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ナノ筋収縮系の開発とその特性の顕微解析

  要約

筋(原)線維とin vitro系とを橋渡しするために、A帯ナノ筋収縮系を開発した。ナ ノ筋収縮系のためのA帯は、グリセリン処理した骨格筋筋原線維をゲルゾリン処理 して細いフィラメントだけを選択的に除去することによって調製した。次にビーズ 付きアクチンフィラメント(F-アクチン)を光ピンセットで操作し、A 帯の内側、

あるいは外側と相互作用させて、位相差像及び蛍光像観察によりビーズ付きF-アク チンの変位を生体内に近いイオン強度で測定した。すると発生力の大きな変動を伴 い、F-アクチンは前後に大きく揺らいだ。この大きな張力揺らぎにもかかわらず、

発生力の平均は、A帯の内側ではA帯の端から150 nm、外側では300 nmの範囲に

おいてA帯とF-アクチンとの重なりの大きさに比例することを見出した。そこでA

帯内部での重なりの単位長さ当りに発生する平均力(ミオシン頭部1 個の平均発生

力は約1 pN)は、外部のそれの約2倍大きかった。この違いは、ミオシン分子の密

度がA帯内外で2倍異なることで説明できる。以上のことから、本研究で開発した A 帯ナノ筋収縮系は、生体内の筋肉と同じ太いフィラメント格子と相互作用する単 一F-アクチンにかかる張力や、その滑り運動を計測するのに適した系であると言え る。

5-2)  研究の背景

物理的(Natori, 1954; Nakajima and Endo, 1973)あるいは化学的(Corrie et al., 1999;

Irving et al., 2000; Piazzesi et al., 2002)に除膜した筋線維と筋原線維(Anazawa et al., 1992; Friedman and Goldman, 1996)は長い間、アクトミオシン相互作用を研 究するために筋生理で用いられてきた。このような筋収縮系は、骨格筋と心筋の分 5-1)

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子機構に関する重要な情報を提供してきた。しかしながら「in vitro 滑り運動系」

Kron and Spudich, 1986)と「一分子イメージング(Funatsu

et al., 1995; Sase et al., 1995)・一分子操作技術( )」が開

発されてからは、これらの新しい実験系・実験手法が単一F-アクチンとミオシン分 子による滑り運動・力発生の研究に広く利用されてきた(Kishino and Yanagida, 1988)。このような研究は一分子の力、ワーキングストローク、キネティクスを直 接計測する(Finer et al., 1994; Miyata et al., 1994; Molloy et al., 1995; Mehta et al., 1997; Ishijima et al., 1998; Veigel et al., 1998; Kitamura et al., 1999; Nishizaka et al., 2000 ために欠かせないものである。 系の導入により筋収縮の滑り運動機構 は解明されたかに見える一方で、筋収縮系と

た。例えば St (伸展による活性化)や自励振動現象(Ishiwata an Yasuda, 1993)といった興味深い現象は、筋収縮系だけに見られる。このような現 象は恐らく、高次構造を持ったシステムに特有のものである。 系ではたいて いの場合、ミオシン分子はガラス表面、あるいはビーズの表面にランダムかつ二次 うち片方しか機能しないような分子も 存在する(Nishizaka et al., 2000)。それゆえF-アクチンは、生理的条件程度のイオ ン強度であってもミオシン頭部から解離しやすいため、実験条件は低いイオン強度 線維のような周期的構造を持つ物の、

って、致命的となっていた可能性があ 実際、力発生はミオシン分子の向き(Tanaka et al., 1998)とイオン強度に強く 依存することが報告されている。

F-した。ナノ筋収縮系と名づけたこの実 験系は、単一F-アクチンと、太いフィラメントの格子構造を保持したA帯から構成

(Yanagida et al., 1984;

Ashkin et al., 1986; 1990

in vitro

in vitro系との間に食い違いも生じてき

retch activation d

in vitro

元的にばらまかれてあり、また二つの頭部の

に限らざるを得ない。このような制約が、筋 筋収縮での動作機構の解明を目指す研究にと る。

本研究において、太いフィラメントのフィラメント格子に一本の アクチンが 引き込まれるような新しい滑り運動系を開発

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される。この系を用いて、ミオシン分子は独立な力発生装置なのか、あるいは力発 生や収縮機構制御に協同性は存在するのかといった、筋生理における長い間の疑問 に答えられることが期待される。

