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7. ゲーム道への考察

7.4. ゲーム道

ゲーム道とは、日本人ゲームプレイヤーのプレイスタイルが求道的であるという観点から、一 つの「道」となっているという考え方である。ゲームをコンテンツとして見ると、作り手が用意した ものを想定の中で楽しむだけである。しかしプレイヤーは、コンテンツが用意したルールを超え た自分のルールを創発し、コンテンツが用意したゴールとは異なる自分のゴールに向かって 精進する。この創発と自己目標の実現こそが、ゲーム道というプレイスタイルであり、全てのプ レイヤーは個々のゲーム道を持っている。これがゲーム本来のルールとゴールに従う場合は 弱いゲーム道、大きく異なる場合は強いゲーム道となるのである。

(1) フェアプレイ・ルドゥサーのゲーム道

武芸者の行動に類似するゲーム道がある。ルールを守り、マナーを守った上で自己の技術 を鍛錬し、精進し自らが理想とするゲームプレイヤーを目指す。対戦格闘ゲームにおいて、コ マンドがどんな状況でも 100%入力できるようになるための鍛錬や、相手のアクションに対して 無意識にリアクションが取れるようにする毎日の稽古は、このゲーム道に通じる。勝利は自らの 上達の結果であり、負けた中にも自分の糧を求める。

挑戦者の行動に類似するゲーム道がある。倒すべき相手が存在し、相手に関する情報を分 析して勝つための戦略を立てて、作戦遂行に必要なスキル取得のために訓練を繰り返す。デ ッキ構築型カードゲームにおけるメタ戦術は、このゲーム道に通じる。ルールやマナーを守っ て、正々堂々と自らの戦術を完遂して相手を凌駕することを求める。

(2) アンフェアプレイ・ルドゥサーのゲーム道

ビジネスの効率化に類似するゲーム道がある。目的は利潤の追求ではなく勝利だが、そこ に至る投資と手間の削減や自動化は、いち早く情報を取得し、新たな技術をキャッチアップし て自分達の強みとする。プロゲーマーによるMOBAの戦いは、このゲーム道に通じる。相手よ り早く良い環境を得る先行者利益によって、勝利を確実にすることを求める。

(3) チーター・ルドゥサーのゲーム道

研究者の行動に類似するゲーム道がある。ゲームの構造をリバースエンジニアリングで解析 し、ゲームを自由にコントロールすることに、パズルを解くような楽しさを感じる。このような探求 はゲームをプレイするモチベーションに繋がり、その結果を公表する場合も少なくない。この行 為時代は楽しむ範囲であるが、結果の公表がゲームの著作権者の権利侵害となることもある。

反社会的な利益追求を行う悪いゲーム道がある。前述の解析の結果を利用し、ゲームを手 段として利益を得ることに価値を感じる。MMORPGでRMTを行うために、ゲームをコントロー ルしてのゲーム内マネーを調達は、このゲーム道に通じる。

RMT は運営会社によって規約で禁止されており、ゲーム内でのデータ資産は運営会社の 所有物であってプレイヤーはその使用権を与えられているに過ぎない。しかしプレイヤーは、

これを自分の所有物と誤認しているところの乖離が、このような反社会的利益を生んでしまう。

これは 2012 年に「コンプリートガチャ問題」として表面化したが、運営会社が集金マシンとして のゲームに依存している実態から、ゲーム内データ資産の所有をプレイヤーに渡さず、乖離 が放置されている状態である[147]。

- 181 - (4) パイディアンのゲーム道

表現者の行動に類似するゲーム道がある。ゲームは1つのメディアであり、その中で自分の 行動を表現し満足を得る。他者に理解されないことも多いが、自身の価値観が優先され自己 目標が達成されれば良い。各種の縛りプレイや、オーディエンスに見えるパフォーマンスとして のプレイは、このゲーム道に通じる。ルールが自分の行動を制限するためゲームが継続できな い場合は、ゲームをプレイしないことも、このゲーム道である。

(5) 思想、宗教のゲーム道

修行僧の行動に類似するゲーム道がある。ゲームの世界であっても、自分の思想、宗教を 貫くことで達成感を得る。各種の縛りプレイとプレイスタイル自体は変わらない。ビーガン(完全 菜食主義者)が RPG において、主義に従って殺生を行わず、モンスターを倒さずにゲームを 進めるプレイは、このゲーム道に通じる。自己満足のモチベーションがプレイの源泉だが、逆 にゲームの中だけ現実では許されない行動をするプレイもある。

(6) 日本ゲームデザイナーのゲーム道

日本のゲームデザインは、プレイヤーに与えたい体験をコンセプトとして、それを実現するた めの構成要素を設定する。そのコンセプトにいかに新規性や意外性を盛り込むか、そしてプレ イを始めやすく、プレイを続けたら奥が深いおもてなしができるか、を目指すところにゲーム道 がある。ゲームは 1 つの表現方法だが、自己満足にならずプレイヤーに与える経験を意識し て丁寧に作った結果として、プレイヤーの記憶に残るゲームが作りたいのである。

