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3. プレイヤーの振る舞い

3.4. ゲームの戦略性に関する研究

3.4.3. 戦略性実験用ゲーム

本研究の実験はプレイヤーが受ける印象を定量化する必要がある。そのため、ゲームが理 解しやすくプレイが楽である簡単なルールが良い。また複数のバージョンを全てプレイしてもら うため、1 ゲームに要する時間は短いことが望ましい。そこで、不完全情報ゲームとしてポピュ ラーな「じゃんけん」を実験用ゲームに採用し、比較のためのゲームデザインを考案し実装した。

共通の仕様を次に示す。

 対戦相手はコンピュータ

 プレイヤーが、グー、チョキ、パーから任意の1つを選ぶ

 プレイヤーの選択をキッカケにゲームが開始される

実験の検証項目に合わせ、個々の仕様を設定した。

(1) 基準ゲーム「ガチじゃんけん」

コンピュータがランダムに手を選び勝敗が決まる。特別な演出や効果はなく、対戦回数、勝 敗だけが情報として表示される。3 本勝負の 2 本先取で 1 戦勝利とした。ガチじゃんけん(以 降「ガチ」)の、プレイヤーが手を選択する画面を図3-1に示す。

図 3-1. ガチじゃんけんの選択画面 (2) 10戦履歴バージョン「戦歴じゃんけん」

事前の最適化に必要な要件は、最適化の手掛かりとなる情報が十分に公開されていること

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である。そこで基準ゲームに対し、コンピュータが選択した手の直前 10 戦のリストを表示した。

この際、プレイヤーが出した手や、勝敗結果などの表示を省いたのはゲーム内容が難しく見え る印象を避けたことと、最低限の情報だけで戦略性が与えられると考えたからである。

リストの内容とは全く関係なくコンピュータは手の抽選を行う。従ってゲーム性は基準ゲーム と全く変わらない。3本勝負の 2本先取で1 戦勝利とした。戦歴じゃんけん(以降「戦歴」)の、

プレイヤーが手を選択する画面と履歴リスト部の拡大を図3-2に示す。

図 3-2. 戦歴じゃんけんの選択画面と履歴リスト部の拡大 (3) 選択変更可能バージョン「コールじゃんけん」

選択の余地に必要な要件は、ゲーム中にプレイヤーが状況に従った選択が可能で、その 選択肢の中に必ずプレイヤーが選びたい項目が用意されていることである。そこでプレイヤー が手を選択した後に、ナビゲーションキャラクターがコンピュータの選択した手に関する正誤の 担保されない情報を提供するコールをし、それを見てプレイヤーが手の変更を行えるようにし た。情報の生成は実際の手とは別にコール用の手をランダムで選び、そこから想定されるコメ ントである。この場合、情報の正誤と手の変更の有無に関わらず、ゲームの勝敗は基準ゲーム と変わらない。3 本勝負の2 本先取で1 戦勝利とした。コールじゃんけん(以降「コール」)の、

プレイヤーが手の変更を選択する画面を図3-3に示す。

図 3-3. コールじゃんけんの変更選択画面

- 76 - (4) 後出しバージョン「爺じゃんけん」

メカニクス上の不公平は、対戦相手とプレイヤーでルールが異なることであると考えた。そこ で、対戦相手のみが「後出し」を行い、プレイヤーに必ず勝利するゲームデザインを考案した。

プレイヤーが手を選択すると同時に「えーと」というボイスを発し、1秒から1.5秒の間に「これ じゃ」というボイスと共にプレイヤーに勝つ手を選択する仕様を実装した。この仕様のみボイス を使用した理由は、プレイヤーに対戦相手が後出ししているということを明確に認知させるた めである。3本勝負の2本先取で1戦勝利とした。爺じゃんけん(以降「爺」)における選択から 後出しの遷移を図3-4に示す。

