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土壌バイオマスと微生物活性によるバイオ レメディエーション効率の向上

1 節 緒言

石油炭化水素汚染環境の修復に関する規制は、米国(1984)、オランダ(1994)、ドイ ツ(1998)、日本(2006)を含むいくつかの国で 1980 年代初頭から施行され始めた

(Hatayama et al. 2008)。炭化水素汚染土壌の修復において、最も一般的な修復方法は焼 却などの物理化学的処理であるが、燃焼には大量の化石燃料が必要である(Matsumiya

et al. 2007)。しかし、この処理方法は環境負荷が大きいだけでなく土壌有機物の除去と

微生物の死滅につながるという問題がある。そのために処理後の土壌の生物活性が回復 するには長い時間が必要となる(Bárcenas-Moreno et al. 2011)。

それに対し、汚染土壌のバイオレメディエーションによる処理は、石油系炭化水素を 含む様々な有機汚染物質を処理するための有効な方法であり、炭化水素を効果的に除去 するだけでなく、汚染によって低下した土壌の微生物活性を高めることができると考え られる。炭化水素汚染土壌の修復のために、環境への負荷を抑えられ、費用対効果の高 いいくつかのバイオレメディエーションシステムが開発されてきた(Liu et al. 2010、

Jørgensen et al. 2000、Hejazi et al. 2003)。これらのシステムは、バイオスティミュレーシ ョンとバイオオーグメンテーションの2つのグループに大きく分類できる。バイオレメ ディエーションの効率は、土壌の物理的、化学的、微生物学的特性の影響を受ける。ま

た、 炭化水素で汚染された土壌中の微生物は、炭化水素汚染の影響を受けるため、炭化

水素汚染土壌中の微生物量が非汚染土壌よりも少なかった(Aoshima et al. 2006)。

これまで、土壌のバイオレメディエーションに適したさまざまな炭化水素分解細菌が 分離・同定され、その諸性質が解析されてきた(Pritchard et al. 1992、Lal et al. 1996、

Vidali et al. 2001、Aislabie et al. 2006)。その中で、炭化水素分解効率の向上と持続性は、

土壌の炭化水素浄化において、いまだ大きな課題となっている。バイオレメディエーシ ョンにおける汚染物質の分解効率を向上させるには、汚染土壌中のバイオマス(炭化水 素分解菌や有機物の炭素、窒素、リン成分)の量と活性を高める効果的な方法が必要で ある。

効果的なバイオスティミュレーションには、汚染土壌の土着HDBの活性と維持が必 要であると考えられる。これは、酸素、水、無機栄養素の供給により、バクテリアが炭 化水素を分解するための好ましい環境条件を整えることである(Couto et al. 2010)。炭 化水素汚染などのように、大量の炭素が存在する場合、窒素やリンなどの他の栄養素が 枯渇する傾向がある(Kvenvolden et al. 2003)。したがって、無機および有機資材を介し

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た栄養素の添加は、土壌中の石油系炭化水素の生分解にプラスの効果を示す(Braddock et al. 1997、Bundy et al. 2002、Delille et al. 2004、Margesin et al. 2003、 Margesin et al. 2007、

Xu et al. 2004)。 つまり、土着のHDBの活性化と土壌環境におけるそれらの分布の理解

は、バイオレメディエーションの効率の改善につながる。これまで福原らは、土壌環境 における固有のHDBを定量化し、これらの細菌の分布を調査するために、炭化水素汚 染のないさまざまな土壌サンプル(粘土、シルト質土、砂質土)を分析した(Fukuhara

et al. 2013)。その報告では以下の内容が明らかにされている。土壌中の炭化水素分解細

菌の定量化するためのリアルタイム PCR は、炭化水素分解に関与する重要な酵素をエ ンコードするalkB遺伝子を使用した(van Beilen et al. 2003、Nie et al. 2011、Fukuhara et

al. 2013)。ほとんどのHDBがalkB遺伝子を保持するため、alkB遺伝子を保持するHDB

の分布を分析して、バイオスティミュレーションの効率を向上させた。また、炭化水素 で汚染されていない土壌を合計 23 個のサンプルを収集し、総細菌数と HDB 数を分析 した(Figure 2-1)。それぞれの土壌のHDBは3.7×107〜5.0×108 cells/g、平均1.3×108 cells/g であった。HDBの平均割合は、総細菌の0.88 %だった。炭化水素汚染のない自然な環 境においても炭化水素分解微生物の存在は報告されている(Greer et al. 2010)。土壌環 境の調整は、天然土壌におけるこれらのHDBの数と活性を高める可能性があり、HDB の数を増やすと、石油炭化水素汚染土壌のバイオレメディエーションシステムの効率が 向上することを示唆している。

