第 4 章 RF パワーアンプのヒステリシス特性の測定
4.7. 考察
電気連成シミュレーションおよび4.5.1項の前半でfRFの選定の理由として述べた。
シミュレーションにおいても,4.3 節のようにロードプルシミュレーションとソ ースプルシミュレーションの結果からfRFが 5.85 GHzから6.75GHzの間で最適な インピーダンスに合わせた入出力整合回路を設計し,AM‒PM 歪の算出は帯域外
の5.8 GHzで実施した。その結果AM‒PM歪は帯域内での発生量よりも大きくな
ったが,実験で用いた RF パワーアンプの整合回路を正確にモデル化できていな かったものと考える。
本実験では,整合回路をパッケージ内にもつ市販のGaN HEMTを用いたため,
整合回路をシミュレーション用に新たに設計した。実際の RF パワーアンプの設 計においては整合回路の情報を入手できるので,インピーダンス整合状態を精度 よく把握することが可能である。
4.7.3. GaN HEMTの電気モデルの精度
本論文で作成したGaN HEMTの電気モデルの精度については,4.3節で述べた ように,PRFoutおよびEffについて 表 4-1に示したTGI5867-25の性能表とシミュ レーション値を比較した結果,PRFoutは同等,Effの差は5%であり,大電力動作時 における発熱量は妥当なものであると考える。
低電力レベルにおいては,実験結果とシミュレーションを比較するために,図
4-28 に Effと PRFoutの関係を示した。シミュレーション値は図 4-7(c)と(d)から求
め,実測値は図 4-26(a)と(c)から求めた。PRFout = 5 Wの時にEffは,実験とシミュ レーションで,それぞれ,22.5%と27.4%であり,約5%の誤差が生じることにな る。
図 4-28 RFパワーアンプの電力効率のシミュレーションと実測の比較 Fig. 4-28 Comparison between measured and simulated Eff of RF power amplifier.
低電力レベルでのGaN HEMTの電気モデルの精度向上は,温度を変えながらS パラメータを測定することで可能となる[3]。その際は,今回の実験で用いたよう なパッケージ品ではパッケージ内部の部品の温度特性が含まれてしまうので,
GaN HEMTチップ単体を評価する必要がある。また,スケールダウンしたチップ
を用いる場合には,熱モデルへの影響に注意する。
4.7.4. GaN HEMTの熱モデルの精度
熱モデルの精度を考察するために,実験における GaN HEMT の TCHを推定す る。まず,図 4-26(a)のPdisを近似式(4-6)で表す。
360 2 112
2 cos 29 . 0 360
2 7 cos 36 . 1 85 .
11 π f t π f t
Pdis M M
360 3 96
2 cos 24 .
0 π fMt
(4-6)
この時,図 4-29(a)の通りに近似式は実測値をほぼ再現している。次に GaN
VDD= 20 V fM= 2.5 MHz For measurement
IDDset= 0.53 A (VGG= − 3.0 V) fRF= 5.8 GHz For simulation
IDDset= 0.53 A (VGG= − 2.68 V) fRF= 5.8 GHz 6
Eff(%)
4 PRFout(W) 40
0 20 30
10
2 3 5
0 50
Measurement
1
Simulation
HEMTの熱モデルにPdisに相当する熱量を印加する。具体的には,図 2-2に示す 熱等価回路に近似式(4-6)の各項に相当する電流源を接続する。こうして求めた TCHの変化が図 4-29(b)である。TCHのヒステリシス量はt = 0.25TMとt = − 0.25TM
におけるTCHの値から0.5 Kである。シミュレーションでは図 4-9に示す通り2.8
Kであった。また,AM‒PM歪のヒステリシスはシミュレーション値3.5度,実測 値3度であった。TCHのヒステリシスとAM‒PM 歪のヒステリシスの比から,実 測では TCHのヒステリシス量が最大 4.8 倍異なっている可能性がある。ヒステリ シスの量は,(3-12)に示したように,熱抵抗の大きさだけでなく熱RC並列回路の 時間定数とfMの関係も影響する。温度変化における数MHzの時定数は,文献[25]
ではGaN HEMTチップ内の温度変化に関係することが示されており,これはGaN
HEMTチップ内の熱源配置がTCHのヒステリシス量に関係することを意味する。
本論文ではチップ構造を文献[37]と[38]から類推して作成した熱等価回路を採用 した。実設計においては,チップ構造を正確に把握することで熱モデルの精度向 上が可能である。
図 4-29 実測結果と熱等価回路から推定したGaN HEMTの温度変化
Fig. 4-29 TCH variation of GaN HEMT in RF power amplifier estimated from measured Pdis
and thermal equivalent circuit. (a) Measured and approximated Pdis. (b) Estimated TCH
variation of GaN HEMT.
(a)
−0.5 0 0.5
t(×TM)
−0.25 0.25 Pdis(W)
13 14
12
0 0.5
−0.5 0 0.5
t(×TM)
−0.25 0.25
(b) 10
11 T(t) − T(0)CHCH
(K)
−0.5
−1.0
−1.5
−2.0
0.5 K Measurement
Approximation