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3. プレイヤーの振る舞い

3.6. プレイヤーの振る舞い考察

ゲームデザインへの応用を考え、メカニクス、ダイナミクス、エステティクスに分けて、「第 3 章:プレイヤーの振る舞い」に関する考察を行った。

3.6.1. メカニクスとの関係

メカニクスとの関係はクラシカルなゲームデザインの根幹となる「競争と成長:フロー理論」と、

レベルデザインの基礎である「リスクとリターン」がある。また競争における原則となる「対等な立 場」と、それに対する「不公平なルール」との関係、そして本来のルールを超えた「ルールの創 発」がある。

(1) 競争と成長:フロー理論

「3.3.3.(1) 適切なルール」、「3.3.5.(2) 熱中と満足感」、「3.5. 達成感と難易度の関係に関 する研究」より示された内容である。

ゲーム性に対し、プレイヤーが最も期待している要素である。デジタルゲームでは相手との 対戦ではなく課題への挑戦、その達成に対しモチベーションが生じる。ある課題に対して、失 敗した後にプレイを繰り返すことでスキルレベルが上昇し、結果として成功する形がエンゲー ジメントを上げる。ただし、プレイヤーによって与えられる課題はルドゥサーであれば難易度高 めが、パイディアンであれば難易度低めでないとモチベーションの維持が難しい。

(2) リスクとリターン

「3.3.5.(3) 選択した課題に見合った報酬」、「3.3.7. 「駆け引き」に関する考察」より示された 内容で、ゲーム性、駆け引きをプレイヤーに感じさせる要素である。

アクションゲームでは「困難な課題に成功したら良いアイテムが手に入る」仕組みは、繰り返 しプレイしてスキルレベルを上げるモチベーションに繋がる。またゲームだけが持つインタラク ションとして、選択によって意味ある結果が生じることが必須である。課題とは、必要な技術や 伴う危険に見合った報酬を設定しなければならない。

(3) 対等な立場

「3.3.7.(2) ルールによる彼我の均衡」より示された内容で、駆け引きで重視される要素であ る。

競技としてゲームを見た場合に、イコールコンディションであることは競技の公平性を保つ。

公平性があれば、情報収集の速度と量、そこから意思決定に至る処理までの速度と的確さ、

行動の実施の速度と精度に優劣は依存する。対戦ゲームで人対人ならば、システムが共通で あれば等しい条件は作りやすい。しかしゲームAIが相手であれば、人間と互角の処理速度に 調整する必要がある。

(4) 不公平なルール

「3.4.5. 不公平なルールと事前告知に関する実験」、「3.4.6. 情報量の差と有利なルールに 関する実験」より示された内容である。

意図的に不公平なルールを設定することに関しては、相手が有利な場合はもちろん、自分

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が有利であっても本来のゲームとしての面白さは損なわれる。しかし、常識的な難易度設定の 範囲で、事前に告知されていれば、不公平なルールが設定として容認される。さらに、ストーリ ー展開上の演出としてであれば、敗北が必然となる設定も面白いとされる。

そして、自分の有利不利に関わらず、また不公平の事前通知のあるなしに関わらず、戦略 性の感じ方はルールとプレイヤーによって異なる。また選択の余地がない場合でも、自身でル ールを創発して面白さを感じている例が一部で見られた。

(5) ルールの創発

「3.3.3.(3) 良質な UX」、「3.4.5. 不公平なルールと事前告知に関する実験」、「3.4.6. 情報 量の差と有利なルールに関する実験」より示された内容である。

ゲーム本来のメカニクスを超えて、プレイヤー自身が設定したルールに基づき、独自のゴー ルを目標としてプレイする状況が見られた。これは高年齢層に顕著であり、豊富なゲーム体験 と、アクション系ゲームスキルレベルの加齢による低下から、ルドゥサーからパイディアンに遊 び方がシフトしていくことを示唆している。

3.6.2. ダイナミクスとの関係

ダイナミクスとの関係は、アクションゲームの根幹となる「自己主体感」が最重要である。また ゲーム進行上でゲームの遷移を左右する行動決定に関わる、「展開の推測」、「事前の最適 化」、「選択の余地」、「情報量の差」が影響する。

(1) 自己主体感

「3.3.3.(2) 自由なプレイ」、「3.3.5.(1) 自分の思い通りになる」より示された内容である。

ゲームの面白さとして、ホイジンガが遊びの定義の最初に提唱している「自由な行為」を担 保する感覚である[1]。プレイヤーが面白さとゲーム性において重要とする要素であり、インタラ クションをゲームに正しく反映することは、当たり前であるため悪いことで非難されることはあっ ても、良いことで高い評価が得られるものではない。

