4. ニュー・ベイシス会計
5.2. フレッシュ・スタート法の会計処理
5.2.1. フレッシュ・スタートにおける公正価値
フレッシュ・スタート法における公正価値プーリングと相互パーチェスの2つの会計処 理の前提となる条件について言及した。公正価値プーリングは旧株主による現物出資、相 互パーチェスは新企業による旧結合当事企業の取得である。公正価値61プーリングについ ては、現物出資を擬制している。現物出資の会計処理については、借方区分を先に決めて、
貸方区分を従属して決定する考え方もある。一方で、貸方区分を先に決めて、借方区分を 従属して決定する考え方もある。
借方区分を先に決める場合は、借方には現物出資された資産が計上される。この資産に はのれんを含まないと考えられる。株主が識別可能な資産を現物出資していて、特に測定 関して資産面から決定されるのであれば、株主が将来の企業の超過利益を自ら出資するこ とは考えにくい。
また、貸方区分を先に決める場合は、借方には対価である株式の公正価値が記載される だろうから、借方には、資産の公正価値と株式の公正価値の差額がのれんとして計上され ることもあると考えられる。株主が受け取った対価である株式の公正価値と現物出資した 資産の構成価値に差があるとすれば、企業もしくは評価機関は、当該資産に市場価値より も高い価値を見出している、もしくは超過利潤を期待していることとなる。もっとも当該 差額を全額のれんとして計上する他にも、各資産に分配して計上する手法なども想定され る。
5.2.2. のれんと利益剰余金の処理
前項で、フレッシュ・スタート法は、すべての結合当事企業の資産及び負債を、企業結 合時の時価に評価替えする方法をいう(企業会計審議会(2007),p.2)と記述した。この時価 による評価替えが、いわゆる公正価値と同義であり、また公正価値の範囲についてはここ では、大きな問題とならないことに触れた。
フレッシュ・スタート法は先述の通り、公正価値プーリング法と相互パーチェス法の考
61 ここでいう、公正価値は、基本的に、市場で再度現物出資する資産を調達してきた時の価格 である。先述のニュー・ベイシス会計の場合における公正価値が市場価値に依存するとは決ま っていないものの、公正価値プーリングが現物出資を擬制するのであれば、ニュー・ベイシス 会計における公正価値については特別な問題とする必要はないだろう。ニュー・ベイシスにお ける公正価値よりも、寧ろ後述の借方と貸方のどちらの視点を重視するかという問題が公正価 値の認識に影響を与えるからである。
えが存在する。菊谷(2006)では、フレッシュ・スタート法の具体的な数値例を模索してい る。その中で、公正価値プーリング法と相互パーチェス法の2つの会計処理について言及 している62。
図表 17 フレッシュ・スタート法の会計処理の具体例63 A社貸借対照表
資産 1000 (時価1,100) 負債 800 (時価840)
資本金 150
資本剰余金 30 (時価 90)
利益剰余金 20
B社貸借対照表
資産 900 (時価1,000) 負債 700 (時価740)
資本金 150
資本剰余金 20 (時価 80)
利益剰余金 30
C社貸借対照表
資産 500 (時価600) 負債 400 (時価440)
資本金 70
資本剰余金 20 (時価80)
利益剰余金 10
菊谷(2006)では、公正価値プーリング法のもとでは、持分の結合を前提とした会計処理 をする。A社がB社に対して1:1の割合でA株式を交付するケースを想定している64。
62 菊谷(2006)は、武田(1982)の分類するところによる会計処理方法から企業結合会計基準を検 討するアプローチを取っている。そのため、経済的実態を分類して適切な会計処理方法を適用 すべきであるという見解とは認識が異なる面がある。
63 菊谷(2006),p.25-34 を参照している。時価の記載がないものに関しては簿価と時価が一致 している。
64 菊谷(2006)は、おそらく、このようなケースでも実質的な変更が生じることがあるだろうと いう前提にたって検討している。
公正価値プーリング法のもとでの新企業実体の貸借対照表65
資産 2100 負債 1580
資本金 300
資本剰余金 170
利益剰余金 50
新企業実態が創設されるようなケースは、利益剰余金を計上すべきではない。なぜなら、
新規事業体を設立されたならば、事業体において拠出資本以外が認識されないはずである。
ただし、法的制約により分配可能額を明示しなければならない場合においては、利益剰 余金を計上するケースも存在しうるだろう。それは例外的なケースである。
菊谷(2006)では、相互パーチェス法66のもとでは、取得企業が継続的事業体となること
を前提とした会計処理をしている。A 社が C社を時価 180の A 社株を対価に半額を資本 組入する。この会計処理は先述した相互パーチェス法と異なっている。なぜなら、これは 取得企業Aが公正価値で評価されただけで、経済的実態は「取得」だからである。
相互パーチェス法67
資産 1700 負債 1280
のれん 20 資本金 240
資本剰余金 180
利益剰余金 20
もし、修正を加えるとするならば、取得企業とされているAに対しても、被取得の会計 処理がなされるべきである。つまり、のれんの金額が少なくとも 20 より増加して、利益 剰余金は取得されるため、当然に計上されない68。資本金と資本剰余金も新企業の資本組
65 資産(A時価1100+B時価1000=2100),負債(A時価840+B時価740=1580),資本金(A簿価 150+B簿価150=300),資本剰余金(A時価90+B時価80),利益剰余金(A簿価20+B簿価30=50)
66 菊谷(2006)は、取得企業にも公正価値による評価をする手法として相互パーチェス法を捉え ているため、公正価値パーチェスという用語を活用していたが、相互パーチェスとしてここで は、記載する。
67 資産(A時価1100+C時価600=1700),負債(A時価840+C時価440=1280),資本金(A簿価
150+半額資本組入90=240),資本剰余金(A時価90+半額資本剰余金組入90),利益剰余金(A簿
価20=20),のれん(B時価180-B簿価160=20)
68 フレッシュ・スタート法によると理論上、利益剰余金が存在しない。企業会計審議会(2003) で、法的な実態と指摘される新設合併は、配当財源が減少することを忌避する経営者や株主に
入に応じた金額がそれぞれ計上されるべきである。