VIII. くしゃみ剤
1. ジフェニルシアノアルシン(DC)
[相対蒸気密度]8.8(空気=1)
[溶解性]水に不溶かつ加水分解しにくい。クロロホルムや他の有機溶媒に可溶。
[反応性]常温で非常に安定。
2.毒性、中毒作用機序、体内動態 毒性
[中毒量]
ヒト吸入最小刺激濃度:0.25㎎/ m3
ヒト吸入ICt50:30㎎・min/ m3(30秒)、20㎎・min/ m3(5分)
[致死量]
ヒト吸入LCt50:10,000㎎・min/ m3
毒性はジフェニルクロロアルシン(DA)よりも10倍強い。
(参考)
許容濃度
IDLH(Immediately Dangerous to Life and Health):5㎎/ m3、 時間荷重平均(TLV-TWA): 0.01㎎/ m3
中毒作用機序 眼・粘膜刺激作用
体内動態 [吸収]
作用の出現は非常に速やかである。
3.中毒症状
‧ 眼、皮膚、粘膜を刺激し、鼻汁、くしゃみ、咳、頭痛、胸部圧迫感、悪心、吐き気、
不快感を引き起こす。
‧ 作用速度は非常に速く、高濃度の場合30秒ほどで耐えられなくなる。通常の使用濃 度では、効果は曝露後も約30分継続する。高濃度の場合には、効果が数時間持続す る。
‧ 速やかに解毒され、無能力化される量であっても、1 時間程度でその効果はなくな る。
[検査]
呼吸器症状がある患者では、動脈血血液ガス分析、胸部 X 線検査、呼吸機能検査を行 う。
DCは体内でジフェニルアルシン酸に分解されるため、血液、尿のサンプルを曝露後 24 時 間 以 内 に 確 保 で き れ ば 、 ガ ス ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー–質 量 分 析 法(Gas Chromatography - Mass spectrometry:GC/MS)で定量できる。
4.治療
[概要]
特異的な解毒剤や拮抗剤はない。対症的に治療する。
[詳細]
*吸入の場合 (1)基本的処置
・新鮮な空気の下に移動
・呼吸不全をきたしていないかチェック (2)対症的治療
・呼吸困難、喉頭痙攣がある場合、気管内挿管、酸素投与、人工呼吸が必要となるこ とがある。
・嘔吐:制吐剤の投与 ・頭痛:鎮痛剤の投与 ・肺水腫対策
*眼に入った場合 (1)基本的処置
直ちに大量の流水で洗眼する。眼はこすらない。
(2)対症的治療
・洗浄後も刺激感が続く場合は、眼科的診察が必要である。
・眼科用ステロイド剤または局所麻酔剤の眼軟膏が必要となることもある。
*皮膚についた場合 (1)基本的処置
・汚染された衣服を脱がせ、石けんと大量の水で十分に洗浄する。
(2)対症的治療
・皮膚の炎症所見が 1 時間以上続く場合は、湿布を行った後、ステロイド剤含有ク リームまたはカラミンローションを局所に塗布する。
参考)湿布は収斂作用のあるブロー氏液(米国薬局方の酢酸アルミニウム液)を 40倍希釈して使用することが勧められている。
・二次感染があれば、抗生物質療法、痒みには抗ヒスタミン剤の経口投与が必要と なることがある。