D氏はE氏の労 りといった声掛けに気づかないようで、夫の病歴や仕事、親の心配について語った。しかし、E 氏 の共感はD氏の発言に沿って示され、E氏の相槌によってD氏の発言はさらに促された。この後、
D氏はさらに夫の病歴を述べていった。
次に示したのは、母親同士のやり取りにD氏が反応した場面である。
G うちも最初、視野欠損だったんですよね。途中で目が見えなくなって。で、入院 して、20 日くらい入院したんですけど。それから、呂律が回らなくなったんですね。
それから、途中で倒れて、何回か救急車で運ばれて、
F ベーチェットで?
G ベーチェットで。
D 神経ベーチェットなんですよね。なんか、特殊病変の中でも少ないから、特殊で すよね。
G はじめてので、自分も全くこういう経験がないんで、もう、慌てふためいて、車 に乗って、わあっと、現場なり、病院なりに行ってたのが、それが、たぶん自然と自