油汚染環境の効果的な生分解を可能にするために、無機材料の添加により土壌のC:

N:P比を100:10:1に維持することが一般的に推奨される(Dibble et al. 1979、USEPA et al. 1994a、USEPA et al. 1994b、Leys et al. 2005)。 しかし、バイオスティミュレーショ ンの有効性は、油成分の種類、非油有機物含有量、土着微生物の数と分解能力など、土 壌中の他のいくつかの要因に依存する可能性がある。

バイオレメディエーションでは、事前に培養された特定の炭化水素分解微生物を汚染 サイトに追加するバイオオーグメンテーションにより、さらに高い効果が見込まれる。

特に、土着の炭化水素分解微生物の存在量が少ないような環境では、効果が大きいと考 えられる。さらに、特定の難分解性化合物による汚染をバイオレメディエーションで修 復することは、効率的な炭化水素分解細菌のバイオオーグメンテーションによって可能 になる(Auffret et al. 2009、Fortin et al. 2001)。これまでの研究で、多くの環境から石油 系炭化水素を分解する能力を持つGordonia属細菌、Acinetobacter属細菌、Pseudomonas 属細菌、および Bacillus 属細菌などのいくつかの細菌が分離および同定されている

(Kubota et al. 2008)。その結果では、3種類の長鎖炭化水素(c-アルカン画分を含むも の)を使用して、いくつかのHDB 株を土壌から分離している。400 を超える分離菌株 が、唯一の炭素源が長鎖c-アルカンの培地で増殖する能力を示した。より高い成長能力

(OD600≧0.1)を示す36株については、16S rRNA遺伝子配列の分析に基づいて、同定 した。 菌株は、actinobacteria(17株)、γ- proteobacteria(12株)、β-proteobacteria(4株)、

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およびFirmicutes(3株) などの4つのグループに分類された。13株のactinobacteria

Rhodococcus 属に分類され、残りの 4 株は Gordonia 属であった。同様に、10 株の γ-

proteobacteriaAcinetobacter 属に分類された。Rhodococcus属とGordonia 属は、主に

基油の c-アルカン画分を含む培地で分離された。これらの微生物の中で、Rhodococcus

属細菌と Gordonia 属細菌は石油系炭化水素のバイオレメディエーションに広く使用さ

れている(Hatayama et al. 2008、Lin et al. 2009、Auffret et al. 2015)。

石油系炭化水素の生分解には、特定の酵素とさまざまなメカニズムが必要である。石 油系炭化水素汚染のバイオレメディエーションにおいて、微生物は石油系炭化水素化合 物を炭素とエネルギーの供給源として利用することで生育する。 微生物分解を受けた 後の、不活性および有毒なアルカン化合物は、他の微生物により酸化されやすい毒性の 低い物質に変換される。活性化から最終代謝までの炭化水素分解の一般的な経路を

Figure 2-2に示す。 炭化水素の完全分解は、さまざまな化学および微生物の酵素反応に

よって進む(Sierra-Garcia et al. 2013)。 炭化水素は水に不溶なため、それらの分解には、

バイオサーファクタントが関係している場合がある(Brusseau et al. 1995、Bai et al. 1997、

Barkay et al. 1999)。 微生物細胞に入った後、トリカルボン酸サイクルなどの中間代謝経

路を介していくつかの酸化反応が進む(Fritsche et al. 2008)。さらに、NやPなどの無 機物質も炭化水素の分解に影響している。生分解の速度は炭化水素の構造に依存し、脂 肪族炭化水素は芳香族炭化水素よりも容易に分解される(Figure 2-3)。 いくつかの酵素 が炭化水素を分解することがわかっている。 好気性条件下での炭化水素分解の初発酸 化に必要な主要な微生物酵素をTable 2-1に示す。

よって本章では最初に様々な炭化水素分解菌の特徴と有機資材の調整に着目し、炭化 水素汚染土壌の効果的なバイオレメディエーションシステムの構築を試みた。

さらに、土壌環境は微生物の活性に大きく関わる。中でもリンの循環は微生物を介し た有機物分解の一つであるが、微生物数や有機物量に加え、微量金属量(Fe、Al、Caな ど)やpHなどの環境条件にも影響を受ける複雑な系である。それと同時に、無機態リ ンは植物の生育にとって必須の元素であり、土壌のリン循環速度を向上させることが土 壌環境の改善にとって重要である。そこで、バイオレメディエーションのさらなる効率 化につなげることを目指した。

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Figure 2-1 石油系炭化水素で汚染されていない土地から収集したさまざまな土壌サンプルにおける総細菌およびHDBの分布

(Fukuhara et al. 2013の実験データを改変)

試料 No.

HDB 数

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