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フェンタニル

ドキュメント内 化学剤データベース (ページ 132-137)

IX. 新興化学剤

1. フェンタニル

[構造式]

[分子量]336.47

[融点] 85〜87℃

[溶解性]メタノール、エタノール(95)に極めて溶けやすく、アセトニトリルに溶けや すく、0.1mol/L塩酸試液にやや溶けにくく、0.01mol/L硫酸試液に溶けにく く、水にほとんど溶けない。

なお、基本的な性状は結晶又は結晶性粉末であるが、テロでの散布手段を考えれば、

液体や微細粒子も考えられる。即ち、空気中に微細粒子や液体のスプレー(エアロゾ ル)の形で、また水や食物への混入、農作物への汚染等が懸念される。

2.毒性、中毒作用機序、体内動態 毒性

人間に対する正確なLD50は知られていない・

(参考)ラット3.1mg/kg モンキー 0.03mg/kg

中毒作用機序

・中枢神経抑制に続く昏睡、呼吸抑制。

急性麻薬中毒の症状は、四肢、中脳、脳幹、脊髄に局在するオピオイドレセプターと 過剰投与された麻薬との特異的反応である。しかし、麻薬の異常な大量投与の場合、

麻薬はオピオイドレセプターを介さないで、発作を引き起こすといわれている。

μレセプター(モルヒネなど):

多幸感、上脊髄鎮痛、呼吸抑制に関与する δレセプター(N-アリルノルフェノゾシンなど):

不快感、幻覚、妄想、呼吸と血管運動の刺激に関与する κレセプター(ケトサイクラゾシンなど):

脊髄鎮痛、縮瞳、鎮静、睡眠、呼吸抑制などに関与

・禁断症状(慢性)

体内動態 [吸収]

筋注では30 分以内に吸収される [分布]

蛋白結合率:80~86%

分布容量:Vd=4L/kg [代謝]肝で代謝される

代謝物:デスプロピオニルフェンタニル、ノルフェンタニル [排泄]

尿中に、85%以上が3~4 日間で排泄される、未変化体は6%。

腎クリアランス=11.2mL/min/kg 半減期:t1/2=2~4 時間(母化合物)

3.中毒症状

痛覚脱失は、静脈注射や点滴では数分以内にピークが起こる。100μgの処方で、無感 覚の時間は30分~60分続く。皮膚からの吸収は、数時間から数日続くこともある。飲 み込んだ場合には、二段階の曝露が起こる。最初の2~3分で初めの曝露があり、2時間 以上たって消化器からの吸収がある。呼吸器からの吸入による吸収は速い。

呼吸機能の低下が起こる。フェンタニルの静脈処方により、速やかに胸部筋肉の筋剛 直(ウッドチェストシンドローム)が起こり、正常な呼吸が阻害されることが知られて いる。頭蓋内圧亢進や筋肉の硬化、けいれん等が、フェンタニルの使用の際に起こるこ とが報告されている。

*経口曝露

縮瞳(後に緩和されることもある)、意識の低下、呼吸機能の低下、血中の酸素濃度の 低下、血液の酸性化、低血圧、脈拍低下、ショック症状、胃の蠕動運動低下、消化能力 低下、肺水腫、意識喪失、そして死に至る。

*吸入曝露

飲み込んだ場合を参照する。

*経皮曝露

同上であるが、皮膚温度が高いほど吸収が大きい傾向にある。

*眼に入った場合

痛みが起こることがある。

4.治療

大きくは拮抗薬投与と呼吸管理が重要である。拮抗薬はナロキソン(ナルカン)0.4~

2.0mgがオピオイドの過剰摂取において推奨されている。

・ナロキソンは、通常静脈内投与するが、自動注射器による筋注、経鼻投与も行われ る。特に、大量の被害者が出るテロのような状況で筋注の繰り返しは効率が悪いの で、高用量化や経鼻投与製剤の即効性、持続性を高める薬剤開発が行なわれている。

・効果は5-10分で見られる。効果を維持するため、繰り返し処方してもよい。

・ナロキソンは、wooden chest syndrome(胸郭の固縮)の改善にも効果的である。

注意:日本国内の製剤と米国の高用量製剤では、ナロキソンの含有量が異なる。また剤 型も、日本国内はアンプル製剤のみであるが、米国では鼻用吸入キット、オート インジェクター、シリンジ製剤が販売されている。(表 日本国内のナロキソン製 剤と米国の高用量製剤の比較 参照)

*経口の場合

速やかに現場から避難させ、気道を確保し、嘔吐を防ぎ医師か救急隊員の指示でナロ

キソンを処方する。また、活性炭懸濁液(30g/240mL)を、20g-100g 投与する。子ども

(1-12才)では25-50gとする。その後、病院へ搬送する。

*吸入した場合

現場から離し、呼吸と脈拍を確認して気道を確保し呼吸困難や浅く短い呼吸を認めた 時はバッグバルブマスクを用いて、酸素吸入を行う。呼吸停止の際は人工呼吸をする。

全身の状況を確認しつつ、対症療法を行う。全身の中毒症状が現れたら、経口摂取の 場合に準じて処置する。

*経皮の場合

除染を実施した後、飲み込んだ場合に準じて処置する。

[経過観察]

・呼吸機能の低下やその他のオピオイドの影響によるものについては、少なくとも 12-24 時間の経過観察が必要である。心拍機能とともに、低血圧や不整脈の監視も必要 になる。

・肺水腫が起こりやすく、起こればそれに応じた対応と治療が必要になる。

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