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油臭油膜を迅速解消できるバイオレメディ エーションシステムの開発

1節 緒言

原油などの石油系炭化水素で汚染された水や土壌は、自然界では非常に分解され難く、

有害成分を含んでいることから、生態系への影響が懸念されている。その代表的なケー スとして、ガソリンスタンドなどでは老朽化した埋設タンクや配管・継手などの腐食に より鉱油類が土壌や地下水へ漏洩し、環境汚染が生じていることが多いと言われている。

それらの炭化水素汚染地では、油分濃度だけでなく将来の土地活用や土地取引において も油臭と油膜などが問題視されており、生活環境や住環境、経済上での悪影響が懸念さ れている。

これまで、これらの石油系炭化水素による土壌汚染の対策技術の研究開発がなされて きた。これらの石油系炭化水素汚染地を浄化するためには、土壌の焼却処理やフェント ン法などの化学酸化処理、洗浄処理や蒸発処理などが行われてきた。しかしながら、こ れらの処理はたくさんのエネルギーを消費すること、土壌微生物など土壌環境を悪化さ せることから環境負荷の高さが課題とされていた(Usman et al. 2012)。これに対して、

近年では、低コストで環境負荷の低い技術として、石油成分の分解能を有する微生物を 用いたバイオレメディエーションが注目されている(Dua et al. 2002、Stroud et al. 2007)。

Pseudomonas属やBacillus属などの微生物を用いたバイオレメディエーション技術が研

究開発されている(Kubota et al. 2008、van Beilen et al. 2005、Whyte et al. 2002)。これら の技術は、実際の汚染サイトにて浄化対策として評価されることが多くなってきた

(Korda et al. 1997、Pritchard et al. 1992、Blakley et al. 1982、Komukai-Nakamura et al. 1996)。

しかしながら、これらのバイオレメディエーション技術は高濃度の石油系炭化水素汚染 に対応できない点や浄化に数ヶ月以上の長い期間を要することが課題とされている。そ こ で 、石 油系 炭化 水素 に よ る土 壌汚 染対 策とし て 、独 自に 自然 界より 単 離し た

Rhodococcus属細菌やGordonia属細菌、Acinetobacter属細菌などの炭化水素分解能が解

析されてきた(Fukuhara et al. 2013、Perry et al. 1984、Koma et al. 2003、Sakai et al. 1994、

Táncsics et al. 2015)。さらに、難分解の炭化水素を短期間で分解できる高効率のバイオ レメディエーション技術が開発されてきた(Hatayama et al. 2008、Koma et al. 2001、Koma

et al. 2003、Koma et al. 2004)。これらの知見をもとに、従来のバイオレメディエーショ

ン技術に比べて浄化に要する期間や分解能力が大幅に向上されたバイオレメディエー ション技術が構築された(Fukuhara et al. 2013、Adhikari et al. 2015、 Kawagoe et al. 2019)。

しかし、これらのバイオレメディエーション技術では浄化施工時や施工後の一定期間

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は油臭と油膜を解消できないことが課題とされてきた。一般に、油臭と油膜を解消する 方法として、ゼオライトなどの多孔質素材や繊維系素材を用いた物理的な油分吸着法や 高分子のゲルなどを用いたマスキング技術などのように化学的な手法も利用されてい る。これらの油臭と油膜解消対策は油分分解の効果は期待できないため、油分濃度を低 減する浄化方法とを合わせて処理する必要がある。その結果として、これらの浄化対策 費用の総額が高くなることや浄化対策期間が長期化することが課題とされている。これ らの課題に対して、これまで、我々はバイオレメディエーション技術と併用でき、効果 的で低コストの油臭油膜解消技術を研究してきた(吉田 2011)。その結果、活性炭など の炭素系吸着剤に大きな解消効果があることが確認できた。さらに、100種以上の活性 炭について、模擬炭化水素汚染土壌に対する油臭消臭と油膜解消の効果を評価し、効果 の高い14種の活性炭を選抜した。