これまでに、分子集合体、即ち太いフィラメントの格子内で単一 F-アクチンに 加わる力を測定し、長さ−張力関係を決定した。また発生張力とF-アクチンの変位 が平均値の周りで大きく揺らぐ様子を捉えた。この現象は、Borejdo and Morales

(1977)が筋線維を用いて個々のクロスブリッジの機能を研究するために計測しよ うとして、システムが大きすぎるために計測できなかったものである。

5-3)  材料と方法

5-3-1)  筋原線維とタンパク質

筋原線維と、本研究で用いたタンパク質の調製法はそれぞれ2-1)と2-2)にまとめた。

F-アクチンはローダミンファロイジン(Rh-Ph, R-415; Molecular Probes, Inc.

Eugene, OR)で染色した。B端にゲルゾリンを介してポリスチレンビーズ(直径1 µm,

carboxylate-modified; 08226-15; Polysciences, Inc., Washington, PA)を結合したビ ーズ付きF-アクチンは、以前の報告(Suzuki et al., 1996; Nishizaka et al., 2000)に 従って作成した。また[Mg

本研

2+]及び[MgATP]の濃度計算にはHoriuti(1986)の値を用い た。

5-3-2)  実験装置

究で用いた装置については2-3-2)にまとめた。

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5-3-3)  ナノ筋収縮系の調製

図 5-1 に模式的に示したように、単一あるいは数本の束となった筋原線維を氷上で ゲルゾリン処理し、細いフィラメントだけを選択的に除去して(Funatsu et al., 1990;

199

溶液交換 するために利用する。

次に、Rigor溶液(60 mM KCl, 5 mM MgCl2, 10 mM MOPS, pH 7.0, 1 mM EGTA)

0 µl)をカバーガラスの片側半分に乗せ(図5-1A(ii))、Rigor溶液 l, 4 mM MgCl2, 20 mM MOPS, pH 7.0, 2 mM EGTA,

放置後、筋原線維をまず弛緩溶液(120 mM KCl, 4 mM MgCl2, 20 mM MOPS, H7.0, 4 mM EGTA, 4 mM ATP ,10 mM dithiothreitol (DTT))で洗い(溶液交換)、

含むrigor溶液で洗う。そしてガラス棒を取り除き、カバーガラス

を含むrigor溶液で満たす(図

-1A(iii))。フローセルは、大きなカバーガラス上に乗せたスペーサーに小さなカバ

ーガラスをかぶせて用意する。小さく刻んだ濾紙で溶液を吸い、大きい方のカバー 4; Fujita et al., 1996)ナノ筋収縮系を調製する。まず溶液が流れ出さないように、

カバーガラスの縁に沿ってワセリンで土手を作る。75 µmの厚さのスペーサーと、

ガラスマイクロピペット(100 µl, 2-000-100; Drummond Sci. Co., Broomall, PA)を 熱して引き伸ばして作ったガラス棒とを図5-1A(i)で示すようにカバーガラス上に設 置する。このガラス棒は、筋原線維を吸い込まないようにしながら上手く

中の筋原線維(∼10

をゲルゾリン溶液A(60 mM KC

1.9 mM CaCl2(pCa∼5), 1.5 mM NaN3, 2 mM leupeptin, 0.3 mg/ml gelsolin)とゆっく りと交換する(rigor-gelsolin処理)。溶液交換は、1000 µlのピペットマンを1本ずつ 手に持ち、一方は溶液を吸引、他方はゲルゾリン溶液Aを供給することにより行う。

このとき、筋原線維を吸い込まないように注意する。30分間ゲルゾリン処理した後、

ゲルゾリン溶液Aをゲルゾリン溶液B(ゲルゾリン溶液Aに20 mM 2,3-butanedione 2-monoxime (BDM)と1 mM ATPを加えたもの)と交換する(relax-gelsolin処理)。

20分間 p

次に10 mM DTTを

上にワセリンで作られた土手の内側全体を、DTT 5

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ガラス表面でゲルゾリンのない場所に作ってあるフローセルの方へ、A帯を引き寄

