5.1.1 スペクトル解析方法
U Gemの爆発時および静穏時のスペクトルに対し、星間吸収(tbabs)と反射成分(reflect)を考慮した多温度プラ
ズマモデル(cevmkl)を用いてフィッティングを行なった。
tbabs(The Tuebingen-Boulder ISM absorption)モデルは、ガス状態のISM、粒子状態のISM、分子のISMの 各状態におけるX線吸収断面積の和としてISM全体のX線吸収断面積を計算するモデルである。粒子状態のISM は大きなX線吸収断面積を持つものの、全体に与える影響は非常に小さい。ISMに寄与する分子は水素分子のみを 考えている。ガス状態のISMは、各元素ごとの光電離断面積を考えており、元素の存在比はWilms et al.(2000)を 元に重みづけをしている。図5.1はモデルパラメータである水素柱密度nHの値を変化させたときのスペクトルで ある。熱的放射モデルにはpower-lawを用いた(phoindex=1)。H, HeのX線に対する断面積が小さいので、主に C, N, O, Ne, Si, S, FeのK殻とL殻電子による光電吸収が支配的である。
−5−4−30.11010100.010.1110 1 10
Photons cm−2 s−1 keV−1
Energy (keV) Current Theoretical Model
mt 27−Jan−2020 16:15
−5−4−30.11010100.010.1110 1 10
Photons cm−2 s−1 keV−1
Energy (keV) Current Theoretical Model
mt 27−Jan−2020 16:10
−5−4−30.11010100.010.1110 1 10
Photons cm−2 s−1 keV−1
Energy (keV) Current Theoretical Model
mt 27−Jan−2020 16:15
−5−4−30.11010100.010.1110 1 10
Photons cm−2 s−1 keV−1
Energy (keV) Current Theoretical Model
mt 27−Jan−2020 16:16
−5−4−30.11010100.010.1110 1 10
Photons cm−2 s−1 keV−1
Energy (keV) Current Theoretical Model
mt 27−Jan−2020 16:16 nH(1022 cm-2)
0.01 0.1 1.0 10 100
Fe Ni S
Si Mg
Ne
Fe-L N O
C
Al
Cr ArCa
図5.1 水素柱密度nHの値を変化させたときのtbabs*power-lawモデル。C-KからNi-Kまでの吸収端が見えている。
24 第5. データ解析
cevmklモデルは、電離平衡に達した光学的に薄いプラズマ放射モデルをもとに、温度T のemission measureが
f(T)dT ∝(T /Tmax)α−1dT (5.1)
で与えられるような、多温度の光学的に薄いプラズマ放射モデルである。このモデルでは、CからNiまでの主要な 13種類の元素の存在量を独立に与えることができる。図5.2は、黒が多温度のcevmkl(最高温度20keV)、赤が単温
度モデル(温度20keV)を示す。cevmklの方が、各元素で制動放射に対する輝線の強度が強い。このことから多温度
プラズマであることが分かる。
−4−30.110100.010.1110 1 10
Photons cm−2 s−1 keV−1
Energy (keV) Current Theoretical Model
mt 29−Jan−2020 15:31
−4−30.110100.010.1110 1 10
Photons cm−2 s−1 keV−1
Energy (keV) Current Theoretical Model
mt 27−Jan−2020 18:08
FeNi S
Si Mg Ne O N C
Al
Ca Ar Na
図5.2 多温度モデルのcevmkl(黒)と単温度モデル(赤)。両者ともに温度を20keVとした(cevmklは最高温度)。
これらに加え、放射されたX線が白色矮星の表面で反射することによるコンプトン散乱および光電吸収成分を reflectモデルで取り入れた。
また、6.4keV付近に中性鉄輝線も見られた。cevmklは高温プラズマからの放射を仮定しているため、高階電離し
た鉄のKα輝線は存在するが、中性鉄のKα輝線はこのモデルには含まれない。よってこれを白色矮星付近の冷たい 反射物質に由来するものだと考え、gaussianモデルを用いて再現した。
これらのモデルのフィット結果から分かる全輻射光度LBolと、白色矮星質量M(表2.1参照)、白色矮星半径Rを
LBol =GMM˙
2R (5.2)