本研究では、活性炭による油臭油膜解消技術を構築し、独自の高効率なバイオレメデ ィエーション技術を組み合わせた新たな浄化手法を研究・開発することを目的とした。

はじめに、ビーカースケールでの実験室スケール浄化試験により石油系炭化水素により 汚染された土壌の油臭油膜解消と油分濃度分解の組み合わせ効果を検証した。これらの 検証結果から、油分分解を阻害しない活性炭を選抜し、独自のバイオレメディエーショ ン技術に適した活性炭の適切な投与条件を評価した。

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2 節 実験材料および方法

3.2.1 活性炭

これまでの研究(吉田 2011)で評価してきた活性炭のうち、消臭効果の高い14種類 の活性炭について、BET(Brunauer、Emmet and Teller’s equation)による比表面積(m2/g)

の高い順に並べた(Table 3-1)。なお、活性炭の比表面積は(BET法)によって、単分 子吸着量(Vm)を求めたものを示した。さらに、それぞれの活性炭の重量当たりの価 格(円/kg)を示した。価格は実験を実施した時点での市場価格(円/kg)を示した。な お、比表面積を大きくするには、製造における賦活処理の際に、より高い圧力や温度を 必要とされる。そのため、結果として製造費も高くなる傾向がある。しかし、比表面積 と価格には大きな相関はみられなかった。

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Table 3-1 実験に使用した活性炭の比表面積(BET法)と価格

活性炭No. 比表面積(m2/g) 価格(円/kg)

1 1,715 500

2 1,190 500

3 1,175 1,000

4 1,111 700

5 1,110 700

6 1,104 600

7 1,092 450

8 1,074 500

9 1,008 450

10 1,000 600

11 957 500

12 953 420

13 600 350

14 500 2,240

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3.2.2 炭化水素分解菌

炭化水素分解菌は、第1章第3節1.3.2.に示す独自の分解菌ライブラリーの中で、実 汚染土壌の環境条件でも高い分解能力を示したR. erythropolis NDKK6を用いた。R.

erythropolis NDKK6はLB培地(1 %(w/v)ポリペプトン、0.5 %(w/v)乾燥酵母エキ ス、0.5 %(w/v)NaCl)を用い、30℃、120 rpmで振とう培養し、前培養液を作製し た。その後、バッフル付フラスコに長鎖c-アルカンの基質(ウンデシルヘキサン:

UDC、ドデシルシクロヘキサン:DDC、またはトリデシルシクロヘキサン:TDC)

0.10 g、改変SW培地(1 Lあたり:1.21 g NH4NO3、14.3 g Na2HPO4・12H2O、5.44 g KH2PO4、0.5 g NaCl、0.247 g MgSO4、2.78 mg FeSO4・7H2O、14.7 mg CaCl2・2H2O、

2.01 mg ZnSO4∙7H2O、0.15 mg [NH4]6Mo7O24・4H2O、2 mg CuSO4・5H2O、0.4 mg CoCl2・6H2O、1.49 mg MnSO4・5H2O、0.5 g Polypeptone, 0.25 g Yeast Extract)100 ml、

R. erythropolis NDKK6の前培養液を1 ml加え、120 rpm、30℃で3日間振盪培養した。

3.2.3 活性炭の油臭消臭効果の試験

比表面積の異なる14種の種類の活性炭について、20,000 mg/kgガソリン模擬汚染土壌

および10,000 mg/kg灯油模擬汚染土壌を200 ml容積のガラスアンプル瓶にそれぞれ50

g採取し、ガソリン模擬汚染土壌へは土壌重量比3 %(w/w)、灯油模擬汚染土壌へは土 壌重量比1 %(w/w)の活性炭をそれぞれ添加した。油臭消臭評価用の試験体を14種 類作製した。これらの活性炭を添加したガラスアンプル瓶は、攪拌・混合を30秒間行 い、臭気評価を行った。その後の試験体について、六段階臭気強度評価法にて油臭強度 を経時的に評価した。

