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ブラウン運動

ドキュメント内 i (ページ 76-79)

S(t+s)−S(s)が平均0、分散σ2tの正規分布に従うことをきちんと確かめるためにはモーメ ント母関数を使えば良い。S(n∆t)のモーメント母関数は

E(exp(θS(n∆t))) = (1

2eθσ∆t+1

2e−θσ∆t )n

となる。∆t=t/nと置き換えて、指数関数をテーラー展開すると、奇数次の項が消える 1

2eθσ

t/n+1 2e−θσ

t/n= 1 +σ2

2n2+o(n−1) したがって、

E(exp(θS(n∆t))) = (

1 +σ2

2n2+o(n−1) )n

exp (1

2σ22 )

(4.50) これは平均0、分散σ2tの正規分布のモーメント母関数に他ならない。

4.5.2 ブラウン運動

ブラウン運動の数学的な定義は次のように与えられる。

定義4.1 連続時間、連続状態の確率過程{X(t), t0}がブラウン運動(過程)であるとは、次 の条件を満たす場合をいう。

(1)X(0) = 0 (2)独立増分を持つ

(3)任意のt >0, s0に対して、X(t+s)−X(s)が平均0、分散σ2tの正規分布に従う。

P(X(t+s)−X(s)≤x) =

x

−∞

1

2πtσe−z2/(2σ2t)dz= Φ ( x

σ√ t

)

(4.51) 3番目の条件式の右辺はsによらない形をしている。確率が区間の幅だけに依存するという性 質は定常性と呼ばれ、{X(t)}は定常増分を持つと言われる。3番目の条件からサンプルパスは 連続であることは分かるが、同じ3番目の条件からどんなに小さな区間[s, s+t]であっても、そ の間にジャンプする量は上限がないので、なめらかな変化は期待できない。実際サンプルパスは 至るところ微分不可能となることが、微分係数の計算によって確かめられる。平均変化率の2乗 の期待値を計算すると

E

((X(t+h)−X(t) h

)2)

= 1 h2E(

(X(t+h)−X(t))2)

=σ2

h → ∞, (h0) (4.52) となって、tにおける微分係数は有限の値に収束しない、すなわちtで(ということは任意の点 で)微分できない。

特にσ= 1の場合を標準ブラウン運動と言い、{B(t), t≥0}あるいは{W(t), t0}と記す ことが多い(W はこの確率過程を研究したWienerの頭文字)

独立増分という性質を使うと、自己共分散C(X(t), X(s))が以下のようにして計算できる。

t > sとすると、

C(X(t), X(s)) =E(X(t)X(s)) =E((X(t)−X(s) +X(s))X(s)) =σ2s (4.53)

t < sの場合も同様に計算できるので、両方の場合を合わせて次の式が得られる

C(X(t), X(s)) =σ2min{s, t} (4.54)

練習4.16 標準ブラウン運動{B(t), t≥0}に対して、(1)B(s)B(t+s)の期待値を計算しなさ い。(2)B(s)B(t+s)の共分散を計算しなさい。

4.5.3 最大値の分布、初到達時間

ブラウン運動の興味深い問題の一つとして、ある区間の間の最大値の分布を調べる。区 間[0, T]の間の標準ブラウン運動{B(t), t 0} に対して、その最大値をR(T)としたとき、

R(T)> a(>0)の確率を知りたい。サンプルパスが連続であることを使うと、直感的にも明らか な方法で答えを求めることが出来る。

命題4.8 標準ブラウン運動{B(t),0≤t≤T}に対して、その最大値をR(T)としたとき、その 補分布関数は次の式で与えられる:

P(R(T)≥a) = 2

a

1

2πTe−x2/(2T)dx (4.55) 証明a >0を一つ固定して{B(t),0≤t ≤T}のサンプルパスを、B(T)≥aとなるものと、

B(T)< aとなるものの二種類に分ける。B(T)≥aならば、R(T)≥aであることは明らか。

一方、B(T) =b < aR(T)≥aとなるサンプルパスを任意に一つ考えよう。サンプルパス の連続性から、このパスにはB(t) =aとなるような0< t < Tがあるはず。その最初のtの値tとしよう。ランダムウォークで鏡像の原理を説明したときと同じように、y=aを対称軸と して、区間[t, T]のサンプルパスB(t)の鏡像B(t)˜ を描く。区間[0, t]ではB(t) =˜ B(t)とす ると、B(t)B(t)˜ は1対1に対応し、B(T) = 2a˜ −b > aとなる。逆に、任意のB(T)> a なるサンプルパスには、その鏡像のB˜(t)が対応する。したがって、R(T)≥aB(T)< a なる確率はB(T)> aとなる確率と等しい。ということは、R(T)> aの確率はB(T)> aとな る確率の2倍に等しい。これが上の命題で主張したいことであった。2

このような考え方は、ランダムウォークの場合と同様、鏡像の原理と呼ばれる。

図9 ブラウン運動における鏡像原理

ブラウン運動のもう一つの興味深い問題として、状態aを初めて訪問する時間がある。

命題4.9 標準ブラウン運動{B(t), t≥0}に対して、状態a̸= 0を初めて訪問する時点をY

したとき、その分布関数は次の式で与えられる:

P(Y < t) = 2

a

1

2πte−x2/(2t)dx (4.56)

証明Y < t、すなわち時刻tまでに状態aを訪問した、ということは区間[0, t]の間の最大値 R(t)が少なくともa以上、ということと同値である。したがって、上の命題を使って、次が成 り立つ。

P(Y < t) =P(R(t)≥a) = 2

a

1

2πte−x2/(2t)dx 2

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