に用い、質量降着率M˙ を求める。ここで、白色矮星表面に到達したときのエネルギーの半分は円盤で放射、半分 はケプラー運動として保持されるため、LBolは円盤光度の1/2となる。
ただし、白色矮星半径RはRとM の関係式(Nauenberg 1972) R
R⊙ = 0.0225 µ
[1−(M/M3)4/3]1/2
(M/M3)1/3 (5.3)
M3
M⊙ =5.816
µ2 (5.4)
により算出したものを使用する。µは一電子あたりの平均分子量でµ=0.62を用いた。また、M3はチャンドラセ カール限界質量を表す。
5.1. スペクトル解析による質量降着率の見積もり 25
求めたM˙ が臨界質量降着率(1016g s−1)を超えているか否かで、爆発時および静穏時それぞれ境界層が光学的に厚 い状態に転移していないという観測事実と整合しているかどうか検証した。
5.1.2 解析結果
5.1.2は爆発時および静穏時それぞれ、1.0-30.0 keVの帯域に対しモデルtbabs×(reflect×cevmkl + gaussian) でフィッティングを行った結果である(図5.3)。検出器ごとの検出効率の違いは、キャリブレーションに基づく定数 をかけることで補正した。また、フィット結果から分かる主要なパラメータを表5.1にまとめた。
10−5 10−4 10−3 0.01 0.1 1 10
normalized counts s−1 keV−1
data and folded model
10
2 5 20
−2 0 2 4
ratio
Energy (keV)
mt 2−Sep−2019 02:06
爆発時
Energy(keV)
10−6 10−5 10−4 10−3 0.01 0.1 1 10
normalized counts s−1 keV−1
data and folded model
10
2 5 20
−2 0 2 4
ratio
Energy (keV)
mt 2−Sep−2019 02:19
静穏時
XIS0 XIS1 XIS3 HXD
counts cm-2 s-1 keV-1ratio ratio
10−3 0.01 0.1
normalized counts s−1 keV−1
data and folded model
5 5.5 6 6.5 7 7.5 8 8.5 9
0 0.5 1 1.5 2
ratio
Energy (keV)
mt 2−Sep−2019 02:13
9.0 z
8.0 7.0
5.0
ratio
10−3 0.01
2×10−3 5×10−3 0.02
normalized counts s−1 keV−1
data and folded model
5 5.5 6 6.5 7 7.5 8 8.5 9
0 0.5 1 1.5 2
ratio
Energy (keV)
mt 2−Sep−2019 02:21
5.0
6.4keV
7.0 8.0 9.0 Energy(keV)ratio
6.4keV
Energy(keV)
2.0 5.0 10 20
Energy(keV)
2.0 5.0 10 20
XIS0 XIS1 XIS3 HXD
XIS0 XIS1 XIS3 HXD XIS0
XIS1 XIS3 HXD
counts cm-2 s-1 keV-1
counts cm-2 s-1 keV-1 counts cm-2 s-1 keV-1
図5.3 すざく衛星によって得られた1.0-30.0 keVのスペクトル(上段)と5.0-9.0 keVのスペクトル(下段)。左 列が爆発時、右列が静穏時。黒はXIS0、赤はXIS1、緑はXIS3、青はHXDを表す。図下段のratioは、データ/ モデルの値である。
26 第5. データ解析 表5.1 スペクトルフィッティング結果
State ZF e(Z⊙) α Tmax (keV) LineE (keV) Sigma (keV) χ2red (dof) LBol (×1031g cm2s−3) OB 0.83+0.06−0.06 1.17+0.10−0.08 11.6+0.7−0.6 6.50+0.03−0.04 0.12+0.02−0.03 1.51(807) 3.30
Q 0.90+0.05−0.05 1.01+0.07−0.07 17.7+1.2−1.3 6.41+0.06−0.05 0.07+0.06−0.07 1.15(801) 1.62 NH/1022=0.0031 cm−2、Z=0.58Z⊙で固定した。
フィット結果から求められるLBolを5.2式に代入し質量降着率を求めると、爆発時でM˙ = 2.78×1015 g s−1、静 穏時でM˙ = 1.36×1015 g s−1となった。これにより、U Gemで爆発時にも硬X線のフラックスが増えるのは、境 界層が光学的に厚い状態に転移せず、増加した降着質量が解放する重力エネルギーがそのまま硬X線として放射され るためだということが明らかになった。