3.2.4 活性炭の油膜解消効果の試験

ガソリンおよび灯油5,000 mg/kgの模擬汚染土壌を約50gずつ入れたガラスアンプル 瓶へ、それぞれ土壌重量比2 %(w/w)の活性炭を添加し、30秒間攪拌・混合を行った。

これらの混合直後の油膜と、その後の試験体について、シャーレ法にて油膜レベルを経 時的に評価した。

3.2.5 実験室スケールでの油汚染浄化試験の条件

模擬汚染土壌は真砂土を使用した。模擬汚染土は軽油を用いて、土壌中の油分濃度

が2,000 mg/kgとなるように調整した。活性炭は土壌重量比2 %(w/w)で混合した。油

分解菌はRhodococcus属油分解菌(108 cells/g)を土壌1 gあたりの菌数が約106となる

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ように投与した。無機栄養塩として尿素、リン酸水素二アンモニウムを含んでおり、

窒素分がTPHに対して重量比5 %となるように投与した。室温(約25℃)にて28日 間浄化を行った。実験室スケール浄化試験では、1試験体あたり、100 gの模擬汚染土 壌を用いて試験を行った。Experiment 1は活性炭を用いずにR. erythropolis NDKK6株 によるバイオオーグメンテーション処理のみをしたコントロールの系列である。

Experiment 2は No.12の活性炭を用いてR. erythropolis NDKK6株によるバイオオーグ メンテーション処理をした系列である。Experiment 3はNo.13の活性炭を用いてR.

erythropolis NDKK6株によるバイオオーグメンテーション処理をした系列である。い

ずれの試験体も1週間毎に土壌水分を補充して通気撹拌を行った。試験体の土壌を採 取し、油分濃度および油臭、油膜の評価を経時的に行った。

3.2.6 屋外での0.5 m3スケールでの油汚染浄化試験の条件

模擬汚染土壌は真砂土を使用した。模擬汚染土は軽油を用いて、土壌中の油分濃度が

約2,000 mg/kgとなるように調整した。活性炭は土壌重量比2 %(w/w)で混合した。

油分解菌はRhodococcus属油分解菌(108 cells/g)を土壌1gあたりの菌数が約106とな るように投与した。無機栄養塩資材は、無機栄養塩として尿素、リン酸水素二アンモニ ウムを含んでおり、窒素分がTPHに対して重量比5 %となるように投与した。平均外

気温は約28℃で、28日間浄化試験を行った。屋外での0.5 m3スケールアップ試験では、

1試験体あたり0.5 m3の土壌を用いて試験を行った。Experiment 4は活性炭を用いず、

バイオオーグメンテーション処理もしなかったコントロールの系列である。Experiment 5は活性炭を用いずにR. erythropolis NDKK6株によるバイオオーグメンテーション処理 をした系列である。Experiment 6はNo.13の活性炭を用いてR. erythropolis NDKK6株に よるバイオオーグメンテーション処理をした系列である。いずれの試験も1週間毎に試 験体の土壌水分を補充して通気撹拌を行った。経時的に試験体の土壌を採取し、油分濃 度と油臭と油膜の評価を行った。

3.2.7 油臭評価方法

200 ml容積のガラスアンプル瓶に対象とする土壌試料を約50 gを採取したものを評

価用の試験体とし、容器の蓋を開けた状態の試料の臭気を直接官能評価した。実験室ス ケールの各試験では、各試験系列の試験体容器をそのまま官能で臭気評価した。油臭の 評価は油汚染対策ガイドラインに示されている六段階臭気強度評価法(環境省 2002)

に基づいておこなった(Table 3-2)。臭気評価では、いずれも6名以上で評価し、最高 値と最低値を除いた評価数値を平均し、実験値として採用した。2未満の油臭しか確認 できなかった場合を油臭の解消効果ありと判断した。

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