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デジタルゲームのゲームデザインは、ソフトウェアエンジニアリングであると筆者は考える。そ こに必要な知識は、工学を筆頭として、心理学、脳認知学、行動経済学、文学、音楽学、芸術 学など学際的多岐にわたり、新たな技術も貪欲に取り込んで行かなければならない。アメリカ を主体とする技術主導でゲームデザインを考える分野では、そのメソッドも体系化されているが、

日本に特徴的なコンセプト主導のゲームデザインは、体系化されたメソッドが不足している。

本研究はコンセプト主導ゲームデザインに必要な多くの知見を含み、新たなゲームデザイ ンに取り組むゲームデザイナーをはじめ、研究者、学生まで、学術のみならずビジネスにも応 用が可能である。筆者にとって日本のゲームデザイン研究はライフワークであり、ゲームデザイ ナーとしての経験も他の研究者では及ばないと自負している。今後も筆者にしか扱えない研 究テーマに取り組み、この分野の知見、教育メソッドを積み上げていく。その結果として、優秀 なゲームデザイナーが育ち、新たな面白さを持ったゲームが作られていくことに期待する。

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謝 辞

丁寧に指導いただいた三上浩司先生、研究者としての心構えに気付かせてくれた近藤邦 雄先生、論文を査読いただいた菊池司先生、竹島由里子先生、渡辺大地先生に感謝いたし ます。また実験用ゲームの実装に協力いただいた市原拓弥君、大塚駿君、金野誠君、榊俊介 君、西川賢志君、堀田裕太郎君に、「ゲーム道」という言葉を薦めてくれた馬場章先生に、分 析方法や実験手法、検定方法の相談に乗ってくれた鳴海拓志君、一小路武安君に感謝の意 を表します。

また、研究者の道に進む背中を押してくれた息子[148]、学費を捻出してくれた妻と伯母た ち、気分転換の相手となり応援してくれた娘、末は博士か大臣になれと期待してくれた母にも 感謝します。

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発表実績

 Journal論文

 2018, 主著, フローゾーンを超えた動的難易度調整~イリンクスを楽しむ Dynamic

Pressure Cycle Control手法~, 芸術科学会論文誌 第17巻 第3号

 (2020/3/6 採録決定) 2020, 主著, 継続したゲームプレイからの離脱理由に関する調査 分析 -リプレイモチベーション喪失を防ぐ手掛かり-, 日本デジタルゲーム学会論文 誌

 著書(単著)

 2012, 遠藤雅伸のゲームデザイン講義実況中継, ソフトバンククリエイティブ, ISBN:

978-4-7973-6784-3 (印税の関係で著者名が所属会社になっています)

 国際会議論文(査読付き)

 2017, 主著, Dynamic Pressure Cycle Control: Dynamic Difficulty Adjustment beyond the Flow Zone, NICOGRAPH International 2017 (京都)

 2017, 主 著, Intentional Stay: Japanese RPG player's unusual behavior, International Conference of the Asia Digital Arts and Design Association 2017 (光州/韓国)

 著書(共著)

 2018, ゲームする人類-新しいゲーム学の射程, 明治大学出版会, ISBN: 978-4-9068-1125-0

 2019, ゲーム学の新時代, NTT出版, ISBN: 978-4-7571-0385-6

 国内学会論文

 2013, 単著, 書込み式ループすごろくを使ったレベルデザイン演習, 日本デジタルゲー ム学会2012年次大会

 2014, 単著, 7並べを使ったゲーム AI 作成演習, 日本デジタルゲーム学会 2013 年次 大会

 2014, 主著, フランス人ゲームプレイヤーから見た日本ゲーム, 日本デジタルゲーム学 会2013年次大会

 2014, 主著, 人はなぜゲームを途中でやめるのか?~ゲームデザイン由来の理由~, 日本デジタルゲーム学会2014夏季大会

 2015, 単著, 企画力の基礎を作る「ラピッドプランニング演習」, 日本デジタルゲーム学 会2014年次大会

 2016, 単著, ゲーム企画初心者のための要素分析グループ演習, 日本デジタルゲーム 学会2015年次大会

 2016, 単著, エポックメイキングゲームから見るゲームのパラダイムシフト, 日本デジタル ゲーム学会2016夏季大会

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 2016, 主著, 短時間で適正難易度に誘導する「プリセットレベル選択」, 情報処理学会 Entertainment Computing 2016

 2018, 主著, 不完全情報ゲームにおいて戦略性を感じさせるゲームデザインに関する 研究, 日本デジタルゲーム学会第8回年次大会

 2019, 主著, ゲーム道:日本ゲーム文化を理解するゲーム学の手掛かり, 日本デジタル ゲーム学会2019夏季大会