(2) 展開の推測

「3.3.7.(1) 結果の推測が可能」より示された内容で、駆け引きで重視される要素であり、こ れができないと「運ゲー」になる。

ゲームの遷移としては考える時間が必要となるが、アクションゲームであっても常に敵の様 子から展開を考える同時進行で行われる。また時々刻々変化していく公開情報に従って展開 が変化し、その推測を的確に行うことで結果が向上することが、ゲームの目的にもなる。

(3) 事前の最適化

「3.4.2.(1) 事前の最適化」、「3.4.4. 事前の最適化、選択の余地に関する実験」より示され た内容で、戦略性を感じさせる要素であり、簡単な実装でゲーム体験を変えることができる。

メカニクスとは直接関係がない情報であっても、それを提示するだけでプレイヤーは戦略性 を感じ、面白いと評価することが示唆された。これは、与えられた情報がゲームの流れには影 響がないと分かっていても、プレイヤーが自身の経験の中からゲームとの関係を感じて、独自 のナラティブを形成して最適解の決定に根拠を与えるからと分析した。

- 97 - (4) 選択の余地

「3.4.2.(2) 選択の余地」、「3.4.4. 事前の最適化、選択の余地に関する実験」より示された 内容で、戦略性を感じさせる要素である。

実験に含まれる内容は、短期的で局所的な作戦立案と意思決定であり、プレイヤーは本来

「戦術」に当たる行動に対し「戦略感」を感じていることが確認された。プレイヤーは正誤に関 わらず、意思決定に必要な情報が与えられ、最適と思われる選択肢があるだけで戦略性を感 じると分析した。

(5) 情報量の差

「3.4.6. 情報量の差と有利なルールに関する実験」より示された内容である。

事前に意志決定の根拠となる情報があることは、戦略性を感じる基本的な要素である。しか し、その真偽、内容と結果の因果関係については考慮されない。意思決定とは直接関係のな い情報と理解したうえでも、情報があった方が面白いと感じており、騙されていたとしても、情 報が提示されると戦略感を感じるのである。そして、与えられる情報量が多ければ詳細な分析 が可能と考え、戦略性と面白さは高いと感じる。ただし情報量が多過ぎると、面倒に感じてプレ イのモチベーションを失うこともある。これは最適覚醒水準がプレイヤー毎に異なることで説明 できる[12]。

3.6.3. エステティクスとの関係

ゲームにおけるエステティクスは「ゲーム体験」その物である。本研究では、その特徴的な要 素がいくつか確認された。「ナラティブの構築」、「事前告知の影響」、「難易度と達成感」、「ス キルレベルの誤認」である。また、「3.4.6. 情報量の差と有利なルールに関する実験」では「面 白さの二面性」が示唆された。しかし「3.4.7. プレイヤーの国籍による違いに関する実験」では 同じ二面性が現れず、「日本と外国の比較」からプレイスタイルの差が示された。

(1) ゲーム体験

「3.3.3.(3) 良質なUX」より示された内容である。

ゲームはゲームデザイナーが意図した体験を与える構成要素である[14]。逆にプレイヤー から見ると、ゲームをプレイし、その構成要素から体験を得る。その体験をプレイヤーが良いと 感じれば、ゲーム自体も良いと言える。ゲーム体験はUser Experience(UX)と呼ばれ、10年代 に入ると論理的に UX を構成するゲームデザインが増えたが、本研究では合理的とは思えな い実験結果も多く見られ、ユニークなUXはユーザーを限定することが示唆された。

(2) ナラティブの構築

「3.4.4. 事前の最適化、選択の余地に関する実験」、「3.4.5. 不公平なルールと事前告知に 関する実験」、「3.4.6. 情報量の差と有利なルールに関する実験」より示された内容である。

各実験のコメントより、プレイヤーは事前に与えられた情報が何であれ、それを自分の経験 に照らし合わせてナラティブを構築し、そこからゲームを予測していくと分析した。情報量が多 ければ、より細かなナラティブが構築される。また、外部情報を含めゲームとは関係ない情報 であっても、プレイヤーが自身のナラティブに組み込み、奥が深いゲームと誤認してエンゲー ジメントを感じる。日本人は、ゲームを好きな理由の上位に「世界観」、「ストーリー」があり、ナラ