図 3-4. 爺じゃんけんにおける選択から後出しの遷移 (5) 必敗バージョン「対神じゃんけん」

目標の達成不可能は、勝利できないことであると考えた。プレイヤーが選択した手を元に対 戦相手がそれに勝つ手を選択するゲームデザインを考案した。

3 つの選択肢からプレイヤーが手を選択したと同時に、対戦相手がそれに勝つ手を選択す る。この動作は、必ず対戦相手が勝つこと以外基準ゲームと全く同じである。しかし、ゲームの 説明では「相手が必ず勝ってきます…たぶん」と表示し、勝てる可能性があるかのような演出を 行った。3 本勝負の 2 本先取で 1 戦勝利とした。対神じゃんけん(以降「対神」)の、ルール告 知を行っているスタートと敗北決定画面を図3-5に示す。

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図 3-5. 対神じゃんけんのスタートと敗北決定画面 (6) 10戦勝敗履歴バージョン「のーまるじゃんけん」

相手の手だけを表示した「戦歴」に対し、相手の手だけでなく自分の手と勝敗結果も表示し て欲しいという被験者の意見を取り入れた改良バージョンである。相手の手はランダムで決定 する。自分の手選択時に直前10戦分の勝敗リストを表示する。リストの内容と相手が出す次の 手には因果関係はない。のーまるじゃんけん(以降「ノーマル」)の選択画面を図3-6に示す。

図 3-6. のーまるじゃんけんの選択画面 (7) 情報量の多いルール実装「でーたじゃんけん」

直前100回までのプレイヤーとコンピュータの手、勝敗の他に次の情報も提示して情報量を 増加させた。

 現在の対戦回数:データ枠外画面右上

 プレイヤーの勝率

 プレイヤーの勝敗数

 コンピュータの手の累積比率

データ枠は10戦分を 1 ページとし、ページ切り替えの機能を付け 100戦分の閲覧を可能 にした。コンピュータが選ぶ手の確率は、基準ゲームと同様に3分の1のランダムである。でー たじゃんけん(以降「データ」)の選択画面とリスト枠の拡大を図3-7に示す。

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図 3-7. でーたじゃんけんの選択画面とリスト枠の拡大 (8) プレイヤー有利バージョン「ぐー80じゃんけん」

コンピュータの選ぶ手の確率は、グーを8割、チョキ、パーそれぞれを1割としたランダムで あり、これは事前にプレイヤーに通知される。勝利を優先するのであれば、パーを出し続けるこ とが勝率 8 割を維持する最適解であり、安定して勝ち越すことができる。これは仕組まれた勝 利であり、事前の最適化は維持されていても戦略性を感じない可能性がある。逆にパー以外 を出すことは、安定して勝つ以外の面白さをプレイヤー自身が創発していると考えた。事前に 与える情報は次の通りである。

 「あいこも負けよ」勝率:データ枠外画面右上

 プレイヤーの手別勝利数

 コンピュータの手の累積比率

 コンピュータの直前30回分の手

「あいこも負けよ」勝率とは、プレイヤーの勝ち以外を負けと見なす勝率である。これはプレイ ヤーがパーを出し続けて、勝率 8 割を維持することの確認手段であり、コンピュータがパーを 出した際に、あいこで勝率が増加することを防いでいる。プレイヤーの手別勝利数は、パー以 外で勝利したことの確認手段である。コンピュータの手のみの履歴を 30 戦表示したのは、10 戦ではグー以外の手を含まない状況が多発し、データ量として不十分と考えたからである。ぐ ー80じゃんけん(以降「グー80」)の選択画面とリスト枠の拡大を図3-8に示す。

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図 3-8. ぐー80じゃんけんの選択画面とリスト枠の拡大 (9) 英語バージョン「Normal, Data, Rock80 Mode」

外国人のテストプレイ向けに、「ノーマル」、「データ」、「グー80」の英語ローカライズを行った

(以降「Normal」、「Data」、「Rock80」)。言語以外の変更点はない。英語バージョン 3 モードの 選択画面を図3-9に示す。

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図 3-9. 英語バージョン3モードの選択画面