。以上の全ての操作は、氷上に置いた金属片の上で行う。

せる。この操作過程において重要なのは、ゲルゾリン処理の行われていないガラス 表面へA帯を移動することである。ゲルゾリン処理の行われた場所でCa2+を含む溶 液で実験を行うと、おそらくガラス表面に吸着していて流しきれなかったゲルゾリ ン分子により、ビーズ付きF-アクチンは切れる。また濾紙で溶液を吸引する事で、

筋原線維の向きが流れの向きに揃いやすくなる。こうして用意したナノ筋収縮系を 0.5% (v/v) TritonX-100と10 mM DTTを含んだrigor溶液で処理し(溶液交換)、そし

て10 mM DTTを含むrigor溶液で数回洗う。不要となったゲルゾリンを洗い流すため

に、この洗浄は大切である

最後に、フローセルを顕微鏡のステージ上に設置して、引き続く実験に適当なナ ノ筋収縮系を探す。筋原線維の端に露出したA帯にZ線があってはならない。試料を 探す間にフローセル中の溶液は蒸発するので、必要であれば適宜DTTを含むrigor溶 液をフローセルに流す。適当なA帯を選んだ後にフローセルをassay buffer(AB: 100 mM KCl, 4.2 mM MgCl2 (free Mg2+ = 2 mM), 25 mM Imidazole-HCl, pH 7.4, 1 mM EGTA, 2.2 mM ATP (MgATP = 2 mM), 0.5 mg/ml bovine serum albumin, 10 mM DTT, 4.5 mg/ml D(+)-glucose, 50 units/ml glucose oxidase, 50 units/ml catalase, 15 mM creatine phosphate, 150 units/ml creatine phosphokinase)で洗う。そして、AB溶液 中のビーズ付きF-アクチンをフローセルに流して両側を無蛍光のマニキュアで閉じ る(図5-1A(v))。実験は27-29°Cで行った。

5-4)  実験結果 5-4-1)  ナノ筋収縮系

筋原線維をrigor溶液中で調製するとI帯で切れやすいため、筋原線維の端には、露

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出したA帯(図5-1B左)か Z線(図5-1B右)が1:1の割合で存在する。図 5-1B に示したように、Z 線は位相差像では黒い線として、蛍光像では明るい線(Z 線に 残っている短いF-アクチンの断片をゲルゾリン処理後にRh-Phで染めた。通常の観

察(図5-2)では、アクチン溶液に混じるRh-Phが結合して弱く光る。)として確認

することができる。露出した A 帯が元の太さ(1 µm 以上)を保っていることは、

ガラス面に吸着した直径 1 µm のビーズの位相差像と比較することによって確かめ られる。ただし、試料のいくつかは2,3本の筋原線維が束になっていることもあ るので、その場合の試料は2 µmより太くなる。ナノ筋収縮系の模式図を図5-1Cに 示した。

ゲルゾリン処理した筋原線維のいくつかは、おそらく太いフィラメントが先端か ら部分的に脱重合したため(Ishiwata, 1981)A帯の幅が1.6 µm未満だった。また 位相差像で見ると、A 帯両端の密度が濃く見える試料もあった。これらは太いフィ ラメントの端が丸まったか、あるいはホモジナイズ中に上手く除去されなかったコ ネクチン/タイチン(Funatsu et al., 1990)が折りたたまれたものかもしれない。位 相差像で、薄く見えるA帯もあった。これはおそらく太いフィラメントの格子構造 が部分的に崩れたものと考えられる(Ishiwata et al., 1985)。以上の試料は実験には 用いなかった。

上記の基準を満たす試料でも、丸まったコネクチン/タイチン分子が太いフィラ メントの端に存在するかどうかを調べた。なぜならこのような丸まった分子はF-ア チンが太いフィラメント格子の中に入り込むのを阻害するだろうからである。し しながら、実験に用いるA帯の端にこのような邪魔なものは存在しないことが次

られた。(i)ビーズ付きF-アクチンがA帯の端面でA帯の長軸と垂

でも、張力の発生を確認できた(データは示していない)。 

ク か

の理由から確かめ 直に相互作用するとき

(ii)F-アクチンは、A帯の端面を含むA帯の表面を滑り運動できた。  (iii)F